「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった

たまごころ

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第16話 街の発展。いつの間にか「聖域」と呼ばれているようです

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「……アレン様。大変です。森の入り口がパンクしています」

朝の定例会議にて、行政担当官(兼俺の専属マッサージ師)のセラムが、少し疲れた顔で報告してきた。
彼女の手には、羊皮紙の束が握られている。それは全て、入国許可を求める申請書の山だった。

「パンクって、商人が増えたからか?」

「それもありますが、商人だけではありません。噂を聞きつけた冒険者、職人、さらには近隣諸国からの難民や、病気を治したいという富裕層まで……数千人規模の人々が、森の前にテント村を作って待機しているのです」

セラムが窓の外を指差す。
俺の【千里眼】で見ると、確かに森の境界線付近に、色とりどりのテントがびっしりと並んでいた。
まるで大規模なフェスの会場のようだ。

原因は明白だ。
先日売り出した『アレン・ウォーター』の効果が凄すぎたのだ。
「死にかけの老人が走った」「不治の病が治った」という噂が噂を呼び、今やこのアレン領は、万病を癒やす奇跡の地として聖地巡礼の対象になりつつあるらしい。

「うーん、予想以上の反響だな」

俺はコーヒー(自家焙煎)を啜りながら唸った。
人が集まるのは良いことだ。
労働力になるし、金も落ちる。
だが、今のままでは彼らを受け入れる施設がない。
野宿させておくのも忍びないし、衛生面や治安も心配だ。

「よし、街を作ろう」

俺はカップを置いた。

「えっ? 街、ですか?」
隣でスコーンを頬張っていたベアトリクスが、粉を飛ばしながら聞き返す。
「宿場町くらいならともかく、数千人が住める街なんて……準備に何年かかると思っているのですか?」

「今日一日で作る」

「はい?」

「俺の土魔法なら造作もない。それに、人が集まる場所には宿と飯屋と風呂が必要だ。それを整備して、彼らから滞在費を徴収する。完璧なビジネスモデルだろ?」

俺はニヤリと笑った。
ベアトリクスは「またこの男の常識外れが始まった……」という顔で天を仰いだが、すぐに気を取り直して「警備計画を練り直します」と立ち上がった。順応が早くて助かる。

   ***

俺たちは早速、森の入り口付近の広場へ向かった。
そこは以前、キラーボアと遭遇した場所だが、今は俺の魔法で整地され、広大な平地になっている。

境界線の向こう側では、入国を待つ人々がごった返していた。
ベアトリクス率いる元白薔薇騎士団の団員たちが、必死に交通整理をしているが、殺気立った群衆を抑えるのは限界そうだ。

「おい! いつになったら入れるんだ! 俺はポーションを買いに来たんだぞ!」
「母が病気なんです! どうか通してください!」
「こっちは大金を積む用意があるんだ!」

怒号と懇願が飛び交うカオス状態。
これはいけない。

「オニキス」
『御意』

俺が指を鳴らすと、護衛として連れてきた黒曜石のゴーレムが、ズシンと一歩前に出た。
その巨体から放たれる圧倒的なプレッシャー(魔王軍将軍クラス)が、波紋のように広がっていく。

「ひっ……!?」
「な、なんだあの化け物は!?」

群衆が一瞬で静まり返った。
恐怖による静寂。
これで話が通る。

俺は少し高くなった岩の上に立ち、拡声魔法を使った。

「ようこそ、アレン領へ。俺が領主のアレンだ」

俺の声が平原に響き渡る。
数千人の視線が俺に集中した。

「現在、当領地は受け入れ態勢を整えている最中だ。だが、お前たちの熱意(と欲望)はよく分かった。そこで、今からここに新しい街を作る。入居希望者は順番に手続きをしてくれ」

