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第23話 光と闇の激突
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王都アスラシアの夜空が裂けた。
聖女セリナの背から放たれた黄金の光輪が、街を覆うように広がり、建物も影もすべて白く染め上げていく。
その光の中で、時が止まったように人々は動きを止め、まるで祈るかのように膝をついた。
光は神の祝福ではなかった。
それは理を“奪う”ものだった。世界の定義を書き換え、人の記憶を再構築する。
この瞬間、王都に生きる者たちは皆、ルディウスという存在を「世界にいなかった者」として忘れ始めていた。
彼はその中心で立ち尽くし、静かに呟く。
「面白いな。俺の“支配紋章”を応用し、人の意識そのものを書き換えるとは……。
セリナ、まさか神々の技ではなく、お前自身の理を手に入れたのか。」
聖女セリナは瞳を閉じたまま浮かんでいた。
翼の光が穏やかに羽ばたき、声が響く。
「あなたが壊した世界は、あまりに壊れすぎた。
人は自分で選ぶことができず、あなたという“完全な答え”の影で怯えて生きている。
だから私は――もう一度、人が選べる“信仰”を作り直す。」
「“信仰”を……か。」
ルディウスの声が低く響く。
「お前の言葉はいつも正しい。だが、正しさだけで世界は立たない。」
ルディウスの掌から、黒と金の魔力が渦巻く。
支配紋章が地面に広がり、王都のあらゆる魔力構造を上書きし始めた。
しかし、その瞬間、光と闇の紋様が干渉し合い、激しい衝突音が街を揺らす。
天が鳴る。
塔が砕け、光の破片が舞う。
街路にいた兵や民たちは、まるで夢の中にいるかのような瞳で、二人の戦いを見上げていた。
リシェルたちは、遠くからその光景を見ていた。
「ルディウスとセリナ……二人の力がぶつかり合ってる。
このままだと、世界が本当に崩壊する!」フィアが叫ぶ。
イルミナが魔導端末を操りながら顔をしかめる。
「エネルギー値、二十四倍……この都市が、もはや次元の中心になってる。
このままじゃ、“地上”と“天界”の境界が完全に消える!」
アーシェが槍を掴み、歯を食いしばった。
「止めるしかない。だが、あの力の中に入ったら命は持たんぞ!」
「でも、放っておけない!」リシェルの叫びは、祈りにも似ていた。
***
空。
金色の光が天を貫き、黒い閃光が地を突き上げる。
交わった二つの理の力が交錯し、雲が吹き飛び、時間が波打つように世界が震えた。
ルディウスは冷たい笑みを浮かべる。
「お前の光は、確かに美しい。だが、虚飾だ。
選択肢を与えると言いながら、結局は信仰で縛る――違う形の支配だ。」
セリナは強く睨み返す。
「あなたの支配と、何が違うの!
