王道

こんぶ

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第一章 家

第九話 優しい世界

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世界は平等に悪で平等に正義で平等に最低で平等に最高で、平等にどうでもよくて、平等に普通だ。
それが、世界。世界とは、何にでもなれる。
あぁ、優しい世界。



ガタッ、ゴトッ、馬車は揺れ続ける。
この揺れを何時間も体験していると、本当にしんどい。吐き気や謎の体調不良に見舞われる。

そんな馬車の揺れもそろそろ終わりが見えてきた。

「んお?」

あれは、俺達の故郷、中央国家、王都。

それがやっと見えたのだ。

「おお!やったぁ」

「ん?どうされたのですか?」

リリーが問うてくる。

「いや、やっと帰って来られたんだ」

「へぇー。じゃああれが田原様の故郷…」

「そう言うことになるな」

俺が二十一年間過ごした場所である。

はぁ、つか、どんな顔して家族に会えば良いんだか…


母さん、父さん、妹…元気してるかなぁ



シミュレーションしてみる?

「あっ、だ、大丈夫だった?」

「ラフ!」

「俺は無事だったよ!」

「私達もよ!」

…ここから話を弾ませることが出来ない…

…取り敢えず、皆馬車から降りる。


「っあーっあっ」

田原がでかい欠伸をする。

「はぁーっ、眠い」

「そうだな」

時刻はだいたい早朝くらいか。

みんな起き始めるくらいの時間だな。

「みんなどうする?」

「私は家族を一旦見ていきたい」

「俺は…俺も…かな」

「私は田原様についていきますわ」

「んー、俺も家族のとこに行こうと思う。と言うことで、ここで俺達は一旦解散だ。何かあったら報告、な?」

「でも、どうやって集まるのよ?」

おいおいキティ、ボーイフレンドをなめて貰っては困る。

「俺の習得スキルの一つに、通信コミュニケーションというものがあった。それで一人一人と脳内で会話できる。念話サイコトークに近いな」

「…いきなり細かい話ね…念話と通信はどう違うの?」

「殆ど違いはないけど、まぁ念話は万物と会話(擬似的)できて、通信は一定の知識的生物にしか行えない、というところか」

「なるほどね。それって、一方行的なもの?」

「いや、双方向的なものだ。俺が一度でも通信を飛ばせばそちらに届くはず…あー、ものは試しだ。やってやる」

通信コミュニケーション

ビッ───

ズブブっ───

ブブビッブ───

ザザザー───


『あ、あー。聞こえますかー?』


「「「おお!?」」」

三人ともが声を出して驚いた。そこまで驚愕すべき程でもないと思うが。

「ちょいまち、俺もやってみる!」

ビッ──
ビビッ────

『あー、我々はー、どう?届いてる?』

「「「おお!?」」」

俺も驚いてしまった。
なんだよ。通信コミュニケーションすごいやん。

「私もやってみるわ」

「あっ、わたくしもやりますわ」

ビビッ───

パババ───

『『き、聞こえてますかー?』』


「「おお!」」

すごいやん!めっちゃすごいやん。

なんていうか、頭の中に強制的に情報を押し込まれてる感じだ。別に痛いとか不快だ、とかは無いのだけど、すごく不思議な感覚なのだ。

「よし、じゃあそれぞれ別れるぞ!」

「おう」



田原総一


「あー、本当につて来るのか?」

「はい!」

「あー、あんまり暴れないでくれよ?」

「分かっていますわ」

田原は迷い無く歩を進めた。

そして、少し古い、薄汚れた家屋の前に立った。


「ここ」

「?」

「俺の家」

田原は迷いなく扉を開ける。

「ただいま」

「おうー!」

家の中から聞こえてくるのは、低い空気が震撼するような声だった。
一声で相当な強面の男であると分かる。

「なんだ、田原か。おー、かみさん、田原帰ったぞ」

「あー、そうかい。今はそれどころじゃなくてね!手に職付けてないならはよ出てお行きー!」

「!?あ、かみさん、こいつ女連れてるぜ!こりゃ赤飯だなぁ」

「なんだって!?!?」

田原の母親が二階からドタドタドタと駆け下りてくる。

「なっ、親父やめろよ…」

「別にいいじゃんかよー!どこ捕まえたんだ?そんな美人」

ノリが中学生だ。

「あっ、びっ、美人だなんてそんなこと…」

「まぁ、可愛いお客さん!さ、上がって上がって」

「は、はぁ」

階段から駈け降りて息も絶え絶えの田原の母親がそう言い、なんやかんや成り行きでリリーは田原家に上がることになってしまった。

「おじゃまします」

「はい、どうぞー」

玄関から、田原は慣れたようにリビングへ行く…

そこに田原の母親は丁寧にお茶を出した。

「ゆっくりしていってねー」

「は、はぁ」

「おいー、総一、お前こんな娘どこで──」

「──うるさい!」

「…」

「母さんも親父も今の現状、何にも分かってねぇだろ。いま世界になにが起こってるのかとか…もう仕事どころじゃねぇんだよ…」

田原は家のテレビに電源をつける。

「これ、見てみろよ」


『甚大な被害です!南の都では既に死者が数万人にのぼるとされ──』

生放送と書かれたその映像は、何だか嫌な予感をさせるには充分であった。

『いっ、いました!魔獣です!害獣です!これが今世界中に蔓延り人々を襲っています!カメラっ!』

その瞬間、カメラの方に巨大なゴキブリとゾウリムシとムカデをくっけたようなものがブゥゥゥンと飛んでいく。

『高レベル組っ!速く!』

『こいつらっ、案外手強くて!』

『ああっ!』

その瞬間カメラマンの口内や耳目に気持ち悪い虫の無数の触手を伸ばされたところで映像が乱れた。



「これが今、世界中に起きている」

「はっ、じょ、冗談はいい加減に…」

「外、見てみろよ」

親父は黙って外に出た。

「はぁ…?」


「ないだろ?」

「ない…」


「近くにあった王都北部小学校が」


「これも、害獣の被害だ。どうだ、目の当たりにしてみて」

「…」

「俺とリリーは何とかこの地獄を終わらせたいと思ってる、な?」

「はい」

「そういう事だ。ここら一帯は守っておいてやるから」


田原は玄関の方へ行く。

「田原様、もっ、もう?」

「あぁ。じゃあな、親父、母さん。どうするかは、あんた達次第だぜ」

「…」

範囲的円形結界レンジオブラウンドボーダー

「…」

田原の両親は、ただこの事実に打ちのめされ、下を向き、唇を噛みしめる事しか出来なかった。

不甲斐ない。

「あばよ」

「お、おじゃましました…」


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