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第6話 最強魔法「奈落の雷」
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奈落城に吹く風が、夜の静寂を切り裂いた。
その直後に響いたのは、金属が擦れるような重い音。
塔の前庭で、カイン率いる新生闇騎士団が訓練を始めていた。
数十名の戦士たちが剣を振るい、黒い魔力を帯びた鎧の隙間から紫の光が漏れる。
ルディウスは最上階のバルコニーからその光景を見下ろしていた。
「悪くない……人間の限界を越えた者たちだ」
背後には、リシェルが控えている。
「ですが……これほどの闇の力を抱えたら、みんな人の心を失ってしまいます」
「心? そんなものは、使い道を誤った魔法よりも危険な代物だ」
ルディウスの声は冷たく、だがその奥にはわずかな疲労が滲んでいた。
彼自身も、力を手にする代償に何かを削っている。
それは理性か、あるいは過去の自分自身か。
塔の内側では、巨大な魔力炉が低い唸りを上げていた。
黒い光の奔流が塔の中心を貫き、天井の魔法陣を通して外界へと流れる。
それが今、王都の空を覆う黒雲の源だった。
リシェルが不安げに問いかける。
「ルディウス、本当にやるの? あの大陸全土を覆うほどの魔法を……」
「やる。これは始まりだ。神が作った世界を“修正”するための、第一の雷だ」
その瞬間、空気が変わった。
まるで天地そのものがルディウスの詠唱に呼応しているかのように、塔の周囲に強大な圧がかかる。
奈落城のすべての魔導石がうなりを上げ、空間が振動した。
ルディウスは瞳を閉じたまま、低く詠唱する。
「黒より深き闇よ、空に眠る古き罪を覚めさせよ……
万象を焼き尽くす奈落の雷(アビス・ブレイク)、今ここに降臨せよ」
轟音。
塔上空の黒雲が裂け、太陽をも凌ぐ閃光が夜を昼に変えた。
黒と金の雷が交錯し、大地へと一直線に落ちる。
その光景は、まさしく“神罰”だった。
王都アスラシアの外壁の一部が粉々に砕け、城下町の中央広場に巨大な亀裂が走る。
人々は理解する前に、ただ地面にひれ伏して震えていた。
リシェルは思わずルディウスに叫ぶ。
「やめて! もう十分! これ以上やったら王都が――!」
ルディウスは振り返らなかった。
ただ一言、淡々と呟いた。
「止められない。それが“神威干渉”の法則だ。一度発動すれば、律が終わるまで止まらぬ」
だがその声には、どこか痛みが混じっていた。
彼自身もその力を完全には制御できていなかった。
魔力炉が悲鳴を上げる。
塔の内側にひびが走り、魔導石がひとつ、またひとつ砕ける。
リシェルが震える声で呪文を唱えた。
「封魔陣(シール・グリモア)! 私が範囲を固定する!」
彼女の体から、白い光が溢れる。
聖属性――神が与えた祝福の力。
本来なら、ルディウスの“対”にある性質だ。
ルディウスは目を見開いた。
「お前、聖女の血筋か?」
リシェルは首を振る。
「いいえ……たぶん、あの聖女セリナと同じ“源流”。でも私は、神の手足になるつもりはない!」
光と闇がぶつかり合う。
塔の内部に渦が巻き、二人の魔力が逆流した。
ルディウスはリシェルを抱き寄せ、彼女を守るように力を練り直す。
「俺の魔力に耐えられるはずがない……無茶をするな!」
「あなたの力が暴走するくらいなら、私が少しぐらい焼ける方がまだマシよ!」
一瞬、彼の瞳が揺れた。
彼女の言葉に、忘れていた“人間の温度”がよみがえる。
その瞬間、ルディウスは両手を合わせ、詠唱を終息させるための対抗魔法を行使した。
