上 下
34 / 63
第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

19:間話~エリィの独白-3

しおりを挟む

「その手紙がお母さんからの手紙よ」

 俺はエリィに手渡された手紙を見て、文章からも本当に愛されていたんだと思えた。手紙は読んでくれた箇所以外にも思いが綴られており、この俺でも目頭が熱くなる。
 ヴェルナさんとやらよ、娘は立派に育っているよ。俺もこの子に会えて本当によかった。あなたの意志はちゃんと受け継がれている。いつか、ヴェルナのお墓参りもしよう。
 ただ……話を聞いていると、気になる部分はある。

「それからは2年かけて森を2ヶ所まわってこの森に来たの。まだお父さんには会えてないけど、アーベルに会えたのは本当によかった」
「……俺のことはすぐに信用したのか?」
「もちろん。私の耳を見ても、別に何も言わなかったじゃん。それにあの怖い人達と同じ雰囲気もなかったし、なんか人間ぽくなかったし」
「あー……」

 確かに俺はこの世界の住人ではない。確かに初めてエルフのエリィを見た時は興奮しかしてなかった。むしろこんな美女に対して暴言を吐く連中の気がしれない。
 または……前の世界みたいに、何か宗教絡みとかかもしれんな。嫌な予感もするが、まずは準備して誰にも負けない様にするのが先決だ。力なきものが何を言っても相手されないのと同じで、自分を守るためには力を持つしかない。幸いにもこの森は修行の邪魔になるようなこともないし、安心して修行に専念できるメリットが大きい。
 それにエリィと入ればエルフとも仲良くなれるだろうという打算もある。前世では仲間なんて呼べる人間はいなかったが、今はエリィもいるし前みたいなことにはならないだろう。

「ねぇねぇアーベル? 貴方のことも教えて欲しいな」
「ん? んー……」
「だってさ、こんなに上手く魔法を使う人なんて聞いたことないもん。それにかっこいいし……」
「……」

 夜の暗さによって引き出される美しさ……焚き火で照らされたエリィに一瞬心を奪われ最後の方の言葉は聞き取れなかった。もし俺が本当の事を言っても、エリィなら受け入れてくれそうだとは思うが、もし否定されて離れられてしまったらと考えると……そうか、俺は今の生活が楽しくてエリィから受け取っている信頼を失くすのが怖いのか。
 そうだな。この森を出る時には全部話してみよう。その上で、改めて一緒に旅するかも聞いてみるか。その為に俺に出来る事はやって、今までの恩返しにすればいい。

「そうだなぁ。俺はーー」
「なぁにいちゃいちゃしてるんですかー!?」

 ブルーが乱入してきた。飯を食って一人で寝ていたのかと思ったが、ついさっき起きたら二人俺達がおらず、外を見たらいい雰囲気だったからと乱入してきたらしい。
 こいつも随分と寂しがり屋だな。
 それから3人で色々と語り合った。特に長生きしているブルーの話は面白く話し込んでしまい、気付いたら辺りが明るくなり始めていた。
しおりを挟む

処理中です...