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日本編
平和だと感じる
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あれから数日が経ち、日曜日になった。数日前にあんなことが起こったなんて未だに信じられないが、しかし現実問題自分の目でみた物は信じるとしてきた俺からしたら信じないという選択肢は無いわけで、しかしそれでも言葉にするのなら信じがたいというところだった。
まぁ、結局生き残ったのだから、いいじゃないか、とまぁそんな事をたまに思ったりもするが、しかしいつ何時に、ああいう事態に陥るか分からないのだ。
呑気でいられない。
しかし、今日くらいは呑気でもいいだろう、とそう思う。
何故なら今日はー
「お待たせー」
「おお」
待ち合わせ場所は公園。
そこに登場したのはー
軽くカチューシャをし、華やかな衣装に身を包む彼女は、美しく見えた。
彼女、つまりは冴島である。
日曜日にデートの約束をしていたのだ。
しかし、冴島…隣の男は誰だ?
大学生くらいの男がいた。
もしかしてお兄ちゃんか?
冴島ってデートでお兄ちゃんを連れてくるぐらいにブラコンなのか…衝撃だ。
にしてもそこまで顔付きは似ていないような気もするが…
「冴島、隣の男性は?」
「え?私のカレシだけど」
「へ?」
ど、どういうこと…
「確かここって新井クン詳しかったよね?私達のデートの案内を頼みたくてさ」
ニィ、と「悪」という言葉を思い起こすような顔をする冴島。
「…(絶句)」
このゲス女がぁ…
ハナからそういう魂胆かよ。
つまりこういうこか?
この男は冴島の彼氏で、デートの案内役が俺で、まんまと冴島にはめられたと。
しかし、今更却下するわけにもいかない。
「あぁ!分かったよ!」
半ばヤケクソに言った。
あぁ、チクショウ。
嫌な日曜日だぜ、全く。
ーー。
最悪な日だった。
くそぉ~、もう冴島は助けてやんねぇ。
「はぁ」
無心になって歩く。
あ。
そう言えば、こんな日常があったんだっけ、俺にも。
普通に暮らして、普通に生きて。
だけどもう、それが出来ない。
「ふっ」
一気に寂寥感や虚しさが募ると思ったが、それほど何も思わなかった。
ただ、普段の幸せをもっとかみしめておけば良かったーと、それだけは何故か感じた。
しかし、こう街中を歩いていると、つくづく日本の平和が分かるよな。
日本国はこと治安だけ取れば最上位クラスだからな。
「ふぁ~あ」
明日も学校があるし、速く帰るか。
しかし、アレだよなぁ。
なんか今日が日曜日なのに明日月曜日ってすげー憂鬱になるよなぁ。
はぁ、怠いなーーーーーーーーーーーー
『プップップーーーーーンン!!!』
…?
「なん…」
その瞬間、ぐん!と体が引っ張られる。
「うわ、何だ?」
「それはこっちの台詞だ!!!!」
「?」
あり?
副会長?
何でここに?
「新井君!君今何してたのか自覚あるの!?」
俺の名前を把握しているのか。
すごいな。
「はぁ…歩いていただけですが…」
「…君はね、今、赤信号に突っ切って行ったんだよ。ぼーっとしてね。ふらふらと。しかも横からトラック来てたからね。気をつけたまえ」
あー、手袋着けてたからな。
手袋着けてるとトラック位に撥ねられても無傷なんだよなぁ。
そうして、副会長にポンポンと、肩を二回叩かれる。
「えっ?こんだけですか?」
「なにがだ?」
「いえ。もっと処罰かなんかあると思って」
「不問としておくよ」
そうすると彼女はニッと元気に笑ったのだ。
「あれ?新井君はこの辺りに住んでいるのかい?」
「ええ」
「ええーっ!?じゃあ私の家と殆ど変わらないじゃないか!」
「そうなんですか?」
「私の家はー」
副会長がすーっと指をさす。
「ーあそこだ」
うげっ、近っ。
「近ぁ」
「本当だな…」
驚いた。
「では、私は用があるのでもう帰らせてもらう」
「あ、それじゃ」
「ああ、またな」
ボーイッシュな副会長は歩いてすぐそこの家に帰っていったのだ。
そっか。いっつも生徒会としての活動とか部活とかあるものな。
もう部活やってない俺とは時間がかみ合わないのか。
しっかし、副会長可愛いよなぁ。
どっちかっていうと美人って感じかなぁ。
何であんなにボーイッシュなんだろ?
