ドラゴン&リボルバー

井戸カエル

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○町近くの小川にて
 イチカとドーラの二人は家を後して、ある町で昼食をとることにした。サンドイッチなどの軽食を買って小川の近くの木陰に腰を下ろした。昼食を食べながら、町を見ると馬車が何台も停まっている。ここは東部王国とその周辺のエルフの国や都市国家との交易の中継点になっている。
ドーラ:「で、これから何か計画があるの?」
イチカ:「あぁ一応ある。そういえば話してなかったな」
ドーラ:「そんな余裕もなかったからね。話してくれない、あなたの計画を」
イチカ:「そうだな。俺はこのまま大陸中央部にある都市国家、テオグラードに行こうと思っている」
ドーラ:「都市国家? あのいくつものギルドが支配してるっていう」
イチカ:「そうだ。 実際には冒険者ギルドなどの組織とフェイマルト家が統治している場所だ」
ドーラ:「なぜそこに行くの?ここからだいぶ距離があるわ」
イチカ:「そこで、冒険者として活動しようと思う」
ドーラ:「冒険者… 」
イチカの計画にドーラは戸惑いを覚える。冒険者とは様々な化け物退治や商人の護衛、薬草の採取などを手広く行う便利屋といった印象があった。そのため、世間一般では傭兵や盗賊と同じように粗野で危険な者達だという見られ方もしている。
イチカ:「不安そうだな。まぁ無理もない。ただ闇雲に冒険譚に憧れて言ってる訳じゃない。ちゃんとした理由がある」
ドーラ:「聞きましょう」
否定しなかったドーラを見て、イチカはニヤリとしながら話をする。まるで子どもが悪戯を思いついたようだとドーラは思った。
イチカ:「まず、俺達には生活をするための資金が必要だ。しかし、一つの場所に留まって仕事をすると、俺達を追っている黒服達に見つかる可能性がある。そこで冒険者になってしまえば様々な場所で仕事をするので、俺達の所在が掴みにくい。これが一つ目の理由だ」
ドーラはイチカの話に続けてといった感じで見ている。
イチカ:「二つ目に仕事柄商人と関わることが多いから、色々な情報を得る機会がある。情報を得れば、俺達を追っているやつの正体を掴める」
ドーラはイチカの目を見ながら口を開く。
ドーラ:「でも、それはこちらの情報もやつらに渡る可能性があるわ」
イチカ:「そうだ。そこで三つ目の理由だ。冒険者には訳ありな連中が多く、俺達のことを詮索される可能性が低い。何より大陸の東部側に冒険者なんてごまんといる。」
ドーラ:「つまり、木を隠すなら森という訳ね」
イチカ:「そういうこと」
ドーラはイチカの計画と理由を聞いて、口に手を当てながら考える。ドーラには今のところ悪い計画じゃないように思えた。しかし、一つ懸念材料があり、それをイチカにぶつけてみる。その懸念材料が今後を一番左右すると言えるから。
ドーラ:「計画は理解したわ。でも、それよりも聞きたいことがあるの」
イチカ:「なんだ?」
ドーラ:「私は父様から一通り身を護る術を学んだわ。でも…あなたは戦える? これから冒険者として対峙する化け物や人間と」
ドーラの質問にイチカは肩に担いでいた銃を手にとってドーラに見せる。
イチカ:「俺はこの銃という武器を使える。これは魔術を使うクロスボウのような物だ。ただ、この武器はクロスボウとは比べ物にならない威力がある。それと俺自身は、親父から剣術や馬術を学んだ。山に囲まれた土地だったから、一人でも山で生きる方法を教わった。だから、いざとなれば戦える。ただ… 」
ドーラ:「ただ?」
イチカ:「 …周囲を注意しながら戦うことはまだ出来ない。俺には圧倒的に経験値がたりない」
ドーラ:「わかった… だから、イチカを信じる」
イチカの話と真剣な雰囲気から、ドーラはこの男を信用しても良いと思った。そして、イチカの言った経験値の無さは自分も同じだと胸の中で呟いた。