あなたも人々に理を押し付けている。
違うのは、あなたに“温かさ”がないというだけ!」
二人の力が弾ける。
光が、黒を。黒が、光を切り裂く。
その度に、空が焼け、地が揺れる。
ルディウスの瞳が金と赤に輝いた。
両掌に刻まれた紋章が輝き、彼の声が轟く。
「古代魔法・律式融合――“理環転写(オーバーコード)!”」
地面が浮上した。王都全体が一瞬、宙に持ち上がる。
空間そのものが書き換えられ、黒と白の世界が同時に展開する。
それは生命と死、創造と滅びが共存する空間――“無秩序の理域”。
セリナが息を呑む。
「……あなた、世界そのものを再生成しているの?」
「そうだ。お前が“人の信仰”を作り変えるなら、俺は“世界の構造”そのものを変える。
滅びすら、進化の一部だ。」
ルディウスが手をかざすと、黒い焼印のような紋章が空を走り、セリナの翼を掴む。
しかし、すぐに黄金の炎がそれを焼き払った。
セリナは翼を広げ、祈りの声を放つ。
「神の名は、もう必要ない。
でも――誰かを救う意志がある限り、私は光でいられる!」
目を閉じたその瞬間、街中の人々が光に包まれた。
祈りの声が重なり、セリナの光がルディウスの闇を押し返していく。
闇が逆流し、黒の塔が軋む。
ルディウスの額に汗が流れる。
「……祈りの総和を、力に変えたか。
その力は確かに“無限”だ。だが――」
彼の右目が赤く輝く。
「有限こそが、生命の証だ!」
一言とともに、空全体が爆ぜた。
無限と有限の理が、ぶつかり合い、混ざり合い、そして――溶け合った。
天空が裂ける。
そこに立っていたのは、光でも闇でもなく、両方を纏う存在。
片翼は黄金、もう片翼は漆黒。
ルディウスとセリナ、二つの理が融合し、一人の存在となっていた。
イルミナがその光景を見つめ、声を失う。
「融合……? 二人の理が同化してる!?」
リシェルが呟く。「そんな……人間が、神の領域に……」
融合体――“調和体ルディア=セリナ”が静かに目を開けた。
その声は二人の響きが混じっている。
「……この世界は矛盾していた。光だけでは生きられず、闇だけでも進めない。
ならば、混ざり合って歩めばいい。」
人々の祈りが止まる。
戦いは終わったのか、それとも始まったのか。
次の瞬間、重なり合った光が音を立てて引き裂かれた。
二人の姿が再び分かたれ、強烈な閃光が走る。
それは“どちらの勝敗”でもなかった。
空が晴れる。王都の外壁が崩れ落ちる。
リシェルが泣きそうな声で叫んだ。
「ルディウス!!」
煙の中から現れたのは、確かに彼だった。
だが、その右腕には黄金の光輪が絡みつき、片目は光を失っていた。
彼は一言だけ呟く。
「まだ終わらん。
これは救いでも戦でもない。
――赦しの序章だ。」
空には、新しい光が浮かんでいた。
それは神のものでも、魔の炎でもない。
人が自ら選ぶための、“自由”の灯だった。
(続く)
聖女セリナの背から放たれた黄金の光輪が、街を覆うように広がり、建物も影もすべて白く染め上げていく。
その光の中で、時が止まったように人々は動きを止め、まるで祈るかのように膝をついた。
光は神の祝福ではなかった。
それは理を“奪う”ものだった。世界の定義を書き換え、人の記憶を再構築する。
この瞬間、王都に生きる者たちは皆、ルディウスという存在を「世界にいなかった者」として忘れ始めていた。
彼はその中心で立ち尽くし、静かに呟く。
「面白いな。俺の“支配紋章”を応用し、人の意識そのものを書き換えるとは……。
セリナ、まさか神々の技ではなく、お前自身の理を手に入れたのか。」
聖女セリナは瞳を閉じたまま浮かんでいた。
翼の光が穏やかに羽ばたき、声が響く。
「あなたが壊した世界は、あまりに壊れすぎた。
人は自分で選ぶことができず、あなたという“完全な答え”の影で怯えて生きている。
だから私は――もう一度、人が選べる“信仰”を作り直す。」
「“信仰”を……か。」
ルディウスの声が低く響く。
「お前の言葉はいつも正しい。だが、正しさだけで世界は立たない。」
ルディウスの掌から、黒と金の魔力が渦巻く。
支配紋章が地面に広がり、王都のあらゆる魔力構造を上書きし始めた。
しかし、その瞬間、光と闇の紋様が干渉し合い、激しい衝突音が街を揺らす。
天が鳴る。
塔が砕け、光の破片が舞う。
街路にいた兵や民たちは、まるで夢の中にいるかのような瞳で、二人の戦いを見上げていた。
リシェルたちは、遠くからその光景を見ていた。
「ルディウスとセリナ……二人の力がぶつかり合ってる。
このままだと、世界が本当に崩壊する!」フィアが叫ぶ。
イルミナが魔導端末を操りながら顔をしかめる。
「エネルギー値、二十四倍……この都市が、もはや次元の中心になってる。
このままじゃ、“地上”と“天界”の境界が完全に消える!」
アーシェが槍を掴み、歯を食いしばった。
「止めるしかない。だが、あの力の中に入ったら命は持たんぞ!」
「でも、放っておけない!」リシェルの叫びは、祈りにも似ていた。
***
空。
金色の光が天を貫き、黒い閃光が地を突き上げる。
交わった二つの理の力が交錯し、雲が吹き飛び、時間が波打つように世界が震えた。
ルディウスは冷たい笑みを浮かべる。
「お前の光は、確かに美しい。だが、虚飾だ。
選択肢を与えると言いながら、結局は信仰で縛る――違う形の支配だ。」
セリナは強く睨み返す。
「あなたの支配と、何が違うの!
