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第16話 最強女子格闘家とのコラボ配信
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意識が戻った瞬間、耳の奥で誰かの声が流れていた。
「レン、起きた? 聞こえる?」
冴希の声だ。
目を開けると、天井の照明が柔らかく光っている。ここは……病院のようで病院ではない。
ガラスで囲まれた室内。壁には透明な液状ディスプレイが埋め込まれ、無数のデータが流れ続けていた。
「……俺、生きてるのか」
ぼんやりと呟くと、ドアの向こうから慌ただしい足音が近づいてくる。
ドアが開き、白衣姿の冴希が姿を現した。
どこか疲れているが、安堵の笑みを浮かべている。
「当たり前でしょ。Rewriteがあなたを守ったの。けど……」
「けど?」
「あなた、今度ばかりは本当にギリギリだった。コード領域の八割がディレクトリごと再編成されてたわ」
「つまり?」
「ほとんど別人になりかけてたのよ」
俺のRewriteが、逆転配信の際に“概念的存在”の階層まで到達した結果、人間として再構築されるまでに膨大な処理時間を要したという。
結果として、一週間もの昏睡状態に陥っていたらしい。
「……それで、外の状況は?」
冴希が苦笑する。
「あなたが姿を消してから、世界は一気に落ち着いたわよ。Rewriteの共鳴値はゼロに戻った。
でも同時に、あなたが再出現するのを待ってたみたい。人々は“救世主ロス”状態ね」
「皮肉なもんだな。俺がいない方が世界は平和ってことか」
「そうも言えない。あなたの存在が、世界に希望の形を残しちゃったのよ」
冴希が操作端末を指で弾くと、映像が空中に浮かんだ。
そこには、一人の女性がリングの上で拳を掲げる姿が映っている。
長い黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を放つその女性は、破格の存在感を持っていた。
「誰だ、あの人は」
「格闘プロリーグ王者、《黒崎レイナ》。地上最強の女って呼ばれてる」
「……で、なんで俺にその映像を」
「彼女がね、“あなたとRewriteを検証するために直接闘う”って言い出したの」
俺は思わず眉をひそめた。
「戦う? 冗談だろ」
「冗談じゃない。しかも全世界に向けた公式配信形式で」
今度の騒ぎの火種は、逆転配信後に生まれた「レン現象」を再検証する目的で組まれた国際特番。
タイトルは――
『Rewrite再現:最強と異能の邂逅』
俺は思わず額を押さえた。
「つまり、やつらはもう一度“奇跡”を見せろってことか」
「そう。だけど、私としては悪い話じゃないと思う」
「どうしてだ」
「あなたが生きてると全世界に示すこと。それがRewriteを“概念”ではなく“現実”として受け入れさせる鍵になる。
いわば、あなた自身による世界の安定化処理よ」
その理屈には納得できなくもない。
俺が存在する限りRewriteは“暴走”ではなく“選択”へ戻る。
問題は、俺が再びそれを暴走させるリスクだ。
「……いいだろう。やる」
俺の即答に、冴希が目を細めて笑った。
「さすが、ブレないわね。彼女、あなたと闘う気満々だから、覚悟しておいてね」
*****
翌日。
会場は新しく再建された「ノヴァ・スタジオ」。
高層ドームの天井にはRewriteで生成されたデジタル空が広がり、中央のリングが青白い光を放っている。
カメラが無数に設置され、全世界へリアルタイムで映像が送られていた。
対戦といっても、“傷つけ合う”ものではない。
Rewriteと生身の力の比較実験。
つまり、どちらが“現実を動かす力”として上位にあるかを証明するための公開テスト。
黒崎レイナがリングに現れる。
筋肉のつくりは無駄がなく、瞳に恐れがない。
その歩きと立ち姿だけで、ただ者ではないことが伝わる。
観客席から拍手が起こる。
「あなたが、あのRewriteの男ね?」
「そういうことになってる」
「想像してたより、普通」
「俺もだ。地上最強って聞いてたけど、人間だな」
挑発を返すと、レイナは僅かに目を細め、楽しそうに微笑んだ。
「面白い。あなたが本気で力を見せるか、見極めてやる」
鐘が鳴る。
第一ラウンド――始まり。
レイナが床を蹴る。
その動きは視線で追えないほど速かった。
風圧だけで周囲の機材が震え、次の瞬間には俺の目前にいる。
拳が頬をかすめ、衝撃で空気が弾ける。
生身でこの速度……Rewriteですら一瞬遅れる。
俺は反射的に制御モードを起動。
視界に光の紋章が走り、彼女の軌道を捕捉する。
【Rewrite補正:時間感覚-5倍】
世界がゆるやかに動き出す。