○町の駐車場
 二人は昼食を済ませ、商人の馬車が停まっている駐車場に行った。二人は移動のために交易の馬車に相乗りできないか聞こうと考えていた。2、3人の商人と話をしたが、あまりいい反応は無かった。諦めかけていた時、中肉中背の麦藁帽を被った男が話しかけてきた。
麦藁帽の商人:「あんたら、乗れる馬車を探してるんだって。」
イチカ:「ああ、そうだ。乗せてくれるのか?」
麦藁帽の商人:「どこに向かうんだ?」
イチカ:「中央部に行こうと思ってる」
麦藁帽の商人:「中央か…都市国家までは行かないが、中央近くの町に行くんだ。あんたとそこのお嬢さんの二人だったら乗れるぞ。その代わり条件がある」
イチカ:「条件?何をしたらいい?生憎金は持ち合わせが無い」
イチカはローブの両端を振って、ジェスチャーをした。そのジェスチャーを見て、商人は大きく笑った。
麦藁帽の商人:「ハハハッ。いやいや、ちがうちがう。あんたらの様子を見て、金があるとは思ってないよ。この先の川沿いで盗賊が出たらしくてな。用心棒の代わりに俺達を守ってほしいんだ」
イチカ:「護衛か…一応戦えるが、身を守る程度だぞ」
麦藁帽の商人:「かまわない。あんたの風体と人数が多ければ、よほどのバカ以外は襲ってこないだろ」
イチカ:「わかった。乗せてもらおう」
麦藁帽の商人:「お嬢さんにはすまないが、後ろで俺の家族と一緒に乗ってくれ」
商人に案内された馬車は日よけに布を張っていて、その影には12歳くらいの女の子と9歳くらいの男の子がいる。二人を見て、姉の方は不安そうにしているが、弟は興奮気味に乗ってきたドーラを見ている。


○道の途中
 イチカは前で手綱を握っている商人の横に座り、ドーラは荷台で少年から質問攻めにあっている。少年達は商人の兄弟で、積荷の降ろし作業などを手伝うとのことだった。
商人の弟:「おねーさんは剣士?」
ドーラ:「いえ、違うわ。魔術を使うの」
商人の弟:「魔術師!?初めて見た!」
弟のほうは興味津々にドーラの持つ杖を見ている。その横で姉は弟を窘めているが、姉のほうも気になっているようで、杖から目を放せない様子だった。そんな騒がしくものんびりしている荷台を気にして、商人は頭をぽりぽりとかきながらイチカに詫びる。
麦藁帽の商人:「すまないね。騒がしくて。弟は魔術師とか剣士に憧れていてね」
イチカ:「元気でいいよ。俺も昔憧れたからな。男は誰だって一度は夢見る」
麦藁帽の商人:「そう言ってもらえると、ありがたいよ。話のついでに聞いてもいいかい?」
イチカ:「なんだ?」
麦藁帽の商人:「あんたも魔術師なのか?」
イチカ:「いや、俺はこのクロスボウを使う。ただの弓兵だよ」
麦藁帽の商人:「へー、なるほど」
イチカ:「ここいらはいつも危ないのか?」
麦藁帽の商人:「いやいや、この前から物騒になってね。前までは盗賊なんて滅多に見なかったんだ。本当に困るよ。俺達は貧乏な商人なのにさ」
イチカ:「そうか……?」
話の途中でイチカは違和感を覚えた。明確な言葉に出来ないが、前の木々で人が見ているように感じたのだ。咄嗟にイチカは危険だと判断して、商人に馬車を止めさせた。 


