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第10話 世界が震えた“魔王”の再臨
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神代遺跡アトラクシアの空に、轟音が響きわたった。
雷光と聖光が交錯し、昼か夜かもわからぬほど大地が白く輝く。
空から降り立った勇者アレンの剣が、地面を焼き焦がした。
その刃には、神界より授けられた聖なる意志――神剣アルマスが宿っている。
かつてルディウスが創造した原初の理さえ貫いた唯一の存在。
今、二人の宿命が再び交差した。
ルディウスが低く笑う。
「やはり来たか、勇者。神の走狗らしく迅速だ」
「お前の野望を止めるためだ。今度こそ終わらせる」
アレンの声に、迷いはなかった。
だがその表情の奥には、かすかな焦りと悲しみが混ざっていた。
――かつての仲間であり、幾度も共に死線を越えた賢者ルディウス。
彼を追放した瞬間の後味の悪さを、アレンはいまだに完全に消し去ることはできなかった。
だが今はただ、世界を守るという使命だけが彼を動かしている。
「ルディウス。お前の力はもはや、この世界に収まりきらない。
放っておけばすべてが崩壊する。……だから、ここで斬る!」
「崩壊? 笑わせるな。
神々の作った“箱庭”が多少揺らいだ程度で世界が壊れるか? 壊れた方が本来の姿なのだ」
ルディウスの声が低く響いた。
彼の背に十の魔法陣が浮かび、黒炎と雷光が渦を巻く。
その魔力の奔流だけで空気が歪み、遺跡の壁は粉々に砕け散った。
アレンがアルマスを構える。
「聖剣解放――エンシェントモード!」
黄金の光が降り注ぎ、地面から聖なる文様が浮かび上がる。
彼の身体を覆う光は、まるで神そのものの加護だった。
対するルディウスは片手を挙げ、指先で黒を描いた。
「滅陣展開――虚無律式(ヴォイド・コード)」
闇が広がる。
光と闇。
二つの相反する力が、一瞬で世界の均衡を押し潰した。
神殿の中央が爆ぜ、大地に亀裂が走る。
周囲にいた聖教軍の兵士たちが次々と吹き飛ばされ、リシェルとフィアが結界を展開して防ぐ。
それでもなお、空間が歪むほどの魔力が放たれていた。
「アレン、忘れたのか?」
ルディウスの声が鋭く響く。
「お前が言った。“正義とは、力ある者が定めた理にすぎない”と」
「それは……過去の話だ!」
「だがその理を最初に捻じ曲げたのは、誰だった? 俺を“無能”と呼び、世界の均衡を崩したのは!」
ルディウスの指が弾けた瞬間、足元から無数の黒い鎖が生じた。
それらは地を這うように伸び、アレンを拘束する。
「くっ……!」
「これは“原初の鎖”だ。神が最初に創った“罪”の拘束。神聖属性を喰らう闇の理……逃れられん」
アレンは剣で鎖を断とうとするが、刃が触れた瞬間、聖剣が軋んだ。
「馬鹿な……俺の剣が……!」
ルディウスの瞳が金と赤の輝きを放ち、笑いが漏れる。
「俺の“奈落”は、すでにすべての力に干渉できる。神剣すら例外ではない」
そのときだった。
空が震え、光の槍が二人の間に突き刺さる。
空中に、純白の衣を纏った女が現れた。
「もうやめて、アレン!」
「……セリナ!」
聖女セリナが降り立つ。
彼女の手から聖なる光が広がり、鎖を一瞬だけ押し返した。
ルディウスは静かに目を細める。
「聖女セリナ。王国の象徴のようにふるまうお前が来るとはな」
「ルディウス……あなたを止めに来た」
その声には、迷いのない決意と、消しきれない後悔が混じっていた。
リシェルが歯を食いしばる。
目の前に立つ女こそ、自分の師であり、恩人でもあった女性。
だが今は、魔王討伐を掲げる敵として立ちはだかっている。
セリナが聖杖を掲げ、天に祈る。
「聖なる光よ、正しき審判を――!」
無数の光輪が降り注ぎ、ルディウスの魔力壁を貫いた。
黒と白が激突するたびに平衡が崩れ、大地が波打つ。
遠く離れた王都では、塔が揺れ、民が空を仰いで恐怖に泣き叫んでいた。
