ミッション

こんぶ

文字の大きさ
21 / 28
日本編

圧倒的な力

しおりを挟む
ミッシェルは、躊躇いもなくチーターの間合いに踏み入った。
その行為はミッシェルにとって、一つの賭けであった。
チーターの速さは、いかにミッシェルといえども、対応しきることが困難を極める程であった。
故に、チーターの間合いに入れば、いつ狩られるか流石にミッシェルでも分からない。
が、幸いな事に、ミッシェルは賭けに勝つ。

「ッ」

横一文字にシュバッ、とミッシェルは黒刀でチーターを斬りつけた。

しかし、それはチーターに掠りはしたものの、全くダメージを与えるに至っていなかった。

「ふぅ」

ミッシェルは一度目を閉じる。
ただの油断、或いは命を捨てるという選択にさえとれるこの行動には、確かにそれ程大事な用はなかった。

しいて言うなら、全神経を、この瞬間に集中させるということだろうか。

「─」

チーターは消えいるような速さでミッシェルに噛みつこうとする─

─が、

カンッ、とその口の牙に刃を突きつけられるチーター。

それはつまり、チーターの突進よりも、ミッシェルの刀を振る速度の方が速いという事だった。

「フゥ」

ミッシェルは目を開ける。

しかしその眼は周りの薄暗い森など全く捉えず、ただチーターのみを捉えていた。

チーターは、途端、走り出した。

その急激な行動の変化に、微塵も驚きを見せないミッシェル。

むしろ、余裕さえあるように思える。
それ程までに、優雅な佇まい。

チーターもその事に大して驚かず、ミッシェルの周りを走り出す。

シュバッ、シュバッ、と、そこにいたかと思えば後にいるし、そこにいたかと思えば、自分の隣にいる。そんなような動き方。
決して捉えることの出来ない速度。

それが、数多の方向から襲いかかってくる。

ミッシェルは、そんなチーターを、なんの躊躇いもなく、大きな隙となるであろう一振りをした。

縦に、大きく。

そして、それは─









ザス、とチーターの腹を軽く斬った。

「ふぅ」

ミッシェルは軽く息を漏らす。

「ガルゥ!」

「…」

その時、初めてチーターには怒りという感情が生まれた。

自分が速度で負けるだと?

そんは事は、あり得ないだろう、と。

「ぐぐ、ガァァ」

そして、チーターは、をやめ、になった。

「グルゥ!」

そして、ミッシェルに四足歩行の時とは比べものにならない速度で飛びかかった。

「ふぅ」

ミッシェルはまた、軽く息を漏らしなが、刀を振るう。

それは、まるで時が止まったような錯覚に陥るほど、優雅に、素早く、風を切り裂いた。

もはや、何と言い表していいのか分からない。ただの化け物だ。

しかし、向こうもまた化け物。

それを、避ける。

ヒュンと、下に。

いや、それは或いは擬音をつけているだけであって、実際は音速を超えて、音なんか出ていないのかも知れなかった。

ミッシェルは刀を、乱舞の如く散らせた。

しかし、チーターはそれを肉食動物特有の獰猛な動きで躱して、守っていく。

牙で、爪で受け止める。

カンッカンッカンッ

カンッカンッカンッ

カンッカンッカンッ

硬質な音が響く。

刀と牙が交わる度に、火花が散る。

チーターは走りながら、そして、ミッシェルも走りながら戦う。

二人の移動速度は凄まじく、もし仮にここが闘技場なら、県一つ分はいるのではないかと思うほどのスピード。

硬質な音は、どんどん森の奥へ奥へと進んでいく。

そして、二人は行き止まりに出会い、立ち止まる。

とは言っても上半身は常に動き続けている訳だが。

カンッカンッカンッ

と、刃を交わしている、そんな時だった。

チーターに、チャンスが出来た。

それは、ミッシェルの刀の受け流しミスであった。

チーターは、ミッシェルの攻撃を直接受け続ける事は不可能だと判断し、ミッシェルの攻撃を受け流すか、又は躱していたのだが、その受け流しが上手くいかず、偶々チーターがよろける。

そのチャンスを、ミッシェルは決して見逃さなかった。

刀をぶんと縦に振る。

すると、そこにあったであろう物が千切れた。


「ビャァアアアアアア!!」

それは、チーターの尻尾であった。


「にゃぁアアアアアアアア!!」

チーターは痛みを訴えるように叫んだ。

ミッシェルは、その隙も見逃さず、チーターの喉元めがけて刀を突き刺した。

しかしそれは避けられてしまう。

軌道修正し、チーターの顔面にたたき込もうとするが、当たる気配が無かった。

シュバッ、シュバッと、空を斬ることが、少しずつだが、着実に増えていった。

カンッカンッシュバッカンッカンッシュバッシュバッカンッカンッカンッ

無駄な体力の消費が激しい筈なのに、全く汗の「あ」の字も感じさせない程ミッシェルは、余裕な態度であった。

チーターは再び苛つき、ミッシェルに飛びかかった。

「同じ手は通じないわよ」

と、ミッシェルは最後通告のように慈悲深く言った。

そして…

ポンとミッシェルはチーターの腕の上に乗る。

そして、ギュッとチーターに抱きついた。

猫が好きなのか?とそう思わせる絵面だが、しかしそうではない。

ミッシェルはチーターの細い首元に刀を当てて、ブスリと刺して、ぐいいと横に引いた。

その結果、チーターは倒れる。

しかし、両手足が襲ってくる。

ただ頭部を破壊しただけでは倒せない事は事前に分かっていた。

「それ、もう見たわ」

チーターの引っかきなどを全て空気のように躱して、そして、ドンッと、チーターに体当たりするように、ズプリと深く深く、チーターの心臓部に刀を差し込んだ。

さらにそれでは飽き足らず、ミッシェルは己の体をぐるりと回しながらチーターの胴体を切断した。

チーターの体はドサリと倒れ、ピクリとも動きはしなかった。

要するに、ミッシェルはチーターの討伐に成功したのだ。

「ふぅ」

ミッシェルはそう小さく零して、持っていた刀をすっと仕舞うように腰辺りに差し込んだ。

それを見ていたアンネは一言─

「す、すごい」


とだけしか、言うことが出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)

MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。 しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。 ​母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。  その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。 ​純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。 交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。

処理中です...