「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった

たまごころ

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第15話 俺の領地、特産品(ポーション)の効果が凄すぎて商人が殺到する

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「アレン様、報告があります。……食糧庫の備蓄が、想定よりも早く底をつきそうです」

アレン城の執務室。
新たに我が国の『騎士団長』に就任したベアトリクスが、真剣な表情で書類を提出してきた。
彼女の純白の騎士服は、昨日俺が【裁縫(極)】で作った新品だ。以前の王国の鎧よりも防御力が高く、しかもボディラインを強調するデザインになっているのは、完全に俺の趣味である。

「食料か。まあ、三百人の騎士がいきなり増えたからな」

俺は書類に目を通した。
白薔薇騎士団三百名。
彼らは全員、アレン領への移住を希望し、現在は城の周囲に簡易宿舎(これも俺が土魔法で一瞬で建てた)を作って生活している。
畑の野菜や森の魔物肉で賄ってはいるが、調味料や嗜好品、消耗品の類は、やはり外部から購入する必要がある。

「金貨の備蓄はまだ十分にありますが、支出ばかりで収入がないのは国家運営として健全ではありません」
ベアトリクスが至極真っ当な指摘をする。

「騎士たちも、ただ飯を食うのは申し訳ないと、森の開拓や魔物討伐に精を出してくれていますが……やはり、外貨を稼ぐ手段が必要です」

「そうだな。国を作るなら、経済を回さないとな」

俺は椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。
5億ガルドはあるが、国作りとなれば湯水のように消えていく。
持続可能な収入源、つまり『特産品』が必要だ。

「よし、何か作って売るか」
「何か、とは?」

「この森には資源が腐るほどある。特に、そこらへんに生えている雑草……いや、薬草だ」

俺は窓の外を指差した。
『死の森』はマナ濃度が異常に高い。
そのため、道端に生えているただの草でさえ、市場に出回っている高級薬草以上の魔力を秘めているのだ。

「あれを使って、ポーションを作る。それを我が国の特産品第一号として売り出そう」

   ***

善は急げだ。
俺たちは早速、城の地下に『王立錬金術工房』を設置した。
といっても、俺が魔法で部屋を拡張し、機材を並べただけだが。

「アレン様、薬草を集めてきました!」
フェリスが背負いカゴ一杯の草を持ってくる。
「私も手伝いました。良質なマナを含んだものを選別済みです」
セラムも大量の薬草を抱えている。

「ありがとう。じゃあ、これを加工しよう」

俺は【錬金術(極)】を発動させた。
普通のポーション作りなら、煮出して、濾過して、調合して……と手間がかかるが、レベル9999の俺にはそんな工程は不要だ。

「『抽出』『濃縮』『最適化』」

俺が指を鳴らすと、山積みの薬草が一瞬で光の粒子に分解され、空中のフラスコへと収束していく。
不純物は完全に取り除かれ、純粋な有効成分だけが抽出される。
さらに、ヴォルガスの温泉水(ミネラル豊富)をベースに混ぜ合わせる。

コポポポ……。

完成したのは、透き通るようなサファイアブルーの液体だった。
瓶詰めされたそれは、仄かに発光している。

「鑑定」

【アレン印の特製ポーション】
【ランク】SSS
【効果】HP・MP全回復、部位欠損再生、全状態異常治癒、若返り効果(小)、疲労完全回復
【副作用】あまりに美味すぎて依存症になる恐れあり

「……やりすぎたな」

俺は小瓶を見つめて唸った。
これ、ポーションじゃない。『エリクサー』だ。
市場で売れば一本で城が建つレベルの代物になってしまった。
こんなものを安売りしたら、世界の経済バランスが崩壊するし、戦争の火種になりかねない。

「薄めよう」

俺は普通の蒸留水で100倍に希釈した。
それでもまだ光っている。
さらに100倍、計1万倍に希釈した。

【アレン印の量産型ポーション】
【ランク】A
【効果】上級回復薬相当。深い傷も瞬時に塞がり、風邪や病気も治る。滋養強壮効果あり。

「これくらいなら、まあ『すごい薬』レベルで済むか」

1万倍に薄めてもAランク相当。
原価はほぼタダ(雑草と水)。
これぞ錬金術だ。

「リナ、試飲してみてくれ」
「えっ、私ですか? 毒見役?」
「毒なわけあるか。美容にいいぞ」

リナはおずおずと小瓶を受け取り、一口飲んだ。
瞬間。

カッ!

