落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第10話 魔道具職人の再会

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創星の炉の朝は、いつも火の爆ぜる音から始まった。  
赤々と燃える炉の火に照らされながら、レオンは鋼を打ち、ティナが水を運び、エルナは厨房で何やら怪しい香辛料を混ぜている。  
ガルドの低い笑い声とグランの金属音が混ざり合い、工房はすでに活気に満ちていた。

「おい、レオン。注文の魔具剣の芯材、届いとるぞ」  
ガルドが肩に大きな木箱を担いで入ってくる。  
レオンは槌を置くと、蓋を開けた。  
中には淡い銀光を放つ薄い金属板が整然と並んでいる。  

「これは……神鋼合金か。魔導電流を通す高級材じゃないか」  
「そうとも。王都の商会が特注しとるらしくてな。妙に高いが、性能は折り紙つきじゃ」  
「注文主は?」  
「“アースワーク商会”。表向きは貴族向けの魔導具を売っとるが、裏の関係筋に紅錆の炉があるらしい」  

レオンの眉がわずかに動く。  
「……紅錆か。まだ試す気らしいな」  
「どうする?」  
「依頼は受ける。だが、こちらの仕様で仕上げる。向こうが企んでいようが関係ない。作品で黙らせる」  

そう言って、レオンは目を細めた。  
創精鍛造の刻印が淡く光る。  
その姿をエルナが見つめ、苦笑交じりに呟いた。  

「本当、火を見ると性格変わるね」  
「炎ってのは人を正直にするんだ」  

◇  

昼前、商会の使者が工房を訪れた。  
黒いローブの細身の青年。  
礼儀正しいが、どこか人を値踏みするような目をしている。  

「はじめまして。“アースワーク商会”従属技師のセリウスと申します。納品と打ち合わせに参りました」  
「商会の直属技師が来るとは珍しいな」  
レオンは軽く会釈し、促して中に入れる。  

セリウスは炉を見て一瞬驚いたようだった。  
「……これが“創星炉”。噂には聞いていましたが、精霊反応を持つ炉など初めて見ました」  
「生きた炉だ。素材に魂を通す。あなたが扱う魔導技術と同じだろう」  
「ふむ……面白い比較ですね」  

二人は互いに眼差しを交わした。  
その瞬間、どこかで記憶の糸が結びつく。  

「……待て、あんた、“王都工房連合の学院”で見かけたことがあるぞ」  
レオンが言うと、セリウスが目を細めた。  
「覚えておられましたか。あの時あなた、錬金学部の廃棄炉事件でひと騒ぎ起こしてましたね」  
「俺が原因じゃない。“不安定な魔石炉心”を暴走防止に調律しただけだ」  
「あれで隣の研究室、三つ吹き飛んだでしょう」  
「そのおかげで安全基準が引き上げられたんだ」  
「ははっ……相変わらず理屈の塊のようですね、レオン・ハース」  

久しぶりの再会は皮肉な笑いから始まった。  
セリウスはテーブルに小さな魔方陣を展開し、金属片を浮かべて見せた。  
「これが商会の“導律核”です。魔力の流路を制御して、電導や炎出力を自在に調整できる。あなたの創精鍛造と組めば、理論上は無限に近いエネルギー効率を生み出せるはず」  
「要するに、“永久稼働魔導炉”を作りたいってことか」  
「ええ、ですが……誰も成功していません。材料も理論も不足している」  

レオンは腕を組み、魔方陣をじっと見つめた。  
「これを、創精鍛造で再構築してやれば、理論上は完成する。だが、制御を誤れば大爆発だ」  
「だからこそ依頼した。あなたの制御能力に賭けたんです」  
「賭けね……」レオンは静かに槌を取った。  
「だが、賭けを吹っかけるなら手抜きはしない。命が懸かる仕事だ」  

セリウスの唇にわずかに笑みが浮かぶ。  
「その目、懐かしい。あなた、学院の頃と少しも変わっていない」  

◇  

午後。  
創星の炉の奥には、久々に緊張した沈黙が流れた。  
テーブルの上では、神鋼合金と導律核が並び、それらを制御するための錬金符号が描かれていく。  
レオンの右手が紋章の光を放つたびに、魔力が脈を打ち、木皿の上で素材が結晶化していく。  

「ティナ、冷却ルーンを八時方向に置け。エルナは安定剤。蒸発までに二秒以内だ」  
「わかった!」「了解っ!」  
「ガルド、圧縮炉心のバルブチェックを」  
「ぬかるなよ! ガスが漏れたら全員ふっとぶぞ!」  

火が唸り、炎が牙を立てる。  
導律核が共鳴音を上げ、炉内の魔力が暴れる。  

「創精鍛造・錬魔統合式──第零段階開始!」  

レオンの声が響くと同時に、光が弾けた。  
青白い稲妻が炉内を走り、鉄骨を震わせる。  
エルナが焦りながら叫ぶ。  
「エネルギー値が限界! このままじゃ暴発するよ!」  

「抑えろ、そのまま維持しろ!」  
レオンは炎の中へ腕を突っ込んだ。  
掌の紋章が燃え、導律核に触れる。  

「導律比、三対二へ変更──繋がれ、“魂の回路”!」  

轟音。  
炎が爆ぜ、空気が震えた。  
外で見張っていたガルドたちが唖然とする。  

数秒後、光が収まり、炉の中から金属音が響く。  
そこに現れたのは、淡い蒼を帯びた球状の装置。  
内部で微細な光の粒が回転している。  

セリウスが息を呑む。  
「まさか……これが、“安定導律炉心”か!?」  
「理屈の上では合ってる。だが……まだ起動は早い」  
レオンは球体を抱え上げ、額の汗を拭った。  

「どうして止める? 今すぐ商会に提出すれば、あなたの名は王都中に広まりますよ!」  
「それで爆発したら意味がない」  
「あなた、学院の時もそうでしたね。理想ばかり追う!」  
レオンが目を細めた。  
「理想を捨てて金を取って、お前は何を得た?」  
一瞬、セリウスの肩が震える。  
「……言えません。俺は、生きるために最善を選んだだけだ。あなたみたいに、夢だけで飯は食えない」  

重い空気。  
だが次の瞬間、扉の外から甲高い声が響いた。  
「爆発したのかと思ったけど、無事みたいね!」  
エルナが駆け戻り、手に皿を掲げていた。  
「できたての試作料理! “導律煮込み”!」  
「導律……? まさか、それ商会の素材を料理に使ったのか!?」  
「ちょっとだけ! 魔力中和すると旨味が増すんだよ!」  

セリウスが頭を抱える。  
「狂ってる……どいつもこいつも!」  
「だが、挑戦する心は学院の頃よりずっといい。ここは遊び場じゃない、創造の現場だ」  
レオンの静かな言葉に、セリウスは苦笑した。  

「……変わらないな。本当に」  
「お互いにな」  

◇  

夕暮れ。  
セリウスは荷物をまとめ、出口で振り返った。  
「導律炉心は、まだ商会に報告しません。あなたの言う“完全な形”を見てみたい」  
「命懸けになるぞ」  
「俺もそれくらいは覚悟してます。……学院の頃から“負けっぱなし”は性に合わなくてね」  

その背が陽に溶け、街の雑踏へと消えていく。  
エルナが呟く。  
「不思議な人だね、あの人」  
「かつての仲間さ。今は、それぞれの火を抱えてる」  

レオンは炉に目を向ける。  
新しい光がゆらめいていた。  
導律と創精の合一――それは世界の理を変える第一歩。  

次の創造の火が、静かに燃え上がっていた。  

(第10話 完)
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