「あー副会長ー」
「なんだ?」
家に向かって歩いている最中の副会長に話しかける。
「今日もお美しいですよー(なんつって)」
「ッ!?そ、そうか?」
「ええ。じゃあ!」
そう言い残し、俺は手を振った。
それに呼応するようにまた彼女も手を振るのであった。
生徒会副会長。
「あっ」
あー、やっと名前を思い出した。
確かー
「西森 京香 …」
__________________
翌日。
月曜日。
特に何もない日だがー
加藤 愛理と、須川 茜、つまりは俺をイジメている奴二人と、冴島が昼休みに俺を囲った。
「…何?」
「放課後、ここに来て」
紙を渡される。そこには場所が書いてあった。
体育館裏?
また集団でボコボコにされるのだろうか?
行かないともっと酷いことになるが。
「わかッた」
しかし、何で冴島?
まぁ、いっか。
ー放課後ー
手袋を鞄から取り出し、装着する。
「フゥッ」
この状態でもし傷つける事が出来る奴がいるなら、俺はそいつを尊敬するけどなぁ。
「銃は…要らないな」
まず使えないし。
ー体育館裏ー
そこには何人かの人だかりがあった。
「おぅおぅ、マジで来やがった」
「うわー、ボクチン今から楽しみー」
「こいつ正気か?」
色々言われる。
「…で、誰の呼び出しなんだ?」
困惑しがちに俺が言うとー
「あぁ?なんだ、そのなめ腐った口調はよぉ!」
「てめーこら。一発なぐんぞ」
いきなり集団の内一人が殴りかかってくる。
パシンとそれを当然のように受け止めながら言う。
「何でこんなに人が集まってるんだ?」
それが謎なんだ。
俺をイジメているのは主に四人。多くても八にいくか、いかないか位なのに。
今日のはパッと見ただけでも十人以上いるって事は分かるぞ。
「あぁ?そりゃてめーのやった事の断罪だろぅが」
「はぁ?断罪?」
何の話しだ?
「お前が冴島を襲ったらしいじゃねぇか!」
「──は?」
どういうこと?
俺が冴島を襲った?
何を言ってるんだ?
ーと、ここでまさかの冴島本人登場だった。
「あ!冴島!お前も言ってやってくれ!こいつらなんか変だぞ」
「…」
何で何も言わないんだ。
と、思ってると
「グスッ、この人…やり…まし…怖…い」
「ほらぁ!やっぱお前じゃねぇか!」
「~~~ッ」
冴島、裏切ったな!
いや。もともと「そちら」側だったのか。おまえは。
しかし、テンプレにテンプレートな擦り付け冤罪だな。
「オラッ、いけ、お前ら」
「あぁ!断罪の鉄槌だ!」
「ハハハハハハハハハ」
「はぁーっ」
面倒くさ。
いや、痛いよ。
何が痛いかって、心が痛い。
こんな裏切りをする女だったなんて。
そしてそんな奴を助けてしまったことも。
信じていた事も。
全て、痛いよ、冴島。
「オラァ、男ども速くいけよぉ」
そこには加藤愛理や須川茜がいた。あと、新見と佐賀もいる。
俺のイジメ主犯格が全員揃うなんて、結構珍しい。
しかし、表情から察するに、佐賀はあまり乗り気では無いように見える。
前回、俺と少しいざこざがあったからだろう。
と、その時
「しぃーねぇっ!」
後ろからバットで殴打される。恐らくは金属製のものだろう。
衝撃で態勢が前のめりになる。
ガン!っという音を立てて、金属バットはへこんだ。
だが、その場にいる誰もがそのことに気付かす、俺が大ダメージを受けたと思っている。
「たたみかけろぉ!」
と言って、休まず至る所から殴られる。
背中ーかと思えば胸、だと思えば顔、だと思えば足を蹴られ、と思えば鳩尾を殴られ、と思えば横腹を、という風に、体中に次から次へと攻撃の雨が降り注ぐ。
「オラッオラッ」
「死ねっ!死ねって!」
「キモいんだよ!」
「ヒャハハハハハハハ」
「…」
俺は何か悪いことをしたわけでは、勿論無い。
何がいけなかったのだろうか?
思い返しても、特に何も無かった。
そうだ。
高校1年の時。
佐賀によく殴られてたっけ。
こんな風に。
自分の積み上げてきた物や価値観がその時に壊れたんだ。
『いいか?新井。お前は生きてる意味の無い害虫。俺はその害虫を退治する一般の「人間」だ』
『ゴポッ、ゴホッ』
『生きる価値のねぇ奴はさっさと死ねって事だよ』
『ゴホッ、えぐっ、あぁっ、あぐっ』
はぁ、いつになったらこの集団暴行は終わるんだろうか?
しかし、聞いたことがあるが、人は集団であれば一人ではしないことを容易に出来るようになるらしい。
例えば暴力。
例えばデモ。
例えば強姦。
悪用される事の方が多い気がするのは気のせいだろうか?
例えば戦争
例えば対立
例えば犯罪
「ホラァ、もっともっと!」
こいつらは、もっとテンションを上げて俺をボコボコにしてくる。
しょうが無い。
それっぽい擬音でも着けておくか。
「ぐっ、ほっ、あっ、ごはっ、ばっくっだっかあっごっ」
「おー、効いてきた?」
露骨に嬉しそうにする暴力集団。
こんなことの、何が楽しい?
自分より弱い者を一方的に嬲るこの構図が
楽しいのか?
「ねぇーっ、服脱がせようぜー」
そこで、誰かが言った。
「いいねぇー、それ」
「じゃあ、まず下着からぁー…」
その時だった。
『貴様らぁあああああああ!!!!』
「「「「「!?」」」」」
「な、なんだ?」
「ありゃ、副会長じゃねーか!」
「何をしているっ!やめろっ!」
副会長が猛スピードで、その黒髪をなびかせながら走ってきた。
そこで一人の男が前に出て応える。
「何って?ねぇ?ただの罰ですよ」
「そうか。ナルほどな。そうか」
「えぇ、そうなんスよ、だからぁ、」
その時、その男がぶっ飛んだ。
へ?
「じゃあ、これも罰だな。」
正拳ーだった。
いや、これはもう正拳ってか聖拳だよ。
「てめぇ…いつも正義面してうぜぇんだよ」
「囲ってボコそうぜ」
「いいねぇーそれ」
「ついでに食べてく?」
下品な笑みを零す集団でしか己の力が発揮出来ない矮小者。
だがしかし、かなり分が悪いのも事実だった。
「いくぜっ」
一人の男が勢いよく殴りつける。
それを綺麗にパシンと受け止めるが、もう一人が、後ろから副会長に殴りつけようとしてくる。
すかさず反応し、後ろから来た拳も受け止めるがー
さらに両脇から拳と蹴りがくる。
何とか二つは受け止め、一つは躱したがー
最初に離した手がその隙間を縫って副会長を殴りつける。
ドゴッ、と。
「くっ!」
しかもそこは鳩尾だった。
もともと柔らかい体の女性という部類に入るのに、よくもそこまで出来たものだ。
流石に乱入しよう、と思っていた時に、彼女はニッコリ笑って、こう零したのだ。
「大丈夫か?新井くん。私は大丈夫だ。だから、見ていてくれ」
─私が勝つところを─と。
「ッ!」
一体。
一体どんな気持ちなのだろうか。
圧倒的不利で絶望的なこの状況下に於いて、他人のことを慮り、自分の勝利を確信するというのは。
「かっこいい」
あー。
めちゃ副会長カッコイイなぁ。
憧れるよ。
憧憬の的だ。
「じゃあ勝って見ろよっ」
そこからの攻防は、やはり一方的に進んだ。
大多数対一。
生まれる隙が大きすぎる。
「ハァッハァッハァッハァッ」
息も絶え絶えの副会長に対し
「弱ぇー」
「ザッコww」
多数の方はかなり余裕があるように見受けられた。
「ハァッハァッ、うぐっ」
また殴られた。
「ぐっ、私が…」
?
「私が…守るっ…」
はぁ。
もう、無理。
「オラッ!」
パシン!
と、受け止めたのは、他でもない俺だった。
「はぁ?」
「何してんだ?」
「副会長、流石に、助けに来ましたよ」
「フフッ…いら…ない…よ」
「すいません。要らないと言われてもーもう退けません」
「あ?何言ってんだ、ごちゃごちゃと。雑魚はひっこんっかひゅっ」
「どうした?」
「!?気絶してる…」
「てめー!何しやがった!」
「さぁな?来いよ。俺は雑魚だから、なんだっけ?」
「っ!てめっ!」
前から殴りかかってくる。
がー遅い。
どれくらい遅いかと言えばあの騎士の1000倍以上は遅い。
当たり前の様にそれを躱して、懐に入り、ガンッと顎を殴る。
「がっ」
それと同時に両側から回し蹴りがくる。が、それも下に避けて懐に入り顎を一発殴る。
もう一人の方も同じように顎を殴る。
対応する間は与えない。
「あらっ」
佐賀だ。
コイツにはよくハラパンをされたものだ。
俺もするか。
体を前のめりにし、佐賀の懐に入り、メキメキっ、と内臓部分を殴る。
「ごっ」
流石に内臓損傷はないよな?
「新井!」
今度は新見だ。
コイツにはよく顔を殴られたな。
俺も殴るか。
殴りかかってきていた新井の腕をパン!と打ち落とし、がら空きになった顔面にめり込むようにパンチを食らわせる。
「「あら」」
二人の男が俺に向かって殴りかかろうとしてくる。
が、その前に二人の足を思いっきりパシンと払う。
その瞬間二人は宙に浮く。
その間に一瞬で懐に入って、二人に同時に殴りつける。
鳩尾に、メリィ、と深く。
そして、バコン、と吹っ飛んでいった。
時間にして20秒無いくらいか。
「す、すごい、新井くん…」
「どうも」
「スゴいっ、すごいよ、新井クンっ!」
「そ?そうですか?」
「ちょっと!その男は私を襲おうとしてたのよ!」
あれ?冴島しかいない…
加藤と須川は逃げたか。
「その証拠はどこにある?」
副会長が強く言う。
「そ、それは」
「確かな証拠が無いと生徒会は動けないんだ」
「…このっ!」
すると冴島は、俺に対して何かを突きつけてきた。
「?」
「うっ、うそ。最高電圧にしてたのに…」
その手にはスタンガンが握られていた。
「…冴島さん。明日、生徒会室で校長と話があります」
副会長はいった。
「っ!……はぃ」
そうして、虚しくポツリと冴島は立ったまま、この事態は収束した。
──────────────────
「にしても新井クン!すごいね!すごいよ!」
「あ?そうすか?ありがとうございます。副会長」
そう言うと副会長はムッとした。
「私のことは副会長ではなく、京香と呼んでくれ」
「あっはい。京香さん…」
「京香」
「京香さん…」
「京香」
「…京香」
「あともっと砕けた話し方でいいぞ」
「うん?分かったよ」
話の飲み込みは早い方だ。
「京香もすごいと思うよ」
「そうかな?」
ニヘヘと笑う。
あ、こんな笑い方も出来るんだなぁ。
可愛らしいな。
「しかし、帰り道が同じだな」
「ええ」
「…とッ、時に新井クン」
「はい?」
「あの、良かッたら…これから…毎日…その、い、一緒に…帰らないか?」
「一緒に…?」
「あ、あぁ。帰り道一緒だし…」
「えぇ、でも時間がかみ合わないですよ」
「大丈夫だ。こっちでかみ合わせるから」
そっちが変えるのかよ。
「いいですよ、そこまでしなくても」
「いやっ、そういう訳にはいかないんだ」
「何でですか?」
「…」
「ホラァ。ただの関係作りとか、学校の事情がより詳しく俺から聞きたかっただけでしょ?」
「それは…違う」
「じゃあ何ですか?」
「…うぅ、それは言えない…」
「なんだそら」
よく分かんないなぁ。
「と、とりあえずいいよな?」
「仕事に差し支えが無ければ」
そう言うと京香は、よしっ、と言って喜んだ。
なーんでそんなに嬉しそうに笑えるのかなぁ。
羨ましい正義乙女だ。
でも、こういう日々が日常が、一番幸せなんだ。
だからこの幸せを噛みしめなければな。
そう思い、俺は歩き出した。
ジジ
ジジジジジ
まぁ、結局生き残ったのだから、いいじゃないか、とまぁそんな事をたまに思ったりもするが、しかしいつ何時に、ああいう事態に陥るか分からないのだ。
呑気でいられない。
しかし、今日くらいは呑気でもいいだろう、とそう思う。
何故なら今日はー
「お待たせー」
「おお」
待ち合わせ場所は公園。
そこに登場したのはー
軽くカチューシャをし、華やかな衣装に身を包む彼女は、美しく見えた。
彼女、つまりは冴島である。
日曜日にデートの約束をしていたのだ。
しかし、冴島…隣の男は誰だ?
