「役立たず」と追放されたが、俺のスキルは【経験値委託】だ。解除した瞬間、勇者パーティーはレベル1に戻り、俺だけレベル9999になった

たまごころ

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第18話 勇者たちが街に到着。「俺の装備を返せ」と騒いでいるようです

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アレン城のバルコニーから見下ろす景色は、今日も平和そのものだった。
眼下に広がる『始りの街(アレン・シティ)』は、朝から活気に満ちている。
市場には新鮮な野菜や魔物肉が並び、広場の噴水では子供たちが遊び、大通りのカフェテラスでは住民たちが優雅にモーニングコーヒーを楽しんでいる。
つい数日前までは、ただの危険な原生林だった場所とはとても思えない。

「アレン様、本日のスケジュールです」

執務机の横で、メイド姿のリナが予定表を読み上げる。
彼女のエプロンドレスは、今朝俺が新調した『耐火・防刃・自動清浄』機能付きの特別製だ。

「午前中は、商業区画の視察。午後は、地下ダンジョンのコア解析。夜は、フェリス様とセラム様による『どちらがアレン様の膝枕権を獲得するか』の決闘の立会いです」

「……最後のはなんだ?」

「定例行事ですよ。昨日はセラム様が勝ったので、今日はフェリス様が鼻息を荒くしています」

リナがクスクスと笑う。
平和だ。
魔王軍の脅威も、王国の干渉も、今のところは鳴りを潜めている。
……いや、正確には「嵐の前の静けさ」なのかもしれませんが。

「ご主人様。例の『お客様』が、城門前に到着したようです」

リナの声色が少しだけ低くなった。
俺は手元の水晶玉に目を落とした。
そこに映っているのは、城へと続く坂道を、肩をいからせて登ってくる四人の男女。
薄汚れた旅装束に身を包んでいるが、その目は異様なほど血走っている。

勇者カイル一行。
ついに、俺の目の前までやってきたわけだ。

「どうしますか? オニキスに踏み潰させますか? それともヴォルガスに焼かせますか?」
リナが物騒な二択を提示する。

「いや、せっかくだ。俺が直接出迎えよう。……ただし、あそこ(バルコニー)からな」

俺は立ち上がり、テラスへと向かった。
同じ目線で話す必要はない。
今の俺と彼らの間には、城壁よりも高い「格」の差があるのだから。

   ***

アレン城、正門前。

カイルは、目の前に聳え立つ巨大な城壁を見上げて、呆然としていた。
遠くから見た時も大きかったが、近くで見るとその威圧感は別格だ。
継ぎ目のない白亜の壁面。
それは魔法で錬成された『ミスリルコンクリート』であり、王都の城壁ですら子供の積み木に見えるほどの堅牢さを誇っていた。

「……ふざけやがって」

カイルはギリッと奥歯を噛み締めた。
この城の主がアレンだということは、街の様子を見て確信していた。
だが、認められない。
認めたくない。
あの荷物持ちが、自分たちを差し置いてこんな城に住んでいるなんて。

「カイル、見て。あの門番……」
マリアが震える声で指差す。

正門の前には、黒い軍服に身を包んだ兵士たちが立っていた。
彼らの装備は統一されており、胸には『A』の紋章が刻まれている。
そして、その兵士たちから放たれる魔力は、王国の近衛兵など比較にならないほど鋭い。

「……行くぞ」

カイルは虚勢を張って歩き出した。
俺は勇者だ。
腐っても、聖剣(今は量産品だが)に選ばれた男だ。
たかが地方領主の私兵風情に、気後れするわけにはいかない。

「止まれ。何用だ」

門の前に立つと、隊長らしき兵士が槍を交差させて行く手を阻んだ。
冷徹な声。
カイルたちを、まるで路傍の石ころを見るような目で見下ろしている。

「俺は勇者カイルだ! この城の主人、アレンに会わせろ!」

カイルは胸を張り、ハミルトン男爵から貰った勲章(のような安物)を見せつけた。
通常なら、勇者の名を聞けば、兵士は平伏して道を開けるはずだ。

だが、兵士は眉一つ動かさなかった。

「勇者? アポイントメントはあるのか?」

「は、アポだと? 勇者だぞ!? アポなど要るか! 緊急の用件だ、通せ!」

「アポなしの面会は受け付けていない。出直せ」

兵士は冷たく言い放ち、槍を戻そうとしなかった。
取り付く島もない。

「なっ……! 無礼者! 俺たちを誰だと思っている! 国王陛下から魔王討伐を任された『暁の剣』だぞ!」
レオンが顔を真っ赤にして喚く。

「知らんな。今の時代、自称勇者など掃いて捨てるほどいる。身分を証明できないなら、ただの不審者だ」

「ふ、不審者……!?」

カイルの中で、何かが切れた。
ここまで来て、門前払いだと?
スラムでドブさらいをし、泥水を啜って、ようやくここまで辿り着いたのに?