「原初相殺(ディアス・キャンセラー)」
稲妻が爆ぜ、塔全体が光に包まれる。
轟音が止み、世界がゆっくりと沈黙を取り戻す。
風が吹く。
リシェルは肩で息をしながら彼の腕に寄りかかっていた。
「……助かった?」
「ああ、王都は消し飛ばずに済んだ。だが……」
彼の視線の先には、黒い柱のような跡があった。
雷の中心点――そこだけが焦げついたように焼け、深さ数百メートルの穴が開いている。
「この程度で生き延びたか、勇者アレン。だが次は容赦しない」
ルディウスの呟きに呼応するように、大地が震えた。
その穴の中心から、黒い瘴気が立ち上る。
やがて人影がひとつ浮かび上がった。
それは人ではなく、魔でもない。
“雷の化身”――ルディウス自身の魔力が具現化した存在だった。
「これは……俺の中の奈落が分離したのか?」
実体化した黒雷の存在は、低い声で笑った。
「我は汝。汝は我なり。分離は成長を意味する。今こそ二柱の魔王が世界を導く」
リシェルが青ざめる。
「だめ、もう一つのあなたなんて……この世が耐えられない!」
ルディウスは苦笑した。
「そうだな。まだ器が小さい。封じねばならん」
彼は右手を掲げ、黒雷の化身に印を刻む。
「帰れ、“次の時”まで」
光が走り、化身は霧のように消えた。
空は静まり、黒雲がゆっくりと晴れていく。
重い沈黙の中、リシェルが小さく呟いた。
「……あなたはやっぱり、本当は優しい」
ルディウスは何も答えなかった。
ただ夜空を見上げ、消えゆく雷光を見届ける。
「優しさは弱さだ。だが、弱さを持たぬ者は世界を作れない」
振り返ったその瞳に、決意の炎が宿っていた。
「次は神の国を叩く。アレンとセリナの背後にいる“存在”を、この世界から引きずり出す」
夜風が奈落城を吹き抜ける。
雷鳴は遠くなり、空には新たな星が瞬き始めていた。
その星の輝きは、世界の終わりを告げる灯のように冷たかった。
(続く)
その直後に響いたのは、金属が擦れるような重い音。
塔の前庭で、カイン率いる新生闇騎士団が訓練を始めていた。
数十名の戦士たちが剣を振るい、黒い魔力を帯びた鎧の隙間から紫の光が漏れる。
ルディウスは最上階のバルコニーからその光景を見下ろしていた。
「悪くない……人間の限界を越えた者たちだ」
背後には、リシェルが控えている。
「ですが……これほどの闇の力を抱えたら、みんな人の心を失ってしまいます」
「心? そんなものは、使い道を誤った魔法よりも危険な代物だ」
ルディウスの声は冷たく、だがその奥にはわずかな疲労が滲んでいた。
彼自身も、力を手にする代償に何かを削っている。
それは理性か、あるいは過去の自分自身か。
塔の内側では、巨大な魔力炉が低い唸りを上げていた。
黒い光の奔流が塔の中心を貫き、天井の魔法陣を通して外界へと流れる。
それが今、王都の空を覆う黒雲の源だった。
リシェルが不安げに問いかける。
「ルディウス、本当にやるの? あの大陸全土を覆うほどの魔法を……」
「やる。これは始まりだ。神が作った世界を“修正”するための、第一の雷だ」
その瞬間、空気が変わった。
まるで天地そのものがルディウスの詠唱に呼応しているかのように、塔の周囲に強大な圧がかかる。
奈落城のすべての魔導石がうなりを上げ、空間が振動した。
ルディウスは瞳を閉じたまま、低く詠唱する。
「黒より深き闇よ、空に眠る古き罪を覚めさせよ……
万象を焼き尽くす奈落の雷(アビス・ブレイク)、今ここに降臨せよ」
轟音。
塔上空の黒雲が裂け、太陽をも凌ぐ閃光が夜を昼に変えた。
黒と金の雷が交錯し、大地へと一直線に落ちる。
その光景は、まさしく“神罰”だった。