その光景を、王の間から老王が茫然と見つめていた。
「……真の魔王が、戻ったのか……まさか、あの“ルディウス”が……」
側にいた側近が叫ぶ。
「陛下、避難を!」
「逃げられるものか。世界の秩序が崩れようとしているのだ……」
再び遺跡。
ルディウスの魔法陣が一斉に輝きだす。
彼は両手を広げ、闇と雷を一体化させた。
「全てを見せてやろう。神の欺瞞と、世界の真実を!」
彼の頭上に巨大な門が浮かび上がる。
その中に、星の海と無数の光の粒――神界が垣間見えていた。
アレンが叫ぶ。
「やめろ、それを開けば世界が崩壊する!」
「いいや、“再生する”んだ」
ルディウスが門に手をかけた瞬間、背後から叫びが響いた。
「ルディウス!」
リシェルが走り寄っていた。
手には、魂の石が握られている。
「あなたがこの世界を壊したら、私たちまで消えるのよ!」
彼は一瞬だけ動きを止めた。
その瞳に迷いがよぎる。
「リシェル……お前はなぜ、俺を止める?」
「あなたが望むような未来を、誰も望んでいないから!」
「だが、世界は嘘だ!」
「だからこそ、壊すんじゃなくて“変えればいい”!」
静寂。
光と闇が打ち消し合い、空に亀裂が走る。
そして――。
轟音が世界を貫いた。
門が裂け、無数の光が吹き出す。
その光の渦の中に、巨大な影が現れた。
それは人にも神にも見える存在。
空に浮かぶ“原初の神”の顕現だった。
「……また“それ”が出てきたか」
ルディウスが冷たい声で呟く。
神の声が響く。
“魂の欠片を返せ、我が子よ。お前は我らの一部でしかない”
「違う。俺は“お前たち”とは違う。俺は自由だ!」
ルディウスが手をかざすと、神と同等の光が放たれる。
雷が天を裂き、空の門そのものが震えた。
アレンとセリナ、リシェル、フィア。
全員がその光に飲まれながらも、ただ一瞬の沈黙を感じた。
世界は確かに――変わろうとしていた。
そして地上に響いた。
“魔王、完全覚醒──ルディアス=ルディウス、再臨”
その響きが止む頃、大陸全土の空が一斉に血のような赤へと染まった。
(続く)
雷光と聖光が交錯し、昼か夜かもわからぬほど大地が白く輝く。
空から降り立った勇者アレンの剣が、地面を焼き焦がした。
その刃には、神界より授けられた聖なる意志――神剣アルマスが宿っている。
かつてルディウスが創造した原初の理さえ貫いた唯一の存在。
今、二人の宿命が再び交差した。
ルディウスが低く笑う。
「やはり来たか、勇者。神の走狗らしく迅速だ」
「お前の野望を止めるためだ。今度こそ終わらせる」
アレンの声に、迷いはなかった。
だがその表情の奥には、かすかな焦りと悲しみが混ざっていた。
――かつての仲間であり、幾度も共に死線を越えた賢者ルディウス。
彼を追放した瞬間の後味の悪さを、アレンはいまだに完全に消し去ることはできなかった。
だが今はただ、世界を守るという使命だけが彼を動かしている。
「ルディウス。お前の力はもはや、この世界に収まりきらない。
放っておけばすべてが崩壊する。……だから、ここで斬る!」
「崩壊? 笑わせるな。
神々の作った“箱庭”が多少揺らいだ程度で世界が壊れるか? 壊れた方が本来の姿なのだ」
ルディウスの声が低く響いた。
彼の背に十の魔法陣が浮かび、黒炎と雷光が渦を巻く。
その魔力の奔流だけで空気が歪み、遺跡の壁は粉々に砕け散った。
アレンがアルマスを構える。
「聖剣解放――エンシェントモード!」
黄金の光が降り注ぎ、地面から聖なる文様が浮かび上がる。
彼の身体を覆う光は、まるで神そのものの加護だった。
対するルディウスは片手を挙げ、指先で黒を描いた。
「滅陣展開――虚無律式(ヴォイド・コード)」
闇が広がる。
光と闇。
二つの相反する力が、一瞬で世界の均衡を押し潰した。
神殿の中央が爆ぜ、大地に亀裂が走る。
周囲にいた聖教軍の兵士たちが次々と吹き飛ばされ、リシェルとフィアが結界を展開して防ぐ。
それでもなお、空間が歪むほどの魔力が放たれていた。
