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第二章 魔王軍戦
第十一話 悪人二人、ナヒリスカにて
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夜。
そいつらは暴れる。
昼間にも暴れてはいるが、夜は更に激しい。
ブゥンとバイクを吹かす音がすれば、町にそいつらは飛び出ていく。
「あ、あの二人組がきたぞぉ!」
町の住人は怯えながら叫ぶ。
「うるっせぇ!!」
が、バイクに乗っている一人に轢かれる。
「ぶへっ」
ぶつかった瞬間、嫌な音が響く。
それは、一つの命が奪われた音だった。
「き、キャァァァア!!」
年若い乙女にその光景は余りにも無残。
過酷すぎた。が、叫ぶことによりバイク二人組のターゲットは変更される。
「おじょーちゃん、そんなに叫んじゃだめでしょー?」
「俺、押さえるわ」
「んじゃ、よろしくー」
「イャッ、イャァァアア!!」
が、世界は甘くない。
ファンキーな格好をした二人に、女は襲われる。
「うっうっうっうっ」
「ふっふっふっふっ」
女は唇を噛みしめる。涙を流して、されるがままにされる。
圧倒的力の差。子供と大人。理不尽な対図。それが完成していた。
「ふっー、最高。若い奴が一番だわ」
「次、俺ね」
「い、イャァァアア…っ、おぼっ」
口内に無理矢理突っ込まれ、嘔吐く。
「お“え“っ!」
「おらおら~朝までしごくぞこらぁ~」
この二人こそ、巷を独り占めしている極悪二人組、ランディバンディ兄弟である。
「夜は長いぜぇ~」
兄のランディはゲスい笑みを浮かべた。
◇
…痛い…
「ぅぅう~どこだ?ここ…」
頭がクラクラだ…
「おい、あんた大丈夫か?」
おっちゃんが声をかけてくれる。
「あ、あぁ」
だんだんと、視界が明瞭になってくる。
「 ん、…んん?」
どうやら、繁華街の道中にいるらしい。
辺りには店が建ち並び、どこもかしこも賑やかだ。
が、一つだけ異変がある。
「…俺、一人だけ?」
どうやら四人バラバラになってしまったらしい…
あぁーこんなことならマーカーを付けておくんだった、と今になって後悔するが、後の祭り。
とりあえず今何をすべきか判断しなければ。
「…おろ?」
少し繁華街を歩くと、普通の道に出た。
そんなに長く無いじゃないか、ここ。
「はは、兄ちゃん、今、この道そんなに長くないって思ったろ?」
「え、そうですけど…」
え?なんで分かるのおじさん。エスパー?
「元々はねぇ、長かったんだよ、それはそれは…けどね」
「けど?」
「巷を荒らしている二人組、まぁホントは名前を呼んじゃいかんがね、ランディバンディという二人組の兄弟がこの繁華街を縮めたのさ。自分達の権力を誇示したいばかりにね」
「へぇ…どうしてそんなことを俺に教えてくれるんですか?」
「…あんた、部外者じゃろ?ここの事をようしらんようじゃし、教えたのさ」
「…ありがとうございます」
そう言う風に悪事を働く人も居れば、この人のように優しい人もいるのか。
優しい人…か。
でも、そんなものも結局は見方次第で──
それでいて、一方が一方を悪と言えると問われればそれは大きな間違いで、時と場合によってそいつの見方なんてコロコロ変わるし、そういう断定する言い方は良くないのかも知れない。
相手のことを、ただの一端しかしらないのに、断定するのは、やはり間違いだ。
上から見たら丸でも、それが球か円柱か分からない。
その差は大きいものだろう?
それも個々の話になってしまうが。
まぁ、価値観というか、生き方というか。
…さて、話を戻そうか。
四人は一体どこに行ったのだろうか?
