6 / 7
第6話 俺の家はオーシャンビュー。魔法で一瞬にしてヴィラ建築
しおりを挟む
南の島の朝は、やはり最高だ。
まばゆい日差しと、波の音。そして、隣には美しい人魚の王女様。
「カイ様、おはようございます」
「ああ、おはようメルディ」
俺たちは『プライベート・プール』のほとりで、優雅な朝食を摂っていた。
メニューは、完熟バナナのパンケーキ風(すり潰して焼いただけだが、驚くほど甘い)と、搾りたてのフルーツジュース。
メルディは水路から顔を出し、プールサイドに置いたテーブルに肘をついて食事を楽しんでいる。
完璧な朝だ。
……と言いたいところだが、俺には少し気になっていることがあった。
「……やっぱり、不便だな」
「えっ? 何がですか?」
メルディがキョトンとして小首を傾げる。
俺は手に持っていた『器』を軽く持ち上げて見せた。
それは、大きな葉っぱを重ねて作っただけの簡易的な皿だ。
コップも、ひょうたんや竹を切っただけのもの。
フォークやナイフも、木の枝を削った即席品だ。
「これだよ、これ。サバイバル生活ならこれで十分かもしれないけど、せっかく王女様と一緒に暮らすんだ。もっとこう、文化的で洗練された生活がしたいと思わないか?」
俺の言葉に、メルディはクスリと笑った。
「ふふ、カイ様ったら。私はカイ様といられるだけで、王宮のどんな豪華な食器よりも、この葉っぱのお皿の方が素敵に見えますけれど」
「それは嬉しいけど、俺の職人魂が許さないんだ」
俺は元・兵站管理官だ。
物資の管理だけでなく、現地での陣地構築や設備の設営も仕事の一部だった。
効率的で、快適で、美しい環境を整えることにかけては、誰にも負けないという自負がある。
今の拠点は、漂着初日に『植物支配』で適当に作ったログハウス風の小屋だ。
雨風はしのげるし、それなりに快適だが、所詮は「仮宿」レベル。
壁には隙間があるし、窓にはガラスが入っていないから虫が入ってくることもある(俺のアロマで防いでいるが)。
キッチンもないし、トイレも簡易的なものだ。
何より、風呂がない。
「よし、決めたぞメルディ」
「何をですか?」
「今日は『大改装』の日だ。この仮拠点を、世界一の高級リゾートヴィラに生まれ変わらせる」
俺は立ち上がり、太陽に向かって拳を突き上げた。
あり余る魔力と、最強のスキル『トロピカル・ロード』。
これを使えば、現代日本の知識と異世界の魔法を融合させた、夢のマイホームが作れるはずだ。
「ええっ? でも、建物を建て直すなんて、何ヶ月もかかるんじゃ……」
「見ててくれ。俺にかかれば一瞬さ」
俺は自信満々に笑うと、作業を開始した。
◆ ◆ ◆
まずは素材の確保だ。
木材はこのジャングルに無限にある。
だが、木だけでは限界がある。
石材と、そして何より『ガラス』が欲しい。
俺は砂浜へ降りた。
ここの砂は真っ白で不純物が少ない。珪砂(けいしゃ)の成分が多そうだ。
「メルディ、ちょっと離れててくれ。熱くなるから」
「は、はい」
俺は砂浜の一角に、大量の砂を山盛りにした。
そして、意識を集中させる。
スキル『トロピカル・ロード』の権能――『太陽熱操作』。
空にある太陽から降り注ぐエネルギーを、レンズで集めるように一点に集中させる。
「太陽光収束(ソーラー・フォーカス)!」
カッッッ!
