不幸な平凡メイドは、悪役令弟に溺愛される

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第2章 魔術研究所で令嬢と対決

第13話 慌てるメイドはもらいが少ない?

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 この数日間――。

 わたしはまたテオドール様に連れられて、城に中庭にある魔術研究所に来ている。

 相変わらず、テオドール様は馬車酔いしていた。

 ちなみに、初日以外はオルガノさんは一緒ではない。
 この数日、金髪碧目の美人・アーレス様には、会うたびになぜか睨まれてしまっていた。

「そんなに時間はかかわらないから――」

 そうテオドール様に言い残され、わたしは昨日と同じく正面玄関目のフロアで待つことになった。
 わたしはふかふかの紅いソファに座って、目の前にある木でできたテーブルに、そっと緑色の包みを置いた。

(そういえば、今日はなんとかお弁当を作るのに成功? したんだった……成功?)

 ちょうどもうすぐ昼になる。
 屋敷に帰ってから昼ご飯をとっても良かったが、それだと食べるのが遅くなってしまう。
 そのため、わたしは太陽が昇る頃の前からお弁当作りに挑戦した。
 卵は焦げるし、野菜の飛沫は顔にかかるし、水差しはひっくり返すしで、散々だったけれど、なんとか出かける直前に完成させることが出来た。
 この間の料理よりも食べれるはずだ。
 おむすびを何個かと、鶏の肉を揚げたものを入れただけだが……。

(油を扱うなんて、至難の業だったわ……)

 緑色の包みに入った二人分のお弁当を見ながら、悪戦苦闘した朝の調理場に想いを馳せる――。

 そんななか――。

「べ、弁当がない……し、死ぬ……」

 ピンクの髪に、眼鏡をかけた糸目の男の人が、ふらふらとした足取りで現れました――。

「あ、あの……大丈夫ですか――?」

 私は、その男性に声をかけてみた。

「え? ああ、まあ。今日は、彼女が怒ってまして……いつもなら弁当を作ってくれるんですけど、今日は作ってくれなかったんですよ~~」

 男の人は困っているのか惚気ているのか分からない調子で、わたしに事情を話してきた。

「でしたら、どうですか――? 二つあるうちの一つ。食べれはするかと思うんですけど――」

 そう言って、私は緑色の包みからおむすびを一つ手渡した。

「え? いいんですか~~?」

「はい、どうぞ――」

 私がおむすびを手渡すと、男性はおいしそうにたいらげてしまった。

(糸目だからわかりづらいけれど、喜んでる……)

「お嬢さん、本当に感謝ですよ~~! これで午後も乗り切れます!」

(少し間の抜けた喋り方をする男性だな……)

「じゃあ、僕はこれで~~この御恩、いつかお返ししますね、マリアさん」

 そう言って、糸目の男性は去って行った。

(あれ? わたし、名前を教えたかしら――?)

 不思議に思っていると――。

「すまない、アリア。屋敷に帰ろうか――?」

 黒髪に菫色の瞳をした、わたしの主人であるテオドール様が現れた。
 彼がわたしに向かって、手を差し出してくる――。
 わたしは頬を赤らめながら、彼の手を取った。
 アーレス様に対して。恋人同士に見せたいらしい。魔術研究所に出入りするときには、必ず手を繋ぐようにしていた。

(何回つないでも、なれないよ~~)

 いつまで経っても、わたしは手をつなぐのに慣れなかった。
 だけど、テオドール様の表情は涼し気で――。

(なんだろう? 女性に慣れてるのかな、とか考えたら……なんでだか、もやもやしてしまう――)

 手を引かれながら考えていると、わたしはあることに気づいた――。

「あ! お弁当!」

 わたしは緑色の包みを、テーブルの上に置き忘れていることに気づいた。

「テオドール様、ちょっと失礼いたします」

 わたしは、彼の手をふりほどいて、慌てて魔術研究所に戻った。
 正面玄関を抜け、フロアのテーブルに近づくと――。

「あれ――?」

 そこには確かにお弁当箱は二つあったのだが、包んでいたはずの緑色の包みがなくなってしまっていた――。

「あれ? どこ行ったかな――?」

 テーブルの周囲を何度探しても見つからない。

(テオドール様を待たせてはいけないわ――)

 そう思ったわたしは、慌ててお弁当箱だけを抱きかかえることにした。

 その時――。

「きゃっ――」

「ごめん遊ばせ――」

 金髪美人のアーレス様が私にぶつかって、そのまま走り去ってしまった――。

(急いでた――? お弁当落とさなくて良かった)

 そうして、わたしは魔術研究所をあとにした。

 その時は、まさか、緑色の包みが事件に発展するなんて思いもせずに――。



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