ミッション

こんぶ

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ロシア編

喜びの… 後編

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ガシャンガシャンと騎士は動く。

 そいつは体を大きく反らせた。

「なんだ?」

皆が訝しげに見ていると…

『あああああああああぁあぁあ!!!!!』

という馬鹿でかい声を放つ。

「ッ~」

なんつー声を出すんだ。

しかし、このボスを倒すまで帰ることは出来ないだろう。

『ピピッー残り十分』

嘘だろ…

あと十分…?

「アンネ…協力してくれるか…?」

「ええ」

「二人で力を合わせないとどうにもならない敵だ。頼むぞ」

「分かっているわ!」

俺とアンネは震える足を無理やり勇気づける。

ーよし。

モニターに十字の記号が出て来て騎士を捉える。

これは、ロックオン機能か!

一気に戦いやすくなった、と思った。

「いくぜっ」

まずは先行。


カチッ


バァゥン!


シュバン!


「ッッ!?」

躱された!?

あの速度だぞ!?

しかも不可視で広範囲なのに…

「アライ!」

そして騎士は、俺の目の前にいた。

「はっ」

反応する暇も無く、ー銃が斬られた。

「へ?」

しかし、呆けている暇はない。

コイツのスピードは異常すぎる。

つまり、チャンスは今だ!

「アンネっ!」

アンネと俺が超高速で殴りかかるがー

スカッ

スカッと躱される。

「うっそだろぉ」

そして逆にその隙を突かれーシュバン!と、俺の胸と足が斬られた。

「ぐあっっ!」

ーー痛っってえぇぇえ!!

しかもコイツ、次はアンネの方に向いている。

「逃げろっアンネ!」

「ッッ!?」

アンネは駆けだす。

そう、それでいい。

これで俺は、ゆっくり逝けるー

「何終わったって表情してんのよ?わたくしのこと忘れないで下さる?」

「ふっ、その口調って作ってたのな」

あぁ、くそ。諦めがやっぱつかねぇな。

童貞のまま死ぬとかあり得ねぇし。

「さぁ、いくわよ」

すっ、と女学生に手を伸ばされる。

「あぁ」

その手をパシンと取った瞬間だった。

『ピピッー残り五分』

ーマジかよ

しかも最悪な事にアンネは今一人で逃げ回っているのだ。

くそっ。

「助けるぞ」

___________________

私は何をしているんだろう。

走っている事は分かっている。

「ハァハァ」

でも何でこんな事になってしまったのか…起こった過去は引き戻せない。

私はただの女性Aでしか無かったのに…

「ハァッハァッ」

生き残る為、必死に逃げる。

生きるために走るのだ。

「ハァーッハァーッ」

「?」

「やっと追いついた」

それは先程の女学生だった。

「えっ?」

「ほら、もっと走って、走って」

「え、あ、うん」

私は更に速く走る。

「あのー」

既に後ろには誰もいなかった。

「え?」

どういうこと?

もしかして、身代わりになってくれたの?

「ッ~」

生まれてこの方、こんな経験をしたのは初めてだった。

アンネー二十三歳

恥を捨て、走る。

走り続けるーが。

「あぁうがぁああぁ!」

目の前に騎士はいた。

「なんッ」

なんて速さ。

どんな速度があれば先回りなんて出来るんだろうか。

だけど、もう既にここにいると言うことは、あの女学生は…きっと…

私の為に…

そう考えていると、騎士は、持っている剣を振りかざし、振り下ろす。

その動作は非常に美しく、歴戦の戦士であることが分かる。

ただし、攻撃を受けなければそう感じるだけだが。

シュバン!と剣が振り下ろされ、ざくりと何かが斬れる。

何が斬れたのだろうか。

いや、単純だ。

私の左腕だった。

左腕…

左腕が…ないー!