大学生くらいの男がいた。
もしかしてお兄ちゃんか?
冴島ってデートでお兄ちゃんを連れてくるぐらいにブラコンなのか…衝撃だ。
にしてもそこまで顔付きは似ていないような気もするが…
「冴島、隣の男性は?」
「え?私のカレシだけど」
「へ?」
ど、どういうこと…
「確かここって新井クン詳しかったよね?私達のデートの案内を頼みたくてさ」
ニィ、と「悪」という言葉を思い起こすような顔をする冴島。
「…(絶句)」
このゲス女がぁ…
ハナからそういう魂胆かよ。
つまりこういうこか?
この男は冴島の彼氏で、デートの案内役が俺で、まんまと冴島にはめられたと。
しかし、今更却下するわけにもいかない。
「あぁ!分かったよ!」
半ばヤケクソに言った。
あぁ、チクショウ。
嫌な日曜日だぜ、全く。
ーー。
最悪な日だった。
くそぉ~、もう冴島は助けてやんねぇ。
「はぁ」
無心になって歩く。
あ。
そう言えば、こんな日常があったんだっけ、俺にも。
普通に暮らして、普通に生きて。
だけどもう、それが出来ない。
「ふっ」
一気に寂寥感や虚しさが募ると思ったが、それほど何も思わなかった。
ただ、普段の幸せをもっとかみしめておけば良かったーと、それだけは何故か感じた。
しかし、こう街中を歩いていると、つくづく日本の平和が分かるよな。
日本国はこと治安だけ取れば最上位クラスだからな。
「ふぁ~あ」
明日も学校があるし、速く帰るか。
しかし、アレだよなぁ。
なんか今日が日曜日なのに明日月曜日ってすげー憂鬱になるよなぁ。
はぁ、怠いなーーーーーーーーーーーー
『プップップーーーーーンン!!!』
…?
「なん…」
その瞬間、ぐん!と体が引っ張られる。
「うわ、何だ?」
「それはこっちの台詞だ!!!!」
「?」
あり?
副会長?
何でここに?
「新井君!君今何してたのか自覚あるの!?」
俺の名前を把握しているのか。
すごいな。
「はぁ…歩いていただけですが…」
「…君はね、今、赤信号に突っ切って行ったんだよ。ぼーっとしてね。ふらふらと。しかも横からトラック来てたからね。気をつけたまえ」
あー、手袋着けてたからな。
手袋着けてるとトラック位に撥ねられても無傷なんだよなぁ。
そうして、副会長にポンポンと、肩を二回叩かれる。
「えっ?こんだけですか?」
「なにがだ?」
「いえ。もっと処罰かなんかあると思って」
「不問としておくよ」
そうすると彼女はニッと元気に笑ったのだ。
「あれ?新井君はこの辺りに住んでいるのかい?」
「ええ」
「ええーっ!?じゃあ私の家と殆ど変わらないじゃないか!」
「そうなんですか?」
「私の家はー」
副会長がすーっと指をさす。
「ーあそこだ」
うげっ、近っ。
「近ぁ」
「本当だな…」
驚いた。
「では、私は用があるのでもう帰らせてもらう」
「あ、それじゃ」
「ああ、またな」
ボーイッシュな副会長は歩いてすぐそこの家に帰っていったのだ。
そっか。いっつも生徒会としての活動とか部活とかあるものな。
もう部活やってない俺とは時間がかみ合わないのか。
しっかし、副会長可愛いよなぁ。
どっちかっていうと美人って感じかなぁ。
何であんなにボーイッシュなんだろ?
