異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ

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第9話 収穫祭と不思議な光る果実

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日差しが柔らかく降り注いでいる。  
朝露を纏った薬草の葉が、まるで宝石のように輝いていた。  
銀葉草、青蘭草、アレン草――リステル村の畑は今、緑と光に包まれている。  

リオネルはしゃがんで葉の状態を一枚ずつ確かめていた。  
指先に伝わるすべすべとした質感。若葉は柔らかく、香りも軽い。  
「順調だな。まさかここまで育つとは」  

「リオネルさーん!」  
畑の奥から子どもたちが駆けてくる。  
その手には、淡く光る金色の実。  
「見て見て! これ、昨日の夜光ってた!」  

差し出されたそれを見て、リオネルは息を呑んだ。  
掌に乗せた果実は桃ほどの大きさで、表面が薄く発光している。  
まるで夜空の星を凝縮したような輝きだった。  

「これは……“輝果《きか》”だ」  
「光る果実? 食べられるの?」  
「もちろん。しかも、体の内の魔力を整える作用がある貴重な果実だ。  
昔、精霊樹の根のあたりでしか見られなかったものだが……」  

モルドが近づいてきて、目を細める。  
「……まさか畑から生えるなんてねぇ。精霊が戻ってきたのかもしれないよ」  
リオネルは首を傾げながらも微笑んだ。  
「もしかすると、井戸を修復したことで土の循環が回り始めたのかもしれません。  
水脈が蘇ると、眠っていた種が芽を出すこともありますから」  

村人たちが次々と集まり、畑のあちこちで光る果実を見つけ始めた。  
夕暮れには小山ほどの収穫になり、村人たちの顔には喜びの色が満ちている。  

「昔みたいだな……」「これだけ実れば、食べても余るぞ」  

ガルドが大声で笑った。  
「こりゃ祭りだな! 乾杯しねぇわけにはいかねぇ!」  
「いいや、祭りどころか記念日だよ!」と誰かが返す。  

こうして急遽、リステル村の“再生の収穫祭”が決まった。  

 

夕方、広場の中央では火を囲んで準備が始まった。  
モルドが煮込み鍋をかき混ぜ、村の女性たちがパンを焼き、子どもたちは歌を歌っている。  
リオネルは少し離れた場所で、果実を加工していた。  

「煮ると黄金になり、焼くと銀になる……不思議な果実だ」  
果汁を搾ると、淡い金色の液体がとろりと流れ出した。  
口に含むと甘酸っぱく、どこか懐かしい香りがする。  

「この香り……昔、師匠が作っていた祝い酒と同じだ」  
王都で修行していた頃、結実の季を祝う日に飲んだ特製酒。  
全身が温まり、心が軽くなる味。  
その材料がこの“輝果”だったことを思い出した。  

「なら、再現してみよう」  
リオネルは急きょ錬金釜を取り出し、果汁と薬草液、蜂蜜を合わせる。  
魔術で温度を一定に保ち、香りを凝縮させる。  
やがて、ふわりと橙色の蒸気が立ち上った。  

「リオネルー! もうすぐはじまるぞ!」  
ガルドの声が届く。  
「すぐ行く!」  

彼は瓶詰めした果実酒を持ち広場へ向かった。  
火は夕空を染め、人々は円を描いて座っている。  
皿には煮込み、焼きたてのパン、山鳥の串焼き、そして金色の果実が並ぶ。  

リオネルが瓶を開けると、香りがふわりと広がり、皆が歓声を上げた。  
「なんだこの匂い!」「甘ぇのに軽い!」  
「輝果の酒だ。祝いの日にぴったりだろう?」  

モルドが笑いながら盃を掲げた。  
「リステル村の再生と、新しい季節に――乾杯!」  

その声に合わせて、盃が一斉に打ち鳴らされた。  
歓声と笑い声。夜空に流れる炎の音。  
果実酒の風味は思った以上に柔らかく、喉を通るたびに胸が温かくなった。  

 

祭りの最中、リオネルは少し離れた場所で空を見上げていた。  
星がくっきりと浮かび、空気が澄んでいる。  
やがて手の中の果実酒の瓶が小さく光るのに気づいた。  

瓶越しに見ると、その光はまるで呼応するように夜空の星と瞬いている。  
「……やはり、この果実は精霊と繋がっている」  

静かに呟いたリオネルの前に、光の粒がふわりと舞い降りた。  
それは小さな精霊だった。  
人の親指ほどの大きさで、透き通る翅を持っている。  

「まさか本当に……現れるとは」  
精霊はリオネルの肩にとまり、空気を震わせるように瞬いた。  
耳にはかすかな声が響く。  

――ありがとう。命が戻った――  

リオネルは微笑んだ。  
「礼を言うのは私の方だ。君たちが眠っていたからこそ、土地は守られていたんだ」  

精霊は嬉しそうに輝き、風とともに消えた。  

その頃、広場では音楽が鳴り響いていた。  
子どもたちが輪になって踊り、大人たちは果実酒を回して笑い合う。  
「なあ、リオネルさん! 一緒に踊ろうぜ!」  
ガルドが酒瓶を片手にやってくる。  

「私は踊るのは得意ではなくてね」  
「そう言うなって! せめて一杯付き合えよ!」  
リオネルは盃を受け取り、笑いながら乾杯した。  

「……不思議だな」  
「何がだ?」  
「この村に来たばかりの頃は、ここまで人が笑う未来なんて想像できなかった」  
「お前がいたから、こうなったんだよ」  
ガルドの言葉は短く、それでいて真っ直ぐだった。  

焚き火の炎が夜を照らす。  
その光の中で、リオネルは盃を掲げた。  
「この村が、これからも穏やかでありますように」  

 

夜も更け、祭りが静まったころ。  
人々は眠りにつき、火は薪の残りを小さく照らしている。  
リオネルは炉の傍らに座り、瓶の底に残った果実酒を見ていた。  
淡い光がまだ、消えずに瞬いている。  

ふと、ルナとピルカが走り寄り、足元に座る。  
「お前たちも十分楽しんだようだな。……ほら、冷えるぞ」  

火をくべながら、リオネルは遠くの森を見つめた。  
輝果が育つ――それは土地の再生を意味する。  
けれど同時に、それを狙うものも現れるかもしれない。  

「光は、美しくも目立つからな」  

小さく呟く。  
風が吹き、薬草園の方からかすかな葉音が届いた。  
その音は、まるで新しい時代の鼓動のように感じられた。  

リオネルはゆっくり立ち上がり、夜空をもう一度見上げた。  
星の明かりと果実の輝きが重なり合い、村全体が淡い金色に包まれている。  

この瞬間、リステル村は本当に“生き返った”のだ。  
だが同時に、彼の胸の奥には小さな予感が芽生えていた。  
これほどの輝きが戻ったということは――遠からず、外の世界が再びこの村に気づく。  

それが祝福になるのか、それとも新たな試練になるのか。  

火の粉が舞い上がり、静かな夜が訪れる。  
リオネルは杖を手に取り、焚き火の前でそっと目を閉じた。  
「……守り神よ、どうかこの光を護ってくれ」  

風が頬を撫で、まるでその願いに応えるように輝果の畑がほのかに光った。
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