サマードレスに憧れて 〜君の映画が撮りたくて〜

tommynya

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第7章 夕映えと青い光の告白 ③

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 静寂が戻った部屋で、俺とカナは二人きりになった。気まずい雰囲気の中、机を挟み向かい合って座る。窓から差し込む夕陽が、カナの顔を黄金色に染め、その繊細な輪郭が浮かび上がる。

「なぁ、カナ...本当にいいのか?ユナの企画の方がきっと……」
「マリ」

 カナが俺の言葉を遮る。その声は柔らかいのに、芯が通っていた。

「俺がやりたいことを、決めさせてくれよ」

 彼の瞳は真剣で、夏の光だけでは説明できない何かが宿っている。

「藤崎先輩とユナ、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないよ」

 カナが苦笑する。その微笑みには諦めと決意が混ざっていた。

「きっと嫌われるだろうな。あの二人、粘着質だし」

 そう言って、カナは窓の外に目をやる。夕陽が少しずつ傾き始めていた。彼の横顔は、茜色の光と影のコントラストで、より美しさが際立っている。

「でも、俺はマリの映画に出たいんだ」

 カナが再び俺に視線を戻す。その瞳に映る決意に心が高鳴る。

「マリもオゾンみたいに自由に映画作ればいい。他の人の言葉なんて気にせずに」

 カナはカメラを持ち上げ、レンズを通して俺を見つめた。その視線に捕らえられ、動けなくなる。まるで彼のフレームの中に閉じ込められたかのようだ。

「俺がこのカメラで見る世界と、マリが映画で表現したい世界って、どこか似ているんだ」

「本当に?」
 思わず声が漏れる。

「うん。他の人には見えない美しさを、マリは見つけようとしている。俺もそうしたいんだ」

 その言葉が心に灯をともす。こんな風に誰かに理解されることなんて、今まで経験したことがなかった。

「カナ……ありがとう」
「なにが?」

 カナはカメラを降ろし、レンズを拭いた。その横顔が、これまで以上に愛おしく感じられた。長い睫毛、真っ直ぐな鼻筋、そして、柔らかそうな唇――この唇が俺にキスしたこと、まだ信じられない。

「……どうして、そこまでしてくれるんだ?」
「どうしてって……約束したよね?マリの映画に出るって」

 輝く笑顔で答えるカナ。その眼差しに隠された何かを、俺は感じ取る。心の奥に溜まっていた疑問を、今こそ口にする時だと感じた。指先が微かに震える。

「あの……あの夜のことなんだけど」
「あの夜……?」

 カナの声が明らかに震えた。二人の間に流れる空気が、一瞬で緊張に満ちる。

「お前の部屋で、本当は、俺……寝たふりしてたんだ。なんでキスしたんだ?」

 カナの顔が一瞬で朱に染まり、それは、夕陽より鮮やかな色彩だった。

「やっぱり……起きてたんだ……」

 小さな声で呟くカナ。夕陽の光が彼の頬を彩る。俺は彼の顔を近くで見たくて、無意識に体を前に倒して覗き込む。

「気づいてるんじゃないかって、実は思ってたよ……。ごめん、マリ。あれは……なんか、衝動だったんだ」
「衝動?」
「うん……寝てるお前を見てたら、なんか……説明できないけど」

 カナの言葉が途切れて、耳まで赤くなっている。

「したくなった。ごめん……怒ってる?」

 頭が整理できない。カナの言葉の意味を考える。衝動って何だ?

「別に怒ってないけど、なんでなのか知りたくて……」
「忘れてくれよ。変なことして、ごめん」

 カナが照れたように笑う。

「忘れられるわけないだろ。ずっとモヤモヤしてたんだから」

 思わず強く言ってしまう。カナの表情が変わる。

 カナが「そっか……」と呟いて、ため息をつく。
 そして、覚悟を決めたように俺を見上げる。

「マリ、話がある」
 カナの目は真剣で、少し怖いほどの決意を感じさせた。

「なんだよ、急に改まって」
 緊張を隠すように、軽く言葉を返す。でも、心臓は激しく鼓動していた。

「このままじゃまずい……。これ以上俺に近づかない方がいいよ?」
「何で?」

 急に距離を置こうとするカナの言葉に、予想以上に動揺する自分がいた。

「俺、ゲイなんだ」

 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。カナの真剣な表情を見て、それが冗談ではないことがわかる。

「高校の時、ゲイバレして、色々大変で...それからずっと隠してきたんだ。誰にも知られないように……」

 カナは視線を落とし、苦い表情を浮かべた。過去の傷がまだ癒えていないことが痛いほど伝わってくる。

「……そうだったのか」

 言葉が途切れた。カナの過去を想像して、全身に痛みが走る。

「ああ。だから……このままだと、どうなっても知らないよ?また、隙を見せたら、変なことするかもしれないし」

 カナの言葉は警告でありながら、どこか挑発的に響いた。

「カナ……俺のこと……好きなのか?」

 思わず口から出た言葉に自分でも驚いたが、引き下がれない。知りたかったのだ。カナの本当の気持ちを。

 カナは少し目を見開いたが、すぐに表情を元に戻した。

「……俺も?って言いたいのか?」

 その言葉に、心臓が跳ねる。俺も?ということは……。

「いや、その……」

 言葉に詰まる俺を見て、カナはため息をつく。

「マリの映画にはちゃんと出るからさ。撮影が終わったら、前の先輩後輩に戻れる?撮影後は距離を置かせて欲しい。これ以上一緒にいたら、この関係を壊しそうで怖いんだ」

 その言葉に、魂が震える。カナは俺から離れようとしている。自分を守るために。そして、俺を守るために……。

 距離を置く?たまに会話するだけの関係に戻る?そんなのは絶対嫌だ。

「距離を置くなんて嫌だ。こんなに仲良くなれたのに、どうしてそんな寂しいことを言うんだ?」

 思わず強く言ってしまう。カナの目が微かに揺れた。

「じゃあ、マリはどうしたいの?」

 その質問に、言葉が詰まる。俺は何がしたいんだろう?

 カナのことは好きだ。それは間違いない。彼の笑顔を見ていたい。彼と一緒に映画を撮りたい。話したい。触れ合いたい...でも、まだ気持ちが追いつかない……。

「前向きに考えたい。もう少し時間をくれないか?心の準備をさせて」

 俺の答えに、カナの表情が和らぐ。希望の光が差したような、そんな瞳だった。

「じゃあ、撮影最終日までに答えを出して」
「うん……分かった」

 この約束の重みを、二人とも感じていた。いつもと違う、ぎこちない空気が流れる。帰り道はいつもより会話は少なかった。けれど、時々偶然手が触れる度に、電流が身体に走る。

 カナは俺のことを好きなのかもしれない。そう思うと嬉しくて体中が熱を帯びる。でも、俺と一緒にいることが彼にとって辛いのかもしれない……。

 でも、俺は離れたくないのだ。男と付き合うことなんて俺にできるのだろうか?まだ自信を持って、返事できない自分がいる。女の子とも付き合ったことがない俺には難易度が高すぎた。

 でも、カナと離れる選択肢だけは取りたくなかった。
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