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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

23:対人戦-3

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「バカめ! 俺様にはてめーの場所がわかんだよ!」

 ディグドの頭の中を覗いた時に周囲探知ディテクションと言うスキルを持っている事は知っている。だから、さっきも今もエリィが動くと同時にちゃんと場所を把握しているのだ。
 それにエリィが気付いてなければ、この作戦は失敗するぞ。

「はっ! 所詮出来損ないのカスだな! 今度はこっちからーー」
「ロックウォール」
「!?」

 ディグドの視界も十分塞がれた時、追い討ちと言わんばかりにエリィは相手の目の前に壁を出現された。動こうとしたディグドは出端を挫かれ、一瞬体が硬直する。
 そしてそれを待っていたかのようにエリィが動いた。

「小賢しいマネを! ……!?」

 ディグドがエリィを見失っている。エリィは完全に魔力を絶ち気配を隠し切っているのだ。
 どうやら周囲探知ディテクションは魔力がないと相手を探知できないスキルか。確かに生ある者は多少なりとも魔力を持っているから、本来ならこのスキルは有用だろう。

「クソっ! 出てこいや!」

 むやみにディグドが剣を振り回している。エリィはちゃんと気配察知サーチを習得しているので、この砂埃でも視界はクリアに見えているだろう。そして……ふふ、エリィは意外と意地っ張りらしい。

 ガタッ
「そこかぁ!!」

 視界の悪い中で、ディグドはスキルが頼りにならなければ頼るのは聴覚だ。リングの上で音が鳴れば、当然そっちに獲物がいると判断する。
 エリィの目論見通り、ディグドは近くで鳴った音の方を見て剣を振り下ろしたがそこには誰もいない。
 その隙を狙って近くに潜んでいたエリィが、拳に思いっきり魔力を乗せ凝縮させる。

「えやぁ!!」
「オゴッ!」

 ディグドの顔面を撃ち抜くように、エリィが拳を振り抜いた。モロにその衝撃を食らったディグドは吹っ飛ばされるも、ギリギリリングから落ちずに踏みとどまる。
 どうやらエリィは、どうしてもこいつを殴りたかったのだろう。怒りを鎮め冷静に隙をついて攻撃した事は素晴らしい。それに『無発声魔法』までやり遂げるとは……この実践で成長しているのかもな。

「うぐぐ……。はん! 出来損ないの力なんてこんなものか? こんなんじゃ俺は倒せねぇ!」
「そうね。貴方を殺す覚悟を決めるわ」
「はぁ? 負け惜しみか?」

 エリィが距離を取る。鼻血を拭ったディグドが剣を構え、エリィへと一気に距離を詰めてくる。
 剣がエリィに届くよりも先に、エリィの魔法が放たれる。

「エアスラッシュ」

 エリィが右腕を上から下に振り抜きながら呟くと、不可視の斬撃がディグドを通り抜けた。
 綺麗に真っ二つにされたディグドがそのままリングに沈む。エリィはその姿を見て少し安堵したような顔をした。

「エリィ、よくやった」
「……はい!」
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