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転生したら結婚決定で逃げ出したけど、魔法のブレスレットがハッピーエンドに導いてくれた!
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「転生?憑依?とにかく私はそれをしちゃったのよねえ……」
テーブルに頬杖をついてつぶやく。
ある日、交通事故で車と衝突した……と思ったら、この世界にいた。
そして、村一番の美少女・アドリアナとして生きている。
元のアドリアナには婚約者がおり、領主に花嫁として望まれたことが原因で命を絶ったという。湖に身を投げたそうだ。悲しい話だ。
(きっと彼女の魂は天に召されて、私の魂が入り込んだってことよね)
アドリアナを心の中で偲んだ。
「アドリアナ、もうすぐ領主様のお迎えが来るよ。準備できた?」
急に現実に引き戻された。
(そうだ、私、これからその領主のところに嫁ぐんだった……)
「ビルが大騒ぎしてる。あの子を守るためにもあんたは領主様のところに行かなきゃ」
「その人、悪い人なんじゃないの?アドリアナ……私とビルって人を引き裂いたんでしょう?」
「いろいろと言われているけれど、私は領主様を悪い人だと思わないよ。だって、あんたを見る目が優しかったもの。それに、ビルにはずっと苦労かけられっぱなしだったじゃないか」
アドリアナとして生きているのは、彼女が身投げした後だ。以前の記憶はない。だから、領主もビルもどんな人なのか知らない。
「ふうん」
「他人事みたいだね」
「今の私は記憶がないからさ」
亡くなった両親に代わって育ててくれたという叔母が眉を下げる。
「つらかったよね。いいよ、思い出さなくて。私は嘘なんて言わないから。あんたには幸せになってもらいたい」
「私もそうなりたい。いろいろと目まぐるしくてついていけてないし」
抱きしめる叔母には最後の言葉は聞こえなかったようだ。つい、気を抜くと怪しまれるようなことを言ってしまう。
「これを持って行きなさい。あんたの母の形見だよ。きっとあんたの助けになる」
翡翠がさらに透き通ったような石がついたブレスレットを渡された。
「これはなに?」
「よく効果はわからないけれど、あんたを守るものだってのは確かだよ。妹は優秀な魔女だった。困った時に役立つさ」
ずいぶんとザックリしたことを言われた。
「お母さんの形見なら大事にするね」
ブレスレットに触れると、ヒンヤリしてなんとなくパワーを感じるような気がした。
――迎えの馬車に乗せられ出発する。
村を出発する時、男性が叫んでいた。
あれがビルという人なのだろう。衝撃的なことがあったから、接触させない隔離されていたらしい。
半日ばかり馬車に乗っていると、ようやく城に着いた。
要塞みたいな黒い厳めしい城で、戦闘向きの城といった印象だ。
城内は石づくりで窓も小さくて暗い。冷たさを感じさせた。
「こちらへ。まもなく領主様がお見えになりますので」
兵士に応接室に案内された。
慣れない場所で緊張しながら待っていると、背が高くてガッチリとした短髪男性が部屋に入ってきた。
筋肉が盛り上がり、いわゆるマッチョだ。
「やっと来たな」
「ア、アドリアナです」
「知っている」
スラヴァがじぃっと見つめてくる。
「えーと……」
あまりにも見てくるからなにか言葉を探したがなんとなく質問できるような雰囲気じゃない。
(この人、めっちゃ真顔じゃん。アドリアナを望んでいたんでしょう?)