「いい加減にしろッ! アレン! いるんだろ! 出てこい!」

カイルは大声を張り上げた。
城に向かって、喉が裂けよとばかりに叫ぶ。

「隠れてないで出てきやがれ! 泥棒野郎! 俺の装備を返せ! 俺たちの金を返せッ!」

その声は、静かな城の前庭に響き渡った。
マリアもニーナも一緒になって叫び始めた。

「そうよ! 私のローブを返しなさいよ!」
「私のナックルも! あんたが持ってるんでしょ!」

醜い合唱。
それはまるで、高級レストランの前で騒ぐ酔っ払いのようだった。
周囲にいた観光客や商人たちが、眉をひそめて遠巻きに見ている。
「なんだあれ?」「勇者だって?」「あんな薄汚いのが?」
ヒソヒソという嘲笑が聞こえるが、カイルたちは止まらなかった。
騒げばアレンが出てくる。
そう信じていたからだ。

そして、その願いは叶った。

「……朝からうるさいな。野良犬か?」

頭上から、涼やかな声が降ってきた。
カイルが弾かれたように見上げる。

城門の上、テラス部分。
そこに、一人の青年が立っていた。
仕立ての良い漆黒のコートを風になびかせ、手にはワイングラスを持っている。
黒髪黒目。
どこにでもいそうな顔立ちだが、その全身から溢れ出るオーラは、かつての「荷物持ち」とは別人のように洗練されていた。

「ア……アレン……ッ!」

カイルの声が震えた。
間違いなく、アレンだ。
だが、見下ろされている。
物理的にも、存在的にも。

「よう、カイル。生きてたんだな。てっきり雪山で肥やしになってるかと思ったよ」

アレンは薄く笑った。
その笑顔には、再会の喜びなど欠片もなく、ただ純粋な「哀れみ」だけがあった。

「ふ、ふざけるな……! なんでお前がそこにいる! なんでそんな良い服を着てる! それは全部、俺たちのおかげだろ!」

カイルは地団駄を踏んだ。

「返せ! 今すぐ俺の聖剣エクスカリバーを返せ! あれがないと本気が出せないんだ! お前が盗んだせいで、俺たちはこんな……!」

「盗んだ?」

アレンは小首を傾げた。

「人聞きの悪いことを言うなよ。俺が持っていたのは、俺のスキルで管理していた『共有資産』だ。お前たちが一方的に契約解除(クビ)を言い渡した時点で、資産の分割協議もなしに追い出したんだから、管理者がそのまま保全するのは当然の権利だろ?」

「へ、屁理屈を言うな! あれは俺が国から預かったものだ!」

「なら、国に返しておいたよ」

アレンは平然と言った。

「お前らが使っていた装備、全部『質流れ品』として市場に出ていたのを、俺が買い取ったんだ。所有権は正式に俺にある。文句があるなら、金を払って買い戻せばいい」

「か、買い戻すだと……?」

「ああ。聖剣エクスカリバーなら、市場価格で金貨1万枚ってところか。まあ、今の俺にはただのコレクションだがな」

金貨1万枚。
今のカイルたちの全財産は、ハミルトンから貰った支度金を合わせても金貨10枚にも満たない。

「そ、そんな金あるわけないだろ! 俺たちは今、無一文なんだぞ!」
レオンが悲鳴を上げる。

「知るかよ。金がないなら働け。ウチの街では、ドブさらいでも真面目にやれば3食食えるぞ?」

「馬鹿にするなァァァッ!!」

カイルは腰の量産品の剣を抜いた。
殺気立った目でアレンを睨む。

「降りてこい! 決闘だ! 俺とお前で勝負しろ! 俺が勝ったら、装備も、この城も、全部俺たちに寄越せ!」

無茶苦茶な要求だ。
だが、カイルは本気だった。
アレンは元荷物持ち。戦闘スキルはない。
いくら金を持っていても、個人の戦闘力なら自分の方が上だと信じていた。
レベル1になっていることなど、怒りで忘れていた。

「決闘……ねぇ」

アレンはため息をついた。

「いいぜ。相手してやるよ」

「本当か!?」

「ただし、俺が出るまでもない。……おい、ベアトリクス。ちょっと教育してやれ」

アレンが指を鳴らすと、テラスの奥から一人の女性が現れた。
純白の騎士服に身を包み、腰に細身の剣を帯びた美女。
長い金髪をなびかせ、その凛とした瞳でカイルたちを見下ろした。

「べ……ベアトリクス……!?」

カイルが絶句した。
王国騎士団長、剣聖姫ベアトリクス。
カイルにとっても憧れであり、雲の上の存在だった彼女が、なぜアレンの横に控えているのか。

「お久しぶりですね、勇者カイル殿。……いえ、今はただの『カイル殿』ですか」

ベアトリクスは冷ややかに言った。

「な、なんであんたがここに……! まさか、王国を裏切ったのか!?」

「裏切ったのではありません。真の主君を見つけただけです。アレン王こそが、この乱世を治めるに相応しい器。それに比べて……貴様らの無様さはどうですか」

ベアトリクスは軽蔑の眼差しを向けた。

「装備を失い、借金にまみれ、元仲間に金をたかりに来る。それが勇者の姿ですか? 見ていて反吐が出ます」

「だ、黙れ! 俺はまだ終わってない! 装備さえあれば……!」

「装備がなければ戦えないのですか? 剣聖とは、木の枝一本でも最強であるべきもの。……教えてあげましょう。真の強さというものを」

ベアトリクスはテラスから飛び降りた。
ヒラリと、重力を感じさせない動きでカイルの目の前に着地する。
彼女は剣を抜かなかった。
ただ、鞘に入ったままの剣を構えた。

「かかってきなさい。四人同時で構いません」

「なめるなァッ! いくぞみんな! ここでアレンの側近を倒せば、形勢逆転だ!」

カイルが叫ぶ。
ニーナ、レオン、マリアも戦闘態勢に入る。
腐っても元Sランクパーティー。連携だけは体に染み付いている……はずだった。

「うぉぉぉッ!」

カイルが斬りかかる。
遅い。
まるでスローモーションだ。

「ハッ!」

ベアトリクスは鞘を一閃させた。

バチンッ!

「ぐべッ!?」

カイルの顔面に鞘が直撃した。
鼻が折れる音と共に、カイルは後ろに吹き飛んだ。

「カイル!?」
ニーナが蹴りを放つ。
だが、ベアトリクスはそれを見もせずに、最小限の動きで躱し、ニーナの軸足を払った。

ドスンッ!

「いったぁ~い!」
ニーナが尻餅をつく。

「『ファイア・ボール』!」
レオンが魔法を放つが、種火のような小さな火の玉が飛んでいくだけだ。
ベアトリクスはそれを素手で払い落とした。

「熱くもありませんね」

「ひぃっ!?」

瞬殺だった。
一分も経たずに、カイルたちは地面に転がされていた。
レベル1の烏合の衆と、アレンの装備で強化された元騎士団長。
勝負になるはずがなかった。

「……弱い。弱すぎます」

ベアトリクスはため息をついて鞘を納めた。

「これがかつて王国が期待した勇者パーティーですか。アレン様の荷物持ち(サポート)がなければ、ここまで脆いとは」

「ぐ、ぅ……くそぉ……」

カイルは泥に顔を埋めたまま、呻いた。
負けた。
完敗だ。
しかも、アレン本人ではなく、その部下に。

「満足したか?」

テラスから、アレンが声をかけた。

「装備がないから負けたんじゃない。お前らが弱いから負けたんだ。……帰れ。次に来る時は、もう少しマシな手土産を持ってくるんだな」

アレンは背を向けた。
もうカイルたちには興味がないというように。

「ま、待て……!」

カイルは震える手で地面を掴んだ。
このまま帰れるか。
こんな屈辱を受けたまま、引き下がれるか。

「まだだ……俺には、切り札がある……!」

カイルは懐に手を入れた。
ハミルトン男爵から渡された、「困った時に使え」と言われた黒い水晶。
魔力を増幅させ、一時的に限界を超えた力を引き出す禁断の魔道具だと聞いていた。

「これさえあれば……!」

カイルは水晶を握りつぶした。
その瞬間。

ドクンッ!!

