168 / 228
第6章 初めての恋
35-3
しおりを挟む
――ドクン。
美桜はなんとなく嫌な気持ちになった。
話の流れからして譲之助というのは環の夫――新宮家の当主に当たる人物――恭司と順一の血の繋がった父のことだろう。
つまるところ、彼女が話す「もう一人の子ども」というのは……。
(恭司さんのことだわ……)
新宮環の態度を見て、美桜は瞬時に悟った。
(こんな嫌味なおばさんが恭司さんの義理のお母さんだなんて……)
きっと恭司は環から、ずっとこんな風な嫌な言い方をされ続けていたに違いない。
「順一さんもこんなみすぼらしい子のどこが良いん? 地味な女が好きやとか、そんなところは父親に似らんでええのに。ほんまに血は争えへんね。はあ……新宮一族に入るのが全く想像できひんのやけど」
新宮環がこれ見よがしに溜息をついてきた。
「それで? あの忌まわしい子どもの会社で働いてたっちゅう話やったでしょう? そんな危機管理の薄い娘に新宮の妻がほんまにつとまるん? ああ、嫌やわ、あの生意気な子どもの顔を思い出してもうて、具合が悪うなってきたわ。私が何を言っても無表情で本当に可愛くない子やったわ……おかしな会社を立ち上げて不愉快やわ。はよう消えれば良いのに……」
敵地に赴いている状態に近いというのに――美桜は闘志が沸々と湧いてきてしまった。
(大人からずっとこんな態度で接して来られたら、子どもだって笑えなくなるに決まっているじゃない)
子ども時代の恭司はきっと誰にも心を開けず、無表情のまま過ごして、心を殺して生きてきたに違いない。
大人になってもそれはずっと尾を引いて、周囲からも冷たく見られるようになってしまったのだろう。
人は変われるとは言えども、幼少期の出来事がどれだけその後の人生に影響すると思っているのか……。
プチン。
美桜の中で堪忍袋の緖が切れる。環のことをキッと睨んだ。
「……恭司さんのこと、それ以上悪く言わないで。ただじゃおかないんだから」
美桜が何か言ってくるとは思わなかったのだろう。
新宮環が一瞬だけ怯んだ。
美桜の父が「美桜、謝りなさい!」と言って、美桜に無理やり謝罪をさせてこようとする。
けれども、意地でも頭を下げたくなくて、頭を抑えてくる父の手にぐぐぐと抵抗した。
新宮環が眉根を吊り上げながらヒステリックに叫ぶ。
「なんなん、この娘は……こんな女が娘になるとか……あり得へん。順一さん! はよう中に連れて行き! お披露目まではその娘を私に見せんといて! 梅田! 私に水でも汲みなさい!」
美桜の父が環の後ろを着いて行く。
残された美桜に新宮順一が声をかけてきた。
「美桜ちゃん、中に入ろうか……っ」
美桜はポロポロと涙を流していた。
(恭司さん……)
恭司の子ども時代に想いを馳せて涙が勝手に溢れてくる。
胸の前に合わせた手をぎゅっと握りしめた。
すると、順一が寂し気に声をかけてくる。
「美桜ちゃんはほんまに恭司兄さんのことが好きなんやね。妬けるわ」
「……」
美桜は無言のまま身体を捻ると、その場を駆け出そうとしたのだけれど……。
「きゃうっ!」
順一から首根っこを猫よろしく掴まれて捕まってしまった。
「こっから駅に返ろうにも見張りもおるから帰られへん。連れ戻されるだけや。せっかくや、美桜ちゃん、中に入ったって」
美桜はなんとなく嫌な気持ちになった。
話の流れからして譲之助というのは環の夫――新宮家の当主に当たる人物――恭司と順一の血の繋がった父のことだろう。
つまるところ、彼女が話す「もう一人の子ども」というのは……。
(恭司さんのことだわ……)
新宮環の態度を見て、美桜は瞬時に悟った。
(こんな嫌味なおばさんが恭司さんの義理のお母さんだなんて……)
きっと恭司は環から、ずっとこんな風な嫌な言い方をされ続けていたに違いない。
「順一さんもこんなみすぼらしい子のどこが良いん? 地味な女が好きやとか、そんなところは父親に似らんでええのに。ほんまに血は争えへんね。はあ……新宮一族に入るのが全く想像できひんのやけど」
新宮環がこれ見よがしに溜息をついてきた。
「それで? あの忌まわしい子どもの会社で働いてたっちゅう話やったでしょう? そんな危機管理の薄い娘に新宮の妻がほんまにつとまるん? ああ、嫌やわ、あの生意気な子どもの顔を思い出してもうて、具合が悪うなってきたわ。私が何を言っても無表情で本当に可愛くない子やったわ……おかしな会社を立ち上げて不愉快やわ。はよう消えれば良いのに……」
敵地に赴いている状態に近いというのに――美桜は闘志が沸々と湧いてきてしまった。
(大人からずっとこんな態度で接して来られたら、子どもだって笑えなくなるに決まっているじゃない)
子ども時代の恭司はきっと誰にも心を開けず、無表情のまま過ごして、心を殺して生きてきたに違いない。
大人になってもそれはずっと尾を引いて、周囲からも冷たく見られるようになってしまったのだろう。
人は変われるとは言えども、幼少期の出来事がどれだけその後の人生に影響すると思っているのか……。
プチン。
美桜の中で堪忍袋の緖が切れる。環のことをキッと睨んだ。
「……恭司さんのこと、それ以上悪く言わないで。ただじゃおかないんだから」
美桜が何か言ってくるとは思わなかったのだろう。
新宮環が一瞬だけ怯んだ。
美桜の父が「美桜、謝りなさい!」と言って、美桜に無理やり謝罪をさせてこようとする。
けれども、意地でも頭を下げたくなくて、頭を抑えてくる父の手にぐぐぐと抵抗した。
新宮環が眉根を吊り上げながらヒステリックに叫ぶ。
「なんなん、この娘は……こんな女が娘になるとか……あり得へん。順一さん! はよう中に連れて行き! お披露目まではその娘を私に見せんといて! 梅田! 私に水でも汲みなさい!」
美桜の父が環の後ろを着いて行く。
残された美桜に新宮順一が声をかけてきた。
「美桜ちゃん、中に入ろうか……っ」
美桜はポロポロと涙を流していた。
(恭司さん……)
恭司の子ども時代に想いを馳せて涙が勝手に溢れてくる。
胸の前に合わせた手をぎゅっと握りしめた。
すると、順一が寂し気に声をかけてくる。
「美桜ちゃんはほんまに恭司兄さんのことが好きなんやね。妬けるわ」
「……」
美桜は無言のまま身体を捻ると、その場を駆け出そうとしたのだけれど……。
「きゃうっ!」
順一から首根っこを猫よろしく掴まれて捕まってしまった。
「こっから駅に返ろうにも見張りもおるから帰られへん。連れ戻されるだけや。せっかくや、美桜ちゃん、中に入ったって」
26
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる