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第1章 お屋敷でメイドはじめました
第7話 ドジの後悔先に立たず
しおりを挟む「テオドール様! 大変です! ばあちゃんが!」
テオドール様とわたしの前に、朽葉色の髪と瞳をした執事のオルガノさんが、慌ただしく現れたのでした。
「オルガノ、どうした?」
テオドール様がオルガノさんに問いかけました。
「坊ちゃん、とにかく来てくださいよ~~! アリアさんも~~!」
テオドール様とわたしは、叫ぶオルガノの気迫に負けて、彼の後をついていきました。
※※※
「あらあら、心配をかけてごめんなさいね、ただのぎっくり腰ですよ」
そう答えたのは、オルガノさんの祖母で、メイド長でもあるムーシカさんだった。
白髪の長い髪を頭でお団子にまとめたムーシカさんは、普段わたしが着るようなメイド服――くるぶしまである、丈の長い黒いワンピースに、白いフリルのついたエプロンを羽織っている。
ちなみにメイド長とは言うけれど、現在テオドール様の屋敷のメイドは、わたしとムーシカさんだけ。執事も、オルガノさんとオルガノさんの祖父だけ。
「なんだ、ぎっくり腰か、ばあちゃん、心配させないでくれよ~~」
「あんたが、勝手に『ばあちゃんの寿命が来た!』とか言って叫んで、どっかに行ったんだろうが……」
ムーシカさんとオルガノさんの会話は、ほのぼのとしていて(?)、わたしの心は和んだ。
「しかし、問題が出来たな……」
テオドール様は、側頭部を人差し指でとんとんと叩きながら呟く。
「テオドール様、どうしたんですか?」
深刻そうな様子に、わたしの中に緊張が走る。
(ムーシカさんがいないといけないような、よっぽど、重要な何かが……!)
わたしは、テオドール様が話し始めるのを待った。
そして――。
「今晩の食事がない」
その場にいた四人の空気が固まった。
「ちょっ! それ、めっちゃ重要案件じゃないですか~~~~!!!」
オルガノさんが甲高い声で叫ぶものだから、わたしの鼓膜がびりびりと震えた。
わたしの隣にいるテオドール様に至っては、オルガノさんを見て呆れている。
そうして、テオドール様が、わたしの方をちらりと見た。
(テオドール様の菫色の瞳、綺麗だからドキドキしちゃう……好みじゃないけれど……)
「アリア、お前が作ってくれないか?」
「はいっ!???」
テオドール様に依頼されて、わたしは固まってしまった。
特段、料理は上手でも下手でもない……。
(まあこの流れなら、こうなるだろうけど……)
ムーシカさんの作る食事ときたら、大層豪華なものだ……。若い頃は城に仕えたこともあるらしいので、それはそれは、見た目は美しく、味は上品で、スパイスをふんだんに使った肉料理、色とりどりの野菜スープに、締めには甘くてほっぺがとろける菓子まで出てくる。
それに比べ、ドジなわたしに作れる料理と言えば……。
「アリア……」
「アリアさん!」
「アリアちゃん」
(うう……皆の視線が痛い……あと、マリアじゃなくて、アリアで浸透してしまっている……)
わたしは、ぎゅっと白いエプロンの裾を握った。手には汗をかいている。
「マリア、誠心誠意、努めてまいります――!」
――ということで、ドジでメイドなわたしが料理を作ることになってしまったのでした――。
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