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森を出て世界へ

30:手がかり-1

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 次の日の朝、出発の準備をしていると村長が俺たちの家にやって来た。昨日からエリィの姿を見ていて何か思い出した事があるらしく、参考になるかわからないが伝えにきたそうだ。

「エリィさん、貴方はエルフ族で間違いないですよね?」
「はい。正確にはハーフエルフですが……」
「なんと。それでしたらーー」

 村長の口から飛び出したのは、10年ほど前に原初の森にいたエルフ族の話。森から一番近い場所であるこの村に、エルフがたまにやってきて原初の森で暮らしていると聞いたそうだ。
 エルフは森を管理し、生態系や木々の状態などを1-2年かけて調査し、終わったらまた次の森に集団で移動する。当時の族長と呼ばれていたエルフに世話になり、また来た時に宴をしようと約束していた。
 その時に気になった発言があったと言う。

「その男はとても立派な男で、エルフ達からも非常に信頼されており、森で狩猟した獲物なども持ってきてくれた。お礼に宴を開いたんだが、酒を飲み進めると『俺は別に立派ではない。愛する妻と子供を置いて今の生活を選んだんだ』と、非常に悲しそうな顔で話をしていたんだよ」
「それってもしかして……」

 エリィは話を聞きながら手のひらをグッと握りしめた。俺も前に聞いたが、エリィの父親はエリィが物心ついた時には居なくなっている。村長が話していたエルフの族長の台詞からも、もしかしたらエリィの父親の可能性が高い。
 一人で探してても痕跡すら見つけられなかった父親の情報が、一歩踏み出し勇気によって得られることが出来た。

「エリィさん、昨日の宴の途中に父親を探していると言ってただろう? 村の若いもんがそれを聞いて私に話してきたんだ。それに耳の形がその族長にそっくりだからね。何かの縁かと思い、こうして伝えさせてもらったんだ」
「ありがとう……ございます!」
「それとなーー」

 エルフ達は原初の森を出る時にも挨拶に来たらしい。その時に話していたのが、南下してまた戻ってくるとの事だった。思わぬ手がかりを手に入れた俺たちは、村長にお礼を言って村を出る。
 今回のお礼の件が終わったら、俺達もエルフを追って行くのが良さそうだ。
 ただ、もし入れ違いになってしまうと困るが、ブルー曰く分体がいるので森に集団が現れればわかるらしい。それなら安心して南下することが出来そうだ。
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