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とある青年
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その世界には、魔物と呼ばれる生き物がいた。
それは、魔王から生み出されているらしい。
人々は魔物に苦しめられていた。
だから、魔王を討とう。
隊を組み、出陣した。
しかし、惨敗した。
そんな時、魔王に打ち克つ者が現れた。
皆々はその人物を『勇者』と呼んだのだ。
その勇ましい功績を称えて。
そして、世界は人類が支配するようになった。故に、魔物からして魔王は『勇者』のような存在なのだ。
◇
「グギギ…もうお前は助からない…絶対に死ぬ…誰も助けてはくれない」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…ジョークにしちゃあ上出来だ…ふぅっ」
青年は溢れる汗を止める術を知らず、大量の汗を垂れ流していた。
また、息は途切れ途切れ、体はビクビクと震え痙攣している。
とても戦える状態ではない。
青年は、魔物に襲われていた。
「おっと、最後に俺の自己紹介をしてやろう…俺の名はオニャー。猫と鼠のキメラだ…」
「…ふぅっ」
魔物、オニャーは大きい。
体高にして十メートル近くあるのだろう。
顔を上げれば天を覆う大きさ。
さらに、使用する攻撃はひっかきと噛みつきだけなのに、途轍もない破壊力。丸太程度ならばあっという間にバラバラだろう。
青年はとあるギルドへ行くための近道として森の中に入って、たまたまこの魔物と遭遇してしまったのだ。
「…はぁっ、俺だって…多少たたかえんだよ…はあっ」
青年は満身創痍であった。
体中は傷だらけであり、数カ所骨折もしているだろう。
大量の血が流れ、失血死してもおかしくない。
さらには、オニャーの雑菌が傷口から侵入し、病原体となって体中を蝕み始めていた。
「死ねぃ!」
オニャーはその大きな鉤爪を振るった。
周りのものが破壊され、肉を引き裂いた感触。
オニャーは喜んだ。
「…ふぅ、ようやく適応したぜ…てめぇのその馬鹿みてぇな攻撃…」
「…は?」
「なんとか防げた」
それは、おかしな光景であった。
今まで青年が生きられていたのは、必死にオニャーの攻撃を避けていたからである。
しかし、オニャーの鉤爪は青年に当たっていた。
しかし、オニャーの鉤爪は、青年の両腕と青年の胸筋で受け止められていた。
「あー、いって…こりゃ当分治らないな…」
「きさまぁ!!」
オニャーはもう片方の手で青年を斬りつけた。
オニャーは四足歩行である。両手足で攻撃するのでまだ余裕はあった。
しかし、
その攻撃は、当たらなかった。
「…??」
「ここだぁ!」
オニャーの額に衝撃が奔る。
青年が殴りつけたのだ。
「…!??」
青年は、体高十メートルはあろうオニャーの、その上まで跳躍していったのだ。
オニャーは額を押さえた。
「うぅ、うぅう」
人間にしては途轍もない威力だな、とオニャーは感じる。
オニャーは車が100km/hで突っ込んでこようと傷一つつかないほどの硬さを誇る。
だが、青年の殴打はオニャーに大きなダメージを与えていた。
「ぐる、グルルル」
故に、オニャーは臨戦状態に入った。
筋肉は膨張し、爪はより鋭利に、体はより頑丈になる。
「シャァァァァァ!!」
オニャーは目にも止まらぬ豪速で、その爪を振るった。
──が、その斬撃は、青年に到達する前に、意気消沈する。
──何故なら、青年が、その攻撃が到達する前に、既にオニャーをボコボコに殴っていたからだ。
「ゴニャァッ!」
オニャーが戦闘状態に入ってから一、二秒しか経っていないのにも拘わらす、青年はその攻撃の間の刹那、およそコンマ十分の一秒で何発も殴打を放つ。
その威力にさすがの巨大も揺らぐ。
「…ぐ、グルルル?」
(この人間…おかしい…ひっかけばひっかくほど、追い込めば追い込むほど…強くなっている?)
「ッしゃぁ!」
それが、魔物オニャーのした最後の攻撃であった。
青年は、オニャーの爪と爪の間をすり抜けて、オニャーの心臓部へ連打を叩き込む。
「オニャァァァァァァ!!」
「なるほど…断末魔がオニャーだからオニャーって名前なのか」
青年はそう言うと、血がついた右手をふっと軽く吹いた。
「片腕しか使ってないんだけどな…ってか、腹減った~…」
青年は死んだオニャーを見つめる。
「…食えるかな?」
◇
パチパチと小枝が折れる良い音がした。
火の粉が軽く舞う。
「…くそ不味い…」
火を通せば食えると思ったんだけどなぁ。
て言うか、さっきまで体が怠かったけど、もう治ったみたいだな。
「よし、体の傷はほぼ完治した…」
昔から怪我の治りだけは早かったんだよね。
「…さぁて、寝るか…」
そうして、森の中、就寝に着こうと思ったが…
「プーン」
「ブーンブブッ」
「キョォォォ」
「ホーッホーッ」
「ガヴルルル」
森って、実は吹奏楽部だったのか?
「…」
イライラ…
「プーンブブッぐるるほーほーっぎちちちごろぉほーっきょぉぉきちきち…」
「うるせぇぇえ!!!」
イライラが限界に到達した。
こうなったら音源全部ぶっ壊してやる。
「はっ!よっ!」
ぱんっぱんっと手で虫を潰していく。
虫は数こそ多いが、力はあまりない。
「うえ~」
手に変な粘液がついた。
だが、音を発してる虫たちはだいたい消し飛ばした。
「次は夜行性の鳥類だな。いくぜっ」
鳥類は逃げてもまた戻ってくる可能性がある。そういう敵はさらに苛つくので、俺はこうすることにした。
「すぅぅぅぅぅ」
思いっきり肺に息を吸い込む。
「────ポッ!」
名付けて空気弾。
空気を圧縮させて放出させる人口型の銃。
「ぎっ?」
空気弾は別にどこに当たろうが、鳥の体のどこかに当たれば構わない。そうなれば、もやはこっちのものだから。
足に空気弾があたり、鳥の足がはじけ飛んだ。
「よし」
落ちてきた鳥を粉みじんに粉砕する。
とはいっても一撃殴っただけだが。
「さて、次は───」
こうして朝まで戦いは続いた。
「…ふぅ、静かだ…」
鳥の鳴き声さえ聞こえない。
「…しかし、一睡も出来なかった」
本末転倒すぎる。
「…はぁ、早くギルドへ向かおう」
俺の夢、それはギルドに冒険者登録をして、冒険者としてダンジョンに入ることだ。
だが、道中でリュックなどの必要品は全て落としてしまったので、今は何も持っていない。
いつもは魔物の肉や川の水を飲んでいる。
どちらも超不味い&超汚いが、これも生きるためだ。
最初のうちはずっと嘔吐が止まなかったが、今ではすんなり体が受けつける。
何も持たず、傷だらけの体で(半裸)今度は喉が渇いたので水を探そうと歩き出した。
少し歩くと、少し開けたところに出た。
「おお、これは────!」
目の前には、昨日戦ったはずのオニャーという魔物がいた。それも、大量に。
「お、オニャー…」
「違うぞ、小童…」
「ぐあっ!」
いきなり突き飛ばされる。
何て言う速度だ。オニャーの比ではない。
「我々はオニャーの中でも様々な生存競争に勝ち抜き、さらにそこから更に何段階も進化した姿。ビニャーなのだ。オニャーを倒すのに手こずっているようなお前では、ビニャーに囲まれたら勝ち目などないわ!」
「お前ら…昨日見てたのか…」
「あぁ。お前の戦闘スタイルはよく分かった、お前ら、潰すぞっ!」
敵が一斉に動き出した。
強い。力も速度も技術も全て一級品。一体倒すだけでも骨が折れそうだ。
さらには、尻尾が鋭利に尖っているのを見ると、刺突攻撃も出来るようだ。そこから透明な液が垂れている。おそらく猛毒だろう。そんな厄介な敵がここら一帯を覆うほどうじゃうじゃいる。
「ふぅ~」
俺は戦う覚悟を決めた。
◇
とある青年がいた。
その青年は、人のあまり寄りつかない、小さな島で生活していた。
青年はある日、自分よりも強いチンピラに絡まれた。
青年はボコボコに負けた。
しかし、翌日。チンピラよりも少し強くなった青年はチンピラに死闘の果てに勝った。
青年はある日、武術の素人と戦った。
自分よりも少し強かったが、死闘の末、勝利を掴んだ。
青年はある日、武術中段程度の人と戦った。
またも、ギリギリのところで勝つことが出来た。
青年は武術上位の者と戦った。
満身創痍で勝った。
青年は気付いた。自分がだんだんと強くなっていることに。
そして、青年はその島一番の武術の最高峰である男と戦った。
惨敗だった。
しかし、毎日毎日青年は戦い続け、日に日に驚異的な強さを身につけていった。
そして気がつけば、武術最高峰の者にも勝てた。
青年は島一番の強者になった。
青年は戦いが嫌いではなかった。ただ、戦いと言っても、戦争などではなくて、こう、なんというのだろうか。
楽しめる、誰も不幸にならない戦いがしたかった。
そして、青年は強者を求め島を出た。
島を出て最初に出会ったのが、スライムという魔物だった。
青年は大苦戦した。
人と魔物でここまでの差があるとは、思いもよらなかった。
それもそうだろう。
スライムは、格闘、物理系の攻撃の一切を受けつけないのだから。
スライムを倒す方法は体内にある核を破壊することだった。
青年は、スライムの出す酸液を定期的に避けつつ、半永久的に攻撃し続けた。
スライムが変化に気付いたのは、飲まず食わずで青年が三日間ぶっ通しでスライムを殴っている時であった。
最初の時に比べて、一撃一撃が速くなっている?威力も上がっている?
