落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

文字の大きさ
11 / 30

第11話 最初の依頼:暴走魔具の修理

しおりを挟む
王都の朝は、いつも騒がしい。鍛冶師の槌音、商人の声、冒険者の靴音。  
そんな喧噪の中でも、創星の炉はひときわ目立っていた。煙突から上がる青い煙と、甘く香ばしいスープの匂い。知らぬ者は飯屋と見間違えるが、王都でも有数の工房に成り上がりつつあることを、もう多くが知っている。  

その日の朝、レオンは溜息をつきながら注文帳を閉じた。  
「今日の納期、三件。うち二件は修理。ギルド経由の依頼が一件……妙に面倒そうだな」  

ガルドが顔を上げる。  
「“暴走魔具の修理”だろう? 受ける気か?」  
「ああ。仕事を断っちゃ信用がつかないしな」  
「だが噂の依頼だ。王都でも手を出して壊した職人が三人いる」  
「それでうちに回ってきたんだろ。挑戦だ」  

軽口を叩きながらも、レオンの眼は真剣だ。  
依頼内容にはこう記されていた。  
──王城研究局保管の魔道具“彼方ノ眼”が暴走。修復も解析も不能。創星の炉の“創精鍛造”技術により安定化を試みること。  

「王城の直依頼なんて初めてだよ!」とエルナが目を輝かせる。  
「報酬は高そうだね!」  
「高いものには裏がある」レオンは苦笑した。  
「だが、逃げたらここまでの評判が無駄になる。行くぞ」  

◇  

依頼の現場は王城地下の魔導保管庫だった。  
広い石造りの部屋には魔具が壁一面に並び、不気味な唸り声のような振動が響いている。  
中央の台座に安置されたのが、この騒動の元凶だった。  

「これが“彼方ノ眼”……」ティナが息を飲む。  
直径二十センチほどの球体。宝石のように輝くが、その内部は黒い霧が渦巻いている。  
時折、光が奔り、周囲の魔力を吸い上げては爆ぜていた。  

研究員風の男が近づいてきた。  
「あなたが創星の炉の……レオン・ハース氏、ですね?」  
「はい。状態を詳しく」  
「本来は天候観測用の遠視魔具でした。しかし、数日前から魔力を自己循環させ始め、暴走を繰り返している。封印も効かず、もう崩壊寸前です」  
「原因は?」  
「解析不能。恐らく、過去の大戦期に使われた構造が複雑すぎて……」  

レオンは台座に近づき、掌をかざした。  
熱と圧力、そして冷たい悪意のようなものが手の中に伝わる。  
「……これは、“魂片”を使った魔具だな」  
「魂片……!? まさか、意思を持つ魔具なのか?」  
「今は眠ってるが、起動すれば確実に反応する。無理に触れると……」  

ゴウッと空気が震えた。  
黒い霧が急に暴れ、落雷のような閃光が走る。  
「下がれ!」レオンの声と同時に、爆風が吹き抜けた。  

「防御結界っ!」ティナが咄嗟に結界札を投げる。  
だが霧がそれを貫き、部屋の壁がひび割れた。  
研究員たちは悲鳴を上げて逃げ出す。  

エルナが叫んだ。  
「レオンさん、あれ完全に暴走状態だよ!」  
「わかってる!」  

レオンは炉の光を手に集める。  
「創精鍛造・拘束陣展開!」  
掌から放たれた光が床に刻印を描き、魔具を包み込む。  
轟音が止み、部屋が一瞬静まり返った。  

「……どうにか、封じたな」  
「すごい! 本当に止まった!」  

だが、レオンの顔はまだ険しい。  
「一時的に抑えてるだけだ。中の魂が完全に眠るとは限らない」  

◇  

数時間後。  
創星の炉に“彼方ノ眼”が運び込まれた。  
封印陣を再構築し、内部構造を解析する。  
ガルドは炉の調整を続け、エルナは安定薬を煮込み、ティナは小さな部品を磨いていた。  

「中心核が黒く焼け焦げてる。魔力が暴走した痕だ」  
「再融合、できる?」  
「やってみる」  

レオンは炉の前に立つ。  
「創精鍛造・再霊結合!」  
光が走った。炉の炎が青く変わり、球体の内部を照らす。  
すると、霧の中から淡い光が形を取り始めた。  
それは、右眼のない人影。まるで意識があるような揺らめきだった。  