「ッアアアアアアアアアアアア!」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

恐怖、喪失感、痛みが頭の中をループする。

歯は震えてガチガチと音をたてる。

左腕の出血は滝の様に止まらない。

だけど止血するなんて考えは頭がいっぱいで考えることすら出来ない。

「ぃ…ゃ」

死にたくない。

あまりの恐怖に失禁するが、気にしている余裕は全くなかった。

「イヤァ!」

___________________

「ほら、もっと走って、走って」

「え、あ、うん」

そう言うとその女性は走り去っていった。

(正直なところを言いますとわたくし、もう体力の限界ですの。)

(しかし、わたくしが人助けだなんて、温くなったものですわ。)

(少し自分に惚れますわ~)

ーその時だった。

「ぶばぁああ!」

「っ!?来ましたわね。化け物」

目の前に返り血を大量に浴びた騎士がいた。

その兜の奥は無限の闇が続いている様であった。

「かかってきなさい!」

そう己を鼓舞させるジュリアンヌだがー

「あれ?」

自分の両腕が無いことに気づく。

「あっ、あれ?」

切り口から、ドバドバッと血が流れ出る。

そして騎士は、持っている剣でジュリアンヌの胸を貫いた。

「かっーはぁ」

(胸の辺りがじんわりしますわね…)

「あっ、かっ」

(息が…出来ませんわっ…苦しいっ!)

「カッカッカッハックゥ」

魚の様に口をパクパクさせるだけとなるジュリアンヌ。

(もしかしてわたくし、もう負けていふのかしら…ふふっ)

「ーーーー」

ジュリアンヌは倒れた。

___________________


「そこをぉ!どけぇ!」

俺は振りかざした右腕を全力で振り切る。

走ってきた威力と全体重を乗せた拳はなんとか騎士に当たり、騎士は吹っ飛んでいった。

俺はすかさず、近くの石版を投げつける。

「空中でも避けて見やがれ!」

当たれッ!

ブンッ!

シュバン!


「ッそぉ!」

騎士は避けていた。なんと空中で避けたのだ。そんなこと、生物に可能なのか?コイツは飛行出来るのか?そんな事はないだろう?

なら何故避けれるんだ…

それはもう生物の領域を超えている。

「くっ」

ならもう、肉弾戦で気を引いている時に、アンネのドリルで攻撃してもらうしかないだろう。

「アンネっ!指示したら穿て!」

「ッーー?」

ちっ。失血が多すぎるのと錯乱していて、理性が保ててないな。

「立てっ…アンネ!死ぬぞっ!」

全力で叫ぶ。

「指示したら穿てよ」

そう言って、ポンと肩に手を置いた。


「ッ!?」


アンネはまるで初めて気付いたようにこちらを振り向く。

「えっ、あっ、はい」

生返事だなぁ。

まぁいいか。



何故なら目の前には、


「フゥ」



すーっ、と騎士は非常に綺麗な佇まいで歩いて向かってくる。

こちらも同じように立ち向かい、歩いていく。

両者の距離が縮まる。

どちらも悠々たる姿勢で歩く。

ーが、俺の足の震えは止まらなかった。

怖くない訳が無い。

もしかして、或いは一秒後、俺は死んでいるのかもしれないのだ。

全ての集中力を今ここにかける。

「フゥフゥ」


どういう風に出てくるんだ?

「ハッハッ」


ドクンドクンドクン

心音がとんでもない事になっている。

息が詰まって、荒くなる。

そして、騎士は歩くのをやめ、静かに直立した。

瞬間だった。


「ッ!?」

まず最初に仕掛けたのは騎士の方だった。

その刃渡りが相当長い剣を、ぶんと横薙ぎしてくる。

途轍もない速度ではあるが、手袋によって強化された身体能力があれば、ギリギリとは言え、かろうじて躱すことができた。

そこから騎士は、反対に横薙ぎをする。

「っ!」

さっきよりも、心なしか速い気がする。

「ハァッハァッ」

次に騎士は、剣を大きく振りかざし振って下ろす。

それもまたスレスレで躱すー

するとー

「ッッ!?」


ブンブンブンブンブンブンブン

と、休み無く剣を何度も何度も振り下ろす騎士。

素振りにしたら、秒間百回近く振り下ろす位の速さ。

「っ、ぅーっーーゎー!」

全てをギリギリで、変なポーズをとりながら躱す。

その時だー

「おんらぁ!」

アンネがドリルで後ろから騎士を穿つ。

「っ、しゃぁ!」

ナイスタイミング!

かに思えたがー

「!」

騎士は残像を残す速度で移動して、アンネの目の前にいた。

騎士がアンネを突き上げようと剣を後ろに下げてー









今だ!