目も眩むような閃光と共に、砂山が高温に熱せられる。
数千度という超高熱により、砂が一瞬で融解し、ドロドロの液体へと変わっていく。
俺はすかさず魔力操作(念動力に近いものだ)で、その液体を空中に持ち上げ、薄く引き伸ばした。
「固まれ!」
温度を急激に下げ、結晶化を防ぎながらアモルファス状に固定する。
パキパキという音と共に、空中に巨大な透明の板が完成した。
一枚ガラスだ。しかも、強化ガラス並みの強度を持たせてある。
「す、すごいです……! 砂が宝石の板になりました!」
「ガラスだよ。これがあれば、窓からの景色を楽しみながら、雨風を完全に防げる」
俺は同じ手順で、大小様々なガラス板を数十枚作り出した。
ついでに、ガラスのコップや皿、ボウルなどの食器類も作成する。
不揃いな形も味があっていいが、今回は洗練されたデザインを目指した。
次に、石材だ。
島の岩場から切り出した岩石を、『太陽熱操作』で加工する。
熱で切断し、表面を溶かしてセラミックのようにツルツルに仕上げる。
これを床材やタイルの代わりにするのだ。
「よし、素材は揃った。いよいよ建築だ」
俺は元のログハウスの前に立った。
一度解体する必要はない。
植物を生きたまま組み替えて、増築・改築を行う『リノベーション』スタイルでいく。
「――起動、植物支配(プラント・ルーラー)」
俺が地面に手を触れると、ズズズ……と地鳴りが響いた。
ログハウスを構成していた木々が、再び生命を得たように蠢き出す。
幹が太くなり、枝が複雑に絡み合い、より高く、より広く展開していく。
「一階部分は広々としたリビングダイニング。床は白大理石風のセラミックタイルを敷き詰める」
植物の根がタイルの形に合わせて土台を作り、そこへ先ほど作った石板がパズルのようにハマっていく。
一瞬にして、真っ白で清潔感のある床が出来上がった。
「壁面は強度のある『鉄木(アイアン・ウッド)』をベースに、大きな開口部を設ける。そこへガラスを嵌め込む」
巨大な一枚ガラスが、木枠の中に吸い込まれるように収まる。
これで、室内からでも海が一望できる『オーシャンビュー・リビング』の完成だ。
「二階は寝室。風通しを良くしつつ、プライバシーを守るデザインに。屋根は断熱性の高い多重構造の葉で覆う」
さらに、俺は別棟を作ることにした。
メルディのための、水路直結のゲストルームだ。
プールからそのまま室内に入れるように、床の一部を水槽のように低くし、水を引き込む。
「ここなら、メルディも室内でくつろげるだろ?」
「は、はいっ! 夢みたいです!」
メルディが完成していく部屋を見て目を輝かせている。
だが、俺のこだわりはここからだ。
家具だ。
ただの木箱のような椅子では休まらない。
俺は『綿花(コットン)』に似た植物を急速成長させ、大量のふわふわな綿を収穫した。
さらに、弾力のあるツル植物をバネ代わりにして、ソファの骨組みを作る。
そこへ綿を詰め込み、滑らかな繊維で織った布で包み込む。
ポンッ。
あっという間に、ふかふかのカウチソファが出現した。
クッションもセットだ。
「座ってみてくれ」
「え、えっと……」
メルディがおずおずとソファ(彼女は尾ひれがあるので、横たわる形だが)に体を預ける。
「きゃっ……! な、なんですかこれ! 雲の上にいるみたいです!」
「人をダメにするソファ、異世界バージョンだ」
俺はニヤリと笑った。
これで快適な堕落ライフが送れる。
そして、今回のメインイベント。
日本人として、これだけは譲れない設備。
そう、風呂だ。
ヴィラの裏手、海を見下ろす高台に、俺は岩を削って大きな浴槽を作った。
大人四人が余裕で入れるサイズだ。
底には滑り止めの加工を施し、縁には頭を乗せられる枕状の木材を配置する。
「水よ、来たれ」
地下水脈からポンプアップした水を浴槽に満たす。
そして、『太陽熱操作』で加熱。