だが、物理系の一切を受けつけないのだから、スライムはなんとも無かった。
如実に変化が現れたのは、その一週間後。
スライムは原形を保てなくなっていた。
その攻撃速度はもはや芸術的であり、技にも磨きがかかってきた。
攻撃力も爆発的に上昇している。
その永続的な《衝撃》にスライムの体が吹き飛ばされているのだ。
スライムはすぐさま原形に戻ろうとするが、その隙間なく、青年の圧巻的な殴打がまるで暴風のように降りかかる。
それは、まるで大豪雨のような攻撃。
威力は大砲のよう。
そして、三日後。
「はっ、やったぜ」
青年は、スライムの討伐に成功した。
スライムは核だけでは数秒間しか生きられない。
つまり、核を弾き飛ばせば、生きられないのだ。
その時既に青年は、人間の領域を越え始めていた。
◇
「がっ、あっ、やべぇな…久しぶりに負けた…ぐふっ」
青年はビニャーの死体を横目に腹に出来た傷口を押さえる。
数百体のビニャーは討伐出来たのだが、流石に数が多すぎて対応しきれなかったのだろう。
「…やべぇな、記憶が飛んでる…」
青年は、負ける直前の記憶が無かった。
「…ていうか、水…」
青年は水が欲しくなったので、川を求めて歩き出した。
「うおっ、怠っ…めっちゃ、グラグラする…気持ち悪…」
青年はビニャーの毒や、森の虫たちにさされて、満身創痍であった。
「…はぁ、はぁ」
死にそうなくらい辛かったが、青年は川を発見した。
「…っ!よし」
川へ歩を進める。
「いただきまー」
そう言うと、青年は流れる川の水を飲み出した。
「ゴクッゴクッゴクッゴクッ…うめぇー!生き返るぅ!」
そう言うと青年はばっ、と立ち上がった。
気のせいか、傷がふさがっているように見える。
さらに気のせいだろうか、さっきまでふらついていたはずが、今はピンピンしている。
「さてと、少し休憩───」
「まだ息があったとはな」
空からビニャーが降ってきて、尻尾を、突き出した。
「ちょ、休ませてよ」
それをやすやすと避ける青年。
「…!?お前、前はこの攻撃を」
「んあ?もう見切った」
「…そうか…だがまだ仲間はごまんといるぞ」
「グルルル」
「シャァァァァァ」
囲まれている…と、青年は理解した。
「なるほど、かかってこい」
そして、青年へビニャーはその高い身体能力で斬りかかるが───
「よっ」
ばん!と右腕を振り抜いただけで、ビニャーの頭部が吹っ飛んだ。
「…さぁて、かかってこい」
「…!なんだ、こいつ…この前とは別物だぞ…」
「…お前ら、一斉にかかるぞ」
「ああ」
「さん、にー」
青年は戦闘形態に入った。臨戦状態である。
「いち」
───三時間後。
川の周り一帯が血の海となった。
その中で一人、雄叫びを上げる青年がいた。
「ふふ、ふふふ」
第三の敵が見ているとも知らず。
◇
「ま、この前のオニャーも食べられたし、ビニャーも食えるよな」
そう言って俺は火をおこした。
そして、ビニャーの体を解体する。
これは全て素手でだ。
そういう技術がある。手刀をナイフのように扱う技術が。
「よっ」
横に切り裂くと、ビニャーの体から血がドクドクと出て来た。
実際に、血が噴出することはなかなかない。(飛び散ることはある)
「…さてと」
ビニャーの肉を火であぶってくう。
俺の理論で言わせれば、火であぶれば大丈夫、だ。
「いただきます」
あぶったビニャーの肉にかぶりつく。
「うま」
オニャーに比べて大分美味しかった。
「ふぅ、くったくった。さてと、寝るか」
ここら一帯はビニャーの支配下だったおかげか、川が近いおかげか、あまりうるさくはなかった。
「スヤー」
…チュンチュン…
「…う、もう朝か…ふぅ。で、確かギルドの方向は…太陽の登る方の反対…だったよな」
太陽の登る方の反対へ歩いて行く。
すると目の前から黒い服を着た女が出て来た。
相当な老婆だ。
いや、こいつは…
「ふふ、ふふふ。私は《魔女》…昨日のお前の強さを見せて貰った…ふふ。なんという魔物かは知らないが、私の配下となれぇい!」
魔女は白い光の球を撃ってくる。
「おっ」
それを、ギリギリ躱した。
「はやっ」
「今のを躱すか…ふん。この光球を躱せるのは世界で誰一人いないと思っていたが…やはりお前…欲しいね!」
「きもいよ、ばあさん」
「ふふふ、《七重光球》」
「…ふぅ、めんど」
七つの光の球を空中に浮かべ、それらを撃ってきた。
「…!」
いけるか!?
「おおっ!《回避術・改》」
回避と同時に相手の技、エネルギーを受け流す技。
全ては無理だが。
「うおっ」
一発だけ完全に被弾する。
腹に思いっきり当たり、爆発した。
「あちゃー。わしとしたことが、実験材料を殺してしもうたわ~…まぁ、あれだけ防げるのはすごいんじゃが~手加減するべきじゃ───」
「…勝手に殺すなよ」
「──────へ?」
「いや、確かに痛かったけど」
「…馬鹿な!この光球はたった一晩で国を滅ぼ───」
「うるせえ」
俺は老婆の前へ移動し、体中に打撃を当てる。
「ごわばっ…」
魔女はバラバラに飛び散り、死んだ。
「?なんだったんだ?」
よく分からなかった。
「まぁ、魔物だったし、いいか」
俺はギルドへ向かい、歩き出した。
◇
「なるほど。魔女を簡単に屠るとなると、やっかいですのう」
「…なぁに。ここは俺自ら行こう」
◇
目の前に、角の生えた上位悪魔が現れた。
「…なんだ?」
「…お前は危険因子だ。速やかに排除する」
「へぇ。俺一対一はまぁまぁ自信あるんだよね」
「ふん、いっておれ」
上位悪魔は右手に何かを溜め、殴ってきた。
「悪魔の一撃」
「いってぇ~」
顔面にあたった。
あわよくば受け流そうと思ったが、馬鹿みたいな力のせいで受け流せなかった。
「な、に」
「俺からも…《超連打》」
俺は上位悪魔の懐に入ると、超高速で超攻撃力の連打を繰り返す。
これは、ある魔物に教えて貰ったんだ。
ぷにぷに…なぜ俺の前から消えてしまったんだ…
「ぷにぷにぃ!」
「なんだ、こいつは…ば、け…も、の」
上位悪魔は跡形もなくバラバラになった。
「さぁて、ギルド、ギルド」
◇
「こやつを解放するこになるとはのう…なるべく避けたかったんじゃが…」
「構わん。デーモンもやられたのだろう?」
「はい…」
パカッ。ゴシュゥゥウウウ。
「…こいつを殺せ」
◇
「ギルド…ギルド」
まだたどり着かないのか。
大分歩いたと思うんだが。
「はぁ…もう夕方か…」
木々の隙間から太陽が沈んでいく様子が見える。
神秘的だ。
「…もう寝るか」
周りの草を一瞬であつめ、自然のベッドを作る。
「汚いけど、まぁ無いよりは良いだろう」
俺は自然のベッドで寝た。
◇
「がーがー…っ…?寒っ…なんだ?」
真夜中。あまりの寒さに目が覚めた。
「…?っ!」
目の前から現れるのは、黒い影。
いや、違う。
「あぶねぇ」
地面から生えてくる黒い棘に刺されるところだった。
ぎりぎりジャンプして回避は間に合ったが。
「…?これは生き物なのか…」
地面の黒い棘がしゅるしゅると地上に浮き出てきて、黒い影と合体した。
すると、人型の全裸の男が現れた。
「…!?」
そいつは、空中にいる俺に対し攻撃を仕掛けてきた。
ただのげんこつ。
だが、どうだろう。
「がはっ」
地面にめり込んでいる。
ダメだ、息が出来ねぇ!
死ぬ…このままでは殺される…
どう切り抜ける?
ピンチピンチだ!