ガシン!と、騎士が剣を持つ方に両手足を絡みつける。

「?」

騎士は訝しげに俺を見る。

そりゃあ分からないよな。

これはー










ー極め技だ!


「ハァァアア!!」


超強化された身体で騎士の腕を折るために、思いっきり力を込める。

だが、ググッ、と騎士は耐える。

これに耐えるのか?

なんて身体の強度だ…

そして、騎士は絡まれた腕を鬱陶しそうにバンバンバンと何度も何度も地面に俺を叩き付ける。

「ぐっーはっーあっーかっー」

一回一回が超級の破壊。

地面にクレーターが出来上がる。

それでも、離さない。


「ッーぁあああああ!」

大声を出し、闘志を奮い立たせる。

更に力を込める。

「やめーっろぉ!」

アンネが騎士を殴りにかかる。

が、当たり前のように躱される。

しかし、このチャンスが欲しかった。

自分からこんなに腕をピンピンに伸ばすなんてな。

「ハァッ!」


「!!?」


バキン!と、騎士の腕から嫌な音がした。

騎士が動揺する。

その隙をみて、俺は騎士の剣を奪い取った。

そしてー

ブンッ!

と剣を思いっきりどこかへ飛ばす。


「生憎剣の使い方は知らなくてね」

柔道なら少し分かるけど。


『アァア!!』

腕を折られて怒ったのか、超速度で突っ込んでくる騎士。

だが使えるのは左腕のみ。

ならばやりようがあるってものだろう?




「フゥッ!」


飛びついてきた左腕、それを右手で受け止め、空いた騎士の体を左腕で思いっきり殴る。

『ッッグァ!!』


俺の右手を振り払い、再三飛びついてくる騎士、その左腕の脇に、俺の左腕をがっちりはめ込む。

「オッラァ!」


そう言って、俺はぐるんと回り、地面に思いっきり叩き付ける。


一本背負い。

ベコッと、地面にーめり込む。


「よしっ」

このチャンスが欲しかった。

機動力の鬼のようなお前の、動けない、というチャンスが。

俺は騎士を押さえつける。

「アンネェ!」

「避けれるなら、避けてみなさいよっ!!!」


ドゴン!とその腕についているドリルで騎士の心臓部を穿つ。

「ハッハッハッハッ!!」

何度も何度も何度もアンネはドリルで騎士の体を穿つ。

そうしてー

「ハァッハァッハァッ」

騎士の下半身がなくなった。


時だった。

『アァアア!』

騎士は、必死の抵抗でアンネを押し飛ばす。

逆に下半身が無くなってもここまでの力が発揮出来ることに驚きを隠せない。

だがーこの戦いももう終わりだ。


「あとは…俺がっ」

俺は騎士の上半身を蹴り上げる。

騎士は宙に舞い上がる。

もう流石に動けまい。

それにー

「鎧っていうのは、地面に衝撃を受け流しているから成立しているらしいな。つまりー空中には衝撃の逃げ場がないってことだ」

つまりは、こういうこと。


「くっーらえ!」

空中から降ってきた騎士を肘で突き、べこりと鎧がへこむ。

そこに集中的に何度も殴打をくらわせる。

刹那にも満たない時間で、数十回殴った。

「終わりッだ!」

そして、思いっきり殴り飛ばす。

「ハァッハァッ、アンネ!」


「えぇぇええい!」



アンネが騎士の顔面から腕から何まで、今度は上半身を何度も穿つ。

ーそして騎士はー

「ハァッハァッ」

跡形もなく、消えていた。

「はあっはあっ」

俺とアンネはへたり込む。

それを見ていた二人の金髪女と少女もぺたりと座り込む。

勝った?

勝ったの?

『ピピッ』

「!?」

『勝利  生還権十日分   帰還』

勝った。

勝ったぞ…

「っょっしゃああああああ!!」


生き残ってやった!

「やったわぁぁあああ!!」


「あんた達すげぇえええええええ!!!」


「うおおおおおおおお!!!」


「……」

ただ一人、少女を除いて全員が勝利の雄叫びを上げていた。


いや、どちらかと言えば









生き残った、喜びの雄叫び。


その時ー

プツンと意識が途切れた。


「あっ、ちょ」


この転送の仕方は変えて欲しい限りで、とても喜ばしくはなかったが。







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