「あー副会長ー」
「なんだ?」
家に向かって歩いている最中の副会長に話しかける。
「今日もお美しいですよー(なんつって)」
「ッ!?そ、そうか?」
「ええ。じゃあ!」
そう言い残し、俺は手を振った。
それに呼応するようにまた彼女も手を振るのであった。
生徒会副会長。
「あっ」
あー、やっと名前を思い出した。
確かー
「西森 京香 …」
__________________
翌日。
月曜日。
特に何もない日だがー
加藤 愛理と、須川 茜、つまりは俺をイジメている奴二人と、冴島が昼休みに俺を囲った。
「…何?」
「放課後、ここに来て」
紙を渡される。そこには場所が書いてあった。
体育館裏?
また集団でボコボコにされるのだろうか?
行かないともっと酷いことになるが。
「わかッた」
しかし、何で冴島?
まぁ、いっか。
ー放課後ー
手袋を鞄から取り出し、装着する。
「フゥッ」
この状態でもし傷つける事が出来る奴がいるなら、俺はそいつを尊敬するけどなぁ。
「銃は…要らないな」
まず使えないし。
ー体育館裏ー
そこには何人かの人だかりがあった。
「おぅおぅ、マジで来やがった」
「うわー、ボクチン今から楽しみー」
「こいつ正気か?」
色々言われる。
「…で、誰の呼び出しなんだ?」
困惑しがちに俺が言うとー
「あぁ?なんだ、そのなめ腐った口調はよぉ!」
「てめーこら。一発なぐんぞ」
いきなり集団の内一人が殴りかかってくる。
パシンとそれを当然のように受け止めながら言う。
「何でこんなに人が集まってるんだ?」
それが謎なんだ。
俺をイジメているのは主に四人。多くても八にいくか、いかないか位なのに。
今日のはパッと見ただけでも十人以上いるって事は分かるぞ。
「あぁ?そりゃてめーのやった事の断罪だろぅが」
「はぁ?断罪?」
何の話しだ?
「お前が冴島を襲ったらしいじゃねぇか!」
「──は?」
どういうこと?
俺が冴島を襲った?
何を言ってるんだ?
ーと、ここでまさかの冴島本人登場だった。
「あ!冴島!お前も言ってやってくれ!こいつらなんか変だぞ」
「…」
何で何も言わないんだ。
と、思ってると
「グスッ、この人…やり…まし…怖…い」
「ほらぁ!やっぱお前じゃねぇか!」
「~~~ッ」
冴島、裏切ったな!
いや。もともと「そちら」側だったのか。おまえは。
しかし、テンプレにテンプレートな擦り付け冤罪だな。
「オラッ、いけ、お前ら」
「あぁ!断罪の鉄槌だ!」
「ハハハハハハハハハ」
「はぁーっ」
面倒くさ。
いや、痛いよ。
何が痛いかって、心が痛い。
こんな裏切りをする女だったなんて。
そしてそんな奴を助けてしまったことも。
信じていた事も。
全て、痛いよ、冴島。
「オラァ、男ども速くいけよぉ」
そこには加藤愛理や須川茜がいた。あと、新見と佐賀もいる。
俺のイジメ主犯格が全員揃うなんて、結構珍しい。
しかし、表情から察するに、佐賀はあまり乗り気では無いように見える。
前回、俺と少しいざこざがあったからだろう。
と、その時
「しぃーねぇっ!」
後ろからバットで殴打される。恐らくは金属製のものだろう。
衝撃で態勢が前のめりになる。
ガン!っという音を立てて、金属バットはへこんだ。
だが、その場にいる誰もがそのことに気付かす、俺が大ダメージを受けたと思っている。
「たたみかけろぉ!」
と言って、休まず至る所から殴られる。
背中ーかと思えば胸、だと思えば顔、だと思えば足を蹴られ、と思えば鳩尾を殴られ、と思えば横腹を、という風に、体中に次から次へと攻撃の雨が降り注ぐ。
「オラッオラッ」
「死ねっ!死ねって!」
「キモいんだよ!」
「ヒャハハハハハハハ」
「…」
俺は何か悪いことをしたわけでは、勿論無い。
何がいけなかったのだろうか?
