8 / 29
第1章 お屋敷でメイドはじめました
第7話 ドジの後悔先に立たず
しおりを挟む「テオドール様! 大変です! ばあちゃんが!」
テオドール様とわたしの前に、朽葉色の髪と瞳をした執事のオルガノさんが、慌ただしく現れたのでした。
「オルガノ、どうした?」
テオドール様がオルガノさんに問いかけました。
「坊ちゃん、とにかく来てくださいよ~~! アリアさんも~~!」
テオドール様とわたしは、叫ぶオルガノの気迫に負けて、彼の後をついていきました。
※※※
「あらあら、心配をかけてごめんなさいね、ただのぎっくり腰ですよ」
そう答えたのは、オルガノさんの祖母で、メイド長でもあるムーシカさんだった。
白髪の長い髪を頭でお団子にまとめたムーシカさんは、普段わたしが着るようなメイド服――くるぶしまである、丈の長い黒いワンピースに、白いフリルのついたエプロンを羽織っている。
ちなみにメイド長とは言うけれど、現在テオドール様の屋敷のメイドは、わたしとムーシカさんだけ。執事も、オルガノさんとオルガノさんの祖父だけ。
「なんだ、ぎっくり腰か、ばあちゃん、心配させないでくれよ~~」
「あんたが、勝手に『ばあちゃんの寿命が来た!』とか言って叫んで、どっかに行ったんだろうが……」
ムーシカさんとオルガノさんの会話は、ほのぼのとしていて(?)、わたしの心は和んだ。
「しかし、問題が出来たな……」
テオドール様は、側頭部を人差し指でとんとんと叩きながら呟く。
「テオドール様、どうしたんですか?」
深刻そうな様子に、わたしの中に緊張が走る。
(ムーシカさんがいないといけないような、よっぽど、重要な何かが……!)
わたしは、テオドール様が話し始めるのを待った。
そして――。
「今晩の食事がない」
その場にいた四人の空気が固まった。
「ちょっ! それ、めっちゃ重要案件じゃないですか~~~~!!!」
オルガノさんが甲高い声で叫ぶものだから、わたしの鼓膜がびりびりと震えた。
わたしの隣にいるテオドール様に至っては、オルガノさんを見て呆れている。
そうして、テオドール様が、わたしの方をちらりと見た。
(テオドール様の菫色の瞳、綺麗だからドキドキしちゃう……好みじゃないけれど……)
「アリア、お前が作ってくれないか?」
「はいっ!???」
テオドール様に依頼されて、わたしは固まってしまった。
特段、料理は上手でも下手でもない……。
(まあこの流れなら、こうなるだろうけど……)
ムーシカさんの作る食事ときたら、大層豪華なものだ……。若い頃は城に仕えたこともあるらしいので、それはそれは、見た目は美しく、味は上品で、スパイスをふんだんに使った肉料理、色とりどりの野菜スープに、締めには甘くてほっぺがとろける菓子まで出てくる。
それに比べ、ドジなわたしに作れる料理と言えば……。
「アリア……」
「アリアさん!」
「アリアちゃん」
(うう……皆の視線が痛い……あと、マリアじゃなくて、アリアで浸透してしまっている……)
わたしは、ぎゅっと白いエプロンの裾を握った。手には汗をかいている。
「マリア、誠心誠意、努めてまいります――!」
――ということで、ドジでメイドなわたしが料理を作ることになってしまったのでした――。
1
あなたにおすすめの小説
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる