落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ

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第14話 初のギルドランキング挑戦

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朝の鐘が鳴り終わるよりも早く、創星の炉の工房には熱気が満ちていた。  
炉の火がいつもより高く燃え、ガルドが勢いよく槌を打っている。  
エルナは厨房ではなく書類の山に向かい、ティナは端末石を覗き込みながら慌ただしく走り回っていた。  
レオンは炉前で腕を組み、ゆっくりと空気の流れを読むように目を閉じている。  

「……やっぱり、挑戦するんですね」  
ティナが声を落として言う。  
「当たり前だ。正式登録したばかりのギルドとして、これほどの好機はない」  
レオンの声には迷いがなかった。  

今、王都では半年に一度の職人ギルドランキング戦――通称“クラフトバトル”の出場登録が始まっている。  
上位に入れば名声と報奨金。だが敗北すれば信用を失う。  
初参加のギルドにとっては大きな賭けだった。  

「だが、ルールは前回と違うらしいのう。」ガルドが煙管をくゆらせた。  
「今回は共同制作形式じゃと聞いた。テーマが出されてから三日以内に“実用可能な創作品”を仕上げる。完成度と創意が評価対象だ」  
「つまり、発想の勝負というわけか」レオンが低く言う。  

ティナが不安げに顔を上げた。  
「でも出場ギルドには、上位常連の紅錆の炉も含まれてるんですよね……」  
「避けられない相手だ。むしろ好都合だ。正面から叩き潰せば、王都中が目を向ける」  
エルナがにやっと笑った。  
「そうこなくっちゃ! リリアちゃんの遺産魔具の修理も終わったし、新しいネタもできる!」  

炉の奥でキィンと鉄が鳴る。  
ルシェの青い光が壁に映り込み、淡く揺れた。  
『戦だな、創造主。今度こそ本物の炎を試す時か』  
「試すのは炎じゃない。俺たちの“手”だ」  
レオンは短く答えた。  

◇  

三日後。  
クラフトバトル会場――王都中央区の大講堂。  
石造りの巨大な建物に、各ギルドの旗が並んでいる。  
数百の観客席にはすでに人が溢れ、壇上には王都ギルド評議会の旗が翻っていた。  

「参加ギルド全十七組。創星の炉、初出場――」  
司会者が名を読み上げると同時に、どよめきが広がった。  
「おい、あの若造どもじゃねえか」「紅錆を追い出されたとかいう鍛冶師だろ?」  
耳に刺さる声を受け流しながら、レオンたちは壇上に立つ。  

開始の鐘が鳴る。  
審査長がテーマの札を掲げた。  
「第十二回王都クラフトバトル・テーマ――“戦場で命を守る装具”。以上!」  

場の空気が一変する。  
防具か、盾か、携帯型治癒器か。  
多くの職人たちはすでに設計を始めていた。  
レオンたちも作業台へ向かう。  

「どうするの? 防具系なら紅錆が得意分野だよ」  
「紅錆は強固な外装ばかり作る。だが、戦場で必要なのは“回復と再生”だ」  
レオンの眼が炎に反射して輝く。  
「創星の炉が作るのは、“命を保つ盾”だ」  

紙に走らせた設計図に、カーブを描いた魔導陣が重なっていく。  
中央には、リリアの改修した導律炉心の核が配置されていた。  

「これを中心に、炎から生まれた生命の膜を展開する。防御だけでなく、治療も同時に行う」  
ティナが驚く。  
「つまり、“生きている防具”……!?」  
「そうだ。“創精鍛造”と導律錬金を合わせた生命再構装甲。三日で仕上げるぞ」  

ガルドが吠えるように笑う。  
「無茶を言う! だが、面白え! やってやる!」  

◇  

初日。  
炉に火が入り、工房区画が熱気と叫びに包まれた。  
各ギルドが素材を叩き、魔法陣を描き、職人たちが汗と煙にまみれている。  
レオンたちは夜まで手を止めることなく作業を続けた。  

ティナが素材の整理をしながら言う。  
「空気、熱すぎて溶けそう……!」  
「それが戦場だ。集中しろ」  
レオンは細かな金属線を一本一本融接していく。  
エルナは薬液を調合し、ガルドが骨格を仕上げる。リリアは調整石で魔力の循環を記録していた。  

「創星ノ縁《アークリンク》」――と、レオンが呟く。  
その瞬間、設計図の上に浮かぶ陣が一斉に輝き、金属の板と魔石が同時に形を変えた。  
熱が室内を包み、まるで雷鳴が落ちたような衝撃が走る。  