彼女の肌が内側から発光した。
少し寝不足気味だった目の下の隈が消え、肌に赤ん坊のようなハリとツヤが戻る。
髪はキューティクルを取り戻し、全身から活力がみなぎってくる。

「な、なんですかこれぇっ!?」
リナが自分の頬を触って叫ぶ。
「肩こりが消えた! 肌がプルプル! 昨日の夜ふかしの疲れが嘘みたい!」

「よし、合格だ。これを『アレン・ウォーター』として売り出すぞ」

俺は自動生産ライン(ゴーレムによる流れ作業)を構築し、一時間で1000本のポーションを製造した。
これをバルガの街へ持ち込み、商談といこう。

   ***

要塞都市バルガ、商業ギルド。
ここは冒険者ギルドとは違い、商人たちが覇を競う金の戦場だ。

俺はフェリスと、護衛兼荷物持ちとしてベアトリクス(私服姿)を連れて訪れた。
ベアトリクスは「騎士団長が荷物持ちとは……」とブツブツ言っていたが、俺が「帰りにパフェ奢るから」と言うと、「任せてください」と即答した。ちょろい。

受付で商談を申し込むと、すぐにギルド長室へと通された。
出てきたのは、恰幅の良い初老の男、カルロだ。
この街の経済を牛耳る大商人である。

「ほう、あの『死の森』を買ったという噂の若き領主様ですか。して、本日はどのような商談で?」
カルロは愛想笑いを浮かべながらも、その目は鋭く俺を値踏みしていた。

「領地で採れた特産品を売りたいと思ってね。これだ」

俺は『アレン・ウォーター』を一本、テーブルに置いた。

「ポーション、ですか? ふむ……見た目は綺麗ですが、ポーションなら既存の薬師ギルドとの契約がありましてな。よほど高品質か、安価でないと……」

「効果は保証する。百聞は一見に如かずだ。あんた、腰が悪そうだな?」

俺はカルロの動きのぎこちなさを指摘した。
彼は驚いたように眉を上げた。
「おやおや、お見通しですか。長年のデスクワークでヘルニアを患っておりまして……」

「なら、これを一本飲んでみてくれ。試供品だ」

カルロは半信半疑で小瓶を手に取った。
まあ、毒ではないだろうと判断したのか、彼はそれを飲み干した。

「ん……? 美味い。爽やかな果実水のような……おっ? おおっ!?」

カルロが椅子から飛び上がった。
バキボキッ!
背骨が鳴り、曲がっていた腰がシャンと伸びる。

「こ、腰が痛くない! いや、それだけじゃない! 目が……老眼で霞んでいた視界がクリアに! 体が軽い! 20代の頃に戻ったようだ!」

カルロは執務室の中で反復横跳びを始めた。
元気すぎる老人だ。

「な、なんと素晴らしい……! これほどのポーション、見たことがありません! 王都のハイポーション……いや、エリクサーにも匹敵するのでは!?」

「まあ、量産品だからな。一本あたり銀貨5枚(約5000円)で卸そうと思うんだが、どうだ?」

「ぎ、銀貨5枚ぃぃッ!?」

カルロが絶叫した。
「安すぎます! 市場なら金貨1枚(約10万円)でも飛ぶように売れますよ!? 価格破壊どころか、薬業界が消滅します!」

「俺としては、薄利多売で広く普及させたいんだ。庶民でも買える値段で、どんな病気も治せる薬。悪くないだろ?」

「……あ、あなたという人は……」

カルロは震えながら俺を見た。
それは畏怖と、そして商人としての強烈な興奮だった。

「わかりました! 私が責任を持って販売ルートを確保しましょう! この『アレン・ウォーター』、バルガ……いや、世界中へ売り捌いてみせます!」

「契約成立だな」

俺たちは握手を交わした。
これで、アレン領の財政基盤は盤石なものとなった。

   ***

翌日。
バルガの街は、上を下への大騒ぎになっていた。

「おい、聞いたか!? 『死の森』の領主が売り出したポーション、あれヤバいぞ!」
「死にかけの婆さんが飲んだら、翌日には走り回ってたって!」
「ハゲが治ったってマジか!?」
「一本銀貨10枚だってよ! 急げ! 売り切れるぞ!」

商業ギルドの前には長蛇の列ができ、周辺の国々からも商人が馬車を飛ばして殺到していた。
『アレン・ウォーター』。
その奇跡の効果は瞬く間に広まり、アレン領の名を一躍世界に轟かせることになった。