ボコボコと泡が出るジャグジー機能も、空気を取り込む植物の管を使って再現した。
「露天ジャグジーの完成だ」
湯気が立ち上る。
硫黄の匂いはないが、代わりにジャングルに自生する香木のエキスを数滴垂らす。
ヒノキ風呂にも似た、芳醇な香りが辺りに漂った。
「か、カイ様……これは……?」
「お風呂だよ。お湯に浸かって疲れを取るんだ。人魚のメルディにはお湯は熱すぎるか?」
「いえ、私たちも暖かい海流の温泉地に行くことはあります。でも、こんなに素敵な場所は初めてです……」
これで、衣食住の全てが極まった。
完成したヴィラを見上げる。
南国の緑に溶け込むような、ウッディでモダンなデザイン。
大きなガラス窓には青い空と海が映り込み、テラスにはプールが輝いている。
屋上にはサンデッキがあり、夜はそこで星空観察もできる。
「これが俺の城、『トロピカル・ヴィラ』だ」
所要時間、約一時間。
現代の建築技術者が泣いて逃げ出すスピード施工だ。
だが、手抜きは一切ない。
魔力と植物の生命力で結合された構造体は、鉄筋コンクリートよりも頑丈だ。
「さあ、入ろうか」
俺はメルディをエスコートして、生まれ変わったヴィラの中へと足を踏み入れた。
室内はひんやりと涼しい。
計算された通気口から海風が通り抜け、ガラスが熱を遮断しているからだ。
リビングの中央には、立派なダイニングテーブル。
その上には、先ほど作ったガラスのグラスと皿が並べられ、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
壁際には、果実酒を並べたバーカウンターも設置した。
「すごい……本当に、一瞬でこんな……」
メルディは室内を見回し、ため息をついた。
そして、水路がつながっている専用のスペースへ移動し、そこからソファのあるリビングへと身を乗り出した。
「カイ様は、魔法使いというより、創造神様のようですね」
「言い過ぎだよ。俺はただ、快適に暮らしたいだけの一般人さ」
俺はソファに腰を下ろし、深く沈み込んだ。
ああ、これだ。
この包み込まれるような安心感。
北の国の固い木の椅子とは雲泥の差だ。
「……ねえ、カイ様」
メルディが甘えるような声を出した。
彼女は水路から這い出し、濡れた体のまま、俺の隣のソファへとにじり寄ってくる。
「せっかくこんなに素敵な『愛の巣』ができたのですから……その、お祝いをしませんか?」
「お祝い?」
「はい。例えば……先ほどのお風呂に、一緒に入るとか」
彼女の頬が赤い。
露天ジャグジーでの混浴。
その単語の響きに、俺の理性が少し揺らいだ。
だが、まだ昼間だ。
健全なリゾートライフを標榜する俺としては、いきなりそこまでアクセルを踏んでいいものか。
「そ、それは夜の楽しみにとっておこう。まずは昼飯だ。新しいキッチンで、何かすごいものを作ってやるよ」
俺は慌てて立ち上がり、キッチンへと逃げ込んだ。
最新鋭(魔法式)のコンロとオーブンを完備したシステムキッチンだ。
メルディは「むぅ、焦らしますね」と唇を尖らせていたが、すぐに「美味しいもの!」と目を輝かせた。
今日のメニューは、昨日の残りのカニ肉を使った『カニクリームコロッケ風・揚げ焼き』と、新鮮な魚介の『カルパッチョ』、そしてデザートには『ココナッツミルクのアイスクリーム』だ。
冷蔵庫(氷魔法を付与した石室)も完備したので、冷たいデザートも作れるようになったのが大きい。
料理をしている間、俺は鼻歌交じりに包丁を動かした。
窓の外には絶景。
部屋の中には美少女(人魚)。
そして俺の手には、世界を変えるほどの力。
「最高だな」
独り言が漏れる。
この幸せが永遠に続けばいい。
いや、俺が守り抜いてみせる。
誰にも邪魔はさせない。
もし、故国の連中が「戻ってこい」なんて言ってきても、絶対に断る。
こんな天国を知ってしまったら、あんな極寒の地獄には死んでも戻れない。
