Re:コード・ブレイカー ~落ちこぼれと嘲られた少年、世界最強の異能で全てをねじ伏せる~

たまごころ

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第29話 世界同時中継・神域への挑戦

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 オルガの断片が残した光の渦が、夜空の中心でゆっくりと回転していた。  
 それはまだ誰も到達したことのない領域――「神域」と呼ばれる情報の最下層。  
 無限に拡張されたRewriteの根源にして、すべての現実を生成する演算域。  
 俺はその前に立っていた。  

 「レン、もう行くつもりなの?」咲良が問いかけてくる。  
 「レイナもまだ傷が癒えてない。今度は一人で潜る気?」  
 レイナは笑って首を振った。「そりゃ無茶よ。私たちにも限界がある。でもあんた――もう止まれないんでしょ?」  

 空気が張りつめた。  
 俺は深呼吸し、足元の光を見つめる。そこには無数の数字と文字列。  
 Rewriteのコードが呼応し、まるで生き物のように脈打っていた。  

 「この扉の向こうに、まだ何かがいる。オルガが去った後、演算を続けてる存在……この世界の真のソース、“創造主”が」  
 「そんなものを見つけたところで、何になるの?」咲良の声が震えていた。  
 「答えを知らなきゃ進めない。Rewriteの終わりを決めるのは、俺じゃなく“最初の一筆”を書いた奴だ」  

 レイナが肩に手を置いた。  
 「ここに私たちが残ってても、何も変わらない。だけど、どんな結果でも……帰ってこいよ」  
 「約束する」  
 そう言い、俺はRewriteコアを起動した。  

 「Rewrite、神域接続プロトコルα、開始」  

 光が広がり、空が裂けていく。  
 都市全体が瞬く間に光柱へと変わり、電波が一気に世界中に散った。  
 冴希の声が通信を割って入る。  
 「レン、世界中の観測網があなたに接続した。全宇宙規模の“中継”が始まってる。  
 地上のすべての端末、放送局、人々の意識――全部、リアルタイムでリンクしてる!」  

 俺は笑って答えた。  
 「上等だ。なら見せてやるさ。Rewriteが到達する“神域の光景”を」  

 地上の街に立つ人々が空を見上げた。  
 その頭上には、巨大なリング状のゲートが浮かび、世界同時中継のカメラが無数に切り替わる。  
 SNS、動画サイト、軍の衛星通信まで、すべての映像が同じ一点を映していた。  
 《篠宮レン、神域接続作戦 LIVE》  
 《人類初のRewrite外界アクセス開始》  
 コメントが世界規模で流れ続ける。  

 「レン!」咲良の声が聞こえた。「私たちは地上から支える! 必ず戻って!」  
 「任せとけ。これは俺たち全員の物語だ」  

 ――そして、俺は踏み込んだ。  

 瞬間、世界が裏返る。  
 街の灯、星の輝き、人の声――全てが映像のノイズとなって溶けていく。  
 足元に広がるのは、情報の海。  
 無限に流れる光の帯と文字列、その中に無数の“可能性の世界”が重なっていた。  

 「ここが……神域」  

 踏み出すたびに、人々の記憶と願いが形を変えて流れていく。  
 戦争の記録、愛の告白、信仰と嘘、未来都市、滅んだ星――  
 すべてが等しくRewriteに記録されている。  

 その中心に、一際大きな光の柱があった。  
 そこに立つ影。  
 ――オルガではない。  
 純白の衣を纏い、顔を陽に隠した存在。  

 「来たのね、“Rewriteの担い手”」  
 その声は男でも女でもなかった。  
 「お前が……創造主か?」  
 「創造主などという肩書きは無い。ただ、最初に“観測”した者だ。  
 あなたがいるから、私は成り立つ。あなたがRewriteを行う限り、私は“現れる”」  

 「つまり、俺はお前の後継者か?」  
 「いや、あなたは“終わらせる存在”。Rewriteは世界を繋いできたが、もう限界だ。観測は増えすぎ、人々の意識がこれ以上支えられない」  
 その指が俺の胸のエネルギー核を指す。  
 「あなたが最後の観測者として、“多すぎる現実”を整理しなければならない」  
 「整理……つまり、削除か?」  
 「選択だ。生かしたい現実と、消す現実を。あなたがすべて決める」  

 目の前に無数のモニターが浮かぶ。  
 ひとつひとつが人間の人生の断片だった。  
 咲良の笑顔、レイナの戦い、冴希の研究。  
 亡くなった御影の最後の笑み。  
 どれも、Rewriteが紡ぎ上げた“記録”だ。  

 「俺に選べっていうのか……?」  
 「そうだ」創造主は静かに告げる。  
 「Rewriteは神のペンではない。現実を書き続けるための“責任”。  
 あなたが“見たい”世界だけを残しなさい」  

 指先が震える。  
 どれ一つとして消せるわけがない。  
 それでも――選ばなければ、全てが崩壊する。  

 眉間を押さえ、息を吸い込んだ。  
 「……俺が選ぶのは、矛盾したままの“世界”だ。  
 間違っても、泣いても、誰かが笑ってる現実。それを残す」  

 創造主の瞳がわずかに細まる。  
 「ならば、お前は神ではなく、人の代表としてRewriteを再起動するのだな」  
 「そうだ」  

 Rewriteの核が輝いた。  
 白と黒の文字列が融合し、空間全体を覆う。  
 地上から無数の観測波が流れ込み、全人類の意識が神域の中心へ集約していく。  
 SNSやテレビ画面の前に座る者が、まばたきさえ忘れて祈るように見つめていた。  
 コメントが流れる。  

 【俺はこの世界を信じたい】【レン、頼む】【Rewriteを終わらせないで】【生きてる限り見たい】  

 観測数が跳ね上がり、Rewriteの演算光が爆発的に強まる。  
 創造主が微笑む。  
 「これが、人間という生物の意志か。……ならば、行くがいい。世界をつなげ、そして帰りなさい」  

 胸の中の核が青い閃光に変わり、腕の先へと広がる。  
 両手を合わせ、叫ぶ。  
 「Rewrite――神域統合写本、最終プロトコル!」  

 世界が光に包まれる。  
 通信の向こうで、咲良とレイナの声が聞こえた。  
 「レン、見える……? こっちの空が、綺麗になってく……!」  
 「早く帰ってこいよ!」  

 光がやがて穏やかな朝日に変わる。  
 俺は空へ手を伸ばした。  

 世界は確かに存在している。  
 Rewriteは消えたわけでも、支配されたわけでもない。  
 ただ、“選ばれた世界として”穏やかに呼吸を始めた。  

 創造主の声が最後に響く。  
 「ありがとう。これで私は休める。――次は、お前が現実を導け」  

 視界が白く溶け、倒れ込む感覚。  

 気づいたとき、俺は地上の大地にいた。  
 咲良とレイナが駆け寄ってくる。  
 「レン!」  
 「……ただいま」  

 その笑顔を見て、ようやく分かった。  
 神域は遠くにあるわけじゃない。  
 ここ、誰かの手が届く場所にこそ、Rewriteの力は宿る。  

 空を見上げると、新しい太陽が昇っていた。  
 その光は、かつての神域で見た輝きと同じだった。
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