『通信』
ピピッ、
『田原総一との接続に失敗しました。それ以外には成功しました』
田原か…なら大丈夫だな。
『皆、無事か?』
『ラフ!?よかったぁ、私は大丈夫だよ』
『わたくしも大丈夫です。あとで集合しましょう』
『今じゃ駄目なのか?』
『はい、ちょっと用事が出来たので』
『分かっ──』
『ラフは車を見てきて下さい』
『分かった…』
そうだ。車を造らなければならないのだった。
『それじゃあ、切るからな』
『通信』を切る。
「さてと、まずは車を見るべきか…」
◇
ラフの創造系能力には、一定の条件がある。
まず、絶対条件として、その現物を知っておかねばならない。
例えば車をラフは知らないので、造ることは不可能だ。万物創造をもってしても意味は無いだろう。
しかし、逆に捉えれば現物を知ってさえいれば大抵のものは作り出せるのだ。
また、森羅万象把握から、新たに派生させたり、改良したものを作り出すことも、複合技として可能である。
しかし、現物を知るとはどういうことなのか。
例えばラフが車を見たとしよう。
しかし、それだけでは作り出すことは出来ない。万物創造ならあるいはいけるかもしれないが、万物創造はラフの体力や魔力を大きく削る技なので、あまり乱発は出来ないのだ。
知るとはどういうことかと言えば、それらに使われている物質を把握する事である。
服であれば布、ステーキなら肉のように、何に何が使われているか把握する必要がある。
更に言えば、そんな漠然としたものではなく、服ならば布、布ならば~~、のように原子レベルで把握する必要がある。
しかし、ラフには森羅万象把握があるので、簡単に把握する事が可能だ。
また一度理解すれば二度理解する必要は無いだろう。
故に、一度作り出せたなら、そこからは鼠式である。
が、この場合、一つの問題が生じる。
それは、現物を目の当たりに(あるいは触ったり)しなければいけないという点である。
その点、この日のラフはついていた。
たまたま車を走らせている人を見つけたのだから。
が、ラフはそれが車だと認識出来ず、不思議がるだけだった。
しかし、車の可能性は高いとみて、近くに寄る。
この時、車の時速は六十キロはあっただろう。
舗装されていない、広大な砂原を駆けている。
「すいません」
と、ラフは声をかける。
「…」
車の窓がウィィィンとゆっくり開いた。
「…あんた、なんで外走ってんの?あれ?止まってる?この車」
「あ、やっぱり車でしたか…すいません、少し乗せていただきたいのですが」
「…は、はぁ」
運転手は唖然とした様子だった。
車を停める。
すると、砂原の砂が舞い上がった。
「ごめん、後は荷物で埋まってるから前に乗ってくれないかな?」
「はい」
ラフは助手席に座る。
「それで、なんでヒッチハイク?をしたんだい?」
「いや、俺は車というものを見たことが無かったので」
「そうか…」
「…」
この時既に、ラフォーレティーナは車の分析を終えていた。
要するに、既に車を作り出せる状態である。
「というか、貴方こそ、何故こんなところを走っているのですか?」
ここは、先の街からは少々離れた所に位置する。
ラフォーレティーナは走ってきたのだ。
「君、部外者だろう?」
「え、あ、はい」
「そうか。ここじゃ、人目もないし、大丈夫か」
「何が──」
「──ランディ、バンディ兄弟を知っているか?」
「あ、はい、少し聞きました」
「そうか…じゃあ話は早い」
「?」
「あいつらがこの街で暴れるようになってから急激に人口が減った…何故だか分かるかい?」
「多分──」
「あぁ、その通りだよ。僕のように逃げ出すものが多いのさ」
「…でしょうね」
「で、君はどうするんだい?」
「そうですね、下ろしてください」
「えーっ!?ここでかい!?」
「はい」
「む、むう。そうか…くれぐれも奴らには気をつけるんだよ」
そうして車は走っていった。
ブゥゥゥンという音が、ラフの耳に残った。
残滓を残していった。
灼熱の、暑い暑い日であった。
───ドッゴォォォン!