俺は心の中で固く誓った。
◆ ◆ ◆
その頃、ヴィラから少し離れたジャングルの奥深く。
一対の視線が、新しく建った豪邸をじっと観察していた。
木々の枝に隠れるようにして佇む人影。
その肌は健康的な褐色で、長く尖った耳を持っている。
身に纏っているのは、植物の繊維で編まれた狩人の装束だ。
「……信じられない。あんな短時間で、森の木々をあそこまで変異させるなんて」
彼女――褐色のハイエルフは、驚愕に目を見開いていた。
エルフ族は森と共に生き、植物魔法を得意とする種族だ。
だが、彼女の常識を遥かに超える光景が、目の前で繰り広げられていた。
「あの魔力……太陽のような、圧倒的な生命力。彼はいったい何者?」
彼女は弓を握りしめた。
敵意はない。
あるのは、純粋な好奇心と、そして……。
「長老様が言っていた、『森を救う救世主』かもしれない……」
彼女のお腹が、ぐぅと小さく鳴った。
彼女の住む集落は今、深刻な食糧難に見舞われていた。
森の異変により、獲物が減り、果実が実らなくなっていたのだ。
だが、あの男の周りだけは、異常なほど植物が活性化し、食べ物が溢れている。
「……美味しそうな匂い」
風に乗って流れてくる、カニクリームコロッケの香ばしい匂い。
彼女はゴクリと喉を鳴らした。
「少しだけ……話を聞いてみようかな」
褐色のハイエルフは、音もなく木々を渡り、ヴィラへと近づいていった。
カイの南国ハーレムに、新たな美少女が加わるまで、あとわずか。
そしてそれは、カイの『食糧生産能力』が、島の住人たちを救う第一歩となる出来事でもあった。
◆ ◆ ◆
「ん? 誰か来たか?」
キッチンで料理をしていた俺は、ふと気配を感じて顔を上げた。
『植物支配』のネットワークが、何者かの接近を告げている。
だが、敵意は感じない。
むしろ、お腹を空かせた野良猫のような、切実な気配だ。
「メルディ、客人が来るかもしれない。皿をもう一枚用意しておいてくれ」
「えっ? 誰ですか?」
「さあな。でも、この匂いに釣られて来た食いしん坊さんなら、歓迎してやらないとな」
俺はフライパンの上でジュワジュワと音を立てるコロッケをひっくり返した。
黄金色の衣が、実に美味しそうだ。
新しい出会いの予感。
俺のリゾートライフは、まだまだ賑やかになりそうだ。
(第7話へ続く)
まばゆい日差しと、波の音。そして、隣には美しい人魚の王女様。
「カイ様、おはようございます」
「ああ、おはようメルディ」
俺たちは『プライベート・プール』のほとりで、優雅な朝食を摂っていた。
メニューは、完熟バナナのパンケーキ風(すり潰して焼いただけだが、驚くほど甘い)と、搾りたてのフルーツジュース。
メルディは水路から顔を出し、プールサイドに置いたテーブルに肘をついて食事を楽しんでいる。
完璧な朝だ。
……と言いたいところだが、俺には少し気になっていることがあった。
「……やっぱり、不便だな」
「えっ? 何がですか?」
メルディがキョトンとして小首を傾げる。
俺は手に持っていた『器』を軽く持ち上げて見せた。
それは、大きな葉っぱを重ねて作っただけの簡易的な皿だ。
コップも、ひょうたんや竹を切っただけのもの。
フォークやナイフも、木の枝を削った即席品だ。
「これだよ、これ。サバイバル生活ならこれで十分かもしれないけど、せっかく王女様と一緒に暮らすんだ。もっとこう、文化的で洗練された生活がしたいと思わないか?」
俺の言葉に、メルディはクスリと笑った。
「ふふ、カイ様ったら。私はカイ様といられるだけで、王宮のどんな豪華な食器よりも、この葉っぱのお皿の方が素敵に見えますけれど」
「それは嬉しいけど、俺の職人魂が許さないんだ」
俺は元・兵站管理官だ。
物資の管理だけでなく、現地での陣地構築や設備の設営も仕事の一部だった。
効率的で、快適で、美しい環境を整えることにかけては、誰にも負けないという自負がある。