敵はどんな攻撃をしかけてきた?
単純に攻撃力が高いだけか?
「…っ!」
どんな野郎でも、俺の敵となるのなら叩き潰してやる。
「ッしゃぁっ!」
《超連打》
「っはぁっ、はぁっ」
周りの木々や大地が抉れ、吹き飛ぶ。
「…やった…か」
男は体中に穴が空き、明らかに俺の勝利だった。
のだが───
「──────!」
ぞろぞろと、大量の男が立ち上がった。
「なん…」
「お前は負ける…」
男は体中に穴が空いた状態で、俺に指を向けてきた。
いや、体の穴が…だんだんと再生していっている。
そして、男の傷はいつの間にか全てふさがっていた。
「…」
分裂、兼ねては再生…それに加え超攻撃力…厄介な相手だ。
だが、攻撃が当たらなければどうと言うことはないだろう。
「…いくぞっ!」
◇
───二週間後。
「…はぁっ、今日も飯はこいつらか」
俺は道を歩きながらそう呟いた。
こいつらとは、今殺した男たちのことである。
もちろん、男はそれでもまだ突っかかってくる。
四方八方から、分裂した男達が襲いかかる。
だが、その全てを、攻撃を仕掛ける前に殺しているので、攻撃が当たるはずもなかった。
「…っていうか、このままいくと森中お前らだらけになるんじゃない?」
「黙れ黙れ!お前は負ける運命にあるのだ!」
前にいる喋っている男を殺した。
まぁ、再生するが。
「…こいつは…」
後から声がする。
「…かてんのか?」
横の男が言った。
「無理だろうな。最初の内は良かったが、今じゃあもう半径一メートルにも入れていない…」
「ぐっ…」
「それに、殺そうと思えばお前らなんていつでも殺せるんだ…真の死を」
「何を!この分裂と再生の俺を殺せるのか!?あぁ!?」
「やってみるか」
「───は?」
男の右腕を消し飛ばした。
超高速の連打で。
「お前らのおかげで大分速く連打が撃てるようになったよ。ぷにぷにの時以来の成長かもな」
「…っ、どうせ再生するのだ…」
「…あっそう」
「…そうなの……?…あれ?何故だ……??」
「粉々にするついでに再生組織も破壊しておいた。分裂は最低一センチないとダメってのは分かってるからな。さて、じゃあいくぜ」
そして、四方八方からかかってくる分裂体を殺しまくった。
◇
────一週間後。
「お前が、俺の分裂体を殺した奴か?」
「…お前は?」
もう既に俺の周りにとりまく男は消えたはずだが。
「…男のオリジナル体だ…さて、俺を楽しませろ、人間」
「はい」
挨拶代わりに超連打(再生組織破壊)をかます。
そしてオリジナル体は吹っ飛んでいった。
だが…
「…お!」
オリジナル体は生きていた。
しかもほぼノーダメージ。
「…(ゾグッ)」
今の俺の《超連打》を受けてノーダメージって、相当強いな、こいつ。
「お前、強いな…名前はなんという?」
「俺?俺はアイチ。アイチ・ニシオカ」
「そうか…俺の名は、轟京介…さぁ、殺し合おう───っ!」
そして、俺達は拳を交あわせた。
両者の力は拮抗していた。故に、耐久にぶのある俺が勝った。
三時間後の事であった。
「ふぅっ、ふうっ…やっとか…」
「む、無念…」
どさっと轟京介が倒れた。
「こいつは強かった…はぁ」
俺は体中に空いた穴や切り傷を治すため、飯を食った。
更に運良く近くに水があったので、傷は大抵止血され、治った。
「寝よ」
久しぶりに爆睡した。
◇
「…ま、魔王様!」
「こうなったら、婆、俺が行く」
「し、しかし…」
「いや、いい!人間共にひいお爺ちゃんの復讐をしてやろうと思ったが…こいつを倒さなければ話にもならんようだな…」
「…復習…」
「婆…そっちの復習ではないぞ。それは学習の方だ…」
「あっ、失礼しました」
「…さて、勝てるかな…?」
◇
「本当にこっちであってるのかなぁ…」
太陽が上る方と逆って、普通おかしいよなぁ。
知人に聞いたのだけれど、間違っていたのだろうか。
「ゥッシャァ!」
「っ!ほっ、よっ!」
いきなり攻撃を仕掛けられる。
それは、ただの鳥だ。
しかし、だんだんと太陽が上る方と逆に進むにつれ、色んな生き物の凶暴性や強さが高まっている気がする。
ただの鳥でさえ、ビニャーに匹敵する強さになってきている。
魔物至っては全て上位悪魔並の強さだ。
こんなところの近くに冒険者ギルドなんてあるのだろうか。
いや、もしかしたら俺が弱すぎるだけで、冒険者からしたらこの程度の魔物は大した事ないのかも知れないが。
いや、待てよ…逆に俺が強すぎるんじゃね?
これ、俺TUEEEEEじゃね?
「…って、いったぁ!!!」
いつの間にか両足を植物に貫かれていた。
「っち!」
ここまで来るとなんでもありだな。
植物が攻撃だなんて。
「…なんだ?」
今度は視界が曇る。
「…?霧?」
すると、突然胸の奥から熱い何かがこみ上げてきた。
いや、これは何度も体験している…あれだ!
「ゴフッ」
口から血があふれだす。
「…っ!」
俺はすぐさま口を塞ぐ。
この霧は恐らく毒性がある。
故の吐血。
俺も様々な耐性は高めてきたつもりだったが…て言うか、全く俺TUEEEEEじゃないじゃないか。
普通に俺YOEEEEEじゃないか!
誰だ!俺TUEEEEEとか言った奴!
「俺、弱ー…」
霧を走り抜ける。
霧が晴れた。
「ふぅ~…」
すると今度は目の前に赤い瞳が大量に現れる。
「…今度は魔物か」
そして、戦った。
◇
──三日後。
「回復…しないと…」
舐めていた。ただの魔物が、あそこまでの力を持つだなんて。
「…はぁ、はぁ」
満身創痍、体中は傷だらけだ。
それもそう。
あいつらがここら一帯の魔物を全て呼び集めたせいで、大ダメージを負った。
一応は勝てたが、良い勝利ではない。
勝っても、死んでは意味が無い。
「…ふぅ、はぁ」
そこにあった丁度良い木にもたれかける。
「…危な…かった…ここらの魔物は…強い…いや、強すぎる…ふぅ」
何とか全て討伐しきった。
だが、この森の全容は知れない。
もっと強い魔物の区域があるのかも知れない。
「…おい」
「─────?」
木が、喋った?
いや、あり得るか。攻撃の意志を見せるくらいだし…
「…!」
その時、鳩尾に強烈な蹴りが入る。
その威力に、体が吹っ飛ぶ。
治りかけていた傷も開いた。
「がはっ」
血が飛び散る。
「満身創痍だなぁ?おい…」
目の前に現れるのは、いかにも強そうな服を着た男だった。
「…」
ダメだ、流石に逃げられない。
しかも今回は相手が悪すぎる。体の警鐘が鳴っている。
「…お前は?」
「俺か?俺は第七代目魔王、バーラエリサ。貴様を殺しにきた」
「…魔王直々にか?ぷぷっ、冗談は顔だけにしとけって!」
俺がまぁまぁ良い突っ込みをする。
だが、自称魔王は気にくわなかったようで───
「…殺す」
「…!」
バーラエリサの手刀による強烈な突きが腹にめり込み───いや、違う、このままだと…
「オらぁっ!」
「ゴブゥッ!」
腹が貫かれた。
「…全く、下らん──」
「ま、て…よ」
「…!?!?…その傷でまだ立ち上がれるのか?」
「フゥッ!」
力を入れれば腹から血が溢れだす。
だが、当たり前だ。
死んでしまうかもしれない。
だが、この相手は、死力を尽くさなければ、勝てない────
◇
それから先の記憶は無い。
気づけば俺は森で倒れていた。
「…水…水…」
ダメだ、水が欲しい。
だが動けん。
「あ~」
俺はここで死ぬのか。
良い人生だった。
さらば、ギルド…
ドボッドボッ
顔に水がかかった。
「?ゴクッゴクッアグッゴクッゴフッゴクッ」
必死にそれを飲み続ける。
「ふぅ、生き返った…」
「…ちなみにそれ、アタシのおしっこね」
「…は?」
目の前に女がいた。が、そのけたたましい角から見るに魔族だろう。
一定の知性をもった魔物、これを魔族と総称する。
「さて、アンタちょっとついてきなさい」
「は?おしっこって…」
「そんなの冗談に決まってるでしょ」
…いや、笑えねぇええええ!