黒い波動がカイルの体を包み込んだ。
憎悪と絶望を糧に、強制的に魔力を暴走させる。

「ウオオオオオオオオッ!!」

カイルの目が赤く染まり、筋肉が異様に膨れ上がった。
ただの強化ではない。
これは、魔族化――いや、魔物化に近い暴走状態だ。

「カイル!? やめて! その魔力、変よ!」
マリアが叫ぶが、もう遅い。

「アレンンンンンッ! 死ねェェェェェッ!!」

カイルは人間離れした跳躍力で、テラスのアレンに向かって飛びかかった。
殺意の塊となって。

「……やれやれ」

アレンは振り返った。
その顔には、驚きも焦りもなかった。

「ドーピングか。芸がないな」

アレンが指を鳴らした。

「オニキス」

ズドオォォォンッ!!

城門の横で石像のように静止していたゴーレムが、動いた。
巨大な掌が、空中のカイルをハエ叩きのように叩き落とした。

「ガハッ……!?」

カイルは地面に叩きつけられ、そのままオニキスに踏み潰された。

「ぐ、あ……あ、が……」

黒い魔力が霧散していく。
カイルは血を吐き、白目を剥いて痙攣していた。

「カイル!!」
マリアたちが駆け寄る。

「……殺しはしない。ゴミを処理するのも手間だからな」

アレンは冷たく言い放った。

「ベアトリクス、つまみ出せ。街の外に捨ててこい。二度と敷居を跨がせるな」

「御意」

ベアトリクスの指示で、衛兵たちがカイルたちを拘束し、荷物のように担ぎ上げた。

「離せ! 俺たちは勇者だぞ!」
「覚えてろアレン! 呪ってやる!」

捨て台詞を残し、かつての英雄たちはゴミのように城から放り出された。

   ***

城門が閉ざされる音が、重く響いた。
アレンはテラスに残り、小さくなっていくカイルたちの背中を見つめていた。

「……アレン様。よろしかったのですか?」

いつの間にか、背後にセラムが立っていた。

「もっと徹底的に断罪することもできたはずですが」

「ああ。でも、今の彼らに死を与えるのは慈悲すぎる」

アレンはワインを一口飲んだ。

「彼らはこれから、本当の地獄を見る。ハミルトンに失敗の報告をしなきゃならないし、禁断の道具を使った反動も来るだろう。生きて恥を晒し続けることこそが、彼らへの最大の罰だ」

「……お優しいのですね、アレン様は」
セラムは苦笑した。

「優しくなんかないさ。ただ、俺たちの幸せな生活に、汚い血を入れたくないだけだ」

アレンは空を見上げた。
青い空。白い雲。
平和なアレン領。
カイルたちの乱入というノイズは消え、再び穏やかな時間が戻ってきた。

「さあ、戻ろうか。フェリスが待ちくたびれてる」

「はい。……あ、アレン様。先ほどのカイルが使った黒い水晶ですが」
セラムが表情を曇らせた。
「あれは魔王軍が使う『魔性石』に酷似していました。やはり、裏で魔族が糸を引いているようです」

「だろうな。ハミルトン男爵も、ただの操り人形か」

アレンは目を細めた。
勇者騒動の裏に見え隠れする、より大きな悪意。
だが、それもまた、アレンにとっては退屈しのぎのイベントに過ぎない。

「魔王軍か。……向こうから来るなら、次は壊滅させてやるよ」

アレンは不敵に笑い、城の中へと戻っていった。

   ***

街の外れ、ゴミ捨て場。
カイルたちは、生ゴミの上に放り出されていた。

「う、ぅ……」
カイルが意識を取り戻す。
全身が痛い。骨が数本折れているかもしれない。
だが、それ以上に心が痛かった。

「負けた……また、負けた……」

圧倒的な敗北。
装備の差ではない。
実力の差。
アレンは指一本触れずに、自分たちを一蹴した。

「カイル……もうやめよう?」
マリアが泣きながら言った。
「勝てないわよ。あいつはもう、人間じゃない……」

「……まだだ」

カイルは泥を握りしめた。
その目から光は消えていたが、代わりに底なしの暗闇が広がっていた。

「魔王だ……あいつは魔王なんだ……」

カイルは狂ったように呟いた。

「勇者の使命は、魔王を倒すことだ。そうだろ? だから俺は……正義のために、あいつを殺さなきゃいけないんだ……」

勇者は堕ちた。
正義という名の妄執に取り憑かれた復讐鬼へと。

そして、その心の闇に呼応するように、影から一人の男が現れた。

「おやおや、無様なものですねえ、勇者様」

ハミルトン男爵――いや、その背後にいる『何者か』が、カイルに手を差し伸べた。

「力が欲しいですか? アレンに勝てる、絶対的な力が」

カイルは迷わずその手を取った。
それが、人間を辞める契約だとも知らずに。

(つづく)
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