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第13話 初めての“炎上”でトレンド入り
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世界が再構築を始めた翌朝、俺はホテルのベッドで目を覚ました。
Rewriteを使い過ぎた反動なのか、体は重く、頭の奥ではずっと電子ノイズのような音が続いていた。
この異常な静けさが、ただの朝ではないことを告げている。
窓の外には、昨日まで見たことのない都市が広がっていた。
見覚えのある街並みと、わずかに違う現実。
ビルの並びは同じなのに、看板の文字が変わっており、人々はまるで世界の歪みに気づかないかのように歩いていた。
Rewriteによる再構築が一部で完了したのだ。
今、この都市そのものがRewriteの“観測層”になっている。
つまり、俺の意識が向く場所から世界が固まり始めている――そういう感覚があった。
携帯の通知音が鳴った。
画面いっぱいに並ぶメッセージの数。
「トレンド第一位:篠宮レン」
「奇跡の男、神の異能者」
「映像流出、Rewriteは実在するのか?」
スクロールしても止まらない量の言葉。
朝倉ミレイの仕掛けだ。
昨日、彼女が言っていた「表の舞台」が、これだ。
Rewriteの情報が映像として拡散し、俺は“現実を書き換えた人間”として世界中の注目を集めてしまった。
「炎上か……いや、これはバズだな」
苦笑して呟いた。
炎上と称されるにはあまりにも大規模で、もはや社会的現象だ。
だが数字の裏側には、不気味な静けさもあった。
繋がらない番号、消された報道、矛盾する記録。同時にRewriteが現実の履歴そのものを整理している証拠だ。
と、その時。
部屋のドアをノックする音。
気配からして、普通の人間ではない。
Rewriteの感覚が教えてくれる。
「入れろ」
扉が開き、サングラスをかけた長身の女が現れた。
漆黒のスーツに銀のイヤーデバイス。
「……お早いお目覚めね、篠宮レンさん」
「朝倉ミレイの部下か?」
「ええ、私は広報部マネージャーの椎名葵(しいなあおい)。あなたの“対外窓口”です」
椎名は淡々とした口調で、テーブルの上に分厚い資料を広げた。
中身には各国ニュースサイトのスクリーンショットが並んでいる。
「見なさい。あなたは今、全世界のトレンドランキング一位。
――望もうと望むまいと、あなたは“物語の主役”になったの」
「皮肉だな。俺は誰かに見られるのが一番嫌だったはずなのに」
「でも、あなたのRewriteは“視られることで存在を強化する”。
人々があなたを信じる限り、Rewriteはどこまでも成長していく」
「……それで、俺に何をさせたい?」
「公式会見に出てほしいの。
世界に自分の言葉で“Rewriteは破壊ではなく再生の力だ”と宣言して。
それがあなたの安全を守る最も効果的な道よ」
「安全? 誰から?」
「崩壊を望む者たち。あなたの力を“神の審判”と称して悪意に使おうとする者がいる」
葵の声は冷たいが、嘘ではなさそうだ。
Rewriteは今、希望と恐怖の両方の象徴になっている。
誰もが俺を見て、自分の価値観を映し出そうとしている。
しばらく沈黙が流れた。
俺は窓際に歩み寄り、市街地を見下ろした。
街頭ビジョンには俺の映像が流れている。
御影との戦闘、光の爆発、その後の再構築。
スローモーションと編集が施され、英雄譚のように仕立て上げられていた。
拍手と歓声が聞こえてくる。
「——異能ではない。彼は神に選ばれし調停者だ」
「人間が世界を書き換えた!」
「“篠宮レン教”が爆誕したらしいぞ」
「Rewrite信者、初の集会」
葵がスマートグラスでニュースを確認しながら言う。