思い切って質問してみようかと迷っていると言われた。
「ゆっくりと休め」
たった一言だ。
それから一週間ほど彼とはしばらく顔を合わせることはなかった。彼は忙しい人らしい。
(まあ、よかったいきなり結婚式だったら心の準備ができなかったもん)
のん気な彼女はそう考えていた。結婚式が迫るまでは。
「いよいよ明日は結婚式ですね。夜のことでお知らせしておきますね。まず……」
メイドが怪しげな説明をしだして、ようやくハッとした。
結婚するってことはそういうこともあるんだ―――と。
(待って、待って。私、女子高生だったのよ?気づいたらこの世界にいて気付いたら結婚?まじありえないわ~)
かすかな記憶に残る前世からするに、自分はいわゆる今ドキの子だった。
ノリでここまで来てしまったが、結婚するのは嫌だなと思えてきた。
――でも、なにもできずにそのまま結婚式に臨んでいた。
「あなたは妻としてこの者を愛し守り支え合うことを誓いますか?」
「はい」
事前に言われた通りの言葉を言う。変な冷や汗が出っぱなしである。
だんだん息が浅くなった時……ブレスレットが熱くなった。
(なにこれ!)
驚いてブレスレットに触れると、ブレスレットはヒンヤリとしている。
(気のせい?なにかを感じたんだけど……)
「どうかしたのか?」
「いえ、別に」
「そうか」
式は粛々と進められた。
「それでは、誓いのキスを」
神父の声が響いた。
《きた.......!ついにきた........!冷静になれ、オレ!》
急に変な声がした。スラヴァかと思ったが、口は固く閉じられている。それに、まわりの人も反応していない。
ベールがまくられた。なんだかスラヴァの手が震えているようだ。
《焦るな、焦るな!ここはスマートにキスだ》
また声がした。
(聞き間違いじゃない。これって……まさかだけど、スラヴァの心の声?)
思い当たるとしたらブレスレットしかない。アドリアナの母は魔女だったというし、こんな不思議なことが起きてもおかしくない。
そうこうするうちに、彼の顔が近づいてきた。
(わわわっ、キスされちゃう!)
避けるワケにもいかず、目をギュッとつぶった。背筋が硬直してしまう。
すると……少し間があっておでこにキスされた。
≪緊張しているみたいだ。……おでこにキスでとどめておこう。どうせ、夜には思い切りキスできるしな≫
(え……)
誓いのキスはともかく、夜がピンチだ!と、膝から崩れ落ちそうになった。
「大丈夫か?ふらついているようだが」
スラヴァの大きな手に支えられる。
「はい、どうにか……」
《これは……今夜中に本当の夫婦になるのは難しそうだぞ……》
「はい、難しいです……」
「えっ!?」
スラヴァが飛び上がる勢いで反応する。
「あ……えーと、いい妻になるのは難しいかも、と言ったつもりで……」
「いい妻になるのは難しいとはどういう意味だ?」
眉を寄せて真剣な顔をされる。視線が泳いだ。
「その、私は村育ちだから、領主様の妻としてきちんと勤めを果たせるのか不安とかそういった意味です……」
「そうか……」
《ふう……まさか元婚約者を忘れられないのかと思った》
スラヴァは小さく安堵のため息を漏らしている。
そして、夜がやってきてしまった。
「今日は疲れただろう。無理せず眠るといい」
意外なことを言われた。
《本当はああしてこうしてああしたいけど……まだ、心を掴んでいないからな》
ただ眠ることになった。ホッとして眠りに落ちたのだった。
――鳥のさえずりが聞こえてくる。
「朝……」
薄目を開けて周りを見る。
「起きたか?」
「ひぁっ!」
鍛錬服のスラヴァがすぐそばに立っていた。
《やっぱり警戒されているのだな、オレは》
「お、おはようございます」
「ああ、おはよう。オレは兵士の指導をしてくる。まだ寝ていても大丈夫だ」
「ありがとうございます」
頭を下げる。
