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番外編 オルトロスside
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しおりを挟むそうして、迎えた中等部の卒業式。
(とにかく謝るしかない)
謝って許してもらうしかない。
そうしないと……
卒業式が終わって皆でがやがやしていた、その時。
さらにざわつきが強くなる。
「あれは誰だ?」
「え? 名札見ろよ、ラビアンヌだ」
オルトロスはハッとして皆が注目する人物へと視線を向けた。
風に舞うブルネットの髪を押さえながら歩いてくる美少女。
「ラビ……アンヌ」
眼鏡を外したラビアンヌだった。
オルトロスの胸がざわつく。
(なんで?)
ドクンドクンドクン。
心臓が煩い。
周囲の男子生徒たちがざわつく。
ひそひそと話しているつもりかもしれないが、話が耳に入ってきた。
「まさか、ラビアンヌがあんなに綺麗だなんて」
「オルトロスはあいつが美少女だって知っていて隠してたんじゃないか?」
「ああ、そうかもな。公爵令息って言っても期待されてない次男坊、女みたいな顔で小さいし、成績は落ちこぼれ。家が貧乏とはいえ、美人で成績優秀なラビアンヌじゃ不釣合いだ」
コンプレックスを刺激されてオルトロスはぎゅっと拳を握った。
ドクンドクンドクン。
ラビアンヌが恥ずかしそうに声を掛けてきた。
「オルトロス君、話があるの」
そうして、学院の教会裏の人気がない場所へと連れて行かれる。
いつもよりも綺麗なラビアンヌがオルトロスに話し掛けてきた。
「身分不相応だって分かっているの、それに見た目も可愛くないって分かっているけど……私は魔法騎士を目指して頑張っているオルトロス君のことが好きで……」
「だったら、何で、メガネを外したんだよ?」
「え?」
「メガネ外さなくたって良いって言ったじゃないか」
「それは……」
「結局ラビアンヌは、俺からだけじゃなくて、色んな人たちから好かれたかったんだろう?」
なんで?
なんでなんだ?
心の中で言葉が渦巻く。
自分だけが知ってたのに。
誰かにとられる心配もなく。
安心して一緒に過ごせる存在だったはずなのに。
急に裏切られたみたいな。
見捨てられたみたいな。
どこか遠くに行ったみたいで。
胸がざわざわして、おかしくなりそうだ。
あげく――
先ほどの男子生徒の言葉が何度も頭に浮かんでは消えていく。
全身が戦慄く。
拳をぎゅっと握った。
心の中がぐちゃぐちゃで何を言っているのか自分でもよく分からなくなった。
「ラビアンヌ、メガネなしは似合わない、メガネとって派手になったお前は嫌いだ」
それだけ言うと。
オルトロスはラビアンヌの前から走って逃げた。
あんな言葉を言いたかったわけじゃなかった。
支離滅裂なことを言っているのは自分でもよく分かっていた。
だけど。
なんだか自分だけが知っているラビアンヌじゃなくなってしまったみたいで。
意味の分からない独占欲だと分かってはいたけれど……
怖くなって、わざと自分から手放すような発言をして……
いいや、そもそもラビアンヌは自分のものだとか、そんなんじゃなくて……
最初からラビアンヌはラビアンヌ。
一人でもしっかり立てる女だ。
彼女がそばにいないとダメなのは……
……自分のほうで。
(せっかく好きだって言ってもらえたのに……俺の方こそラビアンヌに不釣合いだ)
周囲から突きつけられた現実に真っ向から向き合う自信が――自分一人の力だけで彼女に向き合う勇気が――当時のオルトロスにはなかったのだった。
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