「っていうか、ついていく?何故だ?」
「魔王様にあったでしょう?今のアンタなら勝てるかなって…」
「…なるほど…お前、魔王が嫌いなんだな」
「まーね」
そういう魔族もいるのか。
「っていうか、なんで(自称)魔王の場所を知ってるんだ?」
「…まぁ、色々あってね。さ、ここよ」
それは、大きな洞窟だった。
「魔王城なんて建てたら人間にすぐ見つかっちゃうからね…とは言え魔王様に勝てる人間なんて…いや、なんでもないわ」
「…この奥か…いや、近い…!!」
洞窟から、強そうな服を着た男が出て来る。
「…っ!!」
魔王が拳を突き出した。
が、躱す。
「…!?」
「…」
クイクイと、指で挑発する。
するとバーラエリサは憤り、高速で攻撃してくる。
「っ!何故あたらん!」
「体術じゃあ俺に分があるみたいだな」
「…!こうなれば…魔法を行使する…」
「お!?」
すると、上空から何かが轟音をたてて落ちてきた。
「隕石落下」
「────!!?」
こいつ、ここら一帯を更地にするつもりか!?
「フハハハ、魔力はもうそこをついたが!もう誰も助からん!無論、俺もだが!ハハハ!」
「っ!ふざけんな!手伝え…魔王!」
「…?何を言っている?」
「隕石を壊すのだ!」
「は?」
「俺は先に行ってる!」
だんっと地を蹴り、到達前の隕石に蹴りをかます。
「…!!?」
やはり隕石、伊達ではない。
全く押し返せる気がしない。
「っ、オラオラァ!《超連打・改》」
様々な敵と戦うことで、速度威力ともに超上昇し、さらにもっとも良い順序で繰り返す、隙の無いノーリキャスト攻撃!
「ッハァァァァァ!!」
しかし、それでも全く止まる気配がない。
「…」
地上が見えてきた。
もうダメかも。
あと数秒ってとこか。
「しょうがない、手伝うぞ」
「…バーラエリサ!?」
「こうなれば、一点に攻撃を集中させるしかないぞ!」
「おう!」
「「はっ!」」
俺達の拳が一点にめり込む。
「《超連打》!」
「魔王の一撃!」
ガガガガガカと俺が隕石を削っていき、そこにバーラエリサの強大な一撃が入った。
「っ!?」
バキバキバキっ!
隕石の威力が弱まり、隕石は破壊された。
「逃げるぞっ!」
「えっ?」
バーラエリサの首根っこをつかみ、隕石から離れる。
「な───」
隕石から離れた瞬間、爆発音とともに爆風で吹き飛ばされる。
「うぅっ…ふぅ、耐えたか…」
「隕石が空中で爆発したのか…破片が降ってこないのか?」
「その程度の破片は俺だけでも砕ける」
「なるほどな…やってみなければわからんものだ…この勝負、お前の勝ちだ。誇れ…ところでお前、名は?」
「アイチ・ニシオカ。って、あの女の子は?」
「女の子?セレニィのことか」
「ここにおりますよ…ほほ」
そこには白髪の生えた腰の曲がった婆さんがいた。
「…えっ…あなたが?…でもさっきは若かったですよね?えっ?」
「あれは、若返りの術です。まぁ、一日しか若返れないし、それから一週間はまともな魔法がつかえなくなりますがのう」
「…じゃあ何故使った…?」
「それはお前様をおびき寄せるため…わしの若い頃は美しかったじゃろう?」
「…う、ま、まぁ」
「ほほっ」
「セレニィ…弄るのはそれくらいにしろ」
「はい」
セレニィ婆さんがしゅんとした。
バーラエリサすげえ。
「…さて、ニシオカ、少し我が家で休んでいかないか?」
「…まぁ、折角なら」
どんな場所か気になるし。
「では、行こうか!フハハハ…」
急にテンション高っ。
◇
洞窟の中は、案外良かった。
洞窟とは思えない広さ。
居心地の良さ。
誰かが住んでいるという感じが伝わってきて、非常に良い。
「…あー。眠たい…少し眠っていっていい?」
「あぁ。もちろん。それに、俺はお前を襲ったりはせんから、安心して眠れ」
「おう」
…ソファの上で眠った。
何者にも邪魔されず安心して眠れるというのは、久しかった。
◇
そして、なんやかんや楽しんでいたら、バーラエリサの家で一週間近く過ごしてしまった。
「そろそろ、ギルドに向かわなくちゃいけない」
「…ん?出立をするのか。それもまた良いだろう…しかし、ギルド?」
パジャマ姿のバーラエリサは、俺に尋ねてきた。
丁度今から寝ようとしていた時だ。
タイミングが悪かったかな。
「うん。まぁ、そのギルドへの近道をするためにこの森に入った訳だけど。明日には出て行こうと思う」
「……………ギルド…?」
「…うん?」
「…ニシオカ、お前、どっちに向かっている?」
「…太陽の上る方と反対に…」
「…ニシオカ。お前、進んでる方、逆だぞ」
「…ん」
何か聞こえたと思ったが、勘違いか?
「…進行方向が、ぎゃ──」
「分かった。分かったよ…」
「に、ニシオカ…まぁ、そうおちこむな。だが、このままいけばその先は海しかないぞ」
「…そ、そうなんだー」
だから洞窟があるのかね。
「さてと、最後にこの家の住み心地を聞かせてくれ」
バーラエリサはベッドにだいぶすると、そう言ってきた。
「…アットホーム感があって良い」
「ふふ、それは良いな…なぁ、ニシオカ」
「んぁ?」
「いつでもここに戻ってこいよ。待ってるからな」
「…おう」
俺達は、眠りについた。
◇
翌朝。
「では、気をつけていくのじゃぞ…持ち物は本当にそれだけで良いか?共通貨幣と…それに地図…あとは少しの食料と水…それに…」
「分かってるって、セレニィ婆さんは心配性だなぁ」
「そうだぞ、セレニィ。俺に勝ち、さらには俺の唯一無二の友なのだからな!ハハハ!では、行ってこい!」
「いってきます!」
俺は勢いよく返事をして、バーラエリサの家を飛び出ていった。
「…セレニィ…」
「なんですか?」
「…寂しくなるなぁ」
「…そうですのう…」
◇
行って来た道を帰るだけだ。
何も感じない。
そう、骨折り損など思っていない。
「…シャッ」
大抵の魔物は俺が顔を出すと逃げていくようになった。
俺が強くなったからだろうか。
しかし、弱すぎるとその本能が警鐘を鳴らさないようで、逆に鳥などは狩りやすい、
「さてと、あと少しで折り返し地点だ」
地図を見ながらつぶやく。
「…さぁ、走るぞ…」
◇
大分走った。
丸二日間は走った。
「…大分来たな…」
最初、上陸したところらへんまで来たな。
というか、俺まだ上陸してから誰とも会ってないな。
「…さてと、疲れたし歩いて行くか…」
そうして歩き出した時だった。
目の前に黒い巨大が出現する。
「…俺の名前はオニャー。猫と鼠のキメラだ。ここで俺と出会ったことを呪え、人間!そして死ね!」
オニャーの振ってくる爪を、別に受け止める必要もないし、躱す必要もないので、正面から受け止める。
「にゃ?」
ガンッとまるで鋼鉄に当たったような音がした。
「…俺の体も大分頑丈になったな…」
「…は?…は?」
「さてと、お前不味いしなぁ…死にますかい?」
軽く殺気を漏らす。
「ヒギッ!オニャァァァ!!」
「やっぱ、オニャーなんだ鳴き声…あいつ面白いな」
面白い生き物がいるなー、と思いつつ、俺は森を歩いて行く内に随分強くなったんだな、というのを自覚した。
「あと少しのはず…」
◇
───三日後。
「みっけた」
やっとこの思いで、ようやく発見した。
ギルドっていうより、多分国。
大きい城門がある。
「…通りたぁ~い」
「何者だぁ!?検問所に通せ!というか汚っ」
検査される。
身体検査、身分、その他もろもろ。
あと、身分証とか作って貰ったり、戸籍のどうたらこうたら。
検査してくれた人が運良く凄く親切で、そう言うのを作ってくれた。
バーラエリサがくれた共通貨幣は、大体100000円位の価値があるらしい。
が、それがもう50000円まで減ってしまった。
「…はぁ」
国の中に入ると、凄い目で見られた。
通りかかる様々な人に見られる。
「…うぅ」
服はボロボロ。体臭は匂うし、格好はスラムの大人って感じか。
「…人に聞くにしてもなぁ」
ギルドの場所を聞くにしても、この状態では誰にも相手をしてくれないんだよね。
その分魔族は体臭がしようが、見た目が醜かろうが、割と受け入れてくれるから良いよなぁ。
「…んん?」
しかし、奇跡は舞い降りる。
「…まさか、あれは」
いや、野生で鍛えた視力が言っている。
あそこには、看板に《冒険者ギルド》と書いてある。
「あ、アレだぁ!」
見つけた。
やっとの思いで見つけた。
いや、見つけるのにここまで手間取ったの世界で俺だけなんじゃないか!?