《こうして少しずつ交流していけば……ああしたりこうしたりできるよな》
想像していることまではわからないが、きっと彼はあらぬことを妄想している、というのはなんとなくわかった。
(一見、優しそうにしてくるのに、考えていること、最低じゃん)
視線を逸らし口を尖らせた。
(でも、こっちのことを気にしてくれるあたり、いい人なのかな)
――そう考えた矢先、事件は起きた。
婚約者だったビルが押しかけて来て城が騒がせている。
「その男はアドリアナを苦しめていた男だろう!罰を与えねば」
スラヴァは鬼の形相である。
一応、当事者の自分もついていくことにした。なんだか心配だった。だって、彼は“暴君”という異名もあるらしいから。
城門の上から見えたのは縄で縛られたビルだった。兵士に顔を打たれたらしく、腫れている。
「アドリアナー!!」
(あんな姿を見たら……さすがに可哀そう。苦労かけていたって聞いたけど、彼は本当にアドリアナを愛していたんじゃないかな)
「気の毒……」
思わずつぶやくた。
すると、横にいたスラヴァが目を見開き、自分を凝視してくる。
《ヤツに同情か?まだあの男を忘れられないのか?浮気するような男だぞ?忌々しい男などこの世からいなくなってしまえ!》
スラヴァは一歩踏み出すと大きな声を出した。
「そいつを樽に入れろ!そして釘を無数に打ち付け、丘から転がしてやれ!」
とんでもなく恐ろしい言葉に、思わず後ずさり手を胸に当てた。
「それはやめてください!」
「なぜだ?……あいつに未練があるからか?」
「違います!残酷すぎます!そんなことをしたらますます暴君って言われちゃいますよ!」
「なんと……オレを気にして言ったのか……」
途端にスラヴァの目が柔らかく細まり、表情が和らいでいく。
「仕方ない。これくらいにしておいてやるか」
スラヴァはビルの方を見て叫んだ。
「さきほどの命令は止めてやる!だがよく見ておけ!」
抱き上げられ頬にキスされた。
「アドリアナはすでに我が妻なのだ!しっかりと目に焼きつけろ!」
《アドリアナに触れていいのはオレだけだなんだよ!バーカバーカ!》
心の中でもものすごく罵っている。
(意外と幼いのねこの人……)
「アドリアナもヤツに見せつけるためにオレにキスしてくれないか?」
キラキラした目で言われる。
仕方なく、そっとスラヴァの頬にキスをした。
その姿を見たビルは、ショックを受け座り込んだ。すぐに追い返された。
「やはり、夫婦は仲良くするのが一番だな」
「そ、そうですね」
《よし。この流れで今夜にでも本当の夫婦になろうではないか》
手が汗ばみ、全身にまた変な汗が出てきた。
(だから、まだそこまで受け入れられないんだってば!)
よく考えたら、目の前の人は平気で人を殺そうとする暴君だ。
(私、受け入れるしかないの?逃げたらどうなる?)
ものすごく悩んだが、この世界に来てから流されるままここに至ったことで後悔している。
(逃げよう。なにもせず受け入れるだけなんて私じゃない)
メイドの服をこっそりとくすねて着替えると、闇に紛れ城を抜け出した。
幸い、城の裏手には抜け穴があってそのまま野原までやってきた。もう日は傾き始めていて空が赤い。
「ふう~ここまで来れば大丈夫かな……」
休んでいると、遠くからかすかに自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
(追手かな?バレた?)
こちらは徒歩だ。馬を乗り回す彼らにすぐに追いつかれてしまう。まわりを探るとなにやら洞窟が見える。
入ってみた。気味が悪い。
慎重に歩くと、地面でなにかが動き回る気配がした。
なんだろうと目を凝らすと、ネズミがいた。無数の……。
「ぎゃあああ!!」
すぐに洞窟から走って出た。滅茶苦茶に走る。
(サイアク!私、どうすればいいのよ……!)