思い返しても、特に何も無かった。
そうだ。
高校1年の時。
佐賀によく殴られてたっけ。
こんな風に。
自分の積み上げてきた物や価値観がその時に壊れたんだ。
『いいか?新井。お前は生きてる意味の無い害虫。俺はその害虫を退治する一般の「人間」だ』
『ゴポッ、ゴホッ』
『生きる価値のねぇ奴はさっさと死ねって事だよ』
『ゴホッ、えぐっ、あぁっ、あぐっ』
はぁ、いつになったらこの集団暴行は終わるんだろうか?
しかし、聞いたことがあるが、人は集団であれば一人ではしないことを容易に出来るようになるらしい。
例えば暴力。
例えばデモ。
例えば強姦。
悪用される事の方が多い気がするのは気のせいだろうか?
例えば戦争
例えば対立
例えば犯罪
「ホラァ、もっともっと!」
こいつらは、もっとテンションを上げて俺をボコボコにしてくる。
しょうが無い。
それっぽい擬音でも着けておくか。
「ぐっ、ほっ、あっ、ごはっ、ばっくっだっかあっごっ」
「おー、効いてきた?」
露骨に嬉しそうにする暴力集団。
こんなことの、何が楽しい?
自分より弱い者を一方的に嬲るこの構図が
楽しいのか?
「ねぇーっ、服脱がせようぜー」
そこで、誰かが言った。
「いいねぇー、それ」
「じゃあ、まず下着からぁー…」
その時だった。
『貴様らぁあああああああ!!!!』
「「「「「!?」」」」」
「な、なんだ?」
「ありゃ、副会長じゃねーか!」
「何をしているっ!やめろっ!」
副会長が猛スピードで、その黒髪をなびかせながら走ってきた。
そこで一人の男が前に出て応える。
「何って?ねぇ?ただの罰ですよ」
「そうか。ナルほどな。そうか」
「えぇ、そうなんスよ、だからぁ、」
その時、その男がぶっ飛んだ。
へ?
「じゃあ、これも罰だな。」
正拳ーだった。
いや、これはもう正拳ってか聖拳だよ。
「てめぇ…いつも正義面してうぜぇんだよ」
「囲ってボコそうぜ」
「いいねぇーそれ」
「ついでに食べてく?」
下品な笑みを零す集団でしか己の力が発揮出来ない矮小者。
だがしかし、かなり分が悪いのも事実だった。
「いくぜっ」
一人の男が勢いよく殴りつける。
それを綺麗にパシンと受け止めるが、もう一人が、後ろから副会長に殴りつけようとしてくる。
すかさず反応し、後ろから来た拳も受け止めるがー
さらに両脇から拳と蹴りがくる。
何とか二つは受け止め、一つは躱したがー
最初に離した手がその隙間を縫って副会長を殴りつける。
ドゴッ、と。
「くっ!」
しかもそこは鳩尾だった。
もともと柔らかい体の女性という部類に入るのに、よくもそこまで出来たものだ。
流石に乱入しよう、と思っていた時に、彼女はニッコリ笑って、こう零したのだ。
「大丈夫か?新井くん。私は大丈夫だ。だから、見ていてくれ」
─私が勝つところを─と。
「ッ!」
一体。
一体どんな気持ちなのだろうか。
圧倒的不利で絶望的なこの状況下に於いて、他人のことを慮り、自分の勝利を確信するというのは。
「かっこいい」
あー。
めちゃ副会長カッコイイなぁ。
憧れるよ。
憧憬の的だ。
「じゃあ勝って見ろよっ」
そこからの攻防は、やはり一方的に進んだ。
大多数対一。
生まれる隙が大きすぎる。
「ハァッハァッハァッハァッ」
息も絶え絶えの副会長に対し
「弱ぇー」
「ザッコww」
多数の方はかなり余裕があるように見受けられた。
「ハァッハァッ、うぐっ」
また殴られた。
「ぐっ、私が…」
?
「私が…守るっ…」
はぁ。
もう、無理。
「オラッ!」
パシン!
と、受け止めたのは、他でもない俺だった。
「はぁ?」
「何してんだ?」
「副会長、流石に、助けに来ましたよ」
「フフッ…いら…ない…よ」
「すいません。要らないと言われてもーもう退けません」
「あ?何言ってんだ、ごちゃごちゃと。雑魚はひっこんっかひゅっ」
「どうした?」
「!?気絶してる…」
「てめー!何しやがった!」
「さぁな?来いよ。俺は雑魚だから、なんだっけ?」
「っ!てめっ!」
前から殴りかかってくる。
がー遅い。
どれくらい遅いかと言えばあの騎士の1000倍以上は遅い。
当たり前の様にそれを躱して、懐に入り、ガンッと顎を殴る。
「がっ」
それと同時に両側から回し蹴りがくる。が、それも下に避けて懐に入り顎を一発殴る。
もう一人の方も同じように顎を殴る。
対応する間は与えない。
「あらっ」
佐賀だ。
コイツにはよくハラパンをされたものだ。
俺もするか。
体を前のめりにし、佐賀の懐に入り、メキメキっ、と内臓部分を殴る。
「ごっ」
流石に内臓損傷はないよな?
「新井!」
今度は新見だ。
コイツにはよく顔を殴られたな。
俺も殴るか。
殴りかかってきていた新井の腕をパン!と打ち落とし、がら空きになった顔面にめり込むようにパンチを食らわせる。
「「あら」」
二人の男が俺に向かって殴りかかろうとしてくる。
が、その前に二人の足を思いっきりパシンと払う。
その瞬間二人は宙に浮く。
その間に一瞬で懐に入って、二人に同時に殴りつける。
鳩尾に、メリィ、と深く。
そして、バコン、と吹っ飛んでいった。
時間にして20秒無いくらいか。
「す、すごい、新井くん…」
「どうも」
「スゴいっ、すごいよ、新井クンっ!」
「そ?そうですか?」
「ちょっと!その男は私を襲おうとしてたのよ!」
あれ?冴島しかいない…
加藤と須川は逃げたか。
「その証拠はどこにある?」
副会長が強く言う。
「そ、それは」
「確かな証拠が無いと生徒会は動けないんだ」
「…このっ!」
すると冴島は、俺に対して何かを突きつけてきた。
「?」
「うっ、うそ。最高電圧にしてたのに…」
その手にはスタンガンが握られていた。
「…冴島さん。明日、生徒会室で校長と話があります」
副会長はいった。
「っ!……はぃ」
そうして、虚しくポツリと冴島は立ったまま、この事態は収束した。
──────────────────
「にしても新井クン!すごいね!すごいよ!」
「あ?そうすか?ありがとうございます。副会長」
そう言うと副会長はムッとした。
「私のことは副会長ではなく、京香と呼んでくれ」
「あっはい。京香さん…」
「京香」
「京香さん…」
「京香」
「…京香」
「あともっと砕けた話し方でいいぞ」
「うん?分かったよ」
話の飲み込みは早い方だ。
「京香もすごいと思うよ」
「そうかな?」
ニヘヘと笑う。
あ、こんな笑い方も出来るんだなぁ。
可愛らしいな。
「しかし、帰り道が同じだな」
「ええ」
「…とッ、時に新井クン」
「はい?」
「あの、良かッたら…これから…毎日…その、い、一緒に…帰らないか?」
「一緒に…?」
「あ、あぁ。帰り道一緒だし…」
「えぇ、でも時間がかみ合わないですよ」
「大丈夫だ。こっちでかみ合わせるから」
そっちが変えるのかよ。
「いいですよ、そこまでしなくても」
「いやっ、そういう訳にはいかないんだ」
「何でですか?」
「…」
「ホラァ。ただの関係作りとか、学校の事情がより詳しく俺から聞きたかっただけでしょ?」
「それは…違う」
「じゃあ何ですか?」
「…うぅ、それは言えない…」
「なんだそら」
よく分かんないなぁ。
「と、とりあえずいいよな?」
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そう言うと京香は、よしっ、と言って喜んだ。
なーんでそんなに嬉しそうに笑えるのかなぁ。
羨ましい正義乙女だ。
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そう思い、俺は歩き出した。
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ジジジジジ
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