ミッション

こんぶ

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ロシア編

喜びの… 前編

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「ッぅわああああ!!!」

城の方からー飛んで来た!

「くっ!」

キューピットは幼き体を持っていて、背中に翼を生やし、それをバサバサと羽ばたかせながら、どんどん近づいてくる。

キューピットの右手にはガッチリ握られた弓があった。

『アッハハハハハハ!!!』

キューピットが高らかに笑う。


よく体を見てみると、生殖器が無いように見える。

顔は童女と言ったところだが、それが笑う事によって酷く歪んで見えてしまう。

それは、生理的に人に受け付けない様な見た目であった。

すかさず、銃を構える。

「フゥッ!」


カチッ




ドゥオン!

「ピィッッ!!」


キューピット体、その左半身を打ち抜く。

キューピットの左半身がまるまる無くなり、とても苦しそうな表情をするキューピット。

「うっ…」

しかも、キューピットの体からは血肉が溢れ出ていた。

こいつもちゃんと生きているんだ。


そういえばまだこいつは人に害のあることを何もしていないのに…

「あんた!何してんのよ!」

「ッ!」

確かにそうだ。

こいつはただ飛んで来ただけなのに。

「キューキュー!!!」


苦しそうな声を上げるキューピット。


「大丈夫?」


一人の女学生が心配して近づくがー

「ピェェエエエエエエ!!」


途轍もない声を上げるキューピット。しかもその右手に持つ弓をつがえて、

「へ?」

シュンと矢が放たれる。

その女学生はグサリと顔面を大きな矢で貫かれ、バタリと倒れる。

「キャアアアア!!」

女学生の友人が叫ぶ。

「くっ…そ!」


銃を撃つ。

白い光が銃から出て、ドゥオン!と言う音とともに、不可視の真空攻撃がキューピットを襲う。

「ィイ!」

キューピットは右半身までぐちゃぐちゃに散らばった。

「ハァハァ」

これで終わりか…?

「ッ…おいおい…」

宮殿の方から大量のキューピットが飛んでくる。

…ぱっと見、100は下らないぞ…

しかもその奥に一体だけ大きい天使っぽい奴がいるし…

「フゥッフゥッ」

だが諦めてはいけない。

立ち向かわなければ、やられるだけだ。

「みんなぁ!手袋をつけろぉ!生き残りたかったら、自分の道具を使って何とかしろ!」

俺が大声でそう言う。

「殲滅させるぞぉ!!」

流石にこの空気感。リアリティ。

皆は俺を信じ、手袋をつけ、自分の道具を構える。

「こうでいいの?」

金髪姉ちゃんは俺に問いかけてくる。

それは両手に着ける武器なのだろう、両腕に装着してある。

先は鋭く尖り、回転が出来るようだ。

「ドリルか?」

「みたい…」

真っ黒なそのドリルは手の上に乗っている。

「手袋ってこれでいいの?」

「あぁ!」

近くの学生が俺に言ってくる。

「痛ッ」

黒い線が体内に入っていく。

「最初は痛いが慣れると何も感じないから安心しろ」

学生と金髪姉ちゃんは無言で頷く。

「さぁ、武器を構えろ」

学生四人と金髪姉ちゃん、それとオッサンが一人、それぞれ自分の武装を構える。

「ねぇ!ちょっと!アタシのはなんか攻撃用じゃないみたいなんだけど」

「?どんなだ?」

「なんか…透明になれるみたい。」

そう言ってその女学生は、着けた腹巻きのようなもののボタンをカチッと押す。

すると、スゥゥウと消えて見えなくなる。
まるで存在が消えたかのようだ。

「分かッた。それを使って君は敵状視察をしてきてくれ」

「了解」

その女学生は恐らくもう宮殿の方に向かったのだろう。

「そこの金髪二人は、その女の子を守ってやれ!」

「えっ…あっ、はい」

金髪二人が女の子を庇うように武器を構えた。

「行くぞっ!」

「「おうっ」」

そうして、俺たちはキューピットの大軍に立ち向かった。

ーーー。

ドゥオン!
ドゥオン!
ドゥオン!

