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しおりを挟む「マーガレット様を忘れられず、一途に想ってきたからこそ、今の優しい貴方がいるのだと思います。だから、無理に忘れる必要はありません」
「アメリア、俺はそんな優しい人間じゃないんだ……彼女のことを考えるのが辛くて、他の女性を逃げの手段に使おうと考えたことだってある……君のことだって……」
「シャーロック様は、私が本当に嫌なことはしてこなかったし、ちゃんと色々何かする時も私のペースに合わせてくださいました」
そうして、私ははっきりとした口調で告げた。
「亡くなった彼女のことを愛し続けている。私は、そんな優しい貴方が好きなんです、シャーロック様。せっかく夫婦になったのですから、貴方の隣を一緒に歩いていきたい」
今まで彼に見せた笑顔の中で一番のものを見せる。
だけど、感極まったからか涙がぽろぽろと零れてきた。
「アメリア……」
見上げると、シャーロック様も翡翠の瞳から一筋の涙が溢れる。
「サー・ヴィンセントではなく……?」
「エドワードではなくて、貴方が良いんです」
ぽつぽつと彼が返してきた。
「俺は……嘘はつかなかったけれど、君に黙って他の女性のことを想ってるような男で……君に好かれるような男じゃなくて……」
「心の内で何を思っていようと、その人の自由です」
「……そのくせ、君に他の男が近づいたら嫉妬するような、心の狭い男なんだ」
「……嫉妬されているのに気づいていませんでした……」
「――他の女性のことを忘れられないのに、君のことが気になってしょうがなくて――契約したことなんて忘れて、君の本当の夫になったつもりになって……君に嫌われたんじゃないかと思うと怖くて――」
その言葉に、胸の内に火が灯るようだ。
(シャーロック様も私のことが気になって……)
「そんな、どうしようもない……そんな男で――」
涙を流す彼の胸に、私はそっと飛び込んだ。
「アメリア――」
「無理に思う人を忘れる必要はありません――何度でも言います。私はそんな貴方だから、大好きなんです、シャーロック様……」
彼の腕の力が強くなる。
「アメリアっ……」
泣きじゃくる彼を見上げた。
「ねえ、契約はもう必要ない気がしませんか、シャーロック様……?」
私はそっと彼を抱き返す。
「シャーロック様、私を貴方の本当の奥さんにしてください」
彼が眼を見張る。
「アメリア……俺は君を――」
彼の長い指が、私の髪を梳く。
星が瞬く中、どちらからともなく口づけを交わした。
夜空が見守る中、初夜のやり直しがはじまったのだった。
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