王都アスラシアの外壁の一部が粉々に砕け、城下町の中央広場に巨大な亀裂が走る。
人々は理解する前に、ただ地面にひれ伏して震えていた。
リシェルは思わずルディウスに叫ぶ。
「やめて! もう十分! これ以上やったら王都が――!」
ルディウスは振り返らなかった。
ただ一言、淡々と呟いた。
「止められない。それが“神威干渉”の法則だ。一度発動すれば、律が終わるまで止まらぬ」
だがその声には、どこか痛みが混じっていた。
彼自身もその力を完全には制御できていなかった。
魔力炉が悲鳴を上げる。
塔の内側にひびが走り、魔導石がひとつ、またひとつ砕ける。
リシェルが震える声で呪文を唱えた。
「封魔陣(シール・グリモア)! 私が範囲を固定する!」
彼女の体から、白い光が溢れる。
聖属性――神が与えた祝福の力。
本来なら、ルディウスの“対”にある性質だ。
ルディウスは目を見開いた。
「お前、聖女の血筋か?」
リシェルは首を振る。
「いいえ……たぶん、あの聖女セリナと同じ“源流”。でも私は、神の手足になるつもりはない!」
光と闇がぶつかり合う。
塔の内部に渦が巻き、二人の魔力が逆流した。
ルディウスはリシェルを抱き寄せ、彼女を守るように力を練り直す。
「俺の魔力に耐えられるはずがない……無茶をするな!」
「あなたの力が暴走するくらいなら、私が少しぐらい焼ける方がまだマシよ!」
一瞬、彼の瞳が揺れた。
彼女の言葉に、忘れていた“人間の温度”がよみがえる。
その瞬間、ルディウスは両手を合わせ、詠唱を終息させるための対抗魔法を行使した。
「原初相殺(ディアス・キャンセラー)」
稲妻が爆ぜ、塔全体が光に包まれる。
轟音が止み、世界がゆっくりと沈黙を取り戻す。
風が吹く。
リシェルは肩で息をしながら彼の腕に寄りかかっていた。
「……助かった?」
「ああ、王都は消し飛ばずに済んだ。だが……」
彼の視線の先には、黒い柱のような跡があった。
雷の中心点――そこだけが焦げついたように焼け、深さ数百メートルの穴が開いている。
「この程度で生き延びたか、勇者アレン。だが次は容赦しない」
ルディウスの呟きに呼応するように、大地が震えた。
その穴の中心から、黒い瘴気が立ち上る。
やがて人影がひとつ浮かび上がった。
それは人ではなく、魔でもない。
“雷の化身”――ルディウス自身の魔力が具現化した存在だった。
「これは……俺の中の奈落が分離したのか?」
実体化した黒雷の存在は、低い声で笑った。
「我は汝。汝は我なり。分離は成長を意味する。今こそ二柱の魔王が世界を導く」
リシェルが青ざめる。
「だめ、もう一つのあなたなんて……この世が耐えられない!」
ルディウスは苦笑した。
「そうだな。まだ器が小さい。封じねばならん」
彼は右手を掲げ、黒雷の化身に印を刻む。
「帰れ、“次の時”まで」
光が走り、化身は霧のように消えた。
空は静まり、黒雲がゆっくりと晴れていく。
重い沈黙の中、リシェルが小さく呟いた。
「……あなたはやっぱり、本当は優しい」
ルディウスは何も答えなかった。
ただ夜空を見上げ、消えゆく雷光を見届ける。
「優しさは弱さだ。だが、弱さを持たぬ者は世界を作れない」
振り返ったその瞳に、決意の炎が宿っていた。
「次は神の国を叩く。アレンとセリナの背後にいる“存在”を、この世界から引きずり出す」
夜風が奈落城を吹き抜ける。
雷鳴は遠くなり、空には新たな星が瞬き始めていた。
その星の輝きは、世界の終わりを告げる灯のように冷たかった。
(続く)
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