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小羽
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足音を立てないように、ゆっくりと動かした足がリビングに辿り着いた。辿り着いてしまった。足音を立てていたとしても、結果は変わらない。この扉は開けなければならないのだ。
「あら、帰ってきたの?帰ってこなくてもいいのに」
リビングに入ってきた小羽を見て、母親の優は出迎えの言葉らしからぬ言葉を吐いた。
小羽は返事をする事なく、床を見詰めたまま体を激しく震わせた。
「あら、寒いの?じゃあ、温めましょうね」
優は小羽の腕を掴んだ。そして、嫌がる小羽を引きずりながら風呂場へと向かった。
服を無理矢理脱がされた小羽の体には、無数の痣がある。優はその痣を見ても、平然としている。優は小羽の腕を掴むと、風呂場に投げ飛ばした。
風呂場の冷たい床の上。横たわる小羽は怯えながら顔を上げた。優はその顔に冷たいシャワーの水を浴びせた。
小羽は反射的に床の上で体を丸めた。それでも冷たい雨は執拗に全身に降り注いでいる。
風呂場は寒い。冷水に声が出そうになった。
小羽は口を強く閉じ、込み上げてくる声を封じた。
「このまま凍え死んでくれない?…ねぇ、聞いてる?」
無表情で凍てつく雨を降らし続ける優は、床で丸まる小羽を踏み付けた。
「んぐ!」
小羽は溜まらず声を漏らした。
「声を出すなって、いつも言ってるでしょ」
優は更に小羽を踏み付けた。
「…そろそろ帰ってきちゃうかしら?…あんた、そのまま風呂入っちゃいな」
優はシャワーを床に投げ捨てると、風呂場から姿を消した。
小羽は震える体を起こし、シャワーの蛇口をお湯に切り換えた。暫くすると、風呂場に湯気が立ち込めた。
冷えきった体にお湯を浴びせた。荒くなっていた呼吸が徐々に穏やかになっていく。
涙を堪える小羽の頭に、写真でしか知らない、今は亡き実の母親の聖子の顔が浮かんできた。
聖子は小羽が一歳になる前に白血病で亡くなっている。小羽は覚えていないが、聖子は小羽に最大限の愛を注いでいた。それとは対称的に、父親の行成は、小羽を可愛がる事をしなかった。聖子が病院で闘病生活をしている最中も、赤ん坊の小羽を一人家に置き、女遊びを繰り返していた程だ。
聖子が亡くなってからも、行成の女遊びは続いていた。夜な夜な相手を変え、一夜を共にしていた行成だが、小羽が三歳の時に、児童福祉施設で働いていた優と再婚した。
優は結婚当初は、小羽を可愛がっていた。しかし、行成が小羽に興味がないと分かると、いい母親を演じるのを止めた。その日から小羽への虐待が始まったのだ。
「あんた、いつまで入ってんのよ!」
風呂場の戸を開けた優が、険しい表情で小羽を睨み付けた。
「…ごめんなさい」
小羽は体をびくつかせ、シャワーを止めた。そして、優の待つ脱衣場に急いで向かった。
「あんた、さっきの事は誰にも言うんじゃないよ…将君の事もだよ」
将とは、先程小羽と玄関ですれ違った、優の不倫相手の大学生だ。
「あら、帰ってきたの?帰ってこなくてもいいのに」
リビングに入ってきた小羽を見て、母親の優は出迎えの言葉らしからぬ言葉を吐いた。
小羽は返事をする事なく、床を見詰めたまま体を激しく震わせた。
「あら、寒いの?じゃあ、温めましょうね」
優は小羽の腕を掴んだ。そして、嫌がる小羽を引きずりながら風呂場へと向かった。
服を無理矢理脱がされた小羽の体には、無数の痣がある。優はその痣を見ても、平然としている。優は小羽の腕を掴むと、風呂場に投げ飛ばした。
風呂場の冷たい床の上。横たわる小羽は怯えながら顔を上げた。優はその顔に冷たいシャワーの水を浴びせた。
小羽は反射的に床の上で体を丸めた。それでも冷たい雨は執拗に全身に降り注いでいる。
風呂場は寒い。冷水に声が出そうになった。
小羽は口を強く閉じ、込み上げてくる声を封じた。
「このまま凍え死んでくれない?…ねぇ、聞いてる?」
無表情で凍てつく雨を降らし続ける優は、床で丸まる小羽を踏み付けた。
「んぐ!」
小羽は溜まらず声を漏らした。
「声を出すなって、いつも言ってるでしょ」
優は更に小羽を踏み付けた。
「…そろそろ帰ってきちゃうかしら?…あんた、そのまま風呂入っちゃいな」
優はシャワーを床に投げ捨てると、風呂場から姿を消した。
小羽は震える体を起こし、シャワーの蛇口をお湯に切り換えた。暫くすると、風呂場に湯気が立ち込めた。
冷えきった体にお湯を浴びせた。荒くなっていた呼吸が徐々に穏やかになっていく。
涙を堪える小羽の頭に、写真でしか知らない、今は亡き実の母親の聖子の顔が浮かんできた。
聖子は小羽が一歳になる前に白血病で亡くなっている。小羽は覚えていないが、聖子は小羽に最大限の愛を注いでいた。それとは対称的に、父親の行成は、小羽を可愛がる事をしなかった。聖子が病院で闘病生活をしている最中も、赤ん坊の小羽を一人家に置き、女遊びを繰り返していた程だ。
聖子が亡くなってからも、行成の女遊びは続いていた。夜な夜な相手を変え、一夜を共にしていた行成だが、小羽が三歳の時に、児童福祉施設で働いていた優と再婚した。
優は結婚当初は、小羽を可愛がっていた。しかし、行成が小羽に興味がないと分かると、いい母親を演じるのを止めた。その日から小羽への虐待が始まったのだ。
「あんた、いつまで入ってんのよ!」
風呂場の戸を開けた優が、険しい表情で小羽を睨み付けた。
「…ごめんなさい」
小羽は体をびくつかせ、シャワーを止めた。そして、優の待つ脱衣場に急いで向かった。
「あんた、さっきの事は誰にも言うんじゃないよ…将君の事もだよ」
将とは、先程小羽と玄関ですれ違った、優の不倫相手の大学生だ。
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