という音がしたのは、それから間もない頃だった。
後を振り向けば、バイクで滑走する二人組が見えるではないか。
「ひぇーっ!このクソ野郎、俺達から逃げられる訳がねぇーっつーの!」
先の車は横転している。
煙が上がっている。
運転手の人は大丈夫だろうか。
もう一人の男が、運転手を見つけたようで、がっと首を掴んだのが見えた。
そして、それを天に掲げるように持ち上げた。
運転手は、泣いているように見えた。
恐怖によるものか、何なのか。
そして、二人組は、
「はいっ、一本」
急にナイフを取り出し、運転手の体に刺しだした。
「ッーーーー!!!」
運転手の悲痛な声が砂原に響いた。
「次は、股間にでも刺すか?」
「いいねぇーっ!それ」
その時だった。
砂原の熱を飛ばすような、途轍もない風圧と爆音が二人組を包んだのは。
「ランディ、バンディィィィィィィィ!!!!!!」
◇
「──なんだ、あのくそガ──」
その途端、ラフォーレティーナは踏み出した。
それは、空気を裂きながら、進んでいく。
そして、運転手をどちらからか奪い取り、治す。
『治癒』
魔法とは、その者の技量やレベルによっても多少効力が変わる。
ラフォーレティーナほどのレベルになれば、初期の魔法、治癒でも、相手のレベルによっては瀕死から回復させるほどの効力を持つ。
そして、運転手を安全な所に置く。
それは、二人組がいた所から相当離れた位置だった。
そして、ラフォーレティーナはランディバンディの元へ戻る。
「──キ」
「…」
「…てめぇ、あの野郎をどこにやりやがった?」
「…あー?兄貴、殺しても良いか?こいつ、むかつく顔してっからよぉ」
「…駄目だ、ランディ」
「ちぇ」
少し大きい方がバンディで、その弟がランディなのか。
気持ち悪い見た目だ。
ゲスいというか、顔のパーツがバラバラというか。
しかも、ランディの方は太っていて、バンディの方は痩せている。
極端な兄弟だ。
「あんたたち、何故あの人を殺そうとした?」
「殺そうとした?ナイフを刺しただけだぜぇ?誰も殺そうとしたなんて言ってねぇぜ?」
「…答えよう…」
答えたのはバンディの方だった。
「それはな、──何となくだよ」
「っ!…街でも教会に犯された女子たちが連れ入れられていたな…何故そんなことをする?」
「あー、だって、娼婦って高くねー?」
「そして、この街には風俗が無いからな」
「──そうか。強姦罪は存在するみたいだが?」
「そのようだな…が、そんなことはなぁ!」
急に、バンディが怒鳴り出す。
「関係ねぇんだよ。なぁ!?」
こいつ、情緒不安定か。と、ラフォーレティーナは思う。
「おう、兄貴」
「じゃあ?やっちまうか?面倒くせぇし、うぜぇし」
「おいおい、いきなりぶち殺すんじゃねぇぞ?いたぶっていたぶって、ぶち殺すんだよ」
「オー、流石兄貴」
「いくぜ」
ひょろひょろのはずのバンディは、途端、ゴキゴキと体の枷を外したように、今まで抑えていたように体が巨大化していく。
それは、ランディも同じだった。
「お前、昔蟻とかの触覚とか脚を千切ったりしなかったか?」
「…それと同じなんだよ、今からするのは…子供心に破壊が加わると見事に残虐になるんだぜ」
そうか──こいつらには、倫理がない。
と、初めてラフォーレティーナは対話を諦めた。
そして、だらんと両手を下ろす。
森羅万象把握で何となくは分かっていた。
本当は善人じゃないかとか、考えもした。
だが、全くのように、悪人。
ラフォーレティーナは、憤る。
「えへへ、ぐへっ」
気持ち悪い笑みを浮かべるものだ──ラフォーレティーナは感心する。
そんな笑みを浮かべながらランディは脂ぎった手でラフォーレティーナの足を掴む。
「おら!」
バン、と地面に叩き付けられる。
「おらおら」
バン、バンバンバンバン
地面に陥没が出来ていく。
「ふふっ、足から」
だらんと力なくたれるラフォーレティーナは、決心した。
ランディはラフォーレティーナの足を持ち、千切ろうとするが──
「あ、あれ、可笑しい…なんで…」
「レベルにして、70前後、まぁまぁじゃないか?」
すっとラフォーレティーナは持っていたランディの手を切り落とした。
「ッッァアアアッアァアァ!?」
ランディは発狂する。
余りの痛みにとち狂ったか。
「死ね」