今の拠点は、漂着初日に『植物支配』で適当に作ったログハウス風の小屋だ。
雨風はしのげるし、それなりに快適だが、所詮は「仮宿」レベル。
壁には隙間があるし、窓にはガラスが入っていないから虫が入ってくることもある(俺のアロマで防いでいるが)。
キッチンもないし、トイレも簡易的なものだ。
何より、風呂がない。
「よし、決めたぞメルディ」
「何をですか?」
「今日は『大改装』の日だ。この仮拠点を、世界一の高級リゾートヴィラに生まれ変わらせる」
俺は立ち上がり、太陽に向かって拳を突き上げた。
あり余る魔力と、最強のスキル『トロピカル・ロード』。
これを使えば、現代日本の知識と異世界の魔法を融合させた、夢のマイホームが作れるはずだ。
「ええっ? でも、建物を建て直すなんて、何ヶ月もかかるんじゃ……」
「見ててくれ。俺にかかれば一瞬さ」
俺は自信満々に笑うと、作業を開始した。
◆ ◆ ◆
まずは素材の確保だ。
木材はこのジャングルに無限にある。
だが、木だけでは限界がある。
石材と、そして何より『ガラス』が欲しい。
俺は砂浜へ降りた。
ここの砂は真っ白で不純物が少ない。珪砂(けいしゃ)の成分が多そうだ。
「メルディ、ちょっと離れててくれ。熱くなるから」
「は、はい」
俺は砂浜の一角に、大量の砂を山盛りにした。
そして、意識を集中させる。
スキル『トロピカル・ロード』の権能――『太陽熱操作』。
空にある太陽から降り注ぐエネルギーを、レンズで集めるように一点に集中させる。
「太陽光収束(ソーラー・フォーカス)!」
カッッッ!
目も眩むような閃光と共に、砂山が高温に熱せられる。
数千度という超高熱により、砂が一瞬で融解し、ドロドロの液体へと変わっていく。
俺はすかさず魔力操作(念動力に近いものだ)で、その液体を空中に持ち上げ、薄く引き伸ばした。
「固まれ!」
温度を急激に下げ、結晶化を防ぎながらアモルファス状に固定する。
パキパキという音と共に、空中に巨大な透明の板が完成した。
一枚ガラスだ。しかも、強化ガラス並みの強度を持たせてある。
「す、すごいです……! 砂が宝石の板になりました!」
「ガラスだよ。これがあれば、窓からの景色を楽しみながら、雨風を完全に防げる」
俺は同じ手順で、大小様々なガラス板を数十枚作り出した。
ついでに、ガラスのコップや皿、ボウルなどの食器類も作成する。
不揃いな形も味があっていいが、今回は洗練されたデザインを目指した。
次に、石材だ。
島の岩場から切り出した岩石を、『太陽熱操作』で加工する。
熱で切断し、表面を溶かしてセラミックのようにツルツルに仕上げる。
これを床材やタイルの代わりにするのだ。
「よし、素材は揃った。いよいよ建築だ」
俺は元のログハウスの前に立った。
一度解体する必要はない。
植物を生きたまま組み替えて、増築・改築を行う『リノベーション』スタイルでいく。
「――起動、植物支配(プラント・ルーラー)」
俺が地面に手を触れると、ズズズ……と地鳴りが響いた。
ログハウスを構成していた木々が、再び生命を得たように蠢き出す。
幹が太くなり、枝が複雑に絡み合い、より高く、より広く展開していく。
「一階部分は広々としたリビングダイニング。床は白大理石風のセラミックタイルを敷き詰める」
植物の根がタイルの形に合わせて土台を作り、そこへ先ほど作った石板がパズルのようにハマっていく。
一瞬にして、真っ白で清潔感のある床が出来上がった。
「壁面は強度のある『鉄木(アイアン・ウッド)』をベースに、大きな開口部を設ける。そこへガラスを嵌め込む」
巨大な一枚ガラスが、木枠の中に吸い込まれるように収まる。
これで、室内からでも海が一望できる『オーシャンビュー・リビング』の完成だ。
「二階は寝室。風通しを良くしつつ、プライバシーを守るデザインに。屋根は断熱性の高い多重構造の葉で覆う」