○道の途中、森の中
 イチカの感覚は当たっていた。馬車を止めると、茂みからニヤニヤと笑いながら剣を抜いている男達が現れた。男達は四人それぞれがお世辞にもきれいな身なりとは言えない。明らかに商人の話にあった盗賊だと判断できた。
盗賊:「おいおい、せっかく驚かせようと思ったのによ。まぁいい。全員降りな!」
イチカとドーラは馬車の前に行く、馬車から降りるときイチカはドーラに小声で話しかける。
イチカ:「ドーラ、相手は四人だ。俺が仕掛けるから、この人たちを守ってくれ」
ドーラ:「刺激するのはまずくない」
イチカ:「やつらは俺達を生きて帰すつもりはないさ。いいな、俺が仕掛けたら三人を守ってくれ」
緊張で力が入っているドーラとは正反対にイチカは静かに呼吸した。二人のやり取りにイラついた盗賊が声を荒げる。
盗賊:「おい!なにこそこそしてんだ!いいからさっさと降り…」
イチカ:「今だっ!」
イチカは大声を上げた後、左手に作った弾の束を盗賊たちに投げつける。盗賊たちの前で、野球ボールほどの塊が弾け、土煙と悲鳴が上がる。その直後、イチカは銃で先ほどまで叫んでいた男から順に狙いを定めて発砲した。パンパンと乾いた音が三発響く。銃声が響いた直後、左腕から血を流した盗賊が剣を抜いてドーラに突進する。ドーラは咄嗟に持っている杖で剣から身を守る。盗賊の力にドーラは負けそうになりながら、剣を弾いた一瞬に左手を男に突き出す。突き出された手から炎が吹き、盗賊の上半身を炎が包む。
ドーラ:「このっ…」
盗賊:「ごぁぁ!あががぁぁっ!顔がががぁぁ!」
炎に包まれた男は地面をのたうち回り死んだ。
イチカはドーラに切りかかった男が死んだことを確認すると、銃口を向けながら他三人の確認作業をする。その姿はあまりにも自然で手馴れていた。


○途中の川沿い
 盗賊に襲われたあと、他にも仲間がいる可能性があったため、イチカ達を乗せた馬車は急いで出発した。しばらく走ったあと、追ってくる者がいないことを確認して、商人は川沿いで馬車を停めた。ドーラは馬車に乗っているときも緊張で力を抜くことが出来なかった。男の悲鳴が耳の奥に響く。
ドーラ:(私が殺したんだ……覚悟したじゃない!だって、やらなきゃこっちが…殺されてたかも…しれない…)
ドーラは荷台の影で納得するために何度も考えを巡らせる。そんなドーラに水筒に水を入れたイチカが声を掛ける。
イチカ:「大丈夫か?幸い、被害は無いそうだ。このまま行けば、夕方には到着するそうだ」
ドーラに水筒を手渡したイチカは平然としている。
ドーラ:「ねぇ…」
イチカ:「ん?」
ドーラ:「その…な…」
イチカに話しかけた後の言葉が続かない。なんと言えばいい?なんと聞けばいい?ドーラの横に立って、水を飲みながらイチカはドーラの言葉の先を続ける。
イチカ:「なんで人を殺したのに平然としてるのか?」
ドーラ:「… 」
イチカ:「殺らなきゃこっちが殺られる。それに…なんというか…慣れかな。昔、もっとえげつない場所にいたんだ。そこでは死体の山が日常だった。だから…慣れたんだ」
イチカはどこか物悲しい雰囲気を漂わせていた。そして、イチカの言葉は真実だとドーラは感じていた。ドーラがイチカと話し終えると、商人の妹が駆け寄ってきた。
商人の妹:「お姉さん」
ドーラ:「なに?」
商人の妹:「あの…ありがとう。私たちを守ってくれて。これ、お礼に受け取ってください」
少女は小さな白い花をドーラに手渡した。その花を見てドーラは涙を堪えながら、少女にお礼を言う。
ドーラ:(殺しただけじゃない。私はちゃんとこの人たちを守ったんだ)
二人のやり取りを見て、イチカは安堵した。初めての戦闘は心に深く残る。特に今回のような悲惨な死に様はいつまでも消えない。だが、ドーラはそれを飲み込んで前に進めるだろうと思えた。
一行は再び馬車に乗り道を進む。日は次第に沈み、夕暮れが迫っている。

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