「街を作る? 今から?」
「何を言ってるんだ、あの領主は」

人々がざわつく。
無理もない。街作りとは数十年単位の国家プロジェクトだ。
それを「今からやる」と言われても、法螺話にしか聞こえないだろう。

「論より証拠だ。……フェリス、セラム、マナの供給を頼む」
「はいっ! アレン様!」
「承知いたしました」

二人が俺の背中に手を添える。
フェンリルの膨大な自然魔力と、ハイエルフの精緻な精霊魔力が俺の中に流れ込む。
まあ、俺単独でも余裕だが、演出として「みんなで力を合わせている感」を出した方が、領民へのアピールになるだろう。

俺は大地に手を突き立てた。

スキル発動。
【土魔法(極)】×【建築(極)】×【錬金術(極)】。
対象範囲、半径5キロメートル。
イメージ展開。
モデルは、前世で憧れた「欧風リゾート都市」と、機能的な「城下町」のハイブリッド。

「『クリエイト・メトロポリス(巨都創造)』ッ!!」

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

大地が唸りを上げた。
人々が悲鳴を上げて後退る中、奇跡が起きた。

地面から、石材が生き物のように隆起する。
それは瞬く間に形を変え、整然とした石畳の道路となり、その両脇には煉瓦造りの建物が次々と競り上がっていく。
一階部分は店舗、二階部分は住居。
窓にはガラス(錬金術で砂から生成)が嵌め込まれ、屋根には色とりどりの瓦が並ぶ。

さらに、街の中央には巨大な広場と噴水が出現。
地下には上下水道が自動生成され、街灯となる魔石柱が等間隔に配置される。

わずか10分後。
そこには、何もない荒野だった場所に、人口1万人規模を収容できる美しい都市が完成していた。

「な……な……」
「馬鹿な……夢か……?」
「神よ……」

群衆は言葉を失い、ある者はその場に跪いて祈りを捧げ始めた。
魔法で家を一軒建てる職人はいるが、都市丸ごとを一瞬で作るなど、神話の領域だ。

「……ふぅ。こんなもんか」

俺は額の汗(演出用)を拭った。

「ようこそ、アレン領の玄関口、『始りの街(アレン・シティ)』へ。今日からここがお前たちの拠点だ」

歓声が上がった。
いや、それは歓声を通り越して、熱狂的な咆哮だった。

「アレン様万歳! 領主様万歳!」
「奇跡だ! 俺たちは伝説の目撃者だ!」

こうして、俺の領地に最初の都市が誕生した。

   ***

街ができてからは早かった。
セラムの指揮のもと、入国審査と居住区の割り当てがスムーズに行われた。

「商人は商業区画へ! テナント料は売上の1割です!」
「職人は工房区画へどうぞ! 設備は自由に使って構いません!」
「冒険者はギルド支部(予定地)へ! 魔物素材は高価買取します!」

セラムの事務処理能力は凄まじかった。
彼女は分身スキルを使っているのではないかと疑うほど、あちこちで的確な指示を飛ばしている。
さすがは元王女。国政のノウハウがある。

一方、警備担当のベアトリクスも忙しそうだった。

「列を乱すな! 横入りした奴は最後尾に並び直せ!」
「そこ! ゴミを捨てるな! 領主様が作った美しい道路を汚す気か!」

彼女の怒号が飛ぶたびに、荒くれ者の冒険者たちも「ひえっ、剣聖姫だ……」と縮み上がって従っている。
白薔薇騎士団の威光は健在だ。
それに、彼女たちが身につけている装備(俺のハンドメイド製)が放つ魔力が凄すぎて、誰も逆らおうとしない。

そして、フェリスは……。

「わあぁっ! 屋台がいっぱいです! いい匂いがします!」
「これあげるよ、お嬢ちゃん!」
「銀髪の美少女だ、拝んでおこう」

彼女は街のマスコットとして、住民たちに愛されていた。
串焼きを貰ったり、子供たちと遊んだり。
だが、彼女がいるだけで「この街は神獣に守られている」という安心感が生まれ、治安維持に一役買っているのだから侮れない。