「ッッぁぁぁぁぁぁあああ痛いぃぃいいい」
ラフォーレティーナはランディの足を蹴りとばす。
文字通り、蹴りとばす。
要するに、ランディの足は吹っ飛んでいった。
「じゃあな」
ラフォーレティーナは手刀を振り下ろそうとし──
その時、ラフォーレティーナは考えてしまった。
ここで殺すのは本当に正しいのか、と。
俺のように好きな人がいて、誰かに愛されたいが為にしているのでは、と。
「っ」
殺人は──
「オッラァッ!」
後から、ラフォーレティーナは吹っ飛ばされる。
「大丈夫か?ランディ」
バンディの蹴りによるものだ。
余りの巨体なので、簡単に飛ばされた。
『自重強化』
これで、飛ばされることはなくなるだろう。
「…おま“っ、おまえっ!呪ってやる!」
ランディが、血を流しながら言った。
「呪ってやる!末代まで!てめぇの愛した野郎も家族も友人も知り合いも希望も全て断ち切ってやる!!」
「…やってみろや」
ラフォーレティーナは、もういいかと思い、ランディを殺すことを決意した。
「さよなら」
万物創造
「?」
ランディの体に何かが纏われる。
「な、なんだ?これは」
「それは、毒だよ」
火龍さえ倒す毒だが。
「…はっ。ああっ?あっ…ばっ、──」
「…じゃあな」
ランディは泡を吹きながら静かになった。
「…おまえぇぇええ」
バンディはラフォーレティーナに飛びつくような勢いで突進していく。猪突猛進。玉砕覚悟。
「うるせぇ」
だが、虚しく。
ラフォーレティーナが本気でバンディの顎を振り抜いた。
「ッ?」
バンディは、異変に気付く。
自分の視界がぐるぐるまわっていることに。
「あれ?」
なんで、俺の体が下にあるんだ?
あれ?首が、無いじゃ無いか…
──と。
「そうか」
俺は負けたのか。
すまないな、ランディ。
が、俺達みたいなくずい兄弟には、お似合いの死に方じゃねぇか?
ランディ。
だろ?
◇
よし、なんとかして、キティとリリーの元へ行くぞ。
「でも、どうしたものか…」
シュンッ!
唐突に視界が変わる。
「は?」
どこだここ?
そいつらは暴れる。
昼間にも暴れてはいるが、夜は更に激しい。
ブゥンとバイクを吹かす音がすれば、町にそいつらは飛び出ていく。
「あ、あの二人組がきたぞぉ!」
町の住人は怯えながら叫ぶ。
「うるっせぇ!!」
が、バイクに乗っている一人に轢かれる。
「ぶへっ」
ぶつかった瞬間、嫌な音が響く。
それは、一つの命が奪われた音だった。
「き、キャァァァア!!」
年若い乙女にその光景は余りにも無残。
過酷すぎた。が、叫ぶことによりバイク二人組のターゲットは変更される。
「おじょーちゃん、そんなに叫んじゃだめでしょー?」
「俺、押さえるわ」
「んじゃ、よろしくー」
「イャッ、イャァァアア!!」
が、世界は甘くない。
ファンキーな格好をした二人に、女は襲われる。
「うっうっうっうっ」
「ふっふっふっふっ」
女は唇を噛みしめる。涙を流して、されるがままにされる。
圧倒的力の差。子供と大人。理不尽な対図。それが完成していた。
「ふっー、最高。若い奴が一番だわ」
「次、俺ね」
「い、イャァァアア…っ、おぼっ」
口内に無理矢理突っ込まれ、嘔吐く。
「お“え“っ!」
「おらおら~朝までしごくぞこらぁ~」
この二人こそ、巷を独り占めしている極悪二人組、ランディバンディ兄弟である。
「夜は長いぜぇ~」
兄のランディはゲスい笑みを浮かべた。
◇
…痛い…
「ぅぅう~どこだ?ここ…」
頭がクラクラだ…
「おい、あんた大丈夫か?」
おっちゃんが声をかけてくれる。
「あ、あぁ」
だんだんと、視界が明瞭になってくる。
「 ん、…んん?」
どうやら、繁華街の道中にいるらしい。
辺りには店が建ち並び、どこもかしこも賑やかだ。
が、一つだけ異変がある。
「…俺、一人だけ?」
どうやら四人バラバラになってしまったらしい…
あぁーこんなことならマーカーを付けておくんだった、と今になって後悔するが、後の祭り。
とりあえず今何をすべきか判断しなければ。
「…おろ?」
少し繁華街を歩くと、普通の道に出た。
そんなに長く無いじゃないか、ここ。
「はは、兄ちゃん、今、この道そんなに長くないって思ったろ?」
「え、そうですけど…」
え?なんで分かるのおじさん。エスパー?