   ***

その喧騒を、冒険者ギルドの片隅で呆然と見つめる4人の影があった。
勇者カイル一行である。

彼らは昨日、ようやく街に辿り着いた。
しかし、待っていたのは地獄だった。
ギルドマスターのガンザスから、正式にSランク剥奪と、Fランクへの降格を言い渡されたのだ。
さらに、彼らが街に残していた借金(装備の維持費や豪遊のツケ)の返済を迫られ、装備も財産もない彼らは、その日の宿代にすら困る状況だった。

「……なんだよ、あれ」

カイルは乾いた唇を震わせて、商業ギルドの前の狂乱を見ていた。

「アレン・ウォーター……? アレン領……? まさか、あいつのことじゃないよな?」

「そんなわけないでしょ!」
マリアが悲鳴のように否定する。
「あのアレンよ? ただの荷物持ちよ? 領主になって、あんな凄い薬を作ってるなんて……そんなの、信じないわ!」

だが、目の前を通る商人の馬車には、アレン城の紋章(俺が適当に描いたAのマーク)が入った木箱が山積みになっている。
そして、その箱一つ一つが、今のカイルたちが一生かけても稼げないほどの価値を持っているのだ。

「おい、お前ら! ここで油売ってる暇があったら、ドブさらいの仕事に行け!」

ギルド職員に怒鳴られ、カイルたちはビクッと肩を震わせた。
今の彼らに回ってくる仕事は、Fランク向けの雑用――下水道の清掃や、建築現場のゴミ拾いしかなかった。

「ちくしょう……ちくしょう……!」

カイルは拳を握りしめた。
爪が食い込み、血が滲む。

「なんであいつばっかり……! 俺は勇者だぞ……聖剣に選ばれた男だぞ……!」

彼らがボロボロの服でドブさらいの現場へと向かう背後で、アレン・ウォーターを積んだ豪華な馬車が、泥を跳ね上げて通り過ぎていった。
泥水を浴びたカイルは、それを拭う気力もなく、ただ馬車の行方を睨みつけていた。

   ***

一方、アレン城。

「アレン様! すごいです! 初回の出荷分、即完売です!」
フェリスが報告書を持って飛び込んできた。

「売上金が入金されました。……金貨50万枚です」
リナが通帳を見て手が震えている。

「たった一日で、小国の年間予算を超えましたね」
セラムが冷静に分析するが、その口元は緩んでいる。

「よし、これで資金の心配はなくなったな」

俺はソファで寛ぎながら頷いた。
騎士団の給料も弾んでやれるし、城の設備もさらに強化できる。

「次は街作りだ。商人がこれだけ来るなら、森の入り口に関所と宿場町を作ろう。そこでも金を落とさせれば、さらに儲かる」

俺の野望は尽きない。
だが、その前に一つ、やっておきたいことがあった。

「リナ。カイルたちの様子はどうだ?」

俺が尋ねると、リナは一瞬嫌そうな顔をして、報告した。

「……悲惨ですよ。下水道清掃で日銭を稼いで、安宿で雑魚寝してます。装備を買う金もないので、まだ木の棒で戦うつもりみたいです」

「そうか」

俺は興味なさそうに言ったが、心の中では少しだけスッキリしていた。
ざまぁみろ、という感情よりも、因果応報という言葉がしっくりくる。

「アレン様、彼らに慈悲を?」
セラムが聞いてくる。

「まさか。俺はただ、彼らがどこまで落ちるか見届けたいだけだ。……それに、彼らが落ちぶれれば落ちぶれるほど、俺たちの国が輝いて見えるだろ?」

俺は悪役のようなセリフを吐いて笑った。

だが、運命とは皮肉なものだ。
俺たちがこうして順調に成り上がっている裏で、世界を揺るがす大きな闇が動き始めていた。
魔王軍の本隊が動き出し、そして王国の中枢でも、ある陰謀が進行していたのだ。

カイルたちが再び俺の前に現れる時、それは彼らが「勇者」としてではなく、「魔王の手先」として立ちはだかる時なのかもしれない。
……まあ、そうなっても返り討ちにするだけだが。

「アレン様、ベアトリクスさんが『お代わりのカレーはないか』と厨房で暴れてます!」
「あいつ、食い意地張りすぎだろ……」

俺は平和な悩みに頭を抱えながら、執務室を出た。
今日もアレン領は平和である。

(つづく)
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