さらに、俺は別棟を作ることにした。
メルディのための、水路直結のゲストルームだ。
プールからそのまま室内に入れるように、床の一部を水槽のように低くし、水を引き込む。
「ここなら、メルディも室内でくつろげるだろ?」
「は、はいっ! 夢みたいです!」
メルディが完成していく部屋を見て目を輝かせている。
だが、俺のこだわりはここからだ。
家具だ。
ただの木箱のような椅子では休まらない。
俺は『綿花(コットン)』に似た植物を急速成長させ、大量のふわふわな綿を収穫した。
さらに、弾力のあるツル植物をバネ代わりにして、ソファの骨組みを作る。
そこへ綿を詰め込み、滑らかな繊維で織った布で包み込む。
ポンッ。
あっという間に、ふかふかのカウチソファが出現した。
クッションもセットだ。
「座ってみてくれ」
「え、えっと……」
メルディがおずおずとソファ(彼女は尾ひれがあるので、横たわる形だが)に体を預ける。
「きゃっ……! な、なんですかこれ! 雲の上にいるみたいです!」
「人をダメにするソファ、異世界バージョンだ」
俺はニヤリと笑った。
これで快適な堕落ライフが送れる。
そして、今回のメインイベント。
日本人として、これだけは譲れない設備。
そう、風呂だ。
ヴィラの裏手、海を見下ろす高台に、俺は岩を削って大きな浴槽を作った。
大人四人が余裕で入れるサイズだ。
底には滑り止めの加工を施し、縁には頭を乗せられる枕状の木材を配置する。
「水よ、来たれ」
地下水脈からポンプアップした水を浴槽に満たす。
そして、『太陽熱操作』で加熱。
ボコボコと泡が出るジャグジー機能も、空気を取り込む植物の管を使って再現した。
「露天ジャグジーの完成だ」
湯気が立ち上る。
硫黄の匂いはないが、代わりにジャングルに自生する香木のエキスを数滴垂らす。
ヒノキ風呂にも似た、芳醇な香りが辺りに漂った。
「か、カイ様……これは……?」
「お風呂だよ。お湯に浸かって疲れを取るんだ。人魚のメルディにはお湯は熱すぎるか?」
「いえ、私たちも暖かい海流の温泉地に行くことはあります。でも、こんなに素敵な場所は初めてです……」
これで、衣食住の全てが極まった。
完成したヴィラを見上げる。
南国の緑に溶け込むような、ウッディでモダンなデザイン。
大きなガラス窓には青い空と海が映り込み、テラスにはプールが輝いている。
屋上にはサンデッキがあり、夜はそこで星空観察もできる。
「これが俺の城、『トロピカル・ヴィラ』だ」
所要時間、約一時間。
現代の建築技術者が泣いて逃げ出すスピード施工だ。
だが、手抜きは一切ない。
魔力と植物の生命力で結合された構造体は、鉄筋コンクリートよりも頑丈だ。
「さあ、入ろうか」
俺はメルディをエスコートして、生まれ変わったヴィラの中へと足を踏み入れた。
室内はひんやりと涼しい。
計算された通気口から海風が通り抜け、ガラスが熱を遮断しているからだ。
リビングの中央には、立派なダイニングテーブル。
その上には、先ほど作ったガラスのグラスと皿が並べられ、太陽の光を受けてキラキラと輝いている。
壁際には、果実酒を並べたバーカウンターも設置した。
「すごい……本当に、一瞬でこんな……」
メルディは室内を見回し、ため息をついた。
そして、水路がつながっている専用のスペースへ移動し、そこからソファのあるリビングへと身を乗り出した。
「カイ様は、魔法使いというより、創造神様のようですね」
「言い過ぎだよ。俺はただ、快適に暮らしたいだけの一般人さ」
俺はソファに腰を下ろし、深く沈み込んだ。
ああ、これだ。
この包み込まれるような安心感。
北の国の固い木の椅子とは雲泥の差だ。
「……ねえ、カイ様」
メルディが甘えるような声を出した。
彼女は水路から這い出し、濡れた体のまま、俺の隣のソファへとにじり寄ってくる。