泣きながら走っていると、前にある茂みがガサリと動く。ビクリとして立ち止まった。
「……アドリアナか?」
スラヴァだった。ランタンを掲げられ確認される。
「心配したぞ。帰ろう」
てっきり怒鳴られるとか、叩かれるとか、そんなことを想像していたのに、彼はそれしか言わなかった。
彼の心を探ってみてもなにも聞こえてこない。
「あの……怒っていないのですか?」
「心配していた。あいつを追いかけていなくなったと思ったら、こんなところにいたから怒る気にもならなかった。怖かったろう?そんなに涙を流して」
涙を優しく拭われる。
「こんな洞窟には見たくないものもいただろう。アドリアナにはキレイなものだけ見せたいんだ、これからは」
(樽にビルを入れて丘から転がせなんて言ったくせに……)
そう思った時、心の声が聞こえてきた。
《アドリアナはオレの宝物だからな。戦争で疲れた心を癒す笑顔にオレは救われたんだ》
スラヴァがアドリアナを知ったきっかけは、戦争の際に立ち寄った時だと聞いている。アドリアナが食事を運んでいて見染めたらしい。
(この人もいろいろ大変だったんだ……)
「……逃げてごめんなさい。まだ、覚悟ができていなくて。だからその、これからはもっとお話をして仲良くなりたいです」
「嬉しいことを言ってくれる」
《アドリアナが心を開いてくれた?これでやっと本当の夫婦になれるということか?》
彼は脳筋なのか、かなり短絡的な思考だ。
「あ、あの!私は、仲良くなってスラヴァ様を心から好きになることができたら、本当の夫婦になりたいなと思っています」
「……約束しよう」
《おっと、オレの考えが顔に出ていたか?……でも、アドリアナは超前向きだ。バンザーイ!》
表面では威厳あるように見せているくせに、心の中では少年みたいなことを考えているスラヴァがちょっと可愛いと思えた。
ひらけた草地に差しかかると、数頭の馬が繋がれていた。スラヴァは手綱を引き、そっとアドリアナの手を取る。
「この馬に乗れ。オレが後ろから支えるから、怖がらなくていい」
「はい」
《なんと小さな背中……。思わず抱きしめたくなる。だが、怖がらせたくない。そっと、ゆっくり行こう》
彼の体温が伝わって来てなんだか心が温かくなる。思い切って体をスラヴァに預けてみた。
「ど、どうした?」
《アドリアナは柔らかいな》
「ふふ、なんだか幸せになれそうな気がしてきました」
まんざらウソでもない。今、彼と触れていて……嫌な気はしない。
《なんて嬉しい言葉!オレはこの女神と出会うために生まれたのに違いない!》
(脳筋なうえに純粋か)
ブレスレットにそっと触れる。
(このブレスレットはしっかりと役立ちましたよ、アドリアナのお母さん)
夜空に瞬く星を見上げながら、そっと微笑む。できれば夜のことはもう少し先延ばしにしてくださいね!と、願うのも忘れなかった。
テーブルに頬杖をついてつぶやく。
ある日、交通事故で車と衝突した……と思ったら、この世界にいた。
そして、村一番の美少女・アドリアナとして生きている。
元のアドリアナには婚約者がおり、領主に花嫁として望まれたことが原因で命を絶ったという。湖に身を投げたそうだ。悲しい話だ。
(きっと彼女の魂は天に召されて、私の魂が入り込んだってことよね)
アドリアナを心の中で偲んだ。
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アドリアナとして生きているのは、彼女が身投げした後だ。以前の記憶はない。だから、領主もビルもどんな人なのか知らない。
「ふうん」
「他人事みたいだね」
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「つらかったよね。いいよ、思い出さなくて。私は嘘なんて言わないから。あんたには幸せになってもらいたい」