「アレン、忘れたのか?」
ルディウスの声が鋭く響く。
「お前が言った。“正義とは、力ある者が定めた理にすぎない”と」
「それは……過去の話だ!」
「だがその理を最初に捻じ曲げたのは、誰だった? 俺を“無能”と呼び、世界の均衡を崩したのは!」
ルディウスの指が弾けた瞬間、足元から無数の黒い鎖が生じた。
それらは地を這うように伸び、アレンを拘束する。
「くっ……!」
「これは“原初の鎖”だ。神が最初に創った“罪”の拘束。神聖属性を喰らう闇の理……逃れられん」
アレンは剣で鎖を断とうとするが、刃が触れた瞬間、聖剣が軋んだ。
「馬鹿な……俺の剣が……!」
ルディウスの瞳が金と赤の輝きを放ち、笑いが漏れる。
「俺の“奈落”は、すでにすべての力に干渉できる。神剣すら例外ではない」
そのときだった。
空が震え、光の槍が二人の間に突き刺さる。
空中に、純白の衣を纏った女が現れた。
「もうやめて、アレン!」
「……セリナ!」
聖女セリナが降り立つ。
彼女の手から聖なる光が広がり、鎖を一瞬だけ押し返した。
ルディウスは静かに目を細める。
「聖女セリナ。王国の象徴のようにふるまうお前が来るとはな」
「ルディウス……あなたを止めに来た」
その声には、迷いのない決意と、消しきれない後悔が混じっていた。
リシェルが歯を食いしばる。
目の前に立つ女こそ、自分の師であり、恩人でもあった女性。
だが今は、魔王討伐を掲げる敵として立ちはだかっている。
セリナが聖杖を掲げ、天に祈る。
「聖なる光よ、正しき審判を――!」
無数の光輪が降り注ぎ、ルディウスの魔力壁を貫いた。
黒と白が激突するたびに平衡が崩れ、大地が波打つ。
遠く離れた王都では、塔が揺れ、民が空を仰いで恐怖に泣き叫んでいた。
その光景を、王の間から老王が茫然と見つめていた。
「……真の魔王が、戻ったのか……まさか、あの“ルディウス”が……」
側にいた側近が叫ぶ。
「陛下、避難を!」
「逃げられるものか。世界の秩序が崩れようとしているのだ……」
再び遺跡。
ルディウスの魔法陣が一斉に輝きだす。
彼は両手を広げ、闇と雷を一体化させた。
「全てを見せてやろう。神の欺瞞と、世界の真実を!」
彼の頭上に巨大な門が浮かび上がる。
その中に、星の海と無数の光の粒――神界が垣間見えていた。
アレンが叫ぶ。
「やめろ、それを開けば世界が崩壊する!」
「いいや、“再生する”んだ」
ルディウスが門に手をかけた瞬間、背後から叫びが響いた。
「ルディウス!」
リシェルが走り寄っていた。
手には、魂の石が握られている。
「あなたがこの世界を壊したら、私たちまで消えるのよ!」
彼は一瞬だけ動きを止めた。
その瞳に迷いがよぎる。
「リシェル……お前はなぜ、俺を止める?」
「あなたが望むような未来を、誰も望んでいないから!」
「だが、世界は嘘だ!」
「だからこそ、壊すんじゃなくて“変えればいい”!」
静寂。
光と闇が打ち消し合い、空に亀裂が走る。
そして――。
轟音が世界を貫いた。
門が裂け、無数の光が吹き出す。
その光の渦の中に、巨大な影が現れた。
それは人にも神にも見える存在。
空に浮かぶ“原初の神”の顕現だった。
「……また“それ”が出てきたか」
ルディウスが冷たい声で呟く。
神の声が響く。
“魂の欠片を返せ、我が子よ。お前は我らの一部でしかない”
「違う。俺は“お前たち”とは違う。俺は自由だ!」
ルディウスが手をかざすと、神と同等の光が放たれる。
雷が天を裂き、空の門そのものが震えた。
アレンとセリナ、リシェル、フィア。
全員がその光に飲まれながらも、ただ一瞬の沈黙を感じた。
世界は確かに――変わろうとしていた。
そして地上に響いた。
“魔王、完全覚醒──ルディアス=ルディウス、再臨”
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(続く)
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