約束ノート

村上未来

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モンスター

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「…本当に殺すんだよ…出来なかったらどうなるか、分かってるよね?」

 青木の目がぎろりと動いた。雅史は黙って頷いた。

「じゃあ、連れてくるよ…大人しくしてるんだよ」

 青木は布で雅史の口を塞ぐと、その上からガムテープを巻き付けた。

「…行ってくるよ」

 青木は雅史の頬にキスをすると、家を出て行った。
 一人残された雅史は喜びに満ちていた。
 鼻歌が響いた。雅史は献立を決めるように、頭の中で殺人プランを楽しげに練り始めた。
 二時間程経った。プランを練り上げた雅史は、今か今かと縛られた体を激しく揺らしている。
 部屋の向こうでドアを開ける音がした。雅史は笑みを浮かべ、音のした方へと顔を向けた。
 部屋のドアが開いた。目が合った。知っている女だ。雅史の彼女の内の一人、平田亜由美だ。亜由美は両目に涙を浮かべ、怯えきっている。
 亜由美の後ろから青木が入ってきた。青木は亜由美の背中にナイフを当てている。その顔を見れば、それが脅しではない事が分かるだろう。

「…ま、ま雅史君…助けて」

 ロープで縛られている雅史に、亜由美は助けを求めた。雅史が助けられる状態ではない事が分からない程、恐怖しているのだろう。

「さっさと入れ!」

 ドア付近で立ち止まっている亜由美の肩を、青木は後ろから小突いた。
 亜由美は大粒の涙を垂らしながら、足を動かした。

「雅史、連れてきたぞ…この女を殺せ」

「…えっ!?」

 亜由美は青木と雅史の顔を交互に見て、より一層、顔を青ざめさせた。
 青木は雅史の口からガムテープと布を取った。そして、雅史の顔にナイフを近付けた。

「…分かってるよな…俺を失望させないでくれよ」

「…あぁ」

 雅史はにやけそうになるのを必死に堪えた。
 青木が雅史に絡み付くロープを全て解いた。そして、素早く雅史にナイフを向けた。

「…変な真似するなよ」

 青木が念を押し、ナイフを向けたまま椅子の前から退いた。
 雅史はゆっくりと椅子から立ち上がった。そしてその足を一歩踏み出した。
 そこから動けずにいる亜由美は、ガタガタと震えている。
 青木がナイフを構えたまま、雅史の後ろに回った。そんな事は関係ない。雅史は我慢しきれずに口角を上げた。
 亜由美と目が合った。雅史は優しげな眼差しで亜由美を見詰めながら近付いた。
 亜由美は後退った。しかし、恐怖に震える足は言うことをきかず、腰が抜けたように、その場にへたり込んだ。

「…う、嘘だよね?…こ、殺さないよね?」

 亜由美は声を上擦らせながら、嫌嫌と両手を前に伸ばした。その手を優しく雅史は掴んで引き寄せた。そして雅史は亜由美の耳元で囁いた。

「…大丈夫、殺す振りをするから、亜由美は死んだ振りをしてくれ…隙を見てあいつを倒すからな」
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