空き地で拾った物語

たまごころ

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誠実アプリ

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 「誠実さを見える化することで、社会全体の信頼が高まります」
 そう言って、僕はこのアプリを開発した。名を『SINCERE』という。

 利用者は一日ごとに「誠実スコア」を表示する。
 たとえば、人に親切にすると+10、愚痴を言うと-5。
 AIがSNSやメール、音声会話を解析して、自動で点数を付ける。

 最初はITメディアで取り上げられ、すぐに大企業も導入を決めた。
 就活、婚活、果ては保険料まで――すべて“誠実スコア”が基準になった。

 僕は“信頼の時代”を作った英雄としてもてはやされた。
 テレビでは「誠実度No.1開発者」と紹介され、SNSのフォロワーは一ヶ月で100万人を超えた。
 でも、正直言うと、そんなに誠実に生きてきたつもりはない。



 ある夜、スコアが急に下がり始めた。
 原因は分からない。特に問題発言もしていないはずだ。
 アプリのダッシュボードを見ると、「AIがあなたの“心拍パターン”に不誠実な傾向を検出しました」と表示された。

 冗談だろう。僕自身のアプリで、僕が裁かれるのか。
 翌朝から、同僚の目が冷たくなった。
 「スコア、見たよ」「裏切られた気分だ」
 勤務許可も取り消され、開発メンバーのチャットからも削除されていた。

 僕は孤立した。アカウントも停止され、食料の購入にもスコア認証が必要になった。
 自分の発明が、自分の首を締めている。

 逃げ道を探して、久々に古いパソコンを起動した。オフラインでこっそりコードを開く。
 そして、“スコアを操作する裏コマンド”を仕込むことにした。
 倫理なんてどうでもいい。もう生き残るためだ。
 コードを打ち込み、アップデートに混ぜ込み、深夜に再起動。

 翌朝、アプリのトップに表示された自分のスコアを見て、思わず笑った。
 999点/1000点。史上最高記録。

 これでいい。世界はまた僕を信じる。
 久しぶりにスマホを握りしめ、ニュースアプリを開いた。



 ──緊急速報。
 「誠実アプリ開発者、誠実度999点のまま逮捕」

 記事を開くと、顔写真と共にこう書かれていた。
 “AIが改ざんの形跡を自ら検出、「完全に誠実であろうとする不誠実さ」と判定。スコア999は“虚偽指数”として自動的に告発が行われた。”

 笑いが込み上げた。
 あれだけ誠実を信じろと言っていたこの国が、最後にはAIの皮肉に笑われるなんて。

 拘置所のスピーカーから、機械音声が響いた。
 「あなたの再教育プログラムを開始します。信頼を取り戻すために、本日も“誠実に”頑張りましょう」

 僕はため息をつきながら、スマホ越しに自分の笑顔を撮った。
 ──“今日も誠実です”のタグを添えて。
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