「やった…」
勝った…
勝ったぞ…
「…ギルドに入ろう~」
俺はウキウキ気分で冒険者ギルドへと入った。
───────────────
作者コメント。 いや、文字数多っ
それは、魔王から生み出されているらしい。
人々は魔物に苦しめられていた。
だから、魔王を討とう。
隊を組み、出陣した。
しかし、惨敗した。
そんな時、魔王に打ち克つ者が現れた。
皆々はその人物を『勇者』と呼んだのだ。
その勇ましい功績を称えて。
そして、世界は人類が支配するようになった。故に、魔物からして魔王は『勇者』のような存在なのだ。
◇
「グギギ…もうお前は助からない…絶対に死ぬ…誰も助けてはくれない」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…ジョークにしちゃあ上出来だ…ふぅっ」
青年は溢れる汗を止める術を知らず、大量の汗を垂れ流していた。
また、息は途切れ途切れ、体はビクビクと震え痙攣している。
とても戦える状態ではない。
青年は、魔物に襲われていた。
「おっと、最後に俺の自己紹介をしてやろう…俺の名はオニャー。猫と鼠のキメラだ…」
「…ふぅっ」
魔物、オニャーは大きい。
体高にして十メートル近くあるのだろう。
顔を上げれば天を覆う大きさ。
さらに、使用する攻撃はひっかきと噛みつきだけなのに、途轍もない破壊力。丸太程度ならばあっという間にバラバラだろう。
青年はとあるギルドへ行くための近道として森の中に入って、たまたまこの魔物と遭遇してしまったのだ。
「…はぁっ、俺だって…多少たたかえんだよ…はあっ」
青年は満身創痍であった。
体中は傷だらけであり、数カ所骨折もしているだろう。
大量の血が流れ、失血死してもおかしくない。
さらには、オニャーの雑菌が傷口から侵入し、病原体となって体中を蝕み始めていた。
「死ねぃ!」
オニャーはその大きな鉤爪を振るった。
周りのものが破壊され、肉を引き裂いた感触。
オニャーは喜んだ。
「…ふぅ、ようやく適応したぜ…てめぇのその馬鹿みてぇな攻撃…」
「…は?」
「なんとか防げた」
それは、おかしな光景であった。
今まで青年が生きられていたのは、必死にオニャーの攻撃を避けていたからである。
しかし、オニャーの鉤爪は青年に当たっていた。
しかし、オニャーの鉤爪は、青年の両腕と青年の胸筋で受け止められていた。
「あー、いって…こりゃ当分治らないな…」
「きさまぁ!!」
オニャーはもう片方の手で青年を斬りつけた。
オニャーは四足歩行である。両手足で攻撃するのでまだ余裕はあった。
しかし、
その攻撃は、当たらなかった。
「…??」
「ここだぁ!」
オニャーの額に衝撃が奔る。
青年が殴りつけたのだ。
「…!??」
青年は、体高十メートルはあろうオニャーの、その上まで跳躍していったのだ。
オニャーは額を押さえた。
「うぅ、うぅう」
人間にしては途轍もない威力だな、とオニャーは感じる。
オニャーは車が100km/hで突っ込んでこようと傷一つつかないほどの硬さを誇る。
だが、青年の殴打はオニャーに大きなダメージを与えていた。
「ぐる、グルルル」
故に、オニャーは臨戦状態に入った。
筋肉は膨張し、爪はより鋭利に、体はより頑丈になる。
「シャァァァァァ!!」
オニャーは目にも止まらぬ豪速で、その爪を振るった。
──が、その斬撃は、青年に到達する前に、意気消沈する。
──何故なら、青年が、その攻撃が到達する前に、既にオニャーをボコボコに殴っていたからだ。
「ゴニャァッ!」
オニャーが戦闘状態に入ってから一、二秒しか経っていないのにも拘わらす、青年はその攻撃の間の刹那、およそコンマ十分の一秒で何発も殴打を放つ。
その威力にさすがの巨大も揺らぐ。
「…ぐ、グルルル?」
(この人間…おかしい…ひっかけばひっかくほど、追い込めば追い込むほど…強くなっている?)
「ッしゃぁ!」
それが、魔物オニャーのした最後の攻撃であった。
青年は、オニャーの爪と爪の間をすり抜けて、オニャーの心臓部へ連打を叩き込む。
「オニャァァァァァァ!!」
「なるほど…断末魔がオニャーだからオニャーって名前なのか」
青年はそう言うと、血がついた右手をふっと軽く吹いた。
「片腕しか使ってないんだけどな…ってか、腹減った~…」
青年は死んだオニャーを見つめる。
「…食えるかな?」
◇
パチパチと小枝が折れる良い音がした。
火の粉が軽く舞う。
「…くそ不味い…」
火を通せば食えると思ったんだけどなぁ。
て言うか、さっきまで体が怠かったけど、もう治ったみたいだな。
「よし、体の傷はほぼ完治した…」
昔から怪我の治りだけは早かったんだよね。
「…さぁて、寝るか…」
そうして、森の中、就寝に着こうと思ったが…
「プーン」
「ブーンブブッ」
「キョォォォ」
「ホーッホーッ」
「ガヴルルル」
森って、実は吹奏楽部だったのか?
「…」
イライラ…
「プーンブブッぐるるほーほーっぎちちちごろぉほーっきょぉぉきちきち…」
「うるせぇぇえ!!!」
イライラが限界に到達した。
こうなったら音源全部ぶっ壊してやる。
「はっ!よっ!」
ぱんっぱんっと手で虫を潰していく。
虫は数こそ多いが、力はあまりない。
「うえ~」
手に変な粘液がついた。
だが、音を発してる虫たちはだいたい消し飛ばした。
「次は夜行性の鳥類だな。いくぜっ」
鳥類は逃げてもまた戻ってくる可能性がある。そういう敵はさらに苛つくので、俺はこうすることにした。
「すぅぅぅぅぅ」
思いっきり肺に息を吸い込む。
「────ポッ!」
名付けて空気弾。
空気を圧縮させて放出させる人口型の銃。
「ぎっ?」
空気弾は別にどこに当たろうが、鳥の体のどこかに当たれば構わない。そうなれば、もやはこっちのものだから。
足に空気弾があたり、鳥の足がはじけ飛んだ。
「よし」
落ちてきた鳥を粉みじんに粉砕する。
とはいっても一撃殴っただけだが。
「さて、次は───」
こうして朝まで戦いは続いた。
「…ふぅ、静かだ…」
鳥の鳴き声さえ聞こえない。
「…しかし、一睡も出来なかった」
本末転倒すぎる。
「…はぁ、早くギルドへ向かおう」
俺の夢、それはギルドに冒険者登録をして、冒険者としてダンジョンに入ることだ。
だが、道中でリュックなどの必要品は全て落としてしまったので、今は何も持っていない。
いつもは魔物の肉や川の水を飲んでいる。
どちらも超不味い&超汚いが、これも生きるためだ。
最初のうちはずっと嘔吐が止まなかったが、今ではすんなり体が受けつける。
何も持たず、傷だらけの体で(半裸)今度は喉が渇いたので水を探そうと歩き出した。
少し歩くと、少し開けたところに出た。
「おお、これは────!」
目の前には、昨日戦ったはずのオニャーという魔物がいた。それも、大量に。
「お、オニャー…」
「違うぞ、小童…」
「ぐあっ!」
いきなり突き飛ばされる。
何て言う速度だ。オニャーの比ではない。
「我々はオニャーの中でも様々な生存競争に勝ち抜き、さらにそこから更に何段階も進化した姿。ビニャーなのだ。オニャーを倒すのに手こずっているようなお前では、ビニャーに囲まれたら勝ち目などないわ!」
「お前ら…昨日見てたのか…」
「あぁ。お前の戦闘スタイルはよく分かった、お前ら、潰すぞっ!」
敵が一斉に動き出した。
強い。力も速度も技術も全て一級品。一体倒すだけでも骨が折れそうだ。
さらには、尻尾が鋭利に尖っているのを見ると、刺突攻撃も出来るようだ。そこから透明な液が垂れている。おそらく猛毒だろう。そんな厄介な敵がここら一帯を覆うほどうじゃうじゃいる。
「ふぅ~」
俺は戦う覚悟を決めた。
◇
とある青年がいた。
その青年は、人のあまり寄りつかない、小さな島で生活していた。
青年はある日、自分よりも強いチンピラに絡まれた。
青年はボコボコに負けた。
しかし、翌日。チンピラよりも少し強くなった青年はチンピラに死闘の果てに勝った。
青年はある日、武術の素人と戦った。
自分よりも少し強かったが、死闘の末、勝利を掴んだ。
青年はある日、武術中段程度の人と戦った。
またも、ギリギリのところで勝つことが出来た。
青年は武術上位の者と戦った。
満身創痍で勝った。
青年は気付いた。自分がだんだんと強くなっていることに。
そして、青年はその島一番の武術の最高峰である男と戦った。
惨敗だった。
しかし、毎日毎日青年は戦い続け、日に日に驚異的な強さを身につけていった。
そして気がつけば、武術最高峰の者にも勝てた。
青年は島一番の強者になった。
青年は戦いが嫌いではなかった。ただ、戦いと言っても、戦争などではなくて、こう、なんというのだろうか。
楽しめる、誰も不幸にならない戦いがしたかった。
そして、青年は強者を求め島を出た。
島を出て最初に出会ったのが、スライムという魔物だった。
青年は大苦戦した。
人と魔物でここまでの差があるとは、思いもよらなかった。
それもそうだろう。
スライムは、格闘、物理系の攻撃の一切を受けつけないのだから。
スライムを倒す方法は体内にある核を破壊することだった。
青年は、スライムの出す酸液を定期的に避けつつ、半永久的に攻撃し続けた。
スライムが変化に気付いたのは、飲まず食わずで青年が三日間ぶっ通しでスライムを殴っている時であった。
最初の時に比べて、一撃一撃が速くなっている?威力も上がっている?