「私もそうなりたい。いろいろと目まぐるしくてついていけてないし」
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「これを持って行きなさい。あんたの母の形見だよ。きっとあんたの助けになる」
翡翠がさらに透き通ったような石がついたブレスレットを渡された。
「これはなに?」
「よく効果はわからないけれど、あんたを守るものだってのは確かだよ。妹は優秀な魔女だった。困った時に役立つさ」
ずいぶんとザックリしたことを言われた。
「お母さんの形見なら大事にするね」
ブレスレットに触れると、ヒンヤリしてなんとなくパワーを感じるような気がした。
――迎えの馬車に乗せられ出発する。
村を出発する時、男性が叫んでいた。
あれがビルという人なのだろう。衝撃的なことがあったから、接触させない隔離されていたらしい。
半日ばかり馬車に乗っていると、ようやく城に着いた。
要塞みたいな黒い厳めしい城で、戦闘向きの城といった印象だ。
城内は石づくりで窓も小さくて暗い。冷たさを感じさせた。
「こちらへ。まもなく領主様がお見えになりますので」
兵士に応接室に案内された。
慣れない場所で緊張しながら待っていると、背が高くてガッチリとした短髪男性が部屋に入ってきた。
筋肉が盛り上がり、いわゆるマッチョだ。
「やっと来たな」
「ア、アドリアナです」
「知っている」
スラヴァがじぃっと見つめてくる。
「えーと……」
あまりにも見てくるからなにか言葉を探したがなんとなく質問できるような雰囲気じゃない。
(この人、めっちゃ真顔じゃん。アドリアナを望んでいたんでしょう?)
思い切って質問してみようかと迷っていると言われた。
「ゆっくりと休め」
たった一言だ。
それから一週間ほど彼とはしばらく顔を合わせることはなかった。彼は忙しい人らしい。
(まあ、よかったいきなり結婚式だったら心の準備ができなかったもん)
のん気な彼女はそう考えていた。結婚式が迫るまでは。
「いよいよ明日は結婚式ですね。夜のことでお知らせしておきますね。まず……」
メイドが怪しげな説明をしだして、ようやくハッとした。
結婚するってことはそういうこともあるんだ―――と。
(待って、待って。私、女子高生だったのよ?気づいたらこの世界にいて気付いたら結婚?まじありえないわ~)
かすかな記憶に残る前世からするに、自分はいわゆる今ドキの子だった。
ノリでここまで来てしまったが、結婚するのは嫌だなと思えてきた。
――でも、なにもできずにそのまま結婚式に臨んでいた。
「あなたは妻としてこの者を愛し守り支え合うことを誓いますか?」
「はい」
事前に言われた通りの言葉を言う。変な冷や汗が出っぱなしである。
だんだん息が浅くなった時……ブレスレットが熱くなった。
(なにこれ!)
驚いてブレスレットに触れると、ブレスレットはヒンヤリとしている。
(気のせい?なにかを感じたんだけど……)
「どうかしたのか?」
「いえ、別に」
「そうか」
式は粛々と進められた。
「それでは、誓いのキスを」
神父の声が響いた。
《きた.......!ついにきた........!冷静になれ、オレ!》
急に変な声がした。スラヴァかと思ったが、口は固く閉じられている。それに、まわりの人も反応していない。
ベールがまくられた。なんだかスラヴァの手が震えているようだ。
《焦るな、焦るな!ここはスマートにキスだ》
また声がした。
(聞き間違いじゃない。これって……まさかだけど、スラヴァの心の声?)
思い当たるとしたらブレスレットしかない。アドリアナの母は魔女だったというし、こんな不思議なことが起きてもおかしくない。
そうこうするうちに、彼の顔が近づいてきた。
(わわわっ、キスされちゃう!)