あなたも人々に理を押し付けている。
違うのは、あなたに“温かさ”がないというだけ!」
二人の力が弾ける。
光が、黒を。黒が、光を切り裂く。
その度に、空が焼け、地が揺れる。
ルディウスの瞳が金と赤に輝いた。
両掌に刻まれた紋章が輝き、彼の声が轟く。
「古代魔法・律式融合――“理環転写(オーバーコード)!”」
地面が浮上した。王都全体が一瞬、宙に持ち上がる。
空間そのものが書き換えられ、黒と白の世界が同時に展開する。
それは生命と死、創造と滅びが共存する空間――“無秩序の理域”。
セリナが息を呑む。
「……あなた、世界そのものを再生成しているの?」
「そうだ。お前が“人の信仰”を作り変えるなら、俺は“世界の構造”そのものを変える。
滅びすら、進化の一部だ。」
ルディウスが手をかざすと、黒い焼印のような紋章が空を走り、セリナの翼を掴む。
しかし、すぐに黄金の炎がそれを焼き払った。
セリナは翼を広げ、祈りの声を放つ。
「神の名は、もう必要ない。
でも――誰かを救う意志がある限り、私は光でいられる!」
目を閉じたその瞬間、街中の人々が光に包まれた。
祈りの声が重なり、セリナの光がルディウスの闇を押し返していく。
闇が逆流し、黒の塔が軋む。
ルディウスの額に汗が流れる。
「……祈りの総和を、力に変えたか。
その力は確かに“無限”だ。だが――」
彼の右目が赤く輝く。
「有限こそが、生命の証だ!」
一言とともに、空全体が爆ぜた。
無限と有限の理が、ぶつかり合い、混ざり合い、そして――溶け合った。
天空が裂ける。
そこに立っていたのは、光でも闇でもなく、両方を纏う存在。
片翼は黄金、もう片翼は漆黒。
ルディウスとセリナ、二つの理が融合し、一人の存在となっていた。
イルミナがその光景を見つめ、声を失う。
「融合……? 二人の理が同化してる!?」
リシェルが呟く。「そんな……人間が、神の領域に……」
融合体――“調和体ルディア=セリナ”が静かに目を開けた。
その声は二人の響きが混じっている。
「……この世界は矛盾していた。光だけでは生きられず、闇だけでも進めない。
ならば、混ざり合って歩めばいい。」
人々の祈りが止まる。
戦いは終わったのか、それとも始まったのか。
次の瞬間、重なり合った光が音を立てて引き裂かれた。
二人の姿が再び分かたれ、強烈な閃光が走る。
それは“どちらの勝敗”でもなかった。
空が晴れる。王都の外壁が崩れ落ちる。
リシェルが泣きそうな声で叫んだ。
「ルディウス!!」
煙の中から現れたのは、確かに彼だった。
だが、その右腕には黄金の光輪が絡みつき、片目は光を失っていた。
彼は一言だけ呟く。
「まだ終わらん。
これは救いでも戦でもない。
――赦しの序章だ。」
空には、新しい光が浮かんでいた。
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