「リンク成功……! 表面の再生機能も生きてる!」ティナが叫ぶ。  
「まだ油断するな。仕上げは明日だ」  

◇  

二日目。  
各ギルドの作品が次第に形を見せ始めた。  
紅錆の炉は圧倒的な厚みの黒鋼鎧を作り上げている。  
圧倒的な強度を誇るそれに、観客から歓声が上がる。  
一方、創星の炉の作業台は不思議な沈黙に包まれていた。  

「なにをしてる……?」「形すら見えないぞ」  
そんなささやきが広がる。  
レオンたちは部品を組み上げてもなお、外殻を作っていない。  

「本当に間に合うのか、レオンさん!」ティナが焦る。  
「間に合わせる。俺たちの強みは、完成品の“命”だ。外形は最後でいい」  
「命……?」  
レオンはにやりと笑った。  
「炉に魂を吹き込むのは最後の一打だ。焦るな」  

夜になり、会場が閉じても彼らは作業を続けた。  
ルシェの青い光が天井を照らし、魔力の渦が静かに流れる。  

◇  

三日目。  
鐘の音が最終作業の開始を告げる。  
レオンは炉の前に立ち、槌を握った。  
「――創精鍛造、命火起動!」  

眩い閃光。  
熱が爆ぜ、空間が一瞬歪む。  
観客席が息を呑む。  

完成したのは、鎧でも盾でもなかった。  
淡い光を放つ“薄布のような膜”。  
レオンがそれを掲げた瞬間、膜がふわりと広がり、光の翼を形成する。  

「これは……何だ?」  
審査委員の一人が声を上げた。  
「“生命展開装具《ヴィータ・シェル》”。創精鍛造と錬金融合の新型防御膜。装着者の生命力と同調して、致命傷を防ぎ、治癒魔力で再生する」  
「そんな馬鹿な。理論上不可能な融合だぞ!」  
「理論を越えたのが創星炉の仕事だ」  

レオンは淡く笑い、膜を自らの腕に巻き付けた。  
瞬間、布のような光が肌に馴染み、彼の手を包む。  
「試してみようか」  
横にいたガルドが鉄槌を振り下ろす。  
観客が悲鳴を上げた。  

衝撃の音――しかし、レオンの腕は無傷だった。  
光の膜が衝撃を吸収し、わずかに青く閃いて消える。  

審査員席がざわめいた。  
「……無傷、だと?」  
「さらに、自己修復が発動!」リリアが叫ぶ。  
光が再び収束し、膜の破損部を埋めていく。  

会場がどよめきに包まれる。  
その時、対面の紅錆の炉が審査席に作品を持ってきた。  
無骨な黒鋼鎧。触れただけで圧倒的な魔力を放つ。  

バルドが声を張り上げる。  
「力こそ全てだ! その薄布など、炎で焼き尽くしてやる!」  

炎の槍が放たれた。観客が叫ぶ。  
だがその炎はヴィータ・シェルに触れた瞬間、吸い込まれるように消えた。  
代わりに、レオンの腕の輝きが増す。  

「おい、まさか……吸収したのか!?」  
「そうだ。炎も雷も風も、“命を害する熱量”として吸収し、逆に修復へ転換する。それがこの装具の核原理だ」  

静寂のあと、嵐のような歓声が巻き起こった。  

◇  

結果発表のとき。  
審査員の一人が高らかに宣言する。  
「優勝――創星の炉!」  

会場が一斉に沸いた。  
レオンは深い呼吸をしながら槌を下ろした。  
仲間たちが飛びついて笑う。  
エルナが涙を流しながら叫んだ。  
「やった……本当に、勝った!」  
ティナもリリアも、火の粉まみれの顔で笑い合った。  
ガルドが吠えるように笑い、ルシェの剣が青光を放った。  

審査員長が舞台に立ち、言葉を送る。  
「創星の炉、見事な発想と勇気であり、まさに“命を創る職人”の名に相応しい!」  

その瞬間、紅錆の炉の代表カルドが奥歯を噛み締め、去っていく姿が見えた。  
レオンはわずかに彼を見送り、拳を握る。  
「戦いはまだ終わらない。……だが、今日ここに、俺たち創星の炉の炎は刻まれた」  

夜風が舞台を撫でる。  
歓声と拍手の嵐の中、レオンの中で何かが静かに確信に変わっていた。  
“創る者が集えば、世界は変わる”――その信念が、今日ひとつ形になったのだ。  

(第14話 完)
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