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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

15:魔法修行③-その夜

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 いつもの夜のマッサージ。今の成長速度で保有魔力量が大きくなると、体全体を通る魔力回線が傷みやすいのでしっかりとケアが必要だ。
 特に今日みたいに新しいことを覚え、魔力回線がいつも以上に活躍した時はマッサージにも気合が入る。

「うっ……うん……あっ……」

 マッサージの場所は頭から足の爪先まで全体的に入念に行う。特に魔力が通ることの多い腕や脚はより入念にだ。
 このマッサージをし続けているおかげで、エリィの操作する魔力が増え続けていても、回路が断線しない様になっている。魔力を扱う量を間違えたりすれば、回路が傷付き流せる魔力量も減ってしまうからな。
 アフターケアってのは非常に大事だ。

 しばらく揉んでいると、どうやら体全体が熱くなり始めたようだ。俺の魔力も混ぜながら行うマッサージは、相手の身体に干渉し微熱をもたらせ新陳代謝を上げる効果もある。触れている肌にうっすらと汗が浮き始め、体に残っている悪いものを絞り出すのにも役に立つ。

「やっ……ふーっ、ふーっ。んぁぁ……」

 あとマッサージをするにあたって重要な場所としては、「輪破リンパ」と呼ばれる魔力栓だ。魔力回路を流す魔力が大きすぎたりすると、体が防衛本能を発揮して回路に栓をして塞ごうとする現象がある。
 そのリンパがある場所が太腿の付け根あたりなのだが……前にマッサージしようとしたら「まだだめ!」とよくわからん怒られ方をした。
 仕方なく今は握った拳に魔力を通して太腿の上からトントンと低刺激を与えつつ、優しく圧迫しながらマッサージをしている。

「あぁ……んっ……熱……あっあっ……」

 毎回だが、このマッサージをし終わるとエリィはそのまま熟睡する。その後から俺1人の時間が始まるから、死んだ姿を見せないためにもマッサージは入念に行う必要がある。
 うつぶせの状態でもあおむけの状態でも行うことによって、外側から内側へ向けて熱を与えて全身をリラックスさせるのだ。

「くぅ……ぁー……。いい……ぁんっ」

 エリィは色んな意味でいい子だ。前世で知っている奴らとは比べ物にもならない。
 最初は自分の利益のためだと思ったが、どうやらそんな打算も消えてしまったのかもな。
 ただ、そんないい子がこうやって森を渡り歩いていたり、最初の頃の発言などを考えるとなぁ。まだこの世界をこの森しか知らない俺からすると、ワクワクも多いが期待しすぎないようにしよう。

「し、ししょ……ぁん。て……おっきくて……かたくて……あっあっ……気持ちいいれす……んんっ!」

 ……これだ。最近のエリィは、全身のマッサージが終わるタイミングの最後に、体が少し痙攣してぐったりとする。命に別状はないのは確認済みで、むしろ全身に程よく熱を帯びたまま魔力が綺麗に流れているのが見える。
 全身に汗をかいたままぐったりとしたエリィは、やがてそのまま眠りにつくだろう。俺はエリィに浄化魔法クリアをかけてやり、次は外で自分のための修行だ。

「エリィ、お休み」

 外は今日もいい天気だ。赤い月と緑の月が二つ見え、満点の星空が森を照らしてくれている。夜なのに明かりをつけなくても周りがはっきり見えるのはありがたいな。
 目の前の湖はいつも通り静寂で、月が映り込んだ水面は本物の月にも劣らないぐらい美しい。前世ではこういった風景をよく見る機会は少なかった。あの城を手に入れてからは……。

 そういえば不老不死の魔法も開発したっけな。もう少し体が成長したら不老の魔法だけはかけてもいいか。不死に関しては、まだまだ魔力量が足りないうちは無理だ。
 それに前世はどうでもいい人間数万単位で生贄にして発動することはできたが、俺はまだこの世界を知らなすぎる。
 降りかかる火の粉を払い尽くすことはあっても、無差別に虐殺する趣味はない。まずは世界を回って自分の目で確かめてからだな。それに……今はいい相棒もいる。

 いつものルーティーンで自身に蘇生魔法を付与し、起き上がった時の魔力補填に魔石を用意。慣れたものだが、やはり多少の緊張はする。
 念入りに確認をし終え、俺は今日も自分を殺す。
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