異世界配信始めました~無自覚最強の村人、バズって勇者にされる~

たまごころ

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第3話 初配信「村の畑からこんばんは」

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翌朝、村の広場では珍しく人がざわめいていた。昨日の魔獣騒ぎの話題がまだ尾を引いているのだろう。けれど、その中心で俺を見た人々が一斉に手を振り、にこやかに声をかけてきた。  

「リアム様、おはようございます!」  
「今日の配信も楽しみにしてます!」  
「うちの孫が“リアムチャンネル”のファンなんですよ!」  

リアムチャンネル……そんな名前にした覚えはない。  
たぶんルミナスが勝手に設定したんだろう。  

『ご主人さま、おはようございます! 昨日の夜配信、大好評でした! 同時視聴者七千人突破ですよ!』  
「七千!? 寝るって言ったのに勝手に夜配信したのか!」  
『日中のログを編集して、おやすみ総集編をアップしただけです! “村人の日常Vlog”ってタグで!』  
「完全にYouTube文化だな、おい……」  

ルミナスはぴょこんと宙に浮かび、青白い光で周囲を照らす。朝ではなく、まるで舞台の照明のようだった。  

『さて、今日はどんな配信内容にしましょう?』  

「そうだな……。この村の人たちにこれ以上迷惑かけても悪いし、落ち着いた内容がいいな。」  
『では、“畑作業ライブ”はいかがでしょう! 素朴な労働系配信、最近伸びてます!』  
「そんな需要あるのか?」  
『コメント欄の統計によれば、“働く姿が癒やされる”という女性視聴者層が増加中です!』  
「なんだその市場分析……」  

嫌な予感はしつつも、まだ村の空気に慣れていなかった俺はルミナスの提案を受けることにした。たかが畑仕事、危険もないし、のんびり過ごすにはちょうどいい。  

村の北側にひらけた小さな畑がある。まだ朝露が残る畝に、老齢の農夫が黙々とクワを振るっていた。  
「リアムじゃねぇか。昨日は助かったな。」  
「いえ、俺は何も……。今日は手伝わせてもらっていいですか?」  
「もちろんよ。ほら、あの端の畝、雑草が生い茂ってる。片付けてくれ。」  

俺がクワを手に取ると、ルミナスがすかさず動いた。  

『では――配信開始! タイトル:“村の畑からこんばんは”! 実働配信スタートです!』  

「こんばんはじゃなくておはようだろ!」  
『語感です! だいじなのは雰囲気!』  

例の光のウィンドウが空中に浮かび、早くもコメントが流れ始めた。  

【リアムおは!】  
【なんか今日の雰囲気エモい】  
【異世界スローライフ回きた!】  
【この構図、朝チャンネル感ある】  
【ルミナスちゃんの声癒し】  

やっぱり向こうでは朝でも夜でもない人が観ているんだろう。何人が観ているかと思って聞いてみると、ルミナスがにこやかに言った。  

『今は同接一万二千です!』  
「お前、それ落ち着いた配信ってレベルじゃねぇだろ……」  

ため息をつきながら、クワを振るった。サク、サクと土を掘り返す音が小気味いい。日差しが強くなり始めると、背中に汗がにじむ。  

【リアムの作業音がASMR】  
【異世界の土って黒いな】  
【農具どこで買えるの?】  
【これゲーム化してほしい】  
【なんか癒される回】  

こっちは真剣に働いてるのに、コメント欄ではまるでラジオ感覚だ。  
ルミナスが勝手に“作業BGM”とかいうタグを追加していた。  

しばらく作業していると、どこからか悲鳴が聞こえた。振り返ると、村の南の方で何かが暴れている。  

『魔物反応です! 距離、約四百メートル! 移動速度速いです!』  
「またかよ!?」  
畑をほっぽり出して走りだした。ルミナスが自動追尾モードでついてくる。  

村の木柵の向こう側、巨大なイノシシのような魔獣が突進していた。角の先には光の膜がゆらめき、魔力を帯びている。  

『種別、ランクB魔獣・ソーラーボア! 太陽光を吸収して暴走中です!』  
「またBランクか! 俺、武器も持ってないんだぞ!」  

だが、もう間に合わない。家畜小屋に突っ込もうとしている。  
俺は手近なクワを掴み、反射的に投げつけた。  

ガンッ、と金属音が響く。クワは光を放ちながら矢のように飛び、ソーラーボアの額に突き刺さった。魔獣は呻き声を上げて後方に吹き飛び、そのまま土煙を上げて倒れる。  

……静寂。  

『ご主人さま、す、すごいです! ただの農具を魔導兵器並みに扱ってます!』  
【今の何!?】  
【農業チート】  
【クワ投げワンパン】  
【笑ったけどカッコいい】  
【マジでこの人何者】  

コメント欄が祝祭モードだ。村人たちは固まり、誰もが俺を見て口を開いている。  

俺も混乱していたが、とりあえず念のため息を整えた。魔物は体を黒煙に変えて灰になり、魔石を残して消えた。  

『討伐完了! 再生数、急激に上がってます! “農具ワンパン勇者”がトレンドトップです!』  
「頼むから変なタグつけるなああ!」  

気づけばもう、逃げられないほど有名になってしまっていた。  

夕方、討伐の騒ぎが収まったあと、再び配信を覗いてみると登録者が一気に二万人を超えていた。ルミナスは嬉しそうにクルクル回っている。  

『ご主人さま、コメントの伸びも抜群です。“リアム=村人説崩壊”という考察動画まで出ていますよ!』  
「考察って……何を考察されてんだ俺」  

晩飯の席でも村人たちが寄ってきて、次々に食べ物を差し出してきた。  
「リアム様、今日も助けてくださって!」  
「次はぜひうちの畑にも!」  
「聖人様、祝福をお祈りいたします!」  

発言がだんだん宗教的になってきて怖い。  

夜。家に戻ると、ルミナスがふわりと光っていた。  
『今日も素晴らしい配信でした! 総再生数三十万! コメント数四万!』  
「……お前、そんなに張り切るなよ」  
『でも嬉しいんです。ご主人さまの映像、みんなが笑顔で見てるんです。誰かを救ったり、励ましたりしてるんです。私もこの映像を通してそれを感じます。』  

意外にも真摯な声だった。いつもおちゃらけているルミナスが、こんなに穏やかなトーンでしゃべるのは珍しい。  

「お前……そういうこと考えてるのか」  
『はい。だって私は観測するために生まれた精霊です。でも、こうして誰かが喜ぶ映像を残せるのなら、それ以上に嬉しいことはありません。』  

ほんの少しだけ、胸の奥にあたたかいものが灯った気がした。  
けれど、その直後にルミナスがいつもの調子に戻って言った。  

『ということで次回予告です! “禁断の森潜入ライブ”! 視聴者参加型アンケートで九割が賛成でした!』  
「やめろ! 森とか絶対ろくなことにならない!」  
『ご主人さまの安全は私が保証します! もちろん全自動カメラ追跡モードで!』  

もはやこの暴走精霊を止められる者はいないのかもしれない。  

その夜、布団に転がりながら天井を見上げた。  
異世界に転生して、平穏な村人ライフを送りたかったはずが、気づけば世界配信者。  

「……これ、本当にスローライフになってるのか?」  

ルミナスのレンズが柔らかく光り、囁いた。  
『スローかどうかじゃなく、楽しければいいんです!』  

その声に苦笑しながら、俺は眠りに落ちた。  
知らないうちに、遠く離れた王都では“無自覚最強配信者リアム”の名前が正式に魔導通信紙に載り、国中に広まり始めていた。
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