不幸な平凡メイドは、悪役令弟に溺愛される

おうぎまちこ(あきたこまち)

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第4章 メイドを解雇されました編

第24話 メイドの身から出た錆

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(なんだろう、最近は寝ても覚めても、テオドール様のことばかり……)


 そんなことを思いつつ、わたしが箒で部屋の掃除をしていた時のこと――。


(ただの偽の恋人同士というか、そもそも、アーレス様の一件が片付いたわけだから、もうわたしはお役御免のはず……)

 だけど、引き続きメイドの仕事をさせてもらっている。


(もう恋人同士のフリはしなくて良いはずなのに、なんだろう、テオドール様との距離が近い気がする)


 嬉しいような、ふわふわするような。

 この気持ちはいったい何なんだろう。

 ちょうど、その時――


「アリアさん!」


 その場に、オルガノさんが姿を現した。



「最近、ぼっちゃんと良い感じですね!」



「ええ!? そ、そうですか?」



 わたしは慌てふためいてしまう。



「ええ、ええ、そうです、そうです」



(良い感じに見えているのね――)



 オルガノさんに指摘されて、わたしは恥ずかしくなってしまった。

 同時にテオドール様と婚約者のことを思い出してしまい、胸が苦しくなる。



「ところで、アリアさん。剣の守護者様の友達の妹さんだったんですね」



 オルガノさんに問われて、わたしは頷いた。



「喋ったりしたことあるんですか?」



「――? ええ、わたし、お兄ちゃんにお弁当を届けることがあるんですけど、そういう時に、剣の守護者様が話しかけてくれました」



「ふ~~ん、アリアさん見てて、思ったこと言って良いですか――?」



 オルガノさんがにやにや笑いながら話しかけてくる。



「は、はい、なんでしょうか?」



 そうして彼はずばりと告げてきた。



「アリアさん、剣の守護者様のこと好きだったでしょう?」



「え、ええっ!!? な、なんでそう思われたんですか?」



「アリアさんの剣の守護者様を見る目なんかでですよ」



(わたしったら、どんな目をしていたの――?)



 ドキドキしながら返答することにした。





「た、確かに、昔は剣の守護者様のことが好きでした。だけど――」





 わたしがそこまで口にした時、がたりと音が聴こえた。



 音の方を振り向くと――。



「テオドール様――?」



 黒いローブを身にまとったご主人様が、部屋の扉の前に立っていたのだった――。

 

 彼は何も言わずに、その場を後にする。



「テオドール様?」



 何度声をかけても、彼からの返事がない。



(様子がおかしい――)



 そう思って、わたしは彼を追いかける。



「テオドール様……!」



 結局、わたしは中庭まで彼を追いかけることになった。



 この間草むしりをした花壇の付近で、テオドール様は立ち止まる。

 わたしの方を振り向かないまま、彼は私にぽつぽつと話し始めた。



「お前の様子がおかしいと思って見にいったら……結局、お前も彼女と同じだ――」



「え――?」



「お前も本当は、剣の守護者の方が好きなのに――私の前では良いように話してきただけだった――結局、お前も私に嘘をついてきた――」



(もしかして、わたしが剣の守護者様のことをなんとも思っていないって、隠してしまったから――?)



 わたしとしては、テオドール様に剣の守護者様のことを好きだったと、知られたくなかっただけだった。

 だけど、以前、元婚約者である女性に裏切られたように感じたことがあるテオドールからすれば、わたしの誤魔化しを嘘をついたと捉えてしまったのかもしれない――。



「あ――テオドール様、わたし――」



 声がかすれてしまう。

 テオドール様はぽつりと呟いた。



「――もう良い」



 彼にそう言われ、わたしは胸をなでおろした。



(良かった、テオドール様、許してくださったのね――)



 だけど、それは私が都合よく解釈したに過ぎなかった。



「もう、この屋敷で働かなくて良い――」

 

「え――?」



 頭を金づちか何かで撃たれたような衝撃が走る。



「もうお前はクビだ……。お前のような主人に嘘をつく使用人は必要ない。金はたくさんやるから――」



「そ、そんな、私は――」



 だけど、テオドール様はわたしの言葉をそれ以上は聞いてくれなかった。



「もう私の前に姿を現さないでくれ――」



 わたしの目の前が真っ暗になった――。







※※※







 ――その日の出来事はそれ以上覚えていない。



 気づいたら、馬車で街まで送られ、いつの間にか自分の家に帰ってきていた。



 家でお母さんの顔を見たわたしは、なんだかよくわからなくて、わんわんと泣き続けたのだった――。


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