「元々はねぇ、長かったんだよ、それはそれは…けどね」
「けど?」
「巷を荒らしている二人組、まぁホントは名前を呼んじゃいかんがね、ランディバンディという二人組の兄弟がこの繁華街を縮めたのさ。自分達の権力を誇示したいばかりにね」
「へぇ…どうしてそんなことを俺に教えてくれるんですか?」
「…あんた、部外者じゃろ?ここの事をようしらんようじゃし、教えたのさ」
「…ありがとうございます」
そう言う風に悪事を働く人も居れば、この人のように優しい人もいるのか。
優しい人…か。
でも、そんなものも結局は見方次第で──
それでいて、一方が一方を悪と言えると問われればそれは大きな間違いで、時と場合によってそいつの見方なんてコロコロ変わるし、そういう断定する言い方は良くないのかも知れない。
相手のことを、ただの一端しかしらないのに、断定するのは、やはり間違いだ。
上から見たら丸でも、それが球か円柱か分からない。
その差は大きいものだろう?
それも個々の話になってしまうが。
まぁ、価値観というか、生き方というか。
…さて、話を戻そうか。
四人は一体どこに行ったのだろうか?
『通信』
ピピッ、
『田原総一との接続に失敗しました。それ以外には成功しました』
田原か…なら大丈夫だな。
『皆、無事か?』
『ラフ!?よかったぁ、私は大丈夫だよ』
『わたくしも大丈夫です。あとで集合しましょう』
『今じゃ駄目なのか?』
『はい、ちょっと用事が出来たので』
『分かっ──』
『ラフは車を見てきて下さい』
『分かった…』
そうだ。車を造らなければならないのだった。
『それじゃあ、切るからな』
『通信』を切る。
「さてと、まずは車を見るべきか…」
◇
ラフの創造系能力には、一定の条件がある。
まず、絶対条件として、その現物を知っておかねばならない。
例えば車をラフは知らないので、造ることは不可能だ。万物創造をもってしても意味は無いだろう。
しかし、逆に捉えれば現物を知ってさえいれば大抵のものは作り出せるのだ。
また、森羅万象把握から、新たに派生させたり、改良したものを作り出すことも、複合技として可能である。
しかし、現物を知るとはどういうことなのか。
例えばラフが車を見たとしよう。
しかし、それだけでは作り出すことは出来ない。万物創造ならあるいはいけるかもしれないが、万物創造はラフの体力や魔力を大きく削る技なので、あまり乱発は出来ないのだ。
知るとはどういうことかと言えば、それらに使われている物質を把握する事である。
服であれば布、ステーキなら肉のように、何に何が使われているか把握する必要がある。
更に言えば、そんな漠然としたものではなく、服ならば布、布ならば~~、のように原子レベルで把握する必要がある。
しかし、ラフには森羅万象把握があるので、簡単に把握する事が可能だ。
また一度理解すれば二度理解する必要は無いだろう。
故に、一度作り出せたなら、そこからは鼠式である。
が、この場合、一つの問題が生じる。
それは、現物を目の当たりに(あるいは触ったり)しなければいけないという点である。
その点、この日のラフはついていた。
たまたま車を走らせている人を見つけたのだから。
が、ラフはそれが車だと認識出来ず、不思議がるだけだった。
しかし、車の可能性は高いとみて、近くに寄る。
この時、車の時速は六十キロはあっただろう。
舗装されていない、広大な砂原を駆けている。
「すいません」
と、ラフは声をかける。
「…」
車の窓がウィィィンとゆっくり開いた。
「…あんた、なんで外走ってんの?あれ?止まってる?この車」
「あ、やっぱり車でしたか…すいません、少し乗せていただきたいのですが」
「…は、はぁ」
運転手は唖然とした様子だった。
車を停める。
すると、砂原の砂が舞い上がった。
「ごめん、後は荷物で埋まってるから前に乗ってくれないかな?」
「はい」
