Re:コード・ブレイカー ~落ちこぼれと嘲られた少年、世界最強の異能で全てをねじ伏せる~

たまごころ

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第30話 黒幕プロデューサーとの宣戦布告

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 世界が静まり返っている。  
 あの日、神域の扉を越え、Rewriteは人類と共に安定の形をつくり上げた。  
 だがそれから三日後――均衡は再び崩れ始めた。  

 夜の空気がざらついていた。  
 復興の進んだ都市の上に、幾筋もの黒い線が走っている。  
 それは雲でも、煙でもない。情報の裂け目だ。  
 Rewriteが“観測者不明の介入”を受けている。  
 この世界以外の「視線」が混ざり込んでいた。  

 俺は屋上の手すりにもたれ、タブレットを見つめていた。  
 画面にはニュース映像が流れている。  
 《新たな異能商業連合、WRITE ENTERTAINMENT設立》  
 《世界再構築の英雄、篠宮レンの名を使ったプロジェクト始動》  

 「……やはり、か」  

 咲良が隣で小声を漏らす。  
 「冴希が掴んだ情報、当たってた。あの組織の裏にいるのは……例の“プロデューサー”。」  
 冴希は半ば怒ったような声で通信を入れてきた。  
 「レン、あいつら、あなたのRewriteを商業コンテンツ化してるのよ。  
 “Rewrite再現”って名目で、AIが模倣コードを配信してる!」  

 画面には、派手な照明とステージの映像が映る。  
 虚構のステージの中央に立つ“もう一人の俺”。  
 正確には、Rewriteから抽出された“人格データ”。  
 ライブ中継で観客の歓声を浴びながら、“希望の演説”を歌っていた。  

 それを統括するのが――朝倉ミレイ。  
 あの女が裏で糸を引いていた。  

 「世界を救った英雄の信用を利用して、Rewriteを商業化……皮肉なもんだな」  
 「利用ってレベルじゃないわ」冴希の声が震える。  
 「Rewriteシステムの一部をそっくり盗み、“商取引モデル”として世界に売り出してる。  
 各国の企業、そして政府までもが彼女に出資してるの」  
 「つまり、オルガの残した“井戸”を……金と力のために使ってる」  
 「そういうこと」  

 咲良が拳を握る。  
 「許せない。あれはみんなの祈りを拾って作った世界なのに……」  
 俺は空の裂け目を見上げる。  
 「Rewriteの原理をひとつでも誤解したら、この世界そのものが再び不安定になる。  
 俺たちが創ったRewriteは“願いの共鳴”だ。売り物じゃない」  

 夜空を裂くように、映像投影が広がった。  
 それは全世界に同時中継された声明だった。  
 巨大なホログラムディスプレイの中心に、落ち着いた笑みを浮かべるミレイの顔が映し出される。  

 『皆さん、こんばんは。  
 私はRewriteエンターテインメント代表、朝倉ミレイです。』  

 街中の人々が立ち止まり、その映像を見上げた。  
 『世界は変わりました。Rewriteはもはや特定の個人だけのものではありません。  
 人々は創造者であり観測者。誰もが自分の現実を書き換える権利を持っています。  
 そして、それを最も美しく、効率的に運用する方法こそ、私たちが提供する“モデルRewrite”。』  

 その声は穏やかで、まるで信じさせる香水のように滑らかだった。  
 だがそれが世界にとってどれほど危険か、俺には分かっていた。  
 Rewriteの本質は“信じる力”だ。  
 それを商業化し、数値で売買などしたら――人の心ごと市場に出すことになる。  

 『我々は篠宮レン氏の理念を引き継ぎ、彼の功績を未来に残したいと考えています。  
 ――レン氏、あなたが見ているなら、ぜひ協力を。』  

 スクリーンの中のミレイが微笑んだ。  
 「力を、共に管理しましょう。あなた一人では担えないでしょう?」  

 咲良が顔を歪める。  
 「やっぱり、最初から全部……監視してたんだ」  
 冴希の声が重く響く。  
 「レン、彼女は正面から宣戦布告したのよ。次に出てくるのは、彼女が生み出した“Rewriteユーザー”達。  
 AIと人間の混成チーム。あなたの模倣コードを埋め込まれた、人工的なRewrite所持者たち。」  

 「――つまり、Rewriteの軍団、か」  

 画面にはすでに、次期プロジェクトとして“Rewrite League”の名前が表示されていた。  
 ステージのライトが瞬き、数百人規模の群衆が現れる。  
 それぞれがRewriteのシンボルを胸に抱いて笑っている。  
 「希望の共有」「人類の共同創造」。  
 どのスローガンも“善意”に聞こえる。  
 だがそれこそが危険だった。  

 咲良が小さくささやいた。  
 「レン……放っておけないよね」  
 「もちろんだ」  
 俺はRewriteの構式を展開し、世界中のホログラムへ干渉した。  

 ノイズが画面を覆い、空に散ったミレイの映像が揺れる。  
 「朝倉ミレイ。お前はまたRewriteを使って人を操る気か」  

 その瞬間、全てのスクリーンが俺の姿を映した。  
 人々が息を呑む。  
 レン=Rewrite。世界の中で最も“観測された存在”。  

 俺は静かに語り出す。  
 「Rewriteは人を縛るための“ルール”じゃない。  
 星の欠片のように不完全でも、互いに見つめ合うことで美しく光るものだ。  
 お前の作った偽Rewriteは、思考を制御し、個人の可能性を奪う。  
 俺はそれを——“否定”する」  

 その言葉が、世界に響き渡った。  
 Rewriteのネットが震え、ミレイの映像が一瞬だけ歪む。  
 だがその目は動じない。  
 『あなたの理想は美しい。でも危うい。  
 あなたがいなくなれば世界はすぐに壊れる。なら、私が代わりに秩序を与える。それのどこが悪いの?』  

 「秩序と奴隷は違う」  
 『そんな言葉で人類の混乱が止まるなら、誰もRewriteなど望まなかったわ。  
 あなたは優しすぎる。私がこの世界を“完成させて”あげる』  

 彼女が指を弾いた瞬間、空の裂け目に光が走る。  
 百を越えるRewriteユーザーが出現し、赤く光る瞳で俺を見下ろしていた。  
 咲良が息を飲む。  
 「まさか……全部、本物のRewriteをコピーしてるの?」  
 「データと意識の融合体。Rewriteを持つ分身たち……人類の模倣だ」  

 冴希が叫ぶ。  
 「レン! 防御して! 連中はRewriteに干渉できる!」  

 俺は深呼吸して空を見上げた。  
 「面白ぇ。だったら見せてやる。オリジナルのRewriteが何なのか」  

 声とともに光が身を包む。  
 世界中のネットワークが、再び“配信”を始める。  
 朝倉ミレイの偽Rewriteが人類を代表すると言うなら、俺はその“逆”を証明する。  

 「世界への宣戦布告だ、ミレイ。  
 本物のRewriteは、誰にも奪わせない!」  

 空を覆う光が交錯し、夜が昼のように明るくなった。  
 人々が空を見上げ、祈るように画面を握る。  
 その瞬間――戦いは再び、観測者すべてを巻き込み、始まった。
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