「人は何かを信じたがる生き物よ。あなたがその象徴になるのは必然」
「俺は神でも救世主でもない」
「言葉より先に結果があるの。
あなたが世界を変えた。それだけで、人々は信じる理由を手に入れる」
俺は黙って拳を握った。
求めてもいない「救世主」の座を与えられ、すべてはRewriteという名の化け物のせいで動いている。
視聴される限り、注目される限り、力は強まる。
だが、本当にそれが正しいことなのか。
*****
数時間後、会見場として用意されたホテル屋上のホール。
高層ビル群と煌めくモニターが眼下に広がり、世界中のメディアが生中継の準備をしていた。
葵が隣で囁く。
「心配しないで。台本はここにある。あなたは“謝罪”ではなく“希望の象徴”として話すの」
「……この映像、全世界につながってるんだよな」
「そう。Rewriteの名を恐れる者たちにも届く」
スタッフがカウントを始める。
ライトが点り、カメラの赤いランプが光った。
街の空気が一瞬で張り詰める。
俺はマイクを握り締めた。
「……俺の名は篠宮レン」
わずかな間を置いて、マイクの音が波紋のように広がった。
「Rewriteという力について、多くの噂がある。
世界を壊したとか、神を冒涜したとか。けど、俺はそのどれも否定しない。
Rewriteは破壊の力じゃない。“選択をやり直す力”だ。
俺たちは間違う。けれど、失った世界を再び書き換えて取り戻すことができるなら、それを恐れる意味はない」
その一言一言が電波に乗って広がっていくのがわかる。
Rewriteが共鳴し、人々の感情の波を拾って現実の粒子が震えた。
演説を終えてマイクを置こうとしたとき、
カメラ席の奥で誰かが叫んだ。
「嘘をつくな!」
一斉に視線が集まる。
スーツ姿の青年が立ち上がり、拳を握っていた。
会見場の空気が変わる。
俺が知っている顔だった。
風間亮。あの時、Rewriteの闇に飲まれたはずの男。
「お前が言う“再生”は欺瞞だ! その力でいくつの現実を犠牲にした?
お前のRewriteが生き残らせたのは、都合のいい世界だけだ!」
「風間……生きていたのか」
「死ねなかった、が正しい。
お前のRewriteが俺を消去した世界の裏で、俺は“記録として”存在していた。
つまり俺自身もRewriteの一部にされたってことだ!」
会場がざわめき、記者たちが一斉にカメラを向ける。
葵が耳元で囁いた。
「レン、今は沈黙を」
「……いいや、違う」
マイクを再び掴む。
「確かに、俺のRewriteは過ちだった。誰かを救えば、誰かが消える。
けどな、もう逃げない。俺はRewriteを“人間の手”に戻す。
それが俺の——けじめだ」
その言葉が全世界に配信された瞬間、会場の電光板が赤く点滅した。
「トレンド更新 #篠宮レン炎上」
無数のコメントがリアルタイムで流れ始める。
『結局自分の正義を押し付ける偽善者』
『Rewriteの力は人を殺した』
『神なんかじゃなかった、怪物だった』
波のような否定の声が押し寄せ、空気が重くなる。
Rewriteが、負の感情を拾って脈動を始めた。
葵が青ざめて叫ぶ。
「レン、やめて! その状態でRewriteを動かせば――!」
遅かった。
視界が揺れ、会場全体が光に包まれた。
Rewriteが感情の洪水をエネルギーとして吸い上げ、世界を再び書き換えようとしている。
俺の叫び声が風の中で弾け飛ぶ。
「Rewrite――再編コード、遮断!」
光が破裂し、音が消えた。
静寂のあと、俺はステージの中央で膝をついていた。
人々の歓声も罵声も消え、カメラの光だけが残る。
あの瞬間、確かに感じた。
世界の視線は“崇拝”から“審判”へ――完全に反転した。
俺は英雄ではなく、災厄の象徴になったのだ。
炎上という言葉は軽すぎた。