「どんぐらい減ったぁ?」

「全然!」

金髪姉ちゃんがドリルでキューピットの顔を抉りながら言った。

「そうか!」

しかし、庭中にキューピットが飛び交うというのは見ていて気分の良いものではないな。

ドゥオン!

べちゃっ、とキューピットの肉が飛び散る。

何回目だろうか?もう数十体は倒したと思うが。

「ハァッ!ハァッ!キリがないぞ!少年!」

オッサンが、俺にそう言う。

「大丈夫ですッ、時間内にやり切れば!」

『ピピッー残り五十分』

「そうか、それは良かっー」

その瞬間、オッサンの両足が吹っ飛ぶ。

「ーーは?」

なん…だ?


オッサンは手袋を着けていたぞ。なのに…一体誰が…

「ッッッイッッッてぇえええええええ!!あああああ!」

「くっ」

急いで止血しないと。

ていうか止血したとしても助かるのか?

いや、そんな事は考えるな。


「大丈夫か?オッサン!」

俺はすぐさま駆けつけ、止血する。

だが一時的なもの。

このミッションが終わるまで生き残れるのか…

と、そう考えていると、オッサンが何かを言っていた。

唇をぶるぶる震わせて何か言っている。

「…?」

「…死にたく…ねぇ」

「ッ」

そりゃあそうだよな。

はやく、この傷をつけた張本人を見つけないと…

「ォオオジュポホォォコォェエエビェン」

「なッ」

なんだ、この声。

あのキメラを彷彿とさせるような…

と、思っていると目の前に一体だけキューピットとは全く違う特殊な奴が飛んでいる。

コイツが…親玉か…

「おぇぇぇん!」

そいつは能面のような顔をした、銅像見たいな奴だった。

こいつ、生きてんのか…?

両手には長い剣を持っている…とても鋭利そうだ。

恐らくこれによってオッサンは足を切断されたと思われる。

故に一番警戒するのはコイツだな。

コイツが今回のボスか…

「待ってくれ!日本人!」

「ん?」

「そいつは俺らにやらしてくんねぇか?」

「いいが」

「ありがとう!」

「よっしゃ!ジュスティーヌなら行けるぞ!」

学生三人が俺の前に出る。

…?

もしかして、こいつら。

怖くないのか?

この銅像天使みたいな奴が。

俺は震えが止まらないほど怖いのに。

…ん?というか、今一人学生が視察に行ってて、もう一人は死んじゃったから…あれ?一人増えてる!?

「と、とりあえずそいつは任せた。俺はキューピットをやっておく」

俺は他のキューピット達を撃ち抜き始めた。




カチッ


ドゥオン!



カチッ


ドゥオン!


カチッ


ドゥオン!


カチッカチッカチッ



ドゥオン!ドゥオン!ドゥオン!


「ふぅふぅ…」

しかし本当にキリが無いな。


「あッ」


そう言えばまだ、この謎のボタンを押してない。


押してみよう。


カチッ




「っ!?」


ボタンを押した瞬間、パッと青く光ったと思うと光が沈まり、前の象牙のような部分が本体の上部っていうの?に、ガシャンと合体する。

また二つの持ち手も本体にガシャンとひっくり返るようにくっつく。

そして、くっついた部分がキィィィンと白く光る。

また、真ん中のモーター?がクルクルクルと回りだし、高音を出す。


「っおお」


かっこいい…


「じゃあ撃って見るか」


なるべく集団を撃ってその効果を確かめる…

「いけっ!」


十体位の集団を狙い、撃つ。


カチッ




バァゥン!





