異世界で追放された最弱賢者、実は古代の魔王でした~婚約破棄から始まる最強逆転ハーレム無双譚~

たまごころ

文字の大きさ
7 / 12

第7話 魔獣を従える者

しおりを挟む
夜明け前の死の森は、不気味な静寂に包まれていた。  
奈落城の黒い尖塔の上、ルディウスは一人で夜空を見上げていた。  
かつて破壊をもたらした雷雲は、今は静まり返り、朝靄の中で幻想的に光を放っている。  

「……世界は、まだ俺の存在を完全には認めていない」  
彼の呟きに呼応するように、地の底から低いうなりが響いた。  

塔の下では、カイン率いる闇騎士団が森の魔獣たちを制御していた。  
狼の群れ、翼を持つ蛇、目が十もある異形の獣……  
どれもかつて人々を恐怖に陥れた存在だった。  

だが今、その牙と爪はすべてルディウスの意志に従っている。  

「報告します、ルディウス様」  
カインが跪き声を上げる。  
「森の北部にいた封印獣の一体、“ノスフェラトゥ”の従属に成功しました。  
また、東の沼地にいたサーペンス群も、指令に応じました」  

ルディウスは静かに頷いた。  
「よくやった。これで人間どもは、森を完全に封鎖せざるを得まい。  
恐怖を与えるのが目的ではなく、“支配”が目的だ」  

「……はっ」  
カインは深く頭を下げ、背後の眷属たちに指令を送る。  

リシェルはその様子を黙って見ていた。  
彼の統治は、確かに恐怖に基づいていたが、秩序もまたそこにあった。  
魔物が暴走せず、互いに争わないなど、本来ではあり得ないことだ。  

「あなた……どうやって彼らを従えているの? 普通、魔物は理性など持たないのに」  

ルディウスはわずかに笑みを浮かべた。  
「理性の代わりに、俺が与えた。“記憶”という名の枷をな」  

彼が手を掲げると、魔獣たちの額に淡い光がともる。  
それは過去に受けた恐怖や憎悪、滅びの痛みを再現する魔印。  
ルディウスがそれらの記憶を“共有”することで、彼らは彼を本能的に主と認識する。  

「つまり……あなたは彼らの心に寄り添った、ということ?」  
「寄り添う? 違う。理解しただけだ」  

言いながらも、リシェルには確かに見えた。  
彼の中に広がる“孤独”が、魔獣たちの孤独と呼応していることを。  

ふと、遠く地平線に煙が立ち上るのが見えた。  
カインが即座に反応する。  
「ルディウス様、東方領より騎士団が侵入しています。王国の斥候かと」  

ルディウスは目を細める。  
魔力の流れから、少人数の部隊であることがわかった。  
だが、その中にひときわ強い光がある。聖属性の輝き――つまり、聖教会の者。  

「ほう、勇者どもの犬が来たか。いいだろう。歓迎してやれ」  

ルディウスは軽く右手を振る。その瞬間、森中の獣たちが一斉に吠えた。  
うねりのような音が広がり、空の鳥すら飛び立つ。  

リシェルが戸惑いながら問う。  
「あなたが直接出る必要はある?」  
「ある。これは単なる戦ではない。“支配の儀”だ」  

彼は魔力を纏い、空中に黒い陣を展開した。  
ルディウスの足元の光が回転を始め、ゆっくりとその体が浮かび上がっていく。  
闇の翼のように広がる魔力。  
まるで夜そのものが彼に形を与えたかのようだった。  

「神の使徒が来る前に、本当の主人を知らしめよう」  

***  

東の境界線。  
十数名の騎士が馬を走らせていた。  
その中には、王国聖教会の高位神官ミレーナの姿があった。  

「この先に“魔王の気配”がある……間違いない」  
彼女は小さく祈りの言葉を呟き、胸の十字を撫でる。  

だが、次の瞬間。  
森の木々が不気味に揺れ、黒い霧が立ち上った。  

「全員、構えよ!」  
指揮官の叫びも虚しく、地面から無数の影が生まれた。  
狼、蛇、巨人――すべてが黒い瞳を輝かせている。  

「こ、これは……軍隊だ……!」  

ミレーナは馬から飛び降り、詠唱を始めようとしたが、その背後に声が響いた。  
「ようこそ、奈落の宴へ」  

黒い霧を切り裂き、一人の男が姿を現す。  
その足元には黒炎。  
言葉を超えた威圧感が、彼女の呼吸を止める。  

「あなたが……魔王ルディウス……?」  

「俺を名で呼ぶか。聖職者にしては肝が据わっている」  
「神の名のもとに問います。あなたはなぜ罪なき者たちを……」  

その言葉を遮るように、ルディウスは指を鳴らした。  
瞬間、騎士の一人が苦悶の声を上げて崩れ落ちる。  
胸から光が抜け出し、霧の粒となって彼の掌に吸い込まれた。  