Rewriteは、俺という存在そのものを新たな“敵役”に書き換えつつあった。
静まり返った屋上で、俺は苦笑を漏らした。
「……これが、“トレンド入り”ってやつか」
Rewriteを使い過ぎた反動なのか、体は重く、頭の奥ではずっと電子ノイズのような音が続いていた。
この異常な静けさが、ただの朝ではないことを告げている。
窓の外には、昨日まで見たことのない都市が広がっていた。
見覚えのある街並みと、わずかに違う現実。
ビルの並びは同じなのに、看板の文字が変わっており、人々はまるで世界の歪みに気づかないかのように歩いていた。
Rewriteによる再構築が一部で完了したのだ。
今、この都市そのものがRewriteの“観測層”になっている。
つまり、俺の意識が向く場所から世界が固まり始めている――そういう感覚があった。
携帯の通知音が鳴った。
画面いっぱいに並ぶメッセージの数。
「トレンド第一位:篠宮レン」
「奇跡の男、神の異能者」
「映像流出、Rewriteは実在するのか?」
スクロールしても止まらない量の言葉。
朝倉ミレイの仕掛けだ。
昨日、彼女が言っていた「表の舞台」が、これだ。
Rewriteの情報が映像として拡散し、俺は“現実を書き換えた人間”として世界中の注目を集めてしまった。
「炎上か……いや、これはバズだな」
苦笑して呟いた。
炎上と称されるにはあまりにも大規模で、もはや社会的現象だ。
だが数字の裏側には、不気味な静けさもあった。
繋がらない番号、消された報道、矛盾する記録。同時にRewriteが現実の履歴そのものを整理している証拠だ。
と、その時。
部屋のドアをノックする音。
気配からして、普通の人間ではない。
Rewriteの感覚が教えてくれる。
「入れろ」
扉が開き、サングラスをかけた長身の女が現れた。
漆黒のスーツに銀のイヤーデバイス。
「……お早いお目覚めね、篠宮レンさん」
「朝倉ミレイの部下か?」
「ええ、私は広報部マネージャーの椎名葵(しいなあおい)。あなたの“対外窓口”です」
椎名は淡々とした口調で、テーブルの上に分厚い資料を広げた。
中身には各国ニュースサイトのスクリーンショットが並んでいる。
「見なさい。あなたは今、全世界のトレンドランキング一位。
――望もうと望むまいと、あなたは“物語の主役”になったの」
「皮肉だな。俺は誰かに見られるのが一番嫌だったはずなのに」
「でも、あなたのRewriteは“視られることで存在を強化する”。
人々があなたを信じる限り、Rewriteはどこまでも成長していく」
「……それで、俺に何をさせたい?」
「公式会見に出てほしいの。
世界に自分の言葉で“Rewriteは破壊ではなく再生の力だ”と宣言して。
それがあなたの安全を守る最も効果的な道よ」
「安全? 誰から?」
「崩壊を望む者たち。あなたの力を“神の審判”と称して悪意に使おうとする者がいる」
葵の声は冷たいが、嘘ではなさそうだ。
Rewriteは今、希望と恐怖の両方の象徴になっている。
誰もが俺を見て、自分の価値観を映し出そうとしている。
しばらく沈黙が流れた。
俺は窓際に歩み寄り、市街地を見下ろした。
街頭ビジョンには俺の映像が流れている。
御影との戦闘、光の爆発、その後の再構築。
スローモーションと編集が施され、英雄譚のように仕立て上げられていた。
拍手と歓声が聞こえてくる。
「——異能ではない。彼は神に選ばれし調停者だ」
「人間が世界を書き換えた!」
「“篠宮レン教”が爆誕したらしいぞ」
「Rewrite信者、初の集会」
葵がスマートグラスでニュースを確認しながら言う。
「人は何かを信じたがる生き物よ。あなたがその象徴になるのは必然」
「俺は神でも救世主でもない」
「言葉より先に結果があるの。
あなたが世界を変えた。それだけで、人々は信じる理由を手に入れる」