「!?」



十体近くいたキューピットは両脇から何らかの圧力を受けた様に、圧死した。

超圧力を左右から一気にぶつけるのか。

超強いな…


そうか。これが、


「強化ってそういう感じか」


ボタンの意義も少し分かりかけて来た。



___________________


「全く。この程度の雑魚にわたくしを使わないでほしいわね。」

「ごめん、ジュスティーヌ~」

「はぁ、全くですわ」

金髪碧眼の少女、ジュスティーヌ。

彼女は超秀才である。

ここで特筆すべきは、秀才と言う点だろう。


彼女はこと努力するという事にかけては才能がある。

要するに、努力する才能があるのだ。

時に一定の領域を超えた努力は才能を凌駕する。

新井がジュスティーヌに気づけなかったのは気配を殺すことを練習したからだ。

「貴方も残念ねぇ、わたくしが相手をするなんて」

能面銅像天使にジュスティーヌは語りかける。

ジュスティーヌは、手袋をギュッギュッとはめ直しながら言うのであった。

「ぶっ殺してあげる」

ジュスティーヌはニィと笑う。


ー数分後ー


「イャァァアアア!!!助けてぇぇ!!」

そこにはさっきまでの様な余裕は無く、みっともなく走るジュスティーヌの姿があった。

ジュスティーヌ以外の二人は、当たり前のように殺されていた。

___________________

「よし!やっと全部片付いたな」

「ハァハァ、そうね」

金髪姉ちゃんが言う。

「ところで貴方、名前は?」

「新井 香龍…そっちは?」

「私はアンネよ、よろしくね」

「あ、ああ」

初の外人の知り合い。なんか感激。

「…んん?」

何か遠くから誰かが走ってくる…

ん、泣きながら何か叫んでいる様だが…

「ッげ!?」

あの親玉生きてたのか?

と言うか学生が失敗したのか。

まぁいい。この銃の限界もしれるだろうし。

「よしッ…」

いくかーと、俺は駆けだす。

そして銃の本体のボタンを押す。

カチッ

シュコン

ガチッガチッガチッ

キィィィン

変形。

ちなみにモニターに変化はない。

銃をあの能面銅像天使に向ける。

「いく…のは無理か…まだあの女の子が範囲内だ…」

待つんだ…

「ちょっとぉ!何やってんのよ!ー速くハァッ撃ちなさっハァッいよっ」

まだ範囲内だ。まだ。

「ハッ、ハッ。はやっ、く。もう、追いつか、れ」

まだーまだだ。

「ちゃっ!あっ、ハァッ!ウワッ!」

女学生が追いつかれそうになった瞬間ー

今だ!ーーー


カチッ














バァゥン!










「?」


ぺしゃん、と銅像は気付く間もなく圧死した。

不可視の超圧力。相手を挟むように展開できる。

「フゥーフゥーッ」

なんとか…勝てたか…いやー。

今回はキツかったな…

と、ホッとした。

「ねぇ、アライ」

「何?アンネ」

「宮殿から誰か出てくる…」

「!?」

まだ敵がいるのか?

「いや、あれ、あの透明になれる女の子じゃないか!」

だが、よく見てみるとー

「なんっっだあれ?」

透明になれた女の子は、左足が千切れて無く、腹に巨大な穴をあけ、顔に大量の裂傷をおい、片足だけで、まるで生きている事が嘘の様にこちらに来た。

「な、何があった!?」

「ブブッ、化け…化け…物…が…き……しが」

口から大量に血を吐き、まともに喋れてない。

だが最後の台詞はしっかりと聞けた。


「あぁ、嫌だよ…お母さん…あたし、死にたく…ない。嫌だよ…嫌…こんな…死に…方…」

滂沱の涙を流しながら彼女は死んでいった。

満身創痍という次元の話ではない。

よくこんな状態で生きていたものだ。

そして、更に言えば、透明化していたこの子を見破り、手袋をしているにもかかわらずここまでの状態にした奴がいるということだ。

恐らく、そいつが真のー

「ねぇ!何か出て来たよ」

また宮殿から何か出て来る。

「……騎士?」

それは赤い血を体にべったりと浴びた騎士であった。

こいつがーこの子をこんな風にした張本人…

こいつがー真のボスかよ。







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