【R18】狂愛の獣は没落令嬢の愛を貪る

おうぎまちこ(あきたこまち)

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「ああ、すまない、椿様――てっきりあの女狐の件で妬いてくれているのかと期待したんだが……」

「妬いて……?」

「ああ」

 椿はうつむいたまま返した。

「そんな、ただの愛人の立場でそんなこと思えるはずがないでしょう……」

「そうか……それもそうですね……」

 それだけ言うと、清一郎は庭の方向へと視線を移した。
 彼の反応に椿の心臓がズキンとする。

(やっぱり私のことは愛人としか思っていないのね……)

 その時――。

「椿様」

「はい」

 呼ばれたので振り向くと、彼の綺麗な横顔が見える。
 日本人離れした鼻筋が、異国の血が混じっているのだとまざまざと理解させられる。
 彼の指が私の頬に触れた。


「あの女性と俺が結婚することは絶対にあり得ない。安心してほしい」


 そう聞いて、胸の詰まりがすうっと溶けていくような感覚になる。

「そう……ですか……」

 椿は再び俯いた。
 そんな彼女の様子を見て、清一郎が寂しそうに微笑んだ。

「もし、貴女は――俺が貴女の家への復讐のためではなく――」

 椿は清一郎の顔を見上げる。

「何のしがらみもなく、貴女に求婚していたとしたら、俺の妻になってくれていたんだろうか――?」

「それは……そんなの……」

 椿の漆黒の睫毛がフルフルと震えた。

「当たり前に……決まって……」

 そこまで言うと、椿の瞳が涙で潤む。
 彼の唇が彼女の涙へと触れた後、長い指が彼女の黒髪をそっとかき上げる。

「猪俣家への復讐だなどと馬鹿な妄念に囚われてしまって――俺は本当に大切な何かを見失いそうだった――」

 そうして、耳元で彼が甘く囁く。

「今までのことを謝って許してもらえるのか分からないけれど――どうか貴女に聞いてもらいたいことがある……」

「は……い」

 椿はそっと彼の背に手を添わせる。

 二人の影がゆっくりと重なったのだった。



***



 それから数日後のこと――。

 屋敷で繕い物をして、椿は清一郎の帰りを待っていた。

 先日とは違って、心なしか気持ちは弾んでいる。

 今日が彼から想いを伝えてもらう約束の日なのだ。

「まだかしら……?」

 その時、障子が開かれる。

(清一郎……?)

 そう思ったのだが――。

「椿……!」

 現れたのは――。

「忍さん……?」

 黒髪に黒縁眼鏡の神経質そうな男――元婚約者の忍だったのだ。


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