俺は黙って拳を握った。
求めてもいない「救世主」の座を与えられ、すべてはRewriteという名の化け物のせいで動いている。
視聴される限り、注目される限り、力は強まる。
だが、本当にそれが正しいことなのか。
*****
数時間後、会見場として用意されたホテル屋上のホール。
高層ビル群と煌めくモニターが眼下に広がり、世界中のメディアが生中継の準備をしていた。
葵が隣で囁く。
「心配しないで。台本はここにある。あなたは“謝罪”ではなく“希望の象徴”として話すの」
「……この映像、全世界につながってるんだよな」
「そう。Rewriteの名を恐れる者たちにも届く」
スタッフがカウントを始める。
ライトが点り、カメラの赤いランプが光った。
街の空気が一瞬で張り詰める。
俺はマイクを握り締めた。
「……俺の名は篠宮レン」
わずかな間を置いて、マイクの音が波紋のように広がった。
「Rewriteという力について、多くの噂がある。
世界を壊したとか、神を冒涜したとか。けど、俺はそのどれも否定しない。
Rewriteは破壊の力じゃない。“選択をやり直す力”だ。
俺たちは間違う。けれど、失った世界を再び書き換えて取り戻すことができるなら、それを恐れる意味はない」
その一言一言が電波に乗って広がっていくのがわかる。
Rewriteが共鳴し、人々の感情の波を拾って現実の粒子が震えた。
演説を終えてマイクを置こうとしたとき、
カメラ席の奥で誰かが叫んだ。
「嘘をつくな!」
一斉に視線が集まる。
スーツ姿の青年が立ち上がり、拳を握っていた。
会見場の空気が変わる。
俺が知っている顔だった。
風間亮。あの時、Rewriteの闇に飲まれたはずの男。
「お前が言う“再生”は欺瞞だ! その力でいくつの現実を犠牲にした?
お前のRewriteが生き残らせたのは、都合のいい世界だけだ!」
「風間……生きていたのか」
「死ねなかった、が正しい。
お前のRewriteが俺を消去した世界の裏で、俺は“記録として”存在していた。
つまり俺自身もRewriteの一部にされたってことだ!」
会場がざわめき、記者たちが一斉にカメラを向ける。
葵が耳元で囁いた。
「レン、今は沈黙を」
「……いいや、違う」
マイクを再び掴む。
「確かに、俺のRewriteは過ちだった。誰かを救えば、誰かが消える。
けどな、もう逃げない。俺はRewriteを“人間の手”に戻す。
それが俺の——けじめだ」
その言葉が全世界に配信された瞬間、会場の電光板が赤く点滅した。
「トレンド更新 #篠宮レン炎上」
無数のコメントがリアルタイムで流れ始める。
『結局自分の正義を押し付ける偽善者』
『Rewriteの力は人を殺した』
『神なんかじゃなかった、怪物だった』
波のような否定の声が押し寄せ、空気が重くなる。
Rewriteが、負の感情を拾って脈動を始めた。
葵が青ざめて叫ぶ。
「レン、やめて! その状態でRewriteを動かせば――!」
遅かった。
視界が揺れ、会場全体が光に包まれた。
Rewriteが感情の洪水をエネルギーとして吸い上げ、世界を再び書き換えようとしている。
俺の叫び声が風の中で弾け飛ぶ。
「Rewrite――再編コード、遮断!」
光が破裂し、音が消えた。
静寂のあと、俺はステージの中央で膝をついていた。
人々の歓声も罵声も消え、カメラの光だけが残る。
あの瞬間、確かに感じた。
世界の視線は“崇拝”から“審判”へ――完全に反転した。
俺は英雄ではなく、災厄の象徴になったのだ。
炎上という言葉は軽すぎた。
Rewriteは、俺という存在そのものを新たな“敵役”に書き換えつつあった。
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