避けるワケにもいかず、目をギュッとつぶった。背筋が硬直してしまう。
すると……少し間があっておでこにキスされた。
≪緊張しているみたいだ。……おでこにキスでとどめておこう。どうせ、夜には思い切りキスできるしな≫
(え……)
誓いのキスはともかく、夜がピンチだ!と、膝から崩れ落ちそうになった。
「大丈夫か?ふらついているようだが」
スラヴァの大きな手に支えられる。
「はい、どうにか……」
《これは……今夜中に本当の夫婦になるのは難しそうだぞ……》
「はい、難しいです……」
「えっ!?」
スラヴァが飛び上がる勢いで反応する。
「あ……えーと、いい妻になるのは難しいかも、と言ったつもりで……」
「いい妻になるのは難しいとはどういう意味だ?」
眉を寄せて真剣な顔をされる。視線が泳いだ。
「その、私は村育ちだから、領主様の妻としてきちんと勤めを果たせるのか不安とかそういった意味です……」
「そうか……」
《ふう……まさか元婚約者を忘れられないのかと思った》
スラヴァは小さく安堵のため息を漏らしている。
そして、夜がやってきてしまった。
「今日は疲れただろう。無理せず眠るといい」
意外なことを言われた。
《本当はああしてこうしてああしたいけど……まだ、心を掴んでいないからな》
ただ眠ることになった。ホッとして眠りに落ちたのだった。
――鳥のさえずりが聞こえてくる。
「朝……」
薄目を開けて周りを見る。
「起きたか?」
「ひぁっ!」
鍛錬服のスラヴァがすぐそばに立っていた。
《やっぱり警戒されているのだな、オレは》
「お、おはようございます」
「ああ、おはよう。オレは兵士の指導をしてくる。まだ寝ていても大丈夫だ」
「ありがとうございます」
頭を下げる。
《こうして少しずつ交流していけば……ああしたりこうしたりできるよな》
想像していることまではわからないが、きっと彼はあらぬことを妄想している、というのはなんとなくわかった。
(一見、優しそうにしてくるのに、考えていること、最低じゃん)
視線を逸らし口を尖らせた。
(でも、こっちのことを気にしてくれるあたり、いい人なのかな)
――そう考えた矢先、事件は起きた。
婚約者だったビルが押しかけて来て城が騒がせている。
「その男はアドリアナを苦しめていた男だろう!罰を与えねば」
スラヴァは鬼の形相である。
一応、当事者の自分もついていくことにした。なんだか心配だった。だって、彼は“暴君”という異名もあるらしいから。
城門の上から見えたのは縄で縛られたビルだった。兵士に顔を打たれたらしく、腫れている。
「アドリアナー!!」
(あんな姿を見たら……さすがに可哀そう。苦労かけていたって聞いたけど、彼は本当にアドリアナを愛していたんじゃないかな)
「気の毒……」
思わずつぶやくた。
すると、横にいたスラヴァが目を見開き、自分を凝視してくる。
《ヤツに同情か?まだあの男を忘れられないのか?浮気するような男だぞ?忌々しい男などこの世からいなくなってしまえ!》
スラヴァは一歩踏み出すと大きな声を出した。
「そいつを樽に入れろ!そして釘を無数に打ち付け、丘から転がしてやれ!」
とんでもなく恐ろしい言葉に、思わず後ずさり手を胸に当てた。
「それはやめてください!」
「なぜだ?……あいつに未練があるからか?」
「違います!残酷すぎます!そんなことをしたらますます暴君って言われちゃいますよ!」
「なんと……オレを気にして言ったのか……」
途端にスラヴァの目が柔らかく細まり、表情が和らいでいく。
「仕方ない。これくらいにしておいてやるか」
スラヴァはビルの方を見て叫んだ。
「さきほどの命令は止めてやる!だがよく見ておけ!」
抱き上げられ頬にキスされた。
「アドリアナはすでに我が妻なのだ!しっかりと目に焼きつけろ!」
《アドリアナに触れていいのはオレだけだなんだよ!バーカバーカ!》
心の中でもものすごく罵っている。
(意外と幼いのねこの人……)
「アドリアナもヤツに見せつけるためにオレにキスしてくれないか?」
キラキラした目で言われる。
仕方なく、そっとスラヴァの頬にキスをした。
その姿を見たビルは、ショックを受け座り込んだ。すぐに追い返された。
「やはり、夫婦は仲良くするのが一番だな」
「そ、そうですね」
《よし。この流れで今夜にでも本当の夫婦になろうではないか》
手が汗ばみ、全身にまた変な汗が出てきた。
(だから、まだそこまで受け入れられないんだってば!)
