ミッション

こんぶ

文字の大きさ
5 / 28

反応不足

しおりを挟む
「ッ!」

油断したッ。
もう一匹いたのを失念していた。

「ッッッぁあ!痛ッッッッてぇ!」

痛え!痛ええええ!!


「ハァッハァッ、オェェエ」


あまりの痛さと出血で、視界が目まぐるしくぐるぐると回り、吐いてしまう。

「グッフゥ…なんで…俺が…ごんなっ!」

涙と鼻水と涎を垂れ流して俺は吐き捨てるようにそう言った。

「う”ぅ”っ」

どうしよう。
裂かれた腹の辺りから何かが出て来ている。

「ハァッハァッっ??クソッ」

あまりの痛さで、銃をどこかに手放してしまったらしい。最悪だ。

そしてさらに最悪なことに、目の前には鶏と象とナメクジを合わせたキメラのような生物が、自分の体から出た臓物を気にせず、ヌルヌルと俺の方へ来た。

心なしか、鶏の顔が笑っているようにも見えた。


…俺は…死ぬのか…ここで?

あの爺さんみたいに?

体をぐちゃぐちゃにされ、頭から脳髄をぶちかまし、体中の至る所から血を噴出させ、腹に大きな穴を開けられ、食べられる。

そんな風になるのか?

「…ぃ…だ…」

ーいやだ!


こんな所でそんな死に方してたまるかよ。

生き残ってやる。

ぜってぇ、死なねぇ。

俺は…生き残ってやる!

現実で生きられないのなら、この地獄みてぇな所で生き残ってやる!

そうだ。


「新井、金貸せや」


「新井、サンドバッグになってくんねぇ?」



「ごめん!新井クンっ、君が次のイジメられっこだよ☆」



あそことは、また違う地獄だな。

ここは。

けど、一方的に理不尽にやられるわけではない。

あくまでも地力。

あくまでも平等。

そうだ。ここが…

俺の、生きる場所!

「かかってこいよ、化け物」


今までの知識を総動員させ、どうしたら生き残れるのか、考える。

銃…

そう、銃さえあればなんとかなるこの状況。

だが銃は、こいつの奥に落ちている。

拾うためには、こいつをどうにかしなければいけない。

後ろは崖。

前にはこいつ。

どうやって切り抜けたものか…


「フゥッフゥッ」


単純にすり抜けて通れる隙間が無い。

ならば、肉弾戦でこいつをどうにかして、その隙に、銃をとる。

それしかあるまい。

だが、こいつと直接戦闘して俺は勝てるのか?

自分よりも数倍はあろう肉体だぞ。

けど、或いは。

俺の中には、少し予感があった。

銃があそこまで特殊ならば、手袋や腕輪の力も相当に特殊ではないのか?

腕輪の力は恐らく状況の報告と言ったところだろう。

ならば、手袋は?

恐らくー

「ッ!?」


鶏が、その頭を思いっきり振り下ろしてくる。


そしてそれを紙一重でなんとか避ける。


「ハァッ!ハァッ!」


危なかった。


「ゴケェ!」


ボコンとその突き刺さった地面から頭を引き抜く鶏。

地面に深く刺さっていたことから、相当な威力であろうことが窺える。


「ッハ!」


そしてまた、その頭を振り下ろす鶏。


駄目だ。


今度は避けきれない。
ならばー


「ゴェ?」


パシン!と、俺は鶏の頭をつかんでいた。


「やっぱりな」


この手袋の力は恐らく、身体能力強化。

でなければ、こいつの振り下ろしは受け止める事など出来ずに、腕ごと体を貫通されていただろう。

そうして俺が鶏をどかそうとした時ー

にょ~ん、と鶏の首が伸びた。

「ハッ?」


何だか分からないが、嫌な予感がする。

鶏は、その伸びた頭をー


「っ!」


ブンッ!と、横薙ぎに振るったのだ。

この体は、恐らく視力や聴力も良くなっているのだろうが、その強化された動体視力でさえ、殆ど捉えることが出来なかった。

「フゥッ」


落ち着け。
落ち着いて対処するんだ。

俺はゆっくりと拳を構える。

この強化された肉体ならば、何とかこいつを動かせるはず。

そう思い、体に力を入れ始めた頃ー

ーキィィィと、高音を出しながら手袋から黒い線が出てくる。
それは、すぅ、となんの障害もなく、俺の腹に入っていった。

すると、俺の腹の辺りからキュルキュルと、青白い、丸い光の跡がつく。

「っぉ!?」

な…なんだ?

…いや、今は気にしている場合ではない。目の前の事に集中しなければ。

「フゥッ、フゥッ」

「ゴェェ」

「いくぞッ」

まずはブンと腕を振るう、が、こいつは想像以上の速さで避ける。

次に打ち上げるようにアッパーをするが、また避けられる。

それに反撃するように、鶏は頭を振り下ろしてくる。

「ッ」

ギリギリでそれに反応し、なんとか躱す。

「ハッ」

地面に頭が刺さっている今がチャンスだと思い、蹴り上げようとするがー

ボコンと目玉が出て来て、避けられる。

体も顔のような役割をはたすのか。こいつ。

そして、また地面から頭を引き抜いた鶏は、超高速で再び頭を振り下ろす。

けど、もう流石に慣れてきて、それを見切る事が出来た。
見える!


「フッ!」

パシンと両手で鶏の頭をガッチリ押さえる。
そうすると首を伸ばすことは知っている。
ので、首を伸ばそうとした瞬間にー


「フゥッ!」


全体重をかけて、アッパーを象の体にくらわす。

「ギギェェゴェオポォォン」


すると、黄色っぽい吐瀉物をまき散らしながら、こいつは吹っ飛んでいく。

途轍もない声を上げて。


よし!今だっ。銃をとるぞ!


今まであいつが邪魔で取れなかった銃を取る。

『ピピッ。残り三十分』


時間は大丈夫だな。

あとはー


ヒュゥゥウー、とあいつが空から落ちてくる。

そして、地面に着地する瞬間にー

「アァアァッ!!」


銃を乱射する。


カチッカチッカチッカチッカチッカチッ



ドゥォン!ドゥォン!ドゥォン!ドゥォン!ドゥォン!ドゥォン!


辺り一帯の木々が無くなり、更地のようになってしまう。

ここまでの自然破壊もなかなかないだろう。

「ハァッハアッ」


どうなったのだろう?土煙が舞ってよく見えないがー

「お」





そこには、バラバラに飛び散った肉片だけがあった。


それを見た途端、腕輪から音声が流れる。

『勝利。生還権六日分を取得。帰還』


「おっ?」


その瞬間、視界が暗転し、ブツンと俺の意識は途切れた。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

処理中です...