「せっかくこんなに素敵な『愛の巣』ができたのですから……その、お祝いをしませんか?」
「お祝い?」
「はい。例えば……先ほどのお風呂に、一緒に入るとか」
彼女の頬が赤い。
露天ジャグジーでの混浴。
その単語の響きに、俺の理性が少し揺らいだ。
だが、まだ昼間だ。
健全なリゾートライフを標榜する俺としては、いきなりそこまでアクセルを踏んでいいものか。
「そ、それは夜の楽しみにとっておこう。まずは昼飯だ。新しいキッチンで、何かすごいものを作ってやるよ」
俺は慌てて立ち上がり、キッチンへと逃げ込んだ。
最新鋭(魔法式)のコンロとオーブンを完備したシステムキッチンだ。
メルディは「むぅ、焦らしますね」と唇を尖らせていたが、すぐに「美味しいもの!」と目を輝かせた。
今日のメニューは、昨日の残りのカニ肉を使った『カニクリームコロッケ風・揚げ焼き』と、新鮮な魚介の『カルパッチョ』、そしてデザートには『ココナッツミルクのアイスクリーム』だ。
冷蔵庫(氷魔法を付与した石室)も完備したので、冷たいデザートも作れるようになったのが大きい。
料理をしている間、俺は鼻歌交じりに包丁を動かした。
窓の外には絶景。
部屋の中には美少女(人魚)。
そして俺の手には、世界を変えるほどの力。
「最高だな」
独り言が漏れる。
この幸せが永遠に続けばいい。
いや、俺が守り抜いてみせる。
誰にも邪魔はさせない。
もし、故国の連中が「戻ってこい」なんて言ってきても、絶対に断る。
こんな天国を知ってしまったら、あんな極寒の地獄には死んでも戻れない。
俺は心の中で固く誓った。
◆ ◆ ◆
その頃、ヴィラから少し離れたジャングルの奥深く。
一対の視線が、新しく建った豪邸をじっと観察していた。
木々の枝に隠れるようにして佇む人影。
その肌は健康的な褐色で、長く尖った耳を持っている。
身に纏っているのは、植物の繊維で編まれた狩人の装束だ。
「……信じられない。あんな短時間で、森の木々をあそこまで変異させるなんて」
彼女――褐色のハイエルフは、驚愕に目を見開いていた。
エルフ族は森と共に生き、植物魔法を得意とする種族だ。
だが、彼女の常識を遥かに超える光景が、目の前で繰り広げられていた。
「あの魔力……太陽のような、圧倒的な生命力。彼はいったい何者?」
彼女は弓を握りしめた。
敵意はない。
あるのは、純粋な好奇心と、そして……。
「長老様が言っていた、『森を救う救世主』かもしれない……」
彼女のお腹が、ぐぅと小さく鳴った。
彼女の住む集落は今、深刻な食糧難に見舞われていた。
森の異変により、獲物が減り、果実が実らなくなっていたのだ。
だが、あの男の周りだけは、異常なほど植物が活性化し、食べ物が溢れている。
「……美味しそうな匂い」
風に乗って流れてくる、カニクリームコロッケの香ばしい匂い。
彼女はゴクリと喉を鳴らした。
「少しだけ……話を聞いてみようかな」
褐色のハイエルフは、音もなく木々を渡り、ヴィラへと近づいていった。
カイの南国ハーレムに、新たな美少女が加わるまで、あとわずか。
そしてそれは、カイの『食糧生産能力』が、島の住人たちを救う第一歩となる出来事でもあった。
◆ ◆ ◆
「ん? 誰か来たか?」
キッチンで料理をしていた俺は、ふと気配を感じて顔を上げた。
『植物支配』のネットワークが、何者かの接近を告げている。
だが、敵意は感じない。
むしろ、お腹を空かせた野良猫のような、切実な気配だ。
「メルディ、客人が来るかもしれない。皿をもう一枚用意しておいてくれ」
「えっ? 誰ですか?」
「さあな。でも、この匂いに釣られて来た食いしん坊さんなら、歓迎してやらないとな」
俺はフライパンの上でジュワジュワと音を立てるコロッケをひっくり返した。
黄金色の衣が、実に美味しそうだ。
新しい出会いの予感。
俺のリゾートライフは、まだまだ賑やかになりそうだ。
(第7話へ続く)