俺はというと、街の中央に建てた領主館(仮の執務室)で、リナが入れてくれた紅茶を飲んでいた。

「平和ですね、ご主人様」
「ああ。みんなよく働いてくれる」

「……この街、すごいです。水道から聖水が出るし、街灯は一晩中消えないし、道路には塵一つ落ちていない。魔王都より快適ですよ」
リナが窓の外を見ながら苦笑する。

そう、この街には俺の「やりすぎ」な機能が満載されている。
まず、上水道。
ここにはヴォルガスの温泉水と、セラムの浄化魔法を組み合わせた水が流れている。
飲むだけで体力が回復し、軽度の病気なら治ってしまう「薄めたポーション」のような水だ。
これを住民たちは普段使いしている。
当然、健康状態は劇的に改善する。

次に、環境マナ。
街の地下には、俺が設置した巨大な魔力炉(ダンジョンの魔石を利用)があり、そこから結界を通じて清浄なマナが街中に供給されている。
これにより、街の中にいるだけで魔力が回復し、精神が安定する。
喧嘩が減り、鬱屈とした空気が消える。

そして、温泉。
街の各所に、誰でも入れる公衆浴場を作った。
もちろん源泉掛け流しだ。
これが旅の疲れを癒やし、商談や交流の場として大いに賑わっている。

これらの要素が組み合わさった結果、何が起きたか。

「ここに来れば病気が治る」
「若返った気がする」
「商売がうまくいく(精神安定効果のおかげ)」

そんな噂が真実となり、人々はこの街を畏敬の念を込めてこう呼び始めた。

――『聖域(サンクチュアリ)』と。

   ***

数日後。
街の一角にある工房区画。
そこには、槌音が響き渡る鍛冶場があった。

「カァン! カァン! ……ふぅ、いい鉄だ」

汗を拭っているのは、筋肉隆々のドワーフ族の親方、ガンツだ。
彼はかつてバルガの街で細々と店をやっていたが、アレン領の噂を聞きつけ、いち早く移住してきた職人の一人だ。

「どうだ、ガンツ。ここの暮らしは」
俺が視察に訪れると、彼は満面の笑みで迎えてくれた。

「おう、領主様! 最高だぜ! なんたって、素材がダンチだ!」

彼が叩いているのは、この森で採掘された『魔鉄鉱』だ。
通常なら加工困難な硬度を持つが、俺が貸与した『魔導炉』を使えば、バターのように加工できる。

「それに、ここの水と空気がいいのか、疲れを知らねぇんだ。一日中叩いてても平気だぜ。おかげで、生涯最高の剣が打てそうだ!」

「それはよかった。完成したら見せてくれよ」

「ああ! 領主様の騎士団に納める分、気合入れて作るからな!」

他の区画でも同様だった。
薬師は森の薬草に感動し、料理人は魔物肉の質の良さに驚愕し、商人は税制の優遇(初年度免税)に涙して感謝している。

亜人たちも多い。
エルフ、獣人、ドワーフ。
他の国では迫害されがちな彼らも、ここでは対等な市民として扱われる。
何しろ、領主の側近がハイエルフとフェンリルなのだから、差別などあろうはずがない。
彼らは独自の技術や文化を持ち込み、街をさらに豊かにしてくれている。

「アレン様、人口が1万人を突破しました」
セラムが嬉しそうに報告してくる。
「税収も予想以上です。このペースなら、第二都市の計画も前倒しできそうです」

「ああ。次は農耕区画を広げよう。食料自給率を1000%くらいにして、輸出大国にするぞ」

全てが順調だった。
順調すぎて怖いくらいだ。

だが、光があれば影もある。
この急速な発展を、快く思わない連中も当然いるわけで。

   ***

バルガの街、領主館。
ハミルトン男爵は、青ざめた顔で報告書を握りつぶしていた。

「な、なんだこれは……! アレン領の人口が1万? 経済規模がバルガを抜いただと!?」

「は、はい。商人も職人も、みんなアレン領へ流れてしまっています。このままではバルガはゴーストタウンになります!」
部下が悲鳴を上げる。

ハミルトンは歯ぎしりした。
彼にとって、『死の森』はただの厄介払いしたゴミ捨て場だったはずだ。
それを金貨1000枚で売りつけた時は、いいカモが来たと嘲笑っていた。
それがどうだ。
今やあそこは金のなる木、いや、金の山だ。