拳が押し寄せる瞬間、軽く身をずらしてその勢いを受け流した。
しかし完全には防ぎきれず、頬に熱が走る。
レイナが笑う。
「やっぱり速い。でも、避けただけ?」
彼女が再び構える。
この女、見ただけで動きを学習している。
まるでRewriteの観測理論を“身体”で理解しているかのようだった。
「なるほど。お前の強さ、理解した」
「じゃあ本気で来なさいよ」
「望むところだ――Rewrite、解放」
空気が歪み、リング全体に光の粒が散った。
時間と空間が一瞬で反転し、二人だけの閉じた世界が構築される。
ここでは観客の目も届かない。
レイナがわずかに眉を上げた。
「これが……異能者の世界か」
「ここでなら、お互い全力を出せる」
彼女がうなずく。
拳が再び飛ぶ。
今度は正面から受け止めた。
衝撃波が足元から広がり、空間の光が一瞬だけ粒子化する。
信じられない。
彼女の拳の密度がRewriteの“防御式”を食い破った。
「あなたの領域、壊せるわ。だってこれは“信じた現実”だから」
「……信じた現実?」
「あなたが書き換えるのは“世界”。でも、私は“私自身”を一度も疑ったことがない。
Rewriteの根源原理――それは信じる者の意志よ」
その瞬間、俺の頭の中で何かがぶち割れた。
Rewriteの核が反応し、全身を駆け抜ける。
光が強まり、リングが割れる。
互いの拳がぶつかり合い、世界が真っ白に染まった。
*****
気がつくと、俺はリングの中央に立っていた。
観客たちは沈黙し、レイナが前に倒れている。
だが意識ははっきりとあった。
彼女はゆっくり上体を起こし、息を吐いた。
「参ったわ。――あなたの力、確かに“世界を変える”ね」
彼女が握手を求め、俺はその手を取った。
配信のコメント欄が爆発したように流れる。
《かっこよすぎる!》《これがRewriteの真実!》《二人とも最強!》
冴希の声が通信越しに届く。
「成功よ、レン。Rewriteの共鳴指数が安定値に入った。世界の認識があなたを“脅威”から“希望”に変えたの」
観客たちの歓声がリングを包む。
レイナが言う。
「この世界で力を持つのは、神でも機械でもない。結局、“信じる”人間そのものなのね」
俺は静かに頷いた。
「Rewriteは、もう誰かを裁く力じゃない。信じた未来を歩くための確証だ」
大歓声の中、俺とレイナは両手を掲げた。
Rewriteの光が空に溶け、世界が再び穏やかな色を取り戻していく。
その瞬間、ふと遠くで咲良の笑顔が浮かぶ気がした。
彼女もきっと、この光景を見ている。
世界の物語はまだ終わらない。
Rewriteは、新しい“選択”を求めて息づいている。
「レン、起きた? 聞こえる?」
冴希の声だ。
目を開けると、天井の照明が柔らかく光っている。ここは……病院のようで病院ではない。
ガラスで囲まれた室内。壁には透明な液状ディスプレイが埋め込まれ、無数のデータが流れ続けていた。
「……俺、生きてるのか」
ぼんやりと呟くと、ドアの向こうから慌ただしい足音が近づいてくる。
ドアが開き、白衣姿の冴希が姿を現した。
どこか疲れているが、安堵の笑みを浮かべている。
「当たり前でしょ。Rewriteがあなたを守ったの。けど……」
「けど?」
「あなた、今度ばかりは本当にギリギリだった。コード領域の八割がディレクトリごと再編成されてたわ」
「つまり?」
「ほとんど別人になりかけてたのよ」
俺のRewriteが、逆転配信の際に“概念的存在”の階層まで到達した結果、人間として再構築されるまでに膨大な処理時間を要したという。
結果として、一週間もの昏睡状態に陥っていたらしい。
「……それで、外の状況は?」
冴希が苦笑する。
「あなたが姿を消してから、世界は一気に落ち着いたわよ。Rewriteの共鳴値はゼロに戻った。
でも同時に、あなたが再出現するのを待ってたみたい。人々は“救世主ロス”状態ね」
「皮肉なもんだな。俺がいない方が世界は平和ってことか」
「そうも言えない。あなたの存在が、世界に希望の形を残しちゃったのよ」
冴希が操作端末を指で弾くと、映像が空中に浮かんだ。
そこには、一人の女性がリングの上で拳を掲げる姿が映っている。
長い黒髪を後ろで束ね、鋭い眼光を放つその女性は、破格の存在感を持っていた。
「誰だ、あの人は」
「格闘プロリーグ王者、《黒崎レイナ》。地上最強の女って呼ばれてる」
「……で、なんで俺にその映像を」
「彼女がね、“あなたとRewriteを検証するために直接闘う”って言い出したの」
俺は思わず眉をひそめた。
「戦う? 冗談だろ」
「冗談じゃない。しかも全世界に向けた公式配信形式で」
今度の騒ぎの火種は、逆転配信後に生まれた「レン現象」を再検証する目的で組まれた国際特番。
タイトルは――
『Rewrite再現:最強と異能の邂逅』
