サマードレスに憧れて 〜君の映画が撮りたくて〜

tommynya

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第7章 夕映えと青い光の告白 ②

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 夕方、写真サークルの部室に向かった。カナが作業を終えるのを待ちながら、パーテーションで仕切られた奥のソファに座る。隙間からカナを見ると、彼は窓際でカメラのレンズを磨いていた。色白の肌が青い光を浴び、発光しているように見える。

 あんな風に光の中にいる彼を撮りたい――俺の映画の中で、その姿を。

「ねえ、奏多くん」

 突然、耳障りな声が部屋に響いた。ユナだ。いつの間にか現れ、カナの隣に座っている。今にも彼の腕にしがみつきそうな勢いで。

「今度の企画、手伝ってくれない?」

 ユナの甘ったるい声色に、思わず眉をひそめる。それに距離が近すぎる。

「写真展に出すポートレート集なんだけど」
 ユナはわざとらしく髪をかき上げた。
「奏多くんが主役なの。絶対にサークルの目玉になるよ」

 カナは明確な返事をせず、困ったように微笑むだけ。その曖昧さが俺の神経を逆なでする。

 窓から差し込む光がユナの美しい顔を照らす。彼女は確かに魅力的で、写真サークルでも評判も良い。カナが彼女の誘いに乗っても不思議ではない。

「ユナの企画も面白そうだけど……」
 カナの言葉に、俺は耳を澄ませた。
「でも?」
 ユナが追及するように尋ねる。その目はまるで獲物を狙う猫のよう。

 カナが答える前に、部室のドアが勢いよく開いた。

「奏多、ユナの手伝いをしてやれ」
 写真サークルの実力者で有名な藤崎先輩が入って来た。

「ユナの企画はサークルとしても力を入れるからな。新人の時からセンスがあるし、将来有望だ」

 藤崎先輩の言葉に、ユナは満面の笑みを浮かべた。その表情は勝利を確信しているように見える。俺は不安で胃がきりきりと痛んだ。

「私の企画の方がサークルのためになるよね、藤崎先輩?」ユナが媚びるように先輩の顔を見上げ「サークルの名誉のためにも」と付け足す。

「もちろんだ。真梨野の映画なんて芸術性を追求しすぎて大衆受けしないだろう。写真展なら多くの人に見てもらえる」

 その言葉で俺の自尊心は傷ついた。芸術性を追求しすぎ?大衆受けしない?確かに俺の映画はまだ誰にも評価されていない。でも、それは俺の全てなのだ。それに、俺がいない場所ではこんな扱いなのか……心が痛む。

「写真サークル所属なら、写真の活動を優先すべきだろ」
 藤崎先輩がカナに向かって言い放つ。
「真梨野の映画に出たところで、お前に何のメリットがある?」

 部室の空気が一層重くなった。カナを取り巻く視線の重さを感じる。もうだめかもしれない……誰だって自分の所属するサークルの先輩の言うことを聞くはずだから。

「すみません、藤崎先輩。僕は真梨野先輩の映画の撮影があるので」

 俺は思わず顔を上げた。まさか、カナが俺を選んだ……?

「よく考えろ。真梨野の映画が完成する保証はないだろう?」
 藤崎先輩の眉間にしわが寄り、明らかな不満の表情が浮かぶ。

「僕はもう約束したんです」
 カナの声は柔らかいけれど、芯が通っていた。
「真梨野先輩との撮影は夏休み中ずっと予定が入っています」

 カナがそう言ったとき、部室の隅で他のサークルメンバーが小声で囁き合っているのが聞こえてきた。俺がこの部屋にいるって気づいていないから、遠慮のない言葉が続く。

「ユナの言う通り、真梨野の映画は変だよ」
「あんな芸術的な映画、誰が観るんだ?フランスじゃないんだから」
「奏多が出るなんて勿体ないよな」

 その囁きが針のように耳に刺さる。確かに俺の映画は芸術的で理解しにくいかもしれない。でも、それは俺が表現したい世界なのだ。

「ちょっと、奏多くん!」
 ユナが抗議の声を上げる。
「私の企画の方が大事じゃない?展示会にも出せるし、写真集にもなるのよ?あなたのキャリアのためにもなるんだよ?」

 ユナはカナの側に寄り、耳元に唇を近づける。小さな声だったけれど、俺にも聞こえた。
「マリ先輩の映画なんて失敗するよ。私なら奏多君を成功させられる」

 その卑怯な囁きに俺は拳を握りしめた。

 カナはユナの視線を跳ね除けるように顔を上げ、「変でも、僕は出ます」その一言で部室が静まり返った。
「すみません、約束を守りたいんです。僕は真梨野先輩と一緒にやります」

 冷静に聞こえるカナの声の中に、どこか強い意志が感じられた。俺の方をちらりと見るカナの目は、少し照れくさそうだ。しかし、揺るぎない決意を宿していた。

「なぜそこまで真梨野の映画にこだわるんだ?お前は写真サークルなんだぞ?」
 藤崎先輩が呆れた表情で尋ねる。

 カナは少し考えてから、静かに答えた。

「昔、僕の夢を笑われたことがあります。高校の時、写真集を作りたいって言ったら、『そんなの誰も見ないよ』って言われて」

 俺は思わず息を呑んだ。

「でも、真梨野先輩は違った。入学したばかりの頃、僕の話を真剣に聞いてくれて、『それ、面白いな』って言ってくれたんです」

 カナがそんなことを覚えていたなんて……。1年以上前のことを覚えていてくれたことが嬉しかった。

「たった一言でも、本気で向き合ってくれる人がいるって、大きいんです」
 カナの声には柔らかな感謝の色が混じっている。

「真梨野先輩は僕の話を馬鹿にしなかった。それだけで……」
 言葉を切って、カナの顔は少し赤くなった。

「だから、真梨野先輩の真剣さが僕には特別なんです。他の人には変に見えるかもしれませんが、僕はそれを大切にしたいんです」

「まぁ、良いよ。お前が選んだ道だ。後悔するなよ」
 藤崎先輩は諦めたように溜息をつく。

「しません」
 カナは即答した。

 藤崎先輩とサークルメンバー達は不満そうな顔で部室を出て行った。

「もう!奏多くんってマリ先輩のこと好きなの?」
 ユナの声は半分冗談、半分怒りだった。
「あんな映画、誰も見ないわよ。奏多くんのビジュアルが台無しになるだけ」

 カナは黙って肩をすくめる。好き?カナが俺のことを好き……?

「ユナ、ごめん」
 俺は勇気を出して割り込む。
「カナは俺の映画に必要なんだ。諦めてくれないか?」

 必要。その言葉は本心だった。カナがいなければ、俺の映画は成り立たない。カナのすべてが、俺の描きたい世界に不可欠なピースなのだから。

 ユナは俺を睨みつけた後、「いつからいたんですか……?もういいですよ」と吐き捨てて部室を出て行った。
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