ドラゴン&リボルバー

井戸カエル

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○町の駐車場
 イチカたちが乗った馬車は夕暮れ時の暗くなる前に目的地にたどり着いた。馬車を停めた後、麦藁帽を被った商人はイチカとドーラに感謝を伝える。
麦藁帽の商人:「二人ともありがとう。あんたらがいなきゃ、盗賊の餌食になってたろう。本当にありがとう。」
商人とその兄妹はイチカとドーラに頭を下げる。
イチカ:「いやいや、こちらこそ。危ない中で俺達を乗せてくれてありがとう。」
麦藁帽の商人:「お礼といってはなんだが、この帽子を貰ってくれ。」
イチカ:「おぉ!?あ…ありがとう。」
麦藁帽の商人:「前の町でドワーフの商人との賭けでもらってね。ドワーフ製の最高級品らしい。」
イチカは商人から渡された茶色の帽子を受け取る。
イチカ:(これは完全にカウボーイハットだよな。たしかドワーフの国は大陸南部の荒野にあるんだったか。だから…前世のカウボーイハットと似たような形になったのか?…この帽子に銃って完全に西部劇だろ。荒野の用心棒か俺は!)
ドーラは帽子を被った後に少し悶えているイチカを心配した様子で見ている。
ドーラ:「ど、どうしたのよ?」
イチカ:「いや、ちょっとマカロニ・ウェスタンに思いを馳せてた。」
ドーラ:「ま、マカロニ?」
イチカの様子を見ながら、商人は笑顔で二人に提案をする。
麦藁帽の商人:「それと、この先の宿屋が顔なじみでね。俺の知り合いだと言ったら、サービスしてくれるよ。」
イチカ:「色々とありがとう。」
商人たちに別れを告げ、二人は商人の話していた宿屋に向かった。


○宿屋、七変化
 二人は〔七変化〕と書かれた宿屋に入ると、金髪にカールした髭の男が出迎えた。イチカはその男の雰囲気と特徴的な髭に見覚えがあった。
カール髭の男:「泊まりの人かな。生憎、しばらく宿泊はできな…」
イチカ:「ダンデさん?」
ダンデ:「?どなたかな? 確かに私はダンデだ。」
イチカ:「親父… いや、ゲイル・バルクートの横でリュートを弾いたことはありませんか?」
ダンデ:「あるが…誰だ?なぜそのことを知っている?」
ダンデと呼ばれた男はイチカの話を聞いて、鋭い眼差しを二人に向ける。その視線を気にしながら、イチカはゲイルから預かった手紙をダンテに渡す。
イチカ:「この手紙を読んでくれませんか。」
ダンデ「手紙?」
手紙を受け取ったダンデは視線を手紙に向けていたが、次第にその体が震え始める。
ダンデ:「きみ。」
イチカ:「はい。」
ダンデ:「本当にあのイチカくんか!? 驚いたよ!すまないね。いやな話し方をして。」
ダンデは先ほどとは打って変り、笑顔で二人を招き入れた。その変り振りと親しそうに話す二人を見てドーラは驚いて困惑している。


○宿屋の一階、食堂
 ダンデに招かれて二人は食堂のテーブルの席に着いた。ダンデが用意してくれた飲み物を飲みながら一息つく。
イチカ:「ダンデさん、忙しいときにすみません。」
ダンデ:「いやいや、大丈夫だよ。もうすぐ妻も帰ってくるからね。」
イチカ:「どうかされたんですか?」
ダンデ:「いや…実はね…」
ダンデが言葉を発する前にドアが開き、長いウェーブの掛かった茶髪にパッチリとした薄茶色の目をした女性が入ってきた。イチカには前世のハリウッド女優のように見える。
リオン:「ただいま、あなた。あら?お客さん?」
ダンデ:「リオ-ン!どうだ?大丈夫だったか?」
リオン:「大丈夫よ、あなた。」
リオンと呼ばれた女性はダンデとハグをする。イチカは幸せ一杯といった雰囲気を壊さないように自己紹介をする。
イチカ:「えーっ…初めまして、イチカ・スコールドです。」
ドーラ:「私はドーラです。」
リオン:「あらっ!イチカくん!? すっかり変っちゃったから気づかなかったわ。」
イチカ:「ん?」
リオンは久しぶりと言うが、イチカにはこの女性と会った覚えはない。どこかで会っただろうか?と頭を捻るイチカにリオンは少し恥ずかしそうにヒントを出す。
リオン:「 覚えてない? 昔ダンデと喧嘩して、あなたのお家に泊めてもらったことがあるの。」
そのヒントでイチカの脳裏にある光景が浮かび上がる。それは実母が亡くなる前に酒臭い女が泣きながら家を訪ねてきたときの記憶だった。
イチカ:「……? あぁぁっ!? あの時、酔って吐きまくった。」
リオン:「あはは…やな覚えられ方してるわね。」
イチカの言葉にリオンは恥ずかしそうに頭を掻く。ドーラは二人の会話を聞いて、なんとなく関係が分かり、イチカに質問してみる。
ドーラ:「えーっと… イチカ、ダンデさんとはどういった関係なの?」
ダンデ:「僕は騎士に憧れていてね。昔の戦争で若い僕は死にかけた。そんな時にイチカくんの父上であるゲイルさんに窮地から救ってもらったんだ。その時からの付き合いだね。」
ダンデの話にドーラはやっと納得でき、すっきりした顔で頷く。
ドーラ:「なるほど。」
納得しているドーラの横でイチカは気になったことを口にする。
イチカ:「ダンデさん、さっき聞きそびれたことですけど。リオンさんがどうしたんですか?」
リオン:「あぁ、赤ちゃんができたの。」
イチカ:「なるほど赤ちゃ…んんんっ!?」
笑顔でさらりと答えたリオンの言葉にイチカは言葉を飲み込もうと、目を白黒させている。ドーラは思いもよらない言葉に驚きながらリオンを祝福する。
ドーラ:「あの…えっと…おめでとうございます。」
ダンデはドーラの祝福に笑顔で返した後、リオンの手を握りながら聞く。
ダンデ:「ありがとう。でっ!リオン!どうだって?」
リオン:「経過は順調みたい。もうすぐお腹がもっと大きくなるわよ。」
リオンはうれしそうにお腹の辺りに円を書くようなジェスチャーをしてみせる。その幸せな顔につられて、ドーラも笑顔なりながら隣のイチカに目をやる。
ドーラ:「赤ちゃんか…すごいですね。イチカ?イチカっ!」
まだフリーズしているイチカにドーラが声を掛けて、イチカは現実に戻る。
イチカ:「あっ!?あぁ、すまん。驚きすぎて。偶然二人に会えたかと思ったら、いきなりのおめでただったから。」
リオン:「もう、びっくりするわよね。分かったのも最近なの。」
リオンから詳しい話を聞いたダンデはとても幸せそうな優しい顔をしていた。その後、イチカとドーラは2階の部屋に泊めてもらい、悲惨で残酷な死と誕生の喜びを知った慌ただしい一日の疲れをとるように眠った。
眠りに落ちる前、ドーラは幸せそうなダンデ夫婦を思い出す。命とはこうして生まれるのだろう。祝福とささやかな祈りと共に。



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