だが、物理系の一切を受けつけないのだから、スライムはなんとも無かった。
如実に変化が現れたのは、その一週間後。
スライムは原形を保てなくなっていた。
その攻撃速度はもはや芸術的であり、技にも磨きがかかってきた。
攻撃力も爆発的に上昇している。
その永続的な《衝撃》にスライムの体が吹き飛ばされているのだ。
スライムはすぐさま原形に戻ろうとするが、その隙間なく、青年の圧巻的な殴打がまるで暴風のように降りかかる。
それは、まるで大豪雨のような攻撃。
威力は大砲のよう。
そして、三日後。
「はっ、やったぜ」
青年は、スライムの討伐に成功した。
スライムは核だけでは数秒間しか生きられない。
つまり、核を弾き飛ばせば、生きられないのだ。
その時既に青年は、人間の領域を越え始めていた。
◇
「がっ、あっ、やべぇな…久しぶりに負けた…ぐふっ」
青年はビニャーの死体を横目に腹に出来た傷口を押さえる。
数百体のビニャーは討伐出来たのだが、流石に数が多すぎて対応しきれなかったのだろう。
「…やべぇな、記憶が飛んでる…」
青年は、負ける直前の記憶が無かった。
「…ていうか、水…」
青年は水が欲しくなったので、川を求めて歩き出した。
「うおっ、怠っ…めっちゃ、グラグラする…気持ち悪…」
青年はビニャーの毒や、森の虫たちにさされて、満身創痍であった。
「…はぁ、はぁ」
死にそうなくらい辛かったが、青年は川を発見した。
「…っ!よし」
川へ歩を進める。
「いただきまー」
そう言うと、青年は流れる川の水を飲み出した。
「ゴクッゴクッゴクッゴクッ…うめぇー!生き返るぅ!」
そう言うと青年はばっ、と立ち上がった。
気のせいか、傷がふさがっているように見える。
さらに気のせいだろうか、さっきまでふらついていたはずが、今はピンピンしている。
「さてと、少し休憩───」
「まだ息があったとはな」
空からビニャーが降ってきて、尻尾を、突き出した。
「ちょ、休ませてよ」
それをやすやすと避ける青年。
「…!?お前、前はこの攻撃を」
「んあ?もう見切った」
「…そうか…だがまだ仲間はごまんといるぞ」
「グルルル」
「シャァァァァァ」
囲まれている…と、青年は理解した。
「なるほど、かかってこい」
そして、青年へビニャーはその高い身体能力で斬りかかるが───
「よっ」
ばん!と右腕を振り抜いただけで、ビニャーの頭部が吹っ飛んだ。
「…さぁて、かかってこい」
「…!なんだ、こいつ…この前とは別物だぞ…」
「…お前ら、一斉にかかるぞ」
「ああ」
「さん、にー」
青年は戦闘形態に入った。臨戦状態である。
「いち」
───三時間後。
川の周り一帯が血の海となった。
その中で一人、雄叫びを上げる青年がいた。
「ふふ、ふふふ」
第三の敵が見ているとも知らず。
◇
「ま、この前のオニャーも食べられたし、ビニャーも食えるよな」
そう言って俺は火をおこした。
そして、ビニャーの体を解体する。
これは全て素手でだ。
そういう技術がある。手刀をナイフのように扱う技術が。
「よっ」
横に切り裂くと、ビニャーの体から血がドクドクと出て来た。
実際に、血が噴出することはなかなかない。(飛び散ることはある)
「…さてと」
ビニャーの肉を火であぶってくう。
俺の理論で言わせれば、火であぶれば大丈夫、だ。
「いただきます」
あぶったビニャーの肉にかぶりつく。
「うま」
オニャーに比べて大分美味しかった。
「ふぅ、くったくった。さてと、寝るか」
ここら一帯はビニャーの支配下だったおかげか、川が近いおかげか、あまりうるさくはなかった。
「スヤー」
…チュンチュン…
「…う、もう朝か…ふぅ。で、確かギルドの方向は…太陽の登る方の反対…だったよな」
太陽の登る方の反対へ歩いて行く。
すると目の前から黒い服を着た女が出て来た。
相当な老婆だ。
いや、こいつは…
「ふふ、ふふふ。私は《魔女》…昨日のお前の強さを見せて貰った…ふふ。なんという魔物かは知らないが、私の配下となれぇい!」
魔女は白い光の球を撃ってくる。
「おっ」
それを、ギリギリ躱した。
「はやっ」
「今のを躱すか…ふん。この光球を躱せるのは世界で誰一人いないと思っていたが…やはりお前…欲しいね!」
「きもいよ、ばあさん」
「ふふふ、《七重光球》」
「…ふぅ、めんど」
七つの光の球を空中に浮かべ、それらを撃ってきた。
「…!」
いけるか!?
「おおっ!《回避術・改》」
回避と同時に相手の技、エネルギーを受け流す技。
全ては無理だが。
「うおっ」
一発だけ完全に被弾する。
腹に思いっきり当たり、爆発した。
「あちゃー。わしとしたことが、実験材料を殺してしもうたわ~…まぁ、あれだけ防げるのはすごいんじゃが~手加減するべきじゃ───」
「…勝手に殺すなよ」
「──────へ?」
「いや、確かに痛かったけど」
「…馬鹿な!この光球はたった一晩で国を滅ぼ───」
「うるせえ」
俺は老婆の前へ移動し、体中に打撃を当てる。
「ごわばっ…」
魔女はバラバラに飛び散り、死んだ。
「?なんだったんだ?」
よく分からなかった。
「まぁ、魔物だったし、いいか」
俺はギルドへ向かい、歩き出した。
◇
「なるほど。魔女を簡単に屠るとなると、やっかいですのう」
「…なぁに。ここは俺自ら行こう」
◇
目の前に、角の生えた上位悪魔が現れた。
「…なんだ?」
「…お前は危険因子だ。速やかに排除する」
「へぇ。俺一対一はまぁまぁ自信あるんだよね」
「ふん、いっておれ」
上位悪魔は右手に何かを溜め、殴ってきた。
「悪魔の一撃」
「いってぇ~」
顔面にあたった。
あわよくば受け流そうと思ったが、馬鹿みたいな力のせいで受け流せなかった。
「な、に」
「俺からも…《超連打》」
俺は上位悪魔の懐に入ると、超高速で超攻撃力の連打を繰り返す。
これは、ある魔物に教えて貰ったんだ。
ぷにぷに…なぜ俺の前から消えてしまったんだ…
「ぷにぷにぃ!」
「なんだ、こいつは…ば、け…も、の」
上位悪魔は跡形もなくバラバラになった。
「さぁて、ギルド、ギルド」
◇
「こやつを解放するこになるとはのう…なるべく避けたかったんじゃが…」
「構わん。デーモンもやられたのだろう?」
「はい…」
パカッ。ゴシュゥゥウウウ。
「…こいつを殺せ」
◇
「ギルド…ギルド」
まだたどり着かないのか。
大分歩いたと思うんだが。
「はぁ…もう夕方か…」
木々の隙間から太陽が沈んでいく様子が見える。
神秘的だ。
「…もう寝るか」
周りの草を一瞬であつめ、自然のベッドを作る。
「汚いけど、まぁ無いよりは良いだろう」
俺は自然のベッドで寝た。
◇
「がーがー…っ…?寒っ…なんだ?」
真夜中。あまりの寒さに目が覚めた。
「…?っ!」
目の前から現れるのは、黒い影。
いや、違う。
「あぶねぇ」
地面から生えてくる黒い棘に刺されるところだった。
ぎりぎりジャンプして回避は間に合ったが。
「…?これは生き物なのか…」
地面の黒い棘がしゅるしゅると地上に浮き出てきて、黒い影と合体した。
すると、人型の全裸の男が現れた。
「…!?」
そいつは、空中にいる俺に対し攻撃を仕掛けてきた。
ただのげんこつ。
だが、どうだろう。
「がはっ」
地面にめり込んでいる。
ダメだ、息が出来ねぇ!
死ぬ…このままでは殺される…
どう切り抜ける?
ピンチピンチだ!
敵はどんな攻撃をしかけてきた?