ラフは助手席に座る。
「それで、なんでヒッチハイク?をしたんだい?」
「いや、俺は車というものを見たことが無かったので」
「そうか…」
「…」
この時既に、ラフォーレティーナは車の分析を終えていた。
要するに、既に車を作り出せる状態である。
「というか、貴方こそ、何故こんなところを走っているのですか?」
ここは、先の街からは少々離れた所に位置する。
ラフォーレティーナは走ってきたのだ。
「君、部外者だろう?」
「え、あ、はい」
「そうか。ここじゃ、人目もないし、大丈夫か」
「何が──」
「──ランディ、バンディ兄弟を知っているか?」
「あ、はい、少し聞きました」
「そうか…じゃあ話は早い」
「?」
「あいつらがこの街で暴れるようになってから急激に人口が減った…何故だか分かるかい?」
「多分──」
「あぁ、その通りだよ。僕のように逃げ出すものが多いのさ」
「…でしょうね」
「で、君はどうするんだい?」
「そうですね、下ろしてください」
「えーっ!?ここでかい!?」
「はい」
「む、むう。そうか…くれぐれも奴らには気をつけるんだよ」
そうして車は走っていった。
ブゥゥゥンという音が、ラフの耳に残った。
残滓を残していった。
灼熱の、暑い暑い日であった。
───ドッゴォォォン!
という音がしたのは、それから間もない頃だった。
後を振り向けば、バイクで滑走する二人組が見えるではないか。
「ひぇーっ!このクソ野郎、俺達から逃げられる訳がねぇーっつーの!」
先の車は横転している。
煙が上がっている。
運転手の人は大丈夫だろうか。
もう一人の男が、運転手を見つけたようで、がっと首を掴んだのが見えた。
そして、それを天に掲げるように持ち上げた。
運転手は、泣いているように見えた。
恐怖によるものか、何なのか。
そして、二人組は、
「はいっ、一本」
急にナイフを取り出し、運転手の体に刺しだした。
「ッーーーー!!!」
運転手の悲痛な声が砂原に響いた。
「次は、股間にでも刺すか?」
「いいねぇーっ!それ」
その時だった。
砂原の熱を飛ばすような、途轍もない風圧と爆音が二人組を包んだのは。
「ランディ、バンディィィィィィィィ!!!!!!」
◇
「──なんだ、あのくそガ──」
その途端、ラフォーレティーナは踏み出した。
それは、空気を裂きながら、進んでいく。
そして、運転手をどちらからか奪い取り、治す。
『治癒』
魔法とは、その者の技量やレベルによっても多少効力が変わる。
ラフォーレティーナほどのレベルになれば、初期の魔法、治癒でも、相手のレベルによっては瀕死から回復させるほどの効力を持つ。
そして、運転手を安全な所に置く。
それは、二人組がいた所から相当離れた位置だった。
そして、ラフォーレティーナはランディバンディの元へ戻る。
「──キ」
「…」
「…てめぇ、あの野郎をどこにやりやがった?」
「…あー?兄貴、殺しても良いか?こいつ、むかつく顔してっからよぉ」
「…駄目だ、ランディ」
「ちぇ」
少し大きい方がバンディで、その弟がランディなのか。
気持ち悪い見た目だ。
ゲスいというか、顔のパーツがバラバラというか。
しかも、ランディの方は太っていて、バンディの方は痩せている。
極端な兄弟だ。
「あんたたち、何故あの人を殺そうとした?」
「殺そうとした?ナイフを刺しただけだぜぇ?誰も殺そうとしたなんて言ってねぇぜ?」
「…答えよう…」
答えたのはバンディの方だった。
「それはな、──何となくだよ」
「っ!…街でも教会に犯された女子たちが連れ入れられていたな…何故そんなことをする?」
「あー、だって、娼婦って高くねー?」
「そして、この街には風俗が無いからな」
「──そうか。強姦罪は存在するみたいだが?」
「そのようだな…が、そんなことはなぁ!」
急に、バンディが怒鳴り出す。
「関係ねぇんだよ。なぁ!?」