俺は思わず額を押さえた。
「つまり、やつらはもう一度“奇跡”を見せろってことか」
「そう。だけど、私としては悪い話じゃないと思う」
「どうしてだ」
「あなたが生きてると全世界に示すこと。それがRewriteを“概念”ではなく“現実”として受け入れさせる鍵になる。
いわば、あなた自身による世界の安定化処理よ」
その理屈には納得できなくもない。
俺が存在する限りRewriteは“暴走”ではなく“選択”へ戻る。
問題は、俺が再びそれを暴走させるリスクだ。
「……いいだろう。やる」
俺の即答に、冴希が目を細めて笑った。
「さすが、ブレないわね。彼女、あなたと闘う気満々だから、覚悟しておいてね」
*****
翌日。
会場は新しく再建された「ノヴァ・スタジオ」。
高層ドームの天井にはRewriteで生成されたデジタル空が広がり、中央のリングが青白い光を放っている。
カメラが無数に設置され、全世界へリアルタイムで映像が送られていた。
対戦といっても、“傷つけ合う”ものではない。
Rewriteと生身の力の比較実験。
つまり、どちらが“現実を動かす力”として上位にあるかを証明するための公開テスト。
黒崎レイナがリングに現れる。
筋肉のつくりは無駄がなく、瞳に恐れがない。
その歩きと立ち姿だけで、ただ者ではないことが伝わる。
観客席から拍手が起こる。
「あなたが、あのRewriteの男ね?」
「そういうことになってる」
「想像してたより、普通」
「俺もだ。地上最強って聞いてたけど、人間だな」
挑発を返すと、レイナは僅かに目を細め、楽しそうに微笑んだ。
「面白い。あなたが本気で力を見せるか、見極めてやる」
鐘が鳴る。
第一ラウンド――始まり。
レイナが床を蹴る。
その動きは視線で追えないほど速かった。
風圧だけで周囲の機材が震え、次の瞬間には俺の目前にいる。
拳が頬をかすめ、衝撃で空気が弾ける。
生身でこの速度……Rewriteですら一瞬遅れる。
俺は反射的に制御モードを起動。
視界に光の紋章が走り、彼女の軌道を捕捉する。
【Rewrite補正:時間感覚-5倍】
世界がゆるやかに動き出す。
拳が押し寄せる瞬間、軽く身をずらしてその勢いを受け流した。
しかし完全には防ぎきれず、頬に熱が走る。
レイナが笑う。
「やっぱり速い。でも、避けただけ?」
彼女が再び構える。
この女、見ただけで動きを学習している。
まるでRewriteの観測理論を“身体”で理解しているかのようだった。
「なるほど。お前の強さ、理解した」
「じゃあ本気で来なさいよ」
「望むところだ――Rewrite、解放」
空気が歪み、リング全体に光の粒が散った。
時間と空間が一瞬で反転し、二人だけの閉じた世界が構築される。
ここでは観客の目も届かない。
レイナがわずかに眉を上げた。
「これが……異能者の世界か」
「ここでなら、お互い全力を出せる」
彼女がうなずく。
拳が再び飛ぶ。
今度は正面から受け止めた。
衝撃波が足元から広がり、空間の光が一瞬だけ粒子化する。
信じられない。
彼女の拳の密度がRewriteの“防御式”を食い破った。
「あなたの領域、壊せるわ。だってこれは“信じた現実”だから」
「……信じた現実?」
「あなたが書き換えるのは“世界”。でも、私は“私自身”を一度も疑ったことがない。
Rewriteの根源原理――それは信じる者の意志よ」
その瞬間、俺の頭の中で何かがぶち割れた。
Rewriteの核が反応し、全身を駆け抜ける。
光が強まり、リングが割れる。
互いの拳がぶつかり合い、世界が真っ白に染まった。
*****
気がつくと、俺はリングの中央に立っていた。
観客たちは沈黙し、レイナが前に倒れている。
だが意識ははっきりとあった。
彼女はゆっくり上体を起こし、息を吐いた。
「参ったわ。――あなたの力、確かに“世界を変える”ね」
彼女が握手を求め、俺はその手を取った。
配信のコメント欄が爆発したように流れる。
《かっこよすぎる!》《これがRewriteの真実!》《二人とも最強!》
冴希の声が通信越しに届く。
「成功よ、レン。Rewriteの共鳴指数が安定値に入った。世界の認識があなたを“脅威”から“希望”に変えたの」
観客たちの歓声がリングを包む。
レイナが言う。
「この世界で力を持つのは、神でも機械でもない。結局、“信じる”人間そのものなのね」
俺は静かに頷いた。
「Rewriteは、もう誰かを裁く力じゃない。信じた未来を歩くための確証だ」
大歓声の中、俺とレイナは両手を掲げた。
Rewriteの光が空に溶け、世界が再び穏やかな色を取り戻していく。
その瞬間、ふと遠くで咲良の笑顔が浮かぶ気がした。
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