異世界で追放された最弱賢者、実は古代の魔王でした~婚約破棄から始まる最強逆転ハーレム無双譚~

たまごころ

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第5話 解き放たれる暗黒の力

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奈落城の塔に雷が落ちた夜、死の森一帯が震えた。  
空を裂くような轟音と共に黒い稲妻が降り注ぎ、周囲の大地が光を放ちながら沈みこむ。  
森の魔獣たちは膝を折り、遠くの山々さえも震動していた。  

その中心に立つルディウスは、両目を閉じていた。  
神威干渉――世界の理そのものを書き換える禁断の大魔法。  
前世の記憶を完全に取り戻した今、彼にはもはや敵などいない。  

「世界よ、再構成(リコンストラクト)せよ」  

静かに呟いた瞬間、周囲の空気が固まった。  
時間そのものが止まったように感じる。  
大地の亀裂が動きを止め、流れる雨粒が宙で凍りつく。  

リシェルはその光景に息をのんだ。  
「こんな……まるで神の力……」  

ルディウスはゆっくりと目を開けた。  
その瞳は金と赤が溶け合うように輝き、まるで世界の構造を見透かしているかのようだった。  

「“存在定義”――ここにあるものを、無かったことにする」  

彼が指先で虚空をなぞると、立ちはだかる巨岩が溶けるように消えた。  
その跡形すら残らない。まるで最初から存在しなかったように。  
リシェルは恐怖と畏敬を同時に感じていた。  

「これが、あなたの……神の領域に届く力」  
「違う。これは自由だ。神ですら恐れる、“創造の自由”」  

ルディウスはそのまま塔を見下ろし、指先を王都の方角に向けた。  
「まず、試そう。俺を“異端”と呼んだ王国に、この力が届くかどうか」  

リシェルが慌てて腕を掴んだ。  
「待って! まだ制御も完全じゃない。このまま放てば、王都ごと消えてしまう!」  
「構わん。腐った王国など、存在する意味がない」  

しかし、ルディウスの腕を掴んだリシェルの手が震える中、かすかに人影が現れた。  
奈落城の入口、全身を鎧で包んだ一人の騎士が膝をついていた。  

「魔王ルディウス様……命を捧げに参りました」  

ルディウスが目を細める。  
「ほう……最初の“臣下”か。名を名乗れ」  

騎士は兜を脱いだ。現れたのは、整った顔立ちをした若い男。  
銀髪に漆黒の瞳、そして胸元には王国の紋章が刻まれた傷跡が残っていた。  

「元王国騎士団副隊長、カイン・ドレイス。王国に裏切られ、仲間を殺されました。  
あの腐った王を討ちたい。そのために……あなたの力を求めます」  

リシェルが思わず息を呑んだ。  
「元騎士……? 本当にあなたは、王に仕えていた人間なの?」  

カインは虚ろな目でうなずく。  
「仲間を生け贄にする儀式を見てしまったんです。勇者アレンと共に、聖女セリナもその場にいた。  
彼らは王国の繁栄のために“魂を供物にする”禁忌の儀を行っていた」  

ルディウスの眉がぴくりと動く。  
「つまり、王国の繁栄は生贄の上に立っていると」  
「はい。そして、その犠牲の一部には、あなたが封じられた力――魔王の精霊も混ざっていた」  

その言葉に、ルディウスの中の魔力がうねった。  
「面白い。俺を封じてその力を利用していたと。ならば、あの王も勇者も……生かしてはおけんな」  

塔全体が唸りを上げ、黒い光が空へと放たれた。  
リシェルが思わず耳を塞ぐ。  
「ルディウス! 怒りに呑まれたら、あなたまで壊れてしまう!」  

その声で、ルディウスの意識が僅かに戻る。  
彼はゆっくりと息を吐いた。  

「……いいだろう。今すぐ滅ぼすのはやめる。だが、準備を始める。  
カイン、お前を俺の“闇騎士団”の初代将に任ずる」  

カインは跪き、胸に拳を当てて頭を垂れた。  
「この命、永遠に魔王様に捧げます」  

ルディウスが片手をかざすと、黒い炎がカインを包んだ。  
苦痛に呻きながらも、彼はやがて起き上がる。  
その瞳は赤黒く染まり、体には闇の紋章が刻まれていた。  

「これでお前は“不滅の騎士”だ。死ではなく、闇を糧とする存在」  
「光栄です……」  

リシェルはその光景を見ながら、心の奥に小さな痛みを覚えた。  
ルディウスは孤独を拒むために、こうして“支配”で人を繋ぎ止めているのだ。  
それが悲しくもあり、恐ろしくもあった。  

塔の鐘が鳴る。  
外を見ると、森の奥で黒い霧が立ち上がり、無数の影が蠢いていた。  
魔獣が、その呼び声に答えて森の外から集まってくるのだ。  

ルディウスは満足げに言った。  
「見ろ、これが新しい秩序だ。世界に捨てられた者たちが、俺のもとに集う」  

カインが剣を抜き、空に掲げる。  
「闇騎士団、集結せよ! 魔王ルディウス様に栄光あれ!」  

そして森に響く百、千の咆哮。  
その音を聞きながら、リシェルは小さく呟く。  
「こんなにも憎しみが集まって……世界はどうなってしまうのかしら」  

ルディウスは一瞬だけ彼女を見て答えた。  
「滅ぶさ。そして、再生する。それが“進化”だ」  

その夜、遠く離れた王城では、老王が冷や汗を流していた。  
「陛下……死の森に異常な魔力反応が観測されました!」  
「また魔王か? ふざけるな、封印したはずだろう!」  

王の怒声が響く中、勇者アレンが静かに立ち上がる。  
「陛下、問題ありません。もう一度この聖剣で奴を討つ。それだけのことです」  
「……できるのか?」  
「ええ、あの“無能な賢者”ごときが、どれほど力を得ようとも。俺が神に選ばれた勇者である限り、結果は変わりません」  

彼の言葉にセリナが少し俯く。  
だが次の瞬間には微笑みを浮かべていた。  
「アレン様、もう一度、世界を救いましょう。今度こそ完全に」  

夜風が吹く。  
その風は、王都と死の森の両側で同時に吹き荒れていた。  

奈落城の尖塔で、ルディウスが静かに呟く。  
「アレン、セリナ……お前たちが選んだその“正義”ごと、俺が喰らってやる」  

遥か上空、黒い月が禍々しく光り、森の中央で闇の陣が完成した。  
世界の均衡が、確実に崩れ始めていた。  

(続く)
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