単純に攻撃力が高いだけか?
「…っ!」
どんな野郎でも、俺の敵となるのなら叩き潰してやる。
「ッしゃぁっ!」
《超連打》
「っはぁっ、はぁっ」
周りの木々や大地が抉れ、吹き飛ぶ。
「…やった…か」
男は体中に穴が空き、明らかに俺の勝利だった。
のだが───
「──────!」
ぞろぞろと、大量の男が立ち上がった。
「なん…」
「お前は負ける…」
男は体中に穴が空いた状態で、俺に指を向けてきた。
いや、体の穴が…だんだんと再生していっている。
そして、男の傷はいつの間にか全てふさがっていた。
「…」
分裂、兼ねては再生…それに加え超攻撃力…厄介な相手だ。
だが、攻撃が当たらなければどうと言うことはないだろう。
「…いくぞっ!」
◇
───二週間後。
「…はぁっ、今日も飯はこいつらか」
俺は道を歩きながらそう呟いた。
こいつらとは、今殺した男たちのことである。
もちろん、男はそれでもまだ突っかかってくる。
四方八方から、分裂した男達が襲いかかる。
だが、その全てを、攻撃を仕掛ける前に殺しているので、攻撃が当たるはずもなかった。
「…っていうか、このままいくと森中お前らだらけになるんじゃない?」
「黙れ黙れ!お前は負ける運命にあるのだ!」
前にいる喋っている男を殺した。
まぁ、再生するが。
「…こいつは…」
後から声がする。
「…かてんのか?」
横の男が言った。
「無理だろうな。最初の内は良かったが、今じゃあもう半径一メートルにも入れていない…」
「ぐっ…」
「それに、殺そうと思えばお前らなんていつでも殺せるんだ…真の死を」
「何を!この分裂と再生の俺を殺せるのか!?あぁ!?」
「やってみるか」
「───は?」
男の右腕を消し飛ばした。
超高速の連打で。
「お前らのおかげで大分速く連打が撃てるようになったよ。ぷにぷにの時以来の成長かもな」
「…っ、どうせ再生するのだ…」
「…あっそう」
「…そうなの……?…あれ?何故だ……??」
「粉々にするついでに再生組織も破壊しておいた。分裂は最低一センチないとダメってのは分かってるからな。さて、じゃあいくぜ」
そして、四方八方からかかってくる分裂体を殺しまくった。
◇
────一週間後。
「お前が、俺の分裂体を殺した奴か?」
「…お前は?」
もう既に俺の周りにとりまく男は消えたはずだが。
「…男のオリジナル体だ…さて、俺を楽しませろ、人間」
「はい」
挨拶代わりに超連打(再生組織破壊)をかます。
そしてオリジナル体は吹っ飛んでいった。
だが…
「…お!」
オリジナル体は生きていた。
しかもほぼノーダメージ。
「…(ゾグッ)」
今の俺の《超連打》を受けてノーダメージって、相当強いな、こいつ。
「お前、強いな…名前はなんという?」
「俺?俺はアイチ。アイチ・ニシオカ」
「そうか…俺の名は、轟京介…さぁ、殺し合おう───っ!」
そして、俺達は拳を交あわせた。
両者の力は拮抗していた。故に、耐久にぶのある俺が勝った。
三時間後の事であった。
「ふぅっ、ふうっ…やっとか…」
「む、無念…」
どさっと轟京介が倒れた。
「こいつは強かった…はぁ」
俺は体中に空いた穴や切り傷を治すため、飯を食った。
更に運良く近くに水があったので、傷は大抵止血され、治った。
「寝よ」
久しぶりに爆睡した。
◇
「…ま、魔王様!」
「こうなったら、婆、俺が行く」
「し、しかし…」
「いや、いい!人間共にひいお爺ちゃんの復讐をしてやろうと思ったが…こいつを倒さなければ話にもならんようだな…」
「…復習…」
「婆…そっちの復習ではないぞ。それは学習の方だ…」
「あっ、失礼しました」
「…さて、勝てるかな…?」
◇
「本当にこっちであってるのかなぁ…」
太陽が上る方と逆って、普通おかしいよなぁ。
知人に聞いたのだけれど、間違っていたのだろうか。
「ゥッシャァ!」
「っ!ほっ、よっ!」
いきなり攻撃を仕掛けられる。
それは、ただの鳥だ。
しかし、だんだんと太陽が上る方と逆に進むにつれ、色んな生き物の凶暴性や強さが高まっている気がする。
ただの鳥でさえ、ビニャーに匹敵する強さになってきている。
魔物至っては全て上位悪魔並の強さだ。
こんなところの近くに冒険者ギルドなんてあるのだろうか。
いや、もしかしたら俺が弱すぎるだけで、冒険者からしたらこの程度の魔物は大した事ないのかも知れないが。
いや、待てよ…逆に俺が強すぎるんじゃね?
これ、俺TUEEEEEじゃね?
「…って、いったぁ!!!」
いつの間にか両足を植物に貫かれていた。
「っち!」
ここまで来るとなんでもありだな。
植物が攻撃だなんて。
「…なんだ?」
今度は視界が曇る。
「…?霧?」
すると、突然胸の奥から熱い何かがこみ上げてきた。
いや、これは何度も体験している…あれだ!
「ゴフッ」
口から血があふれだす。
「…っ!」
俺はすぐさま口を塞ぐ。
この霧は恐らく毒性がある。
故の吐血。
俺も様々な耐性は高めてきたつもりだったが…て言うか、全く俺TUEEEEEじゃないじゃないか。
普通に俺YOEEEEEじゃないか!
誰だ!俺TUEEEEEとか言った奴!
「俺、弱ー…」
霧を走り抜ける。
霧が晴れた。
「ふぅ~…」
すると今度は目の前に赤い瞳が大量に現れる。
「…今度は魔物か」
そして、戦った。
◇
──三日後。
「回復…しないと…」
舐めていた。ただの魔物が、あそこまでの力を持つだなんて。
「…はぁ、はぁ」
満身創痍、体中は傷だらけだ。
それもそう。
あいつらがここら一帯の魔物を全て呼び集めたせいで、大ダメージを負った。
一応は勝てたが、良い勝利ではない。
勝っても、死んでは意味が無い。
「…ふぅ、はぁ」
そこにあった丁度良い木にもたれかける。
「…危な…かった…ここらの魔物は…強い…いや、強すぎる…ふぅ」
何とか全て討伐しきった。
だが、この森の全容は知れない。
もっと強い魔物の区域があるのかも知れない。
「…おい」
「─────?」
木が、喋った?
いや、あり得るか。攻撃の意志を見せるくらいだし…
「…!」
その時、鳩尾に強烈な蹴りが入る。
その威力に、体が吹っ飛ぶ。
治りかけていた傷も開いた。
「がはっ」
血が飛び散る。
「満身創痍だなぁ?おい…」
目の前に現れるのは、いかにも強そうな服を着た男だった。
「…」
ダメだ、流石に逃げられない。
しかも今回は相手が悪すぎる。体の警鐘が鳴っている。
「…お前は?」
「俺か?俺は第七代目魔王、バーラエリサ。貴様を殺しにきた」
「…魔王直々にか?ぷぷっ、冗談は顔だけにしとけって!」
俺がまぁまぁ良い突っ込みをする。
だが、自称魔王は気にくわなかったようで───
「…殺す」
「…!」
バーラエリサの手刀による強烈な突きが腹にめり込み───いや、違う、このままだと…
「オらぁっ!」
「ゴブゥッ!」
腹が貫かれた。
「…全く、下らん──」
「ま、て…よ」
「…!?!?…その傷でまだ立ち上がれるのか?」
「フゥッ!」
力を入れれば腹から血が溢れだす。
だが、当たり前だ。
死んでしまうかもしれない。
だが、この相手は、死力を尽くさなければ、勝てない────
◇
それから先の記憶は無い。
気づけば俺は森で倒れていた。
「…水…水…」
ダメだ、水が欲しい。
だが動けん。
「あ~」
俺はここで死ぬのか。
良い人生だった。
さらば、ギルド…
ドボッドボッ
顔に水がかかった。
「?ゴクッゴクッアグッゴクッゴフッゴクッ」
必死にそれを飲み続ける。
「ふぅ、生き返った…」
「…ちなみにそれ、アタシのおしっこね」
「…は?」
目の前に女がいた。が、そのけたたましい角から見るに魔族だろう。
一定の知性をもった魔物、これを魔族と総称する。
「さて、アンタちょっとついてきなさい」
「は?おしっこって…」
「そんなの冗談に決まってるでしょ」
…いや、笑えねぇええええ!