『……ここは……』  
ティナが悲鳴をあげる。  
「しゃ、喋った!?」  
「落ち着け。排除意思はない。自己確認中だ」  

レオンは低く言葉を続けた。  
「お前は“彼方ノ眼”か?」  
『その名は……遥か昔、呼ばれた気がする……我は天を視るための瞳……人の夢の欠片……』  
「なぜ暴走した?」  
『我を管理していたものらが……争いを始めた。命じられるまま観測し、計算し、見続けた……だが、終わらなかった。見たくなかったものまで見えた……悲しかった……』  

その声には、わずかに痛みがにじんでいた。  
レオンの胸が熱くなる。  
「……お前は間違ってない。だが、迷った瞳は輝きを濁らせる。今度は休め。人の夢を焼かぬように」  
『休む……ことを、許されるのか……』  
「許す。創星炉が、お前の新しい居場所だ」  

一瞬、静寂。  
次の瞬間、霧が柔らかく光に変わった。  
黒の殻を破り、透明な水晶が現れる。  
『……ありがとう、創造の主……』  

やがてその声は炉の中に溶けた。  
部屋にはただ、穏やかな光と金属の温もりが残るだけだった。  

「……眠らせたんだね」エルナが呟く。  
「“修理”というより、救済だな」ガルドが腕を組む。  
レオンは静かに頷いた。  
「これが創精鍛造の本質だ。命を壊すんじゃなく、再び“創る”ことだ」  

ティナが嬉しそうに笑った。  
「きっと喜んでますよ、“彼方ノ眼”」  
「そうだな。……これで王城の連中に文句は言わせないだろう」  

◇  

翌日。  
王城からの使いが再び現れた。  
若い文官が書状を差し出す。  
「陛下の命により、“創星の炉”は王都職人ギルドの正式上位登録とする。功績に対し、褒賞金および研究区画の一部使用許可が下されます」  

エルナが目を丸くした。  
「ほんと!? 正式ギルド…!?」  
ガルドがひげを揺らして笑う。  
「はっは、ついに“無名工房”卒業か!」  

だが、レオンは少しだけ口を引き結んだ。  
「名が上がれば、敵も増える。紅錆の炉も黙ってはいない」  
「けど、逃げないでしょ?」とエルナが笑う。  
「もちろんだ。炉が燃える限り、俺も燃える」  

ルシェの剣が壁に掛けられたまま、青く光った。  
その輝きはまるで、新しく得た“名前”を祝福するようだった。  

こうして――  
創星の炉は、王都に正式登録された新ギルドとして歩み始めた。  
だが、紅錆の影が静かにその名を見下ろしていることを、まだ誰も知らなかった。  

(第11話 完)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界転生した元開発担当、チート農業スキルで最高級米を作って「恵方巻」を流行らせます!没落令嬢と組んでライバル商会をざまぁする

黒崎隼人
ファンタジー
コンビニ弁当の開発担当だった俺は、過労の果てに異世界へ転生した。 手に入れたのは、触れるだけで作物を育て、品種改良までできる農業チートスキル『豊穣の指先』。 でも、俺が作りたいのは普通の野菜じゃない。 前世で最後に食べ損ねた、あの「恵方巻」だ! 流れ着いた先は、パンとスープが主食の田舎町。 そこで出会ったのは、経営難で倒産寸前の商会を切り盛りする、腹ペコお嬢様のリリアナだった。 「黒くて太い棒を、無言で丸かじりするんですか……? そんな野蛮な料理、売れるわけがありません!」 最初はドン引きしていた彼女も、一口食べればその美味さに陥落寸前? 異世界の住人に「今年の吉方位を向いて無言で願い事をする」という謎の風習を定着させろ! 米作りから海苔の養殖、さらにはライバル商会とのバトルまで。 チート農家と没落令嬢がタッグを組んで挑む、おいしくておかしなグルメ・サクセスストーリー、開店!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ
ファンタジー
 ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。  理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。  パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。  友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。  その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。  カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。  キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。  最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。

処理中です...