よく考えたら、目の前の人は平気で人を殺そうとする暴君だ。
(私、受け入れるしかないの?逃げたらどうなる?)
ものすごく悩んだが、この世界に来てから流されるままここに至ったことで後悔している。
(逃げよう。なにもせず受け入れるだけなんて私じゃない)
メイドの服をこっそりとくすねて着替えると、闇に紛れ城を抜け出した。
幸い、城の裏手には抜け穴があってそのまま野原までやってきた。もう日は傾き始めていて空が赤い。
「ふう~ここまで来れば大丈夫かな……」
休んでいると、遠くからかすかに自分の名前を呼ぶ声が聞こえた気がした。
(追手かな?バレた?)
こちらは徒歩だ。馬を乗り回す彼らにすぐに追いつかれてしまう。まわりを探るとなにやら洞窟が見える。
入ってみた。気味が悪い。
慎重に歩くと、地面でなにかが動き回る気配がした。
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すぐに洞窟から走って出た。滅茶苦茶に走る。
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泣きながら走っていると、前にある茂みがガサリと動く。ビクリとして立ち止まった。
「……アドリアナか?」
スラヴァだった。ランタンを掲げられ確認される。
「心配したぞ。帰ろう」
てっきり怒鳴られるとか、叩かれるとか、そんなことを想像していたのに、彼はそれしか言わなかった。
彼の心を探ってみてもなにも聞こえてこない。
「あの……怒っていないのですか?」
「心配していた。あいつを追いかけていなくなったと思ったら、こんなところにいたから怒る気にもならなかった。怖かったろう?そんなに涙を流して」
涙を優しく拭われる。
「こんな洞窟には見たくないものもいただろう。アドリアナにはキレイなものだけ見せたいんだ、これからは」
(樽にビルを入れて丘から転がせなんて言ったくせに……)
そう思った時、心の声が聞こえてきた。
《アドリアナはオレの宝物だからな。戦争で疲れた心を癒す笑顔にオレは救われたんだ》
スラヴァがアドリアナを知ったきっかけは、戦争の際に立ち寄った時だと聞いている。アドリアナが食事を運んでいて見染めたらしい。
(この人もいろいろ大変だったんだ……)
「……逃げてごめんなさい。まだ、覚悟ができていなくて。だからその、これからはもっとお話をして仲良くなりたいです」
「嬉しいことを言ってくれる」
《アドリアナが心を開いてくれた?これでやっと本当の夫婦になれるということか?》
彼は脳筋なのか、かなり短絡的な思考だ。
「あ、あの!私は、仲良くなってスラヴァ様を心から好きになることができたら、本当の夫婦になりたいなと思っています」
「……約束しよう」
《おっと、オレの考えが顔に出ていたか?……でも、アドリアナは超前向きだ。バンザーイ!》
表面では威厳あるように見せているくせに、心の中では少年みたいなことを考えているスラヴァがちょっと可愛いと思えた。
ひらけた草地に差しかかると、数頭の馬が繋がれていた。スラヴァは手綱を引き、そっとアドリアナの手を取る。
「この馬に乗れ。オレが後ろから支えるから、怖がらなくていい」
「はい」
《なんと小さな背中……。思わず抱きしめたくなる。だが、怖がらせたくない。そっと、ゆっくり行こう》
彼の体温が伝わって来てなんだか心が温かくなる。思い切って体をスラヴァに預けてみた。
「ど、どうした?」
《アドリアナは柔らかいな》
「ふふ、なんだか幸せになれそうな気がしてきました」
まんざらウソでもない。今、彼と触れていて……嫌な気はしない。
《なんて嬉しい言葉!オレはこの女神と出会うために生まれたのに違いない!》
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するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
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