「それが“罪なき者”の姿か? 神に命じられたまま殺すことを、正義と呼ぶなら、俺は悪で結構だ」  

ミレーナが聖杖を構えて叫ぶ。  
「聖滅光(ホーリー・バースト)!」  

眩い光が走り、衝撃波が森を吹き飛ばす。  
しかしその中を、ルディウスはゆっくりと歩いてきた。  
光は彼の前で歪み、まるで拒まれているように方向を変える。  

「聖と闇。対極は存在しない。力は一つだ」  

ルディウスが腕を上げると、上空に黒い狼の幻が出現した。  
それは雷を纏い、咆哮と共に地を走る。  
一瞬で十数名の騎士が地に伏した。  

「やめて……! 彼らはただの従者!」  
「なら、お前も彼らの“記憶”を見るがいい」  

ルディウスの瞳が光り、ミレーナの視界が闇に沈む。  
見えたのは、王国が犯した残虐な実験、疫病で切り捨てられた村々、焚かれる罪人たち。  
それらが現実の記憶として一瞬で流れ込み、彼女は崩れ落ちた。  

「……これが、現実」  
「そうだ。だから神の嘘を壊す必要がある」  

ルディウスは手を差し伸べた。  
「お前がまだ生を望むなら、俺の軍に加われ。神を討つために力を貸せ」  

ミレーナは一瞬迷ったが、やがて涙を拭い、震える声で答えた。  
「……もしこれが本当に神の欺きなら、私はそれを終わらせたい」  

「ならば、今日からお前は“闇聖女ミレーナ”。俺の第七位に任ずる」  

ルディウスが彼女の額に指を置くと、白い光が黒に反転した。  
眩い聖杖は闇の杖へと変わり、彼女の姿もまた漆黒の装束へと包まれる。  

リシェルが遠くから見ていた。  
その瞳には複雑な感情――安堵、恐怖、そして少しの哀しみが宿る。  

「ルディウス……あなたは本当に世界を救いたいのか、それとも……ただ壊したいのか」  

しかし答えは、風に流された。  
遠くで雷が鳴った。  
奈落の魔王の軍は、静かに、確実に世界へと広がり始めていた。  

(続く)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロの俺だけが、呪いの装備を『代償なし』で使い放題 ~命を削る魔剣も、俺が持てば『ただのよく切れる剣』~

仙道
ファンタジー
現代日本で天才研究者だった相模登(さがみ のぼる)は、ある日突然、異世界へ転移した。  そこは『スキル』と『魔力』が全てを決める世界。   しかし登には、ステータス画面もなければ、魔力も、スキルも一切存在しなかった。   ただの一般人として迷宮に放り出された彼は、瀕死の女騎士と出会う。彼女の前には、使う者の命を瞬時に吸い尽くす『呪いの魔剣』が落ちていた。   武器はそれしかない。女騎士は絶望していたが、登は平然と魔剣を握りしめる。 「なぜ……生きていられるの?」  登には、剣が対価として要求する魔力は存在しない。故に、魔剣はデメリットなしの『ただのよく切れる剣』として機能した。   これは、世界で唯一「対価」を支払う必要がない登が、呪われた武具を次々と使いこなし、その副作用に苦しむ女騎士やエルフ、聖女を救い出し、無自覚に溺愛されていく物語。

転生したら追放された雑用スキルで世界最強になっていた件~無自覚に救国してハーレム王になった元落ちこぼれの俺~

fuwamofu
ファンタジー
冒険者ギルドで「雑用」スキルしか持たなかった青年・カイ。仲間から無能扱いされ、あげく追放された彼は、偶然開花したスキルの真の力で世界の理を揺るがす存在となる。モンスターを従え、王女に慕われ、美少女賢者や女騎士まで惹かれていく。だが彼自身はそれにまるで気付かず、ただ「役に立ちたい」と願うだけ――やがて神々すら震える無自覚最強の伝説が幕を開ける。 追放者、覚醒、ざまぁ、そしてハーレム。読後スカッとする異世界成り上がり譚!

追放された村人、実は世界最強でした~勇者パーティーを救ったら全員土下座してきた件~

fuwamofu
ファンタジー
村で地味に暮らしていた青年アレンは、勇者パーティーの雑用係として異世界冒険に出るが、些細な事故をきっかけに追放されてしまう。だが彼の真の力は、世界の理に触れる“創造の権能”。 追放後、彼は優しき女神や獣娘、元敵国の姫たちと出会い、知らぬ間に国を救い、人々から崇められていく。 己の力に無自覚なまま、やがてアレンは世界最強の存在として伝説となる。 仲間たちに裏切られた過去を越え、彼は「本当の仲間」と共に、新たな世界の頂点へと歩む。 ──これは、すべての「追放ざまぁ」を極めた男の、無自覚な英雄譚。

異世界で無自覚に最強だった俺、追放されたけど今さら謝られても遅い

eringi
ファンタジー
「お前なんかいらない」と言われ、勇者パーティーを追放された青年ルーク。だが、彼のスキル【成長限界なし】は、実は世界でも唯一の“神格スキル”だった。 追放された先で気ままに生きようとした彼は、助けた村娘から崇められ、魔王を片手で倒し、知らぬ間に国家を救う。 仲間だった者たちは、彼の偉業を知って唖然とし、後悔と嫉妬に沈んでいく── 無自覚な最強男が歩む、ざまぁと逆転の異世界英雄譚!

Sランクパーティーを追放された鑑定士の俺、実は『神の眼』を持ってました〜最神神獣と最強になったので、今さら戻ってこいと言われてももう遅い〜

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティーで地味な【鑑定】スキルを使い、仲間を支えてきたカイン。しかしある日、リーダーの勇者から「お前はもういらない」と理不尽に追放されてしまう。 絶望の淵で流れ着いた辺境の街。そこで偶然発見した古代ダンジョンが、彼の運命を変える。絶体絶命の危機に陥ったその時、彼のスキルは万物を見通す【神の眼】へと覚醒。さらに、ダンジョンの奥で伝説のもふもふ神獣「フェン」と出会い、最強の相棒を得る。 一方、カインを失った元パーティーは鑑定ミスを連発し、崩壊の一途を辿っていた。「今さら戻ってこい」と懇願されても、もう遅い。 無能と蔑まれた鑑定士の、痛快な成り上がり冒険譚が今、始まる!

無自覚チートの俺、追放されたけど実は神の代理でした〜ざまぁ連続、気づけば世界最強ハーレム〜

eringi
ファンタジー
無能と蔑まれ、勇者パーティーを追放された青年レオン。だが彼の力は、神々が封印した“運命の理”そのものだった。自分でも気づかぬほど自然に奇跡を起こす彼は、気づけば魔王を倒し、国を救い、女神たちに求婚されることに──。 裏切った元仲間たちは次々と破滅し、世界は彼を「神の代理」と呼び始める。 本人はただの流れ者のつもりなのに、歩く先々でざまぁが連発する、無自覚最強成り上がりの物語!

追放されたけど気づいたら最強になってました~無自覚チートで成り上がる異世界自由旅~

eringi
ファンタジー
勇者パーティーから「役立たず」と追放された青年アルト。 行くあてもなく森で倒れていた彼は、実は“失われし最古の加護”を持つ唯一の存在だった。 無自覚のまま魔王を倒し、国を救い、人々を惹きつけていくアルト。 彼が気づかないうちに、世界は彼中心に回り始める——。 ざまぁ、勘違い、最強無自覚、チート成り上がり要素満載の異世界ファンタジー!

転生したら追放されたけど、無自覚で世界最強の聖魔導士になっていた件〜気ままに旅したら美女たちに囲まれていた〜

にゃ-さん
ファンタジー
無能と蔑まれ、勇者パーティから追放された青年リオン。だがその正体は、神々の加護を複数受けた唯一の存在だった——。 聖属性と魔属性の両方を操る“聖魔導士”として、彼は無自覚に世界最強の存在へと成り上がっていく。 行く先々で起こる騒動を、本人はただ助けただけのつもり。しかし気づけば国を救い、王女や騎士、魔族の姫まで彼に惹かれていく。 裏切った仲間たちが後悔の涙を流す頃、本人は今日ものんびり旅の途中——。 無自覚最強×スローライフ×ざまぁ×ハーレム。王道異世界系最強譚、ここに開幕!

処理中です...