異世界で追放された最弱賢者、実は古代の魔王でした~婚約破棄から始まる最強逆転ハーレム無双譚~

たまごころ

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第9話 古代遺跡の封印を破る

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奈落城の夜は、かつてない静けさに包まれていた。  
森に漂う瘴気がゆっくりと薄まり、闇の軍勢たちは休息の時を迎えている。  
塔の最上階、ルディウスは巨大な魔導書を広げていた。  

黒い革の装丁に金の文字。  
かつて神々の手によって封印されたと言われる、世界律書(ワールドコード)。  
その中には、創造と破壊、そして神界への道が記されている。  

「……この書を解くためには、三つの鍵が必要だと?」  
低く呟きながら、ルディウスは指先で魔力文字をなぞる。  
書の一部が反応し、ぼんやりと光を放った。  

リシェルが静かに階段を上ってくる。  
「また研究? 休まないと、本当に体が壊れるわよ」  

ルディウスは目を上げずに答える。  
「体はとうに捨てた。今あるのは、呪いと理だけだ」  

彼の瞳は相変わらず冷たく、それでいて燃えるような熱を宿している。  
「三つの鍵……魂の石、時の冠、そして“神剣”アルマス。  
勇者アレンが持つ聖剣は、そのうちの一つにして、神界へ通じる門の一端だ」  

「つまり、それを奪えば……」  
「神の世界への扉が開く」  

沈黙が流れた。  
リシェルの胸の奥に微かな震えが生まれる。  
世界を支配する神々の存在は、エルフたちにとっても絶対だった。  
それを否定し、壊そうとするこの男の姿は、異様でありながらもどこか惹かれるものがあった。  

「でも、その“神剣”を奪うなんて容易じゃないわ」  
「わかっている。だからこそ、古代の遺跡を探す必要がある」  

ルディウスは地図を掲げ、中央部を指さした。  
「ここだ。かつて神々がこの大陸を創造した拠点、神代遺跡アトラクシア。  
そこに神剣と世界律を調整する装置“天秤の祭壇”が封印されている」  

リシェルの目が輝いた。  
「そんな場所が実在していたなんて……」  

「神々が隠し続けた本当の世界の形だ。だが封印は強大だ。  
人の力では踏み入ることすらできん。だから俺の出番だ」  

「なら、私も行くわ」  
リシェルが迷いのない目で言った。  
ルディウスは少しだけ口の端を上げた。  

「……勝手にしろ。ただし、戻れなくなっても知らんぞ」  

***  

翌朝。  
黒竜ベルガロアの背に跨がり、ルディウスたちは死の森を飛び立った。  
魔族の軍勢数百を従え、東の大地を目指す。  

空を裂く風が冷たく頬を打ち、リシェルは思わず目を細める。  
「空から見ると……この大陸がこんな形だったなんて」  
「神の手で描かれた偽りの地形だ。正確には、四つの大陸ではなく、輪になった“鎖”だ」  
「鎖……?」  
「そう。神がこの世界を縛るために創った枷。  
それを断ち切る鍵が“アトラクシア”にある」  

彼の言葉を聞きながら、リシェルは胸の高鳴りを感じていた。  
恐怖と興奮が混ざった奇妙な感情。  
“魔王”と呼ばれる男の隣に立つことが、次第に運命のように感じられていく。  

やがて、遠くの雲の下に巨大な光の柱が見えた。  
それは天空を貫き、周囲の空気を震わせている。  

「見えたか……アトラクシアだ」  
ルディウスの声が低く響く。  

地上に降り立った瞬間、目の前に広がるのは崩れた白の石造りの街。  
巨人族の手によって積み上げられたような巨大な柱が倒れ、神の像が無惨に砕かれている。  
大地には緻密な魔法陣が刻まれていた。  

ルディウスが一歩進むと、空間が揺らいだ。  
見えない結界が、侵入者を拒むように振動している。  

「なるほど……“神格遮断フィールド”か」  

「どうするの?」  
「壊す」  

彼は掌を上げ、黒い球状の魔力を生み出した。  
それはまるで星の核のように輝きを増し、周囲の空気を圧迫する。  
「起動……原初魔術“虚の式(ゼロ・コード)”。」  

球が光を放ち、次の瞬間に空気ごと爆発した。  
無音。  
風が止まり、そして遺跡を覆っていた光の膜が音もなく消えていく。  

リシェルが信じがたい表情を浮かべた。  
「信じられない……神の結界を、一撃で……!」  

「所詮はプログラムだ。神とて設計者の一種にすぎん」  
彼の言葉は、空虚な確信のようでありながら、どこか絶望の響きを含んでいた。  

遺跡の中央部に、青い光に包まれた巨大な祭壇が見える。  
乱れた魔力の奔流がその周囲を渦巻き、触れたものを粉砕している。  

「この中に“魂の石”がある」  
ルディウスが指差した。  
「だが、この力の流れは……不安定だな」  

その瞬間、地面が揺れた。  
祭壇の奥から、黒い影がいくつも滲み出る。  
人の形をしているが、目も口もなく、闇そのものが動いているようだった。  

「封印の守護者……神が残した罠ね!」リシェルが構える。  
「任せろ」  

ルディウスは指を鳴らす。黒炎が爆ぜ、無数の槍となって影を貫いた。  
だが影は崩れず、逆に形を変えて一体の巨人となる。  

「面白い。形を持てるか――ならば試そう」  

ルディウスが詠唱する。  
「奈落雷陣・第二形態、無窮連撃(アビス・スターム)」  

黒雷の嵐が渦を巻き、巨人の身体を飲み込む。  
雷光が空を裂き、あたり一帯が夜に包まれた。  
爆音が止むころには、遺跡の中心に静寂だけが残っていた。  

リシェルが駆け寄る。  
「無茶をしすぎよ!」  
「これくらいで壊れるほど柔ではない」  

祭壇の光が和らぎ、中から蒼い宝石が姿を現した。  
それは人の頭ほどもある透明な石で、内部に光の粒が渦を巻いている。  

「これが……“魂の石”」  
リシェルが息を呑む。  

ルディウスは慎重にその石を持ち上げた。  
「この石には、世界創造時の“原初の断片”が封じられている。  
神々が自分たちの力を世界に分散させるために生み出したもの――これ一つで一国を消すことも容易い。」  

フィアが後ろから現れ、目を輝かせる。  
「凄い……まるで生きているみたい」  
「生きているのだ。この石こそが、神の心臓の一部だからな」  

ルディウスはそのまま石を掲げ、短く呟いた。  
「――世界はもう一度造り変えられる」  

空気が震える。  
周囲の崩れた遺跡が一瞬だけ光り、そして完全に静止した。  
まるで時間そのものが止まったかのように。  

「鍵は一つ揃った。残るは二つ」  
彼が背を向けたその時、空から無数の光の矢が降り注いだ。  

「伏せろ!」リシェルが叫ぶ。  

矢の雨の中から、聖なる紋章を掲げる兵士たちが姿を現す。  
王国聖教会の精鋭――“聖槍旅団”。  
その先頭に立つのは、純白の鎧を纏った男。  

「やはりここにいたか、ルディウス!」  
勇者アレン。その声は怒りと悲哀が混じっていた。  

「久しいな、勇者。神の鎖の番犬よ」  

空と地が、再び激突する。  
そして二つの運命が、ついに正面から交差した。  

(続く)
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