「っていうか、ついていく?何故だ?」
「魔王様にあったでしょう?今のアンタなら勝てるかなって…」
「…なるほど…お前、魔王が嫌いなんだな」
「まーね」
そういう魔族もいるのか。
「っていうか、なんで(自称)魔王の場所を知ってるんだ?」
「…まぁ、色々あってね。さ、ここよ」
それは、大きな洞窟だった。
「魔王城なんて建てたら人間にすぐ見つかっちゃうからね…とは言え魔王様に勝てる人間なんて…いや、なんでもないわ」
「…この奥か…いや、近い…!!」
洞窟から、強そうな服を着た男が出て来る。
「…っ!!」
魔王が拳を突き出した。
が、躱す。
「…!?」
「…」
クイクイと、指で挑発する。
するとバーラエリサは憤り、高速で攻撃してくる。
「っ!何故あたらん!」
「体術じゃあ俺に分があるみたいだな」
「…!こうなれば…魔法を行使する…」
「お!?」
すると、上空から何かが轟音をたてて落ちてきた。
「隕石落下」
「────!!?」
こいつ、ここら一帯を更地にするつもりか!?
「フハハハ、魔力はもうそこをついたが!もう誰も助からん!無論、俺もだが!ハハハ!」
「っ!ふざけんな!手伝え…魔王!」
「…?何を言っている?」
「隕石を壊すのだ!」
「は?」
「俺は先に行ってる!」
だんっと地を蹴り、到達前の隕石に蹴りをかます。
「…!!?」
やはり隕石、伊達ではない。
全く押し返せる気がしない。
「っ、オラオラァ!《超連打・改》」
様々な敵と戦うことで、速度威力ともに超上昇し、さらにもっとも良い順序で繰り返す、隙の無いノーリキャスト攻撃!
「ッハァァァァァ!!」
しかし、それでも全く止まる気配がない。
「…」
地上が見えてきた。
もうダメかも。
あと数秒ってとこか。
「しょうがない、手伝うぞ」
「…バーラエリサ!?」
「こうなれば、一点に攻撃を集中させるしかないぞ!」
「おう!」
「「はっ!」」
俺達の拳が一点にめり込む。
「《超連打》!」
「魔王の一撃!」
ガガガガガカと俺が隕石を削っていき、そこにバーラエリサの強大な一撃が入った。
「っ!?」
バキバキバキっ!
隕石の威力が弱まり、隕石は破壊された。
「逃げるぞっ!」
「えっ?」
バーラエリサの首根っこをつかみ、隕石から離れる。
「な───」
隕石から離れた瞬間、爆発音とともに爆風で吹き飛ばされる。
「うぅっ…ふぅ、耐えたか…」
「隕石が空中で爆発したのか…破片が降ってこないのか?」
「その程度の破片は俺だけでも砕ける」
「なるほどな…やってみなければわからんものだ…この勝負、お前の勝ちだ。誇れ…ところでお前、名は?」
「アイチ・ニシオカ。って、あの女の子は?」
「女の子?セレニィのことか」
「ここにおりますよ…ほほ」
そこには白髪の生えた腰の曲がった婆さんがいた。
「…えっ…あなたが?…でもさっきは若かったですよね?えっ?」
「あれは、若返りの術です。まぁ、一日しか若返れないし、それから一週間はまともな魔法がつかえなくなりますがのう」
「…じゃあ何故使った…?」
「それはお前様をおびき寄せるため…わしの若い頃は美しかったじゃろう?」
「…う、ま、まぁ」
「ほほっ」
「セレニィ…弄るのはそれくらいにしろ」
「はい」
セレニィ婆さんがしゅんとした。
バーラエリサすげえ。
「…さて、ニシオカ、少し我が家で休んでいかないか?」
「…まぁ、折角なら」
どんな場所か気になるし。
「では、行こうか!フハハハ…」
急にテンション高っ。
◇
洞窟の中は、案外良かった。
洞窟とは思えない広さ。
居心地の良さ。
誰かが住んでいるという感じが伝わってきて、非常に良い。
「…あー。眠たい…少し眠っていっていい?」
「あぁ。もちろん。それに、俺はお前を襲ったりはせんから、安心して眠れ」
「おう」
…ソファの上で眠った。
何者にも邪魔されず安心して眠れるというのは、久しかった。
◇
そして、なんやかんや楽しんでいたら、バーラエリサの家で一週間近く過ごしてしまった。
「そろそろ、ギルドに向かわなくちゃいけない」
「…ん?出立をするのか。それもまた良いだろう…しかし、ギルド?」
パジャマ姿のバーラエリサは、俺に尋ねてきた。
丁度今から寝ようとしていた時だ。
タイミングが悪かったかな。
「うん。まぁ、そのギルドへの近道をするためにこの森に入った訳だけど。明日には出て行こうと思う」
「……………ギルド…?」
「…うん?」
「…ニシオカ、お前、どっちに向かっている?」
「…太陽の上る方と反対に…」
「…ニシオカ。お前、進んでる方、逆だぞ」
「…ん」
何か聞こえたと思ったが、勘違いか?
「…進行方向が、ぎゃ──」
「分かった。分かったよ…」
「に、ニシオカ…まぁ、そうおちこむな。だが、このままいけばその先は海しかないぞ」
「…そ、そうなんだー」
だから洞窟があるのかね。
「さてと、最後にこの家の住み心地を聞かせてくれ」
バーラエリサはベッドにだいぶすると、そう言ってきた。
「…アットホーム感があって良い」
「ふふ、それは良いな…なぁ、ニシオカ」
「んぁ?」
「いつでもここに戻ってこいよ。待ってるからな」
「…おう」
俺達は、眠りについた。
◇
翌朝。
「では、気をつけていくのじゃぞ…持ち物は本当にそれだけで良いか?共通貨幣と…それに地図…あとは少しの食料と水…それに…」
「分かってるって、セレニィ婆さんは心配性だなぁ」
「そうだぞ、セレニィ。俺に勝ち、さらには俺の唯一無二の友なのだからな!ハハハ!では、行ってこい!」
「いってきます!」
俺は勢いよく返事をして、バーラエリサの家を飛び出ていった。
「…セレニィ…」
「なんですか?」
「…寂しくなるなぁ」
「…そうですのう…」
◇
行って来た道を帰るだけだ。
何も感じない。
そう、骨折り損など思っていない。
「…シャッ」
大抵の魔物は俺が顔を出すと逃げていくようになった。
俺が強くなったからだろうか。
しかし、弱すぎるとその本能が警鐘を鳴らさないようで、逆に鳥などは狩りやすい、
「さてと、あと少しで折り返し地点だ」
地図を見ながらつぶやく。
「…さぁ、走るぞ…」
◇
大分走った。
丸二日間は走った。
「…大分来たな…」
最初、上陸したところらへんまで来たな。
というか、俺まだ上陸してから誰とも会ってないな。
「…さてと、疲れたし歩いて行くか…」
そうして歩き出した時だった。
目の前に黒い巨大が出現する。
「…俺の名前はオニャー。猫と鼠のキメラだ。ここで俺と出会ったことを呪え、人間!そして死ね!」
オニャーの振ってくる爪を、別に受け止める必要もないし、躱す必要もないので、正面から受け止める。
「にゃ?」
ガンッとまるで鋼鉄に当たったような音がした。
「…俺の体も大分頑丈になったな…」
「…は?…は?」
「さてと、お前不味いしなぁ…死にますかい?」
軽く殺気を漏らす。
「ヒギッ!オニャァァァ!!」
「やっぱ、オニャーなんだ鳴き声…あいつ面白いな」
面白い生き物がいるなー、と思いつつ、俺は森を歩いて行く内に随分強くなったんだな、というのを自覚した。
「あと少しのはず…」
◇
───三日後。
「みっけた」
やっとこの思いで、ようやく発見した。
ギルドっていうより、多分国。
大きい城門がある。
「…通りたぁ~い」
「何者だぁ!?検問所に通せ!というか汚っ」
検査される。
身体検査、身分、その他もろもろ。
あと、身分証とか作って貰ったり、戸籍のどうたらこうたら。
検査してくれた人が運良く凄く親切で、そう言うのを作ってくれた。
バーラエリサがくれた共通貨幣は、大体100000円位の価値があるらしい。
が、それがもう50000円まで減ってしまった。
「…はぁ」
国の中に入ると、凄い目で見られた。
通りかかる様々な人に見られる。
「…うぅ」
服はボロボロ。体臭は匂うし、格好はスラムの大人って感じか。
「…人に聞くにしてもなぁ」
ギルドの場所を聞くにしても、この状態では誰にも相手をしてくれないんだよね。
その分魔族は体臭がしようが、見た目が醜かろうが、割と受け入れてくれるから良いよなぁ。
「…んん?」
しかし、奇跡は舞い降りる。
「…まさか、あれは」
いや、野生で鍛えた視力が言っている。
あそこには、看板に《冒険者ギルド》と書いてある。
「あ、アレだぁ!」
見つけた。
やっとの思いで見つけた。
いや、見つけるのにここまで手間取ったの世界で俺だけなんじゃないか!?
「やった…」
勝った…
勝ったぞ…
「…ギルドに入ろう~」
俺はウキウキ気分で冒険者ギルドへと入った。
───────────────
作者コメント。 いや、文字数多っ
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