「くそっ……! 騙された! あいつは最初からあの森の価値を知っていたんだ!」
ハミルトンは机を叩いた。

「取り返すぞ。あの土地は本来、我が国のものだ。不当な手段で奪われたと言いがかりをつけてでも、回収してやる!」

「で、ですが男爵様。相手はSSランクドラゴンを使役し、剣聖姫ベアトリクスを従える化け物ですよ? 武力で制圧するのは……」

「わかっている! だから、搦め手を使うのだ」

ハミルトンは陰湿な笑みを浮かべた。

「王国法務省に訴える。そして、教会にも手を回す。『聖域』などと自称し、怪しげな儀式を行っている異端者だと告発してな」

無能な小悪党の浅知恵。
だが、それが火種となり、アレン領は王国との本格的な対立へと巻き込まれていくことになる。
……まあ、アレンにとっては「暇つぶし」程度のイベントにしかならないのだが。

   ***

【閑話】その頃の勇者一行。

「おい、新入り! そっちのドブがまだ残ってるぞ!」
「へ、へい……すいません……」

カイルは、腰まで汚泥に浸かりながら作業をしていた。
バルガの下水道清掃。
これが今の彼らの「クエスト」だ。
報酬は日当で銅貨数枚。
パンとスープを買えば消えてしまう額だ。

「くそっ……臭い……」
「爪が割れちゃった……」

マリアとニーナも泥まみれだ。
レオンに至っては、汚泥の毒素で肌がかぶれ、包帯グルグル巻きになっている。

「ねぇ、聞いた?」
休憩中、ニーナが小声で言った。
「隣の『アレン領』ってとこ。すごく景気がいいんだって。誰でも仕事がもらえて、ご飯も美味しいらしいよ」

「……行きたいなぁ」
マリアがぽつりと漏らす。
「温泉もあるんでしょ? 綺麗な服も着られるのかな……」

「馬鹿言うな!」
カイルが怒鳴った。
「俺たちは勇者パーティーだぞ! そんな怪しげな新興都市に尻尾を振って行けるか! それに、領主の名前が『アレン』だぞ? あの裏切り者と同じ名前だ。縁起でもない」

カイルはまだ気づいていない。
その領主こそが、彼らが捨てた元仲間であることを。
あるいは、薄々勘付いていながら、それを認めるのが怖くて思考停止しているのかもしれない。

「俺たちはここで再起を図るんだ。金を貯めて、装備を整えて……見てろよ、すぐにSランクに戻り咲いてやる」

カイルは汚れたスコップを握りしめた。
その目には、もはや希望の光はなく、ただ現状にしがみつく執着だけが残っていた。

そんな彼らの前に、一台の豪華な馬車が通りかかった。
窓から顔を出したのは、見覚えのある少女――リナだった。
彼女はアレンの使いで買い出しに来ていたのだ。

「あ、あら? そこにいるのは……」

リナが気づいた。
カイルたちと目が合う。

「……誰だっけ? まあいいか。汚いから近づかないでおこう」

リナはパタンと窓を閉めた。
馬車は泥水を跳ね上げて走り去る。

「あ……」

カイルは言葉を失った。
見下された。
かつて戦った魔王軍の幹部(だと彼は気づいていないが)のような美女に、完全にゴミを見る目で見られた。

「うぁぁぁぁぁぁッ!!」

カイルはドブの中で叫んだ。
その声は、街の喧騒にかき消され、誰にも届くことはなかった。

「聖域」と呼ばれるアレンの街と、汚泥にまみれる勇者たち。
光と影のコントラストは、残酷なまでに鮮明になりつつあった。

(つづく)
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