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第2章 あざとい小悪魔Vチューバ―、絡まれる

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 三ノ宮先輩が改まった口調で私に声をかけてくる。

「良かったら、俺のことを名前で呼んでくれないか?」

「へ?」

 先ほどのキスと比べて、なんだか中学生らしいお願いごとになったので、少々困惑してしまった。

「ずっと呼んでますよね? 三ノ宮先輩って」

 すると、三ノ宮先輩が勢いよく喰いかかってきた。

「違う! そうじゃない! 下の名前だよ、下の名前!」

「え? ああ、下の名前ですね!」

 私は彼の勢いをどうどうと宥めた。

(なんだかサーカス団の調教師にでもなった気分だわ!)

 そうして、落ち着きを取り戻した三ノ宮先輩が「こほん」と咳ばらいをしてから話を続けてくる。

「一応、俺たちは嘘の恋人同士っていう設定なんだし、三ノ宮先輩じゃなくて、名前で呼んでもらいたいんだよ」

「ああ、なるほど!」

 それは思い至っていなかった。

「でしたら、伊織先輩……?」

 私は首を傾げながら返す。
 すると……。

「何で疑問形なんだよ……?」

「伊織って名前で合ってたっけと心配になりまして」

 そこでハッとなる。

(しまった! 下の名前を覚えていないとか失礼極まりなかったわ! このままじゃ、針千本飲まされる刑に処されるかも!)

 心配になってチラリと三ノ宮先輩――改め、伊織先輩の顔を覗く。

「伊織先輩……伊織先輩……!」

 どうしてだか、感極まっていらっしゃった。

(何なの? あ、まさか!)

 普段から優等生な生徒会長の猫を被っている伊織先輩。
 もしかすると……。

(生徒会長としか呼ばれずに過ごしていて……名前で呼ばれるのに飢えているの? そうよ、言われてみれば、私も「委員長」呼びが多いわ。だったら、三ノ宮先輩も同じ悩みを抱えているはず……!)

 まあ別に私は委員長と呼ばれても気にはならないけれど……。
 人によって抱える事情は違うのだから……!
 私は勢いよく伊織先輩の手を握りしめた。

「伊織先輩、これからは私がちゃんと名前を呼んでさしあげますからね!」

「え? ああ……よろしく頼む……」

 伊織先輩はといえば……顔を真っ赤にしながら、目を逸らしているではないか。

(ええっ、まさかの反応すぎて……私が恥ずかしくなってきた!)

 っていうか、うっかり手を繋いでしまっていた。
 動揺して手を離さそうとしたのだけれど……。
 ぱしっ。
 今度は伊織先輩が私の手を掴んでくる。

(ひえっ……!)

 手を握られるのは――さすがに恥ずかしい。

(汗っかきだってバレちゃう!)

 動揺していたら、伊織先輩がこちらをじっと見つめてくる。
 イケメンなのでドキドキしてしまう。

「俺も羽衣って勝手に呼んでたけど……良かっただろうか?」

「そそそ、それは勝手にお呼びください!」

「……そうか」

 そうして、伊織先輩が嬉しそうにしていた。

(なんだろう、なんだか調子が狂うな)

 ドキドキがいつも以上に落ち着かない。
 そう、なんだろう。
 犬。
 犬に弱いのだ。
 昔から。
 その感覚に近い何かが胸の中に渦巻いてくる。

「それで! 伊織先輩! 薔薇崎先輩とのご関係をどうぞ!」

 私は先を促したのだった。

 

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