0
あなたにおすすめの小説
追放された『修理職人』、辺境の店が国宝級の聖地になる~万物を新品以上に直せるので、今さら戻ってこいと言われても予約で一杯です
たまごころ
ファンタジー
「攻撃力が皆無の生産職は、魔王戦では足手まといだ」
勇者パーティで武器や防具の管理をしていたルークは、ダンジョン攻略の最終局面を前に追放されてしまう。
しかし、勇者たちは知らなかった。伝説の聖剣も、鉄壁の鎧も、ルークのスキル『修復』によるメンテナンスがあったからこそ、性能を維持できていたことを。
一方、最果ての村にたどり着いたルークは、ボロボロの小屋を直して、小さな「修理屋」を開店する。
彼の『修復』スキルは、単に物を直すだけではない。錆びた剣は名刀に、古びたポーションは最高級エリクサーに、品質すらも「新品以上」に進化させる規格外の力だったのだ。
引退した老剣士の愛剣を蘇らせ、村の井戸を枯れない泉に直し、ついにはお忍びで来た王女様の不治の病まで『修理』してしまい――?
ルークの店には、今日も世界中から依頼が殺到する。
「えっ、勇者たちが新品の剣をすぐに折ってしまって困ってる? 知りませんが、とりあえず最後尾に並んでいただけますか?」
これは、職人少年が辺境の村を世界一の都へと変えていく、ほのぼの逆転サクセスストーリー。
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
異世界レストラン・フェルマータ ~追放料理人の俺、神の舌で世界を喰らう~
たまごころ
ファンタジー
王都の五つ星料理店を追放された若き料理人カイ。理不尽な仕打ちに絶望しかけたその瞬間、彼は異世界で目を覚ます。
そこは「味覚」が魔力と結びついた世界──。美味を極めれば魔力が高まり、料理は民を癒やし、王すら跪く力を持つ。
一介の料理人だったカイは、神の舌「フェルマータ」の力に目覚め、貧しい村に小さな食堂を開く。
だがその料理は瞬く間に世界を変え、王侯貴族、聖女、竜姫、女勇者、果ては神々までが彼の皿を求めるようになる。
追放された男の、料理と復讐と愛の異世界成り上がり劇、ここに開店!
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。
しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。
絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。
一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。
これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!
追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい
夏見ナイ
ファンタジー
「お荷物」――それが、Sランク勇者パーティーで雑用係をするリアムへの評価だった。戦闘能力ゼロの彼は、ある日ついに追放を宣告される。
しかし、パーティーの誰も知らなかった。彼らの持つ強力なスキルには、使用者を蝕む”代償”が存在したことを。そして、リアムの持つ唯一のスキル【代償転嫁】が、その全てを人知れず引き受けていたことを。
リアムを失い、スキルの副作用に蝕まれ崩壊していく元仲間たち。
一方、辺境で「呪われた聖女」を救ったリアムは自らの力の真価を知る。魔剣に苦しむエルフ、竜の血に怯える少女――彼は行く先々で訳ありの美少女たちを救い、彼女たちと安住の地を築いていく。
これは、心優しき”お荷物”が最強の仲間と居場所を見つけ、やがて伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる