約束ノート

村上未来

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約束ノート

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「…はい」

 遥の瞳が、更に潤いを増した。それに伴い、健太の胸の鼓動が速まった。

「…じゃあ、居酒屋でも行こうか」

 健太は直ぐに、遥から視線を外した。そして、駅前にある居酒屋を目指して歩き出した。
 遥は健太の横には並ばず、一定の距離を保ちながら、後を追っている。
 居酒屋に着いた。二人は座敷に通された。店内は混み合っている。酔いの回った者達の声が、絶え間なく聞こえてくる。

「…ビールでいい?」

 俯く遥に、健太は尋ねた。

「…はい」

 遥は俯いたまま答えた。
 健太は店員を呼ぶと、グラスビールを二つ注文した。
 それから暫く、二人の間に会話はなかった。俯き続ける遥に、健太は掛ける言葉が見付からなかったのだ。

「…何食べる?」

 健太はメニューを開き、やっとの思いで言葉を出した。

「…お任せします」

 遥は俯いたまま答えた。

「ビール、お待たせいたしました」

 店員がビールを持ってきた。机の上に置かれたビールは、黄金色に輝き、見るからにキンキンに冷えている。普段なら旨そうと思えるのだろうが、今の健太は微塵も思わなかった。

「取り敢えず、乾杯しよう」

 健太はグラスを手に取り、遥に向けて掲げた。遥もグラスを持ち、乾杯の体勢をとった。

「乾杯」

 グラスをぶつけ合う音が、騒がしい店内に、虚しく響いた。
 健太はグラスに口を付け、一口だけビールを飲み込んだ。遥はビールを一気に飲み干した。健太はその姿を見て、唖然とした。

「…遥ちゃん、どうしたの?」

 健太は心配そうに声を掛けた。

「健太さん…」

 漸く顔を上げた遥の瞳には、大粒の涙が溢れていた。

「遥ちゃん…」

 健太はそれ以上言葉が出てこなかった。

「私…健太さんの事が…」

「…えっ?亅

 健太の胸がズキリと痛んだ。

「…何でもないです…飲みましょう」

 遥は涙を拭きながら、笑顔を作った。その笑顔は明らかに、無理矢理作ったものだった。
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