【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者

おうぎまちこ(あきたこまち)

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 そんな日々はしばらく続いた。
 身体で払えと言われたわりに、ギルは触れてこない。

 仕事中だ。


「確か、ルイーズ先輩のお父様も、すごいモテモテの男性でしたよね! 結婚したら奥様一筋になったけれど……先輩みたいなお嬢様な上に仕事も出来ちゃう女性、憧れちゃうな」
「ギルフォード様のお家も、お父様もお兄様もカッコイイし……! 従兄弟に当たる神父さんも……皆格好良いし仕事も出来るんだから!」
「社交界って言えば、この前は、二大伯爵家のご子息二人が店に遊びに来てたわ……」
「え? チャーリー様達が……!?」

 仕事中、話はどんどん脱線していく。

「もう、皆、仕事中よ!」

 注意すると、売り子たちは、そそくさと退散し、片付けやら掃除やらをはじめた。
 気づけば、作った菓子のほとんどを売上げ、店をそろそろ閉める時間になっている。

「ルイーズちゃん、せっかくギルと婚約が決まったんだし、皆も嬉しいんだよ。ちょっとぐらい、喋らせてあげな」

金髪の妖艶な美女が現れた。
菓子店オーナーのマダムモリスンだ。ギルフォードの叔母に当たる人物でもある。

「アタシの姪っ子になるなんて、嬉しい限りだよ」

 純粋な笑顔を向けられ、胸が苦しくなる。
 
(う……罪悪感で胃が……。でも、ここまで来てしまったら、なんとか嘘をついて乗り切るしかない)

 そんな中、外で甲高い声が響きはじめる。

(何かしら?)

 店先からひょっこり覗くと――。

 金髪碧眼の美青年――ギルフォードの姿が、そこにはあった。
 女性達に取り囲まれている。

(あの人たち、見たことある)

 どうやら学生時代の取り巻き達だ。
 中には、彼にしな垂れかかる人物までいる。

「ギルフォード様! お久しぶりです!」
「婚約者が出来たって本当ですか!?」
「まだ独身なら、一緒に遊びに行きませんか?」

 心臓がドキンと跳ねた。
 卒業後、女性達との噂が絶えなくなったギルフォード。

(私は本当の婚約者なわけじゃないから、気にする筋合いはないわけで……お父様の目に触れさえしなければ……)

 だけど、ずっと忘れられなかった相手なのだ。
 もらったばかりの婚約指輪をぎゅっと握った。
 彼が口を開く。

「そうだな……」

 ――ギルはなんと答えるのだろうか?

 心臓が落ち着かなくてしょうがない。

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