こいつ、情緒不安定か。と、ラフォーレティーナは思う。
「おう、兄貴」
「じゃあ?やっちまうか?面倒くせぇし、うぜぇし」
「おいおい、いきなりぶち殺すんじゃねぇぞ?いたぶっていたぶって、ぶち殺すんだよ」
「オー、流石兄貴」
「いくぜ」
ひょろひょろのはずのバンディは、途端、ゴキゴキと体の枷を外したように、今まで抑えていたように体が巨大化していく。
それは、ランディも同じだった。
「お前、昔蟻とかの触覚とか脚を千切ったりしなかったか?」
「…それと同じなんだよ、今からするのは…子供心に破壊が加わると見事に残虐になるんだぜ」
そうか──こいつらには、倫理がない。
と、初めてラフォーレティーナは対話を諦めた。
そして、だらんと両手を下ろす。
森羅万象把握で何となくは分かっていた。
本当は善人じゃないかとか、考えもした。
だが、全くのように、悪人。
ラフォーレティーナは、憤る。
「えへへ、ぐへっ」
気持ち悪い笑みを浮かべるものだ──ラフォーレティーナは感心する。
そんな笑みを浮かべながらランディは脂ぎった手でラフォーレティーナの足を掴む。
「おら!」
バン、と地面に叩き付けられる。
「おらおら」
バン、バンバンバンバン
地面に陥没が出来ていく。
「ふふっ、足から」
だらんと力なくたれるラフォーレティーナは、決心した。
ランディはラフォーレティーナの足を持ち、千切ろうとするが──
「あ、あれ、可笑しい…なんで…」
「レベルにして、70前後、まぁまぁじゃないか?」
すっとラフォーレティーナは持っていたランディの手を切り落とした。
「ッッァアアアッアァアァ!?」
ランディは発狂する。
余りの痛みにとち狂ったか。
「死ね」
「ッッぁぁぁぁぁぁあああ痛いぃぃいいい」
ラフォーレティーナはランディの足を蹴りとばす。
文字通り、蹴りとばす。
要するに、ランディの足は吹っ飛んでいった。
「じゃあな」
ラフォーレティーナは手刀を振り下ろそうとし──
その時、ラフォーレティーナは考えてしまった。
ここで殺すのは本当に正しいのか、と。
俺のように好きな人がいて、誰かに愛されたいが為にしているのでは、と。
「っ」
殺人は──
「オッラァッ!」
後から、ラフォーレティーナは吹っ飛ばされる。
「大丈夫か?ランディ」
バンディの蹴りによるものだ。
余りの巨体なので、簡単に飛ばされた。
『自重強化』
これで、飛ばされることはなくなるだろう。
「…おま“っ、おまえっ!呪ってやる!」
ランディが、血を流しながら言った。
「呪ってやる!末代まで!てめぇの愛した野郎も家族も友人も知り合いも希望も全て断ち切ってやる!!」
「…やってみろや」
ラフォーレティーナは、もういいかと思い、ランディを殺すことを決意した。
「さよなら」
万物創造
「?」
ランディの体に何かが纏われる。
「な、なんだ?これは」
「それは、毒だよ」
火龍さえ倒す毒だが。
「…はっ。ああっ?あっ…ばっ、──」
「…じゃあな」
ランディは泡を吹きながら静かになった。
「…おまえぇぇええ」
バンディはラフォーレティーナに飛びつくような勢いで突進していく。猪突猛進。玉砕覚悟。
「うるせぇ」
だが、虚しく。
ラフォーレティーナが本気でバンディの顎を振り抜いた。
「ッ?」
バンディは、異変に気付く。
自分の視界がぐるぐるまわっていることに。
「あれ?」
なんで、俺の体が下にあるんだ?
あれ?首が、無いじゃ無いか…
──と。
「そうか」
俺は負けたのか。
すまないな、ランディ。
が、俺達みたいなくずい兄弟には、お似合いの死に方じゃねぇか?
ランディ。
だろ?
◇
よし、なんとかして、キティとリリーの元へ行くぞ。
「でも、どうしたものか…」
シュンッ!
唐突に視界が変わる。
「は?」
どこだここ?
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