異世界で追放された最弱賢者、実は古代の魔王でした~婚約破棄から始まる最強逆転ハーレム無双譚~

たまごころ

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第13話 奴隷商人から少女を救う

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夜の帳が降りた荒野に、かすかな悲鳴がこだました。  
ルディウスは奈落城での調整を終え、単独で北方へ調査に出ていた。  
次の鍵――“時の冠”の所在を追うためだ。  
それは神々が時間と因果を管理するために用いた装置であり、根源魔力の行方を知る唯一の手掛かりでもあった。  

風が冷たく、砂に混じって血と煙の匂いが漂っている。  
彼の視界の先に、小さな集落を焼く火の粉が舞っていた。  

「……人間の匂いだ。だが、ただの戦ではない」  

魔力で脚を加速し、瞬く間に燃え盛る村へと飛ぶ。  
地面には鎖につながれた人影。老人と女、そして小さな子供。  
その中に、金髪の少女がうずくまっていた。  
彼女の足首には魔封の首輪が嵌められており、汚れた衣の下の肌がひどく擦り切れている。  

「動くな! 奴を射ろ!」  
村の入口にいた男たち――奴隷商人の一団が、弓矢を構えた。  
その後ろに、鎧を着た傭兵風の男が腕を組んで立っている。  

「おい、見ろよ。変な格好の奴が来たぜ。旅の魔法使いか? 面倒だな」  
「殺せばいい、奴隷は動かすな。全部積荷だ」  

矢が放たれる。  
だがそれが空を裂く前に、世界が一瞬止まった。  
次の瞬間、矢は地面に落ち、射手たちが次々と喉を押さえて倒れる。  

「何……だ、こいつ……!」  
傭兵の男が剣を抜くが、その刃先に触れる前に首がねじ切れた。  
風のような衝撃が走り、血が飛び散ることもない。  

「人を売る価値と理由を、俺は知りたくなった」  
低い声が夜に響く。  
ルディウスの瞳が赤く揺れ、周囲の男たちはその場に崩れるように膝をついた。  
魂そのものが重圧に耐えられず、叫びすら出ない。  

震えながら逃げようとした一人の男に、ルディウスは近づいた。  
「お前が主か?」  
「ま、待ってくれ! 俺は命令されただけなんだ!」  
「命令、か。命令で人を縛る。神と同じ構図だ」  

手をかざすと、男の額に黒い紋が刻まれた。  
魂を覗き込む魔法――支配者の記憶を追う術だ。  

映像が脳裏に流れ込む。  
地下の競売場、鉄格子に閉じ込められた少女たち。  
その中には、エルフの耳を持つ者、獣人の者、幼い子供さえも含まれていた。  
すべて、王国の商会が正式に“契約奴隷”として扱う存在。  
だが実態はただの人攫いにすぎない。  

「なるほど。王国の腐敗はここまで進んでいるか」  
ルディウスは男の記憶を切断し、静かに手を下ろした。  
男は無言のまま倒れ、砂に還る。  

怯えて震える少女のそばに歩み寄る。  
「……怖がるな。お前の敵はすでにいない」  
彼女はかすかに唇を震わせた。  
「あなた……化け物なの?」  
「そう呼ばれるのが俺の役目だ」  

そっと手を伸ばし、首輪に触れる。  
触れた部分が光り、鉄が音もなく崩れた。  
少女が呆然とそれを見る。  

「名は?」  
「……リアナ。商人に売られて……もう、どこにも行けなくなったんです」  
ルディウスは少しだけ目を伏せた。  
「その名を忘れるな。お前は“モノ”ではなく、“名で呼ばれる存在”だ。  
それを取り戻すことが、生きるということだ」  

リアナの目から涙がこぼれた。  
「ありがとう……でも、私なんて……もう何も残ってない」  
ルディウスは肩に手を置いた。  
「残っている。心が壊れていないなら、それはもう光の証だ」  

そのとき、背後から馬の蹄の音が近づいた。  
新手の追跡者だ。  
十数名の騎士が王国の紋章を掲げて現れた。  

「やはり戦闘の痕が……! 貴様、何者だ!」  
先頭の隊長が剣を構える。  
ルディウスはリアナを後方に下がらせ、平然と立った。  

「通りがかりだ。見てわかるだろう」  
「まさか貴様、報告にあった“魔王”か!」  
「魔王……その言葉も感情だけでできている。試してみるか?」  

風が渦巻き、地面の砂が球体に変わる。  
剣を構えた騎士たちの前に、光の圧が走った。  
その瞬間、全員の鎧が砂へと還っていく。  
重力が失われたように体が浮き、時間すら止まったように見えた。  

ルディウスは息を吐く。  
「死なせはしない。だが、二度と剣を握るな」  
その声とともに兵士たちは倒れ、気を失った。  

リアナがその光景を見て、小さく呟いた。  
「本当に……魔王なんですね」  
「そう呼ぶ者がそう呼ぶだけだ。  
俺はこの世界の理を変える。  
お前のような者が生まれない世界を造るために」  

彼の瞳の奥に燃えるのは怒りでも悲しみでもない。  
ただ、静かな決意。  

「さあ、行くぞ。眠る場所を探せ」  
リアナは一歩、ためらいながらも彼の後を追った。  
その小さな背中に、黒い外套が影を落としながら包み込む。  

――その夜。  
彼らが立ち去った後、焼け落ちた村跡には淡い光が残っていた。  
黒い花がひとつ、地面から芽吹く。  
それは、贖いと再生を意味する魔花“ノクティア”。  
ルディウスの力が無意識に残した痕跡だった。  

***  

翌朝。奈落城の門前に戻ると、リシェルとフィアが待っていた。  
「戻ったわね。……その子は?」リシェルが目を細める。  
「拾った。名はリアナ。今日からここで保護する」  

リアナが一瞬怯えた目をしたが、フィアが穏やかに笑い、彼女の手を取った。  
「大丈夫。ここはもう鎖も牢もない場所だから」  

ルディウスは玉座に向かいながら呟く。  
「この国は消える。だが、生きる意思を持つ者まで巻き添えにする気はない」  
「あなた、変わったね」リシェルが言った。  
「……かもしれない。だが俺が“変わる”ことこそ、神が最も恐れることだ」  

その言葉と同時に、城全体が低く唸った。  
空に雷鳴が走る。  
遠くの地平線で、新たな軍勢の光が立ち上っている。  

「来たな。神殿直属の“審判者”……」  
ルディウスの声が冷たく空気を裂く。  
「次は、神の代弁者たちに“現実”を見せてやる」  

リアナはその横顔を見上げた。  
恐怖よりも先に、奇妙な“安心”を感じていた。  
それが、救われた者としての最初の感情だった。  

夜明けの光が差し込み、奈落城の尖塔を染めていく。  
そして、また新たな戦